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「筋肉注射だから呼吸器感染症に効かない」は本当?新型コロナワクチンに関する疑問を専門家に聞きました

新型コロナウイルスのワクチンは筋肉内注射だが、発症予防効果や重症化予防効果などが確認されており、世界各国で接種が進んでいる。

「筋肉に注射するタイプのワクチンが呼吸器感染症に効くというのは、合理的じゃない」

ウイルス学の専門家がテレビ番組で発信した誤った情報が、Twitterで拡散されている。

新型コロナウイルスのワクチンは筋肉内注射だが、発症予防効果や重症化予防効果などが確認されており、世界各国で接種が進んでいる状況だ。

BuzzFeed Newsはこの情報について、国立国際医療研究センターの国際感染症センタートラベルクリニック医長で予防接種支援センター長の氏家無限医師に話を聞いた。

問題となったテレビ番組での発言、その内容は…

Twitter

今回の言説は、動画の一部が切り取られSNS上で拡散された

今回、問題となった情報は京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授の宮沢孝幸さんによって発信された。

1月17日放送の読売テレビ『そこまで言って委員会NP』に専門家として登場した宮沢さんは、「まず最初に、断んなきゃいけないんですけど、そもそもワクチン効くんですかね?」と呼びかけた上で次のように語った。

「(発症予防効果が)95%とか言っているけれども、ちょっとありえない数字なんですね。呼吸器感染症ってワクチンなかなか作れないんですよ。インフルエンザもあるにはあるんですけど、そんなに効いているわけじゃないと」

「理論的に考えてもですね、現行のワクチン、筋肉に注射するタイプのワクチンが呼吸器感染症に効くというのは、ちょっと合理的じゃないんですよ。例えば、腎臓とか肝臓に感染するウイルスがあったとして、それがどこから入るか、腎臓や肝臓へ直接いくわけではなくて、粘膜から入ってくる。粘膜から入って、血中を流れて、腎臓とか肝臓に到達するんですよ」

「その場合は血中に存在する抗体がブロックしますよね。ところが、呼吸器感染症というのはあくまで肺に直接きちゃうんですよ。その場合、直接かかってしまうので、肺に。血液中の抗体が効くのはおかしいんですよね」

宮沢さんは呼吸器感染症では肺がウイルスに感染するが、筋肉内注射で注射する抗体は血中で作用するため、効果がないとした。

また、発症予防効果や重症化予防効果などが確認されている臨床試験の結果は夏に行なったものであることを強調し、「夏ってあまり重症化しないんですよ」とコメント。

「本当に冬に効くのか、というのはちょっとまだわからない」と語っていた。

「筋肉内注射は呼吸器感染症に効かない」は本当か?

Yuto Chiba / BuzzFeed

国立国際医療研究センターの国際感染症センタートラベルクリニック医長で予防接種支援センター長の氏家無限医師

呼吸器感染症は一般的にワクチン開発が難しいとされている。

氏家医師によると、風邪のように罹患する頻度の高い呼吸器感染症は「ウイルスによって引き起こされることが多い」。ウイルスは細菌や寄生虫と比べ遺伝子が変異しやすく、繰り返し感染する病原体も多いという。

そのため、ワクチン開発の難易度が上がる。

そうした前提を踏まえつつ、氏家医師は「筋肉内注射で接種するワクチンは呼吸器感染症への効果が見られないというのは、理屈の上では免疫の誘導の仕組みや感染経路の観点で合理的のようですが、今回のワクチン開発で報告されている臨床試験のデータと矛盾します。加えて、実臨床においては、インフルエンザ、麻疹、肺炎球菌等のワクチンの例をとっても指摘は必ずしも該当しません」と指摘する。

「インフルエンザワクチンは日本では皮下注射で接種しますが、海外では筋肉内注射で接種するのが一般的です。アメリカでは、生後6ヶ月以上であれば国民全員に接種を推奨するという戦略を取っています。90%〜95%予防する麻疹風疹のワクチンほど高い予防効果はありませんが、米国だけで毎年1000万人以上が感染すると試算される感染症であるため、5割ほどの発症予防効果であっても社会全体では非常に大きなインパクトになるためです」

「また、免疫学的なメカニズムからしても、ワクチンの接種経路に関わらず最終的には血液中の抗体以外の免疫も誘導されます。海外で利用される経鼻投与する弱毒生インフルエンザワクチンは、筋肉注射の不活化インフルエンザワクチンと比較して優位性は認められておらず、シーズンによっては有効性がより低いと評価されることもあります。また、麻疹は非常に感染力が高い呼吸器感染症ですが、ワクチンにより非常に高い予防効果が得られます。誘導される免疫は、血液中の抗体に限らずT細胞等の細胞性免疫等も含まれるため、肺炎球菌の結合型ワクチンでは気道粘膜に病原体が定着することを防ぐ効果もあることなどが知られています」

「実臨床においては感染経路のみによって、ワクチンの効果が規定されるということはないと思います」

気候差がワクチンの効果に影響?

Leon Neal / Getty Images

夏と冬の気候の差がワクチンの効果に関係するとの見解は適切であると言えるのだろうか?

「気候による環境条件や生活様式の変化によってウイルスが生存しやすくなったり、感染の機会が増えることはあるので、そういった意味で冬に色々な呼吸器感染症が増えやすいということはあります。また、日照時間や乾燥した空気は人の感染症に対する生体防御機能にも影響を与えるので、それらの要因でも冬が呼吸器感染症の起こりやすい季節であるということは一般論としては正しいです」

「実際、新型コロナに関しても北海道と沖縄を比べれば、気候の要素である程度感染の広がりやすさが違うのではないかという点について、私も昨年の春に報告をさせていただいています」

「一方で、臨床試験でのワクチンの有効性は、ワクチン接種の有無以外の条件は同じ設定なので、季節に左右されることはありません。もし、夏に患者数が少なかったとすれば、むしろワクチン接種の有無による患者発生数の差を評価しにくくなるという影響はあったかもしれません」

迅速なワクチン開発、なぜ可能に?

Jeenah Moon / Getty Images

ファイザー・ビオンテックの新型コロナワクチンについては、2回の接種でおおよそ95%の発症予防効果、90%の重症化予防効果が臨床試験で確認されている。

また、同じ種類であるモデルナの新型コロナワクチンについては、ワクチン接種した人と接種していない人で無症候病原体保有者(無症状の感染者)を比較すると、ワクチンを接種していない人たちの方が2倍以上無症候病原体保有者が多いことがわかっている。

そのため、無症候病原体保有者を減らし、感染を抑制する効果も「ありそうだと言える」と氏家医師は評価する。

これほどまでの効果を発揮するワクチンを、なぜここまでスピーディーに開発できたのか疑問を呈す人もいる。

迅速なワクチン開発の背景にどのような要因があるのか、氏家医師は鍵はこれまで実用化されたことのないmRNAワクチンという技術にあると言う。

「第一に、できる限り早く実用化するために、最新の技術を用いたワクチン開発が行われたということがあります」

ワクチンは基本的には病原性を弱めた、またはなくした病原体(またはその一部)を体に取り込んで、人の体の免疫機能により免疫を誘導する。

まず、人の体に大きな害とならないが、免疫の反応がしっかり起きるワクチンの抗原(病原体の成分を含むワクチンの元)を見つけることの難易度は高いという。

「人に使う前に、様々なワクチン抗原の候補を試行錯誤しながら作成し、試験管の中、動物への投与などで十分に評価した上で、安全性と有効性のバランスが良い有望な成分を選択して臨床試験を行います。でも人に使ってみたら、やっぱりダメだったということがたくさん起こります」

Tasos Katopodis / Getty Images

しかし、mRNAワクチンはこれまでのワクチンとは仕組みが大きく異なる。

「mRNAワクチンは、ウイルスが人の細胞に入る時に必要とするスパイクタンパク質というウイルスの一部分を作る設計図(遺伝子)をワクチンに組み込んでいます。接種することで、体内でスパイクタンパク質の一部を人の体に害を与えることなく生成し、ウイルスへの免疫を誘導することができるものです」

「このワクチンは設計図(遺伝子)を入れるものを作成してしまえば、そこにワクチンの抗原となるどの部分のウイルス遺伝子を組み込むかというだけの戦略になります。理屈の上では、最短距離でのワクチン開発が可能になる。また、同じコロナウイルス疾患であるMERSのワクチン開発などで既に研究が進められてきていました。そういう意味で、現在世界各国で接種が始まっているmRNAワクチンは開発が最も進みやすいワクチンであると言えます」

また、効果や副反応を確認するために重要な臨床研究についても、その進め方を柔軟にする工夫がなされていたという。

「ここまで世界中で大きな問題となっている感染症ですので、ワクチンを開発して製造する際にかかる時間をできる限り圧縮するための工夫がされています。1つ目は効果の検証がなされる前から、投資が無駄になるリスクを取って、ワクチンを製造するための工場や材料の準備を始めたという点です。また、ワクチンは製造にも時間がかかるので、効果が証明されてから作り始めては時間がかかりすぎるため、製造も効果の検証と並行して行われていました」

「2つ目には申請手続きの効率化があります。データが全て揃ってから承認の手続きや評価を始めるとなるとタイムラグが生じてしまうため、開発者と規制当局が柔軟に協力して、今回は申請手続きやデータをまとめる作業に並行して準備ができた情報を共有することで、承認に必要な手続きや評価を始めていました」

「このように、これまでのワクチンとはその開発の仕組みも、そして実用化のプロセスも異なります。そのためスピーディーな開発、実用化が可能となりました。ですが、開発に伴い安全性や有効性の評価に必要となる工程自体はデータの開示を含めて従来通り全て行われています。早く開発されたことを理由に、このワクチンが危ないと考えるのは必ずしも正しくはありません」

長期の副反応のリスクはどれほどあるのか

Joe Raedle / Getty Images

今回、初めて実用化された技術を用いた新型コロナワクチンは、それ以外の既存の技術を使ったワクチンに比べると接種の実績は少ないと言える。

そのため、一定期間を経た上で起きる副反応について懸念する声も見受けられるが、専門家はどのように捉えているのだろうか。

「初めて実用化されたワクチンで、過去に同様のワクチンを接種した実績はありませんので、長期的に見た時の影響があるのかどうかについて分からないというのはその通りです。ただし、身体の免疫の仕組みを使って、事前に免疫を誘導することで予防効果を得る方法は同じなので、これまでの臨床試験などの結果やその他のワクチンの安全性評価は参考になります」

「副反応はワクチンを接種したことによる好ましくない免疫反応として生じるものです。一般に接種直後から数日以内に、接種部位の痛みや腫れなどの局所症状、発熱やだるさなどの全身症状として生じることが多いです。ほとんどは数日の経過で自然に回復するので、日常生活に支障がなければ自宅で様子をみることもできます」

「通常、免疫反応の結果、抗体がつくられるようになるまでが2週間くらいの間ですので、直接的な免疫反応として出てくる副反応というのはだいたい1〜2週間以内に生じると考えられます。また、感染症によっては、免疫が活性化したことなどによって、体の別のところに作用し、別の問題が起こることもあります(例えば、溶連菌感染後のリウマチ熱など)。こうした間接的な反応は、1〜2ヶ月ほど遅れます。ですが、これらも1年後、2年後といった長期間では、関係性を評価することが難しくなりますし、一連の免疫の反応の結果として起きるとは考えにくいです」

このように氏家医師は今回のワクチンの仕組みから考えると、接種の副反応であるならば1〜2ヶ月の間に起こってくると考えるのが妥当であるとの見解を示している。

「デング熱では、長期的にみると抗体依存性増強といって、ワクチンを接種したことによって誘導された免疫が、次に感染した際に上手く機能せず、むしろ重症化するといったケースが確認されています。現在のところ、新型コロナではこのような反応は確認されていませんが、今後も起こらないと断言することはできません。わからない部分も残っています」

「どんなワクチンも良いことだけしかないということはありません。接種で起こり得る副反応のリスクとベネフィット(不利益と利益)、そのインパクトを総合的に考慮し、選択することが必要です。1年間に世界で1億人が感染し200万人以上が亡くなっていることと、そうした感染症を約95%予防できるベネフィットを天秤にかけて評価する必要があるでしょう。私自身は、一定のリスクと不確からしさは残るものの、それを受け入れてでも接種する理由は十分にあると思います」

「医学的正しさはメディアで戦うものではありません」

Yuto Chiba / BuzzFeed

2月下旬から医療従事者に、4月以降からは高齢者へのワクチン接種が始まる見通しだ。

これほどまでに大規模な集団接種を迅速に行う際、ワクチン接種との因果関係が不明な有害事象が起きる可能性は決して低くはない。

※有害事象:薬物を投与された後に患者に生じたあらゆる好ましくない症状のこと。ワクチン接種との因果関係が証明されている副反応も含まれるが、因果関係の明らかでないもの、不明なもの、別の原因によるものすべてが対象となる。

それが副反応であるかどうかは検証を経て、因果関係が明らかになってからでないとわからないが、そうした有害事象がセンセーショナルに報じられ、ワクチン接種をためらう人が増える可能性もある。

今後も様々な言説が飛び交うことも予想されるが、そのような状況に氏家医師は何を思うのか。

「様々な研究者が新しい説を唱えるということ自体はあり得ると思います。私は何か新しい説を唱えるならば、その説についてエビデンスを集めて科学的に証明していくという態度をもって取り組むべきと思います」

「再現性をもって証明できるエビデンスが希薄である状態のまま、その説の情報を流布してしまうと、誤った理解につながって、社会に影響を及ぼすことにもなります。日本では内容の医学的な真偽はともかくとして、多くの人の関心を集めるためにセンセーショナルな情報が発信され、社会にとって不利益になるような状況がこれまでも生じてきました」

Yuto Chiba / BuzzFeed

その上で、氏家医師は科学的な事象を理解しようとする時に踏まえるべきステップを理解しておくことが重要であるとした。

「医学的正しさはメディアで戦うものではありません。あくまでアカデミアとしての学会や学術誌の中で、専門家同士が議論してコンセンサスを得ていくものです。分かりやすい結論だけを受け入れるのではなく、実際の過程や内容を吟味する必要があります」

「一方で、そうした内容の吟味は時間もかかり難しいからこそ、これまでの情報発信の実績が蓄積され、信頼性の高い、国立感染症研究所のような権威のある組織や個人の情報が引用されたり、関心をもたれたりしやすいわけです。メディアや医療従事者は一般の方にとってのインフルエンサーですから、様々な説はあるかと思いますが、その根拠を示して基本的な正しい理解を促す、地道な情報発信が大切だと思います」

BuzzFeed Newsは「筋肉に注射するタイプのワクチンが呼吸器感染症に効くというのは、合理的じゃない」とテレビ番組で発言していた宮沢さんに取材を申し込み、コメントを求めた。

しかし、宮沢さんは「論文における問題点、疑問点、感染の定義、論文の実験におけるPCRのこと、しっかり答えるとなると、回答は相当長くなります」とコメント。

「今、いろいろなことに追われていて、時間がありません」とし、BuzzFeed Newsの取材には回答できないとの返信だった。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーです。

今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。2019年7月からそのガイドラインに基づいたファクトチェックを実施した記事には、対象言説のレーティングを必ず記載しています。

一方、レーティングを示していない記事もあります。ある事象の「事実関係」だけでなく、その「評価」などに関する内容も含まれる時や、問題の背景を解説する記事などは、レーティングの対象とはしません。

これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
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