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“クラスター隠蔽”との批判も…それでも、専門家同士のバトルは「歓迎すべき」。受け止めるべき責任とは?

新型コロナワクチンの接種が進む中、沖縄県立中部病院では大規模なクラスターが発生した。医療従事者はワクチン接種を義務化すべきか?クラスター「隠蔽」との批判はどのように受け止めているのか?

新型コロナワクチンの接種が進む中、沖縄県立中部病院では大規模なクラスターが発生した。

感染者のうち12人がワクチン未接種の職員だ。

医療従事者は新型コロナワクチン接種を義務化すべきなのか。また、クラスターを「隠蔽」したという批判をどのように受け止めているのか。

沖縄県立中部病院に勤務し、厚労省の参与でもある高山義浩さんに聞きました。

【前編】「感染拡大地域から沖縄への渡航は避けて」7月の4連休が感染爆発の瀬戸際。専門家がいま伝えたいこと

新型コロナ「収束」はいつになる?

ーーワクチン接種が進んでいますが、新型コロナ収束までどれほどの時間を要すると思いますか?

これは「収束」の定義によります。この新型コロナウイルスが社会から駆逐される時がくるのかということについては、望めないだろうと私は思っています。

おそらく、季節性のコロナウイルスのようになり、私たちはこのウイルスと共存するところに落ち着くと思います。もしかしたら、どこかの風土病のように地域的に封じられる可能性はありますが、ときどき国内へと持ち込まれて、地域流行が生じることになるでしょう。

一方で、現在のようなパンデミック対策がいつまで続くのか、ということについては現在接種が進むワクチンの有効性と持続期間によると思います。

どれほど効果が持続するのか、この先も生まれるであろう変異に対しても効果を発揮できるのか、そして接種後の副反応をより少なくする方向で改良が進むのか…

こうしたことの結果次第で状況は変わると思います。現在の段階では、これ以上の予測を立てることはできません。

ーー SNS上では、対策のあり方について、様々な意見が飛び交っています。専門家が強い批判にさらされることもあり、緊張が高まっているようにも見えます。

今回のパンデミックでは、SNS上で専門家が見解を述べ、それに別の専門家が反論したり、市民が直接質問したりできるようになっています。

これほどオープンに多様な人々が意見を交わせるようになったのは、素晴らしいことだと思います。

もちろん、ヘイトやデマは許されませんが、それぞれの立脚点を互いに尊重しあい、意見を出しあうことができれば、それぞれにリテラシーは向上しますし、専門家も自らの殻にこもることが許されないことに気づきます。

価値はひとつでない以上、不断に議論を重ねていくしかありません。

その途上で厳しい応酬もありますが、コロナを乗り越えていくという共通の目標さえ見失わなければ、きっと一致点を見出せると私は思います。

病院でのクラスター発生。医療従事者はワクチン接種を義務化すべきか?

ーー県立中部病院での大規模クラスターのニュースが連日報道されています。51人の感染者のうち15人が病院スタッフ、うち12人がワクチンを未接種であったとのことですが、医療従事者のワクチン接種についてはどのように考えていますか? 接種を半ば強制されるのは「ワクチンハラスメントだ」といった報道も増える中で、やはり義務化するような方向で進むべきなのでしょうか?

県立中部病院の集団感染のことでは、感染された方々はもちろん、地域の方々にも大変なご負担をおかけしております。また、亡くなられた方々には本当に申し訳なく思っています。院内感染をゼロにすることは難しいですが、この経験を共有しながら、ゼロをめざして取り組んでいかなければなりません。

新型コロナの院内感染を防止するためには、医療従事者がワクチン接種を進めた方がよいです。接種できない方はいますが、病院全体としての接種率を高めていくことは病院管理者の責任だと思います。

県立中部病院における医療従事者のワクチン接種率は、先月末時点で87%であったと確認しています。また、感染した「職員」のなかには、医療従事者ではなく、出入りの業者さんもおられ、そこまでは十分に目が届いていなかったのも事実です。

今回の集団感染では、接種した職員は比較的守られていましたが、未接種の職員が多く感染しています。もし、この職員らがワクチンを接種していたら、集団感染の規模はもっと小さなものであった可能性は高いと思います。

ただし、看護師の中には妊婦さんや妊娠予定者などもいます。

巷ではワクチンを接種すると不妊になるという誤情報も拡散されている中で、妊娠を予定している方や妊娠している看護師さんたちが接種を躊躇してしまうというのは、彼女たちの責任でしょうか? 

私も同じ立場であれば、躊躇したかもしれません。

いまは接種したくない、不安だという方がいること自体は、決して批判されるべきではありませんし、その意思は尊重されるべきだと思います。

ただし、接種していない医療従事者については、とりわけ感染予防を徹底させるなど、きちんと指導して守らせること。これが院内感染対策を担当する医師としての責任だったと思います。

「隠蔽」との批判も…専門家が受け止めるべき責任とは

ーー今回のクラスターに関しては情報の公表が遅れたこともあり、一部で「隠蔽」ではないかといった批判の声も上がっています。一部の医師からもこうした指摘が上がっていますが、どのように受け止めていますか?

5人の院内感染を把握した時点で、県は「うるま市内の病院」として公表していたのですが、病院名は明らかにしていませんでした。その後、51人に至っているにも関わらず更新する説明がされていませんでした。また、当院のウェブサイトでも、集団感染が発生している事実のみが公表され、具体的な数字については触れられていませんでした。

なお、病院名を公表しなかった理由について、県病院事業局の企画官が、県庁内の話し合いにおいて、私が「厚労省の公表すべき基準に合致しない」と発言したことがあったと述べています。

しかし、このときの私の発言は「厚労省の公表すべき基準に合致しない。それを超えて県として公表するためには基準を明確にすべき」でした。さらに、「県保健医療部が速やかに記者会見するのが良い。病院としては、ウェブサイト上で公表するのが良い」と発言しています。

もし、私の発言を根拠とするならば、私の提案した、基準の作成や県による正確な情報公開まで果たしていただくべきだったと思います。アドバイスしたことの一部分しか採用しないでおいて、批判されていることの原因として指弾されるようでは、専門家はアドバイスができなくなります。

ーーなぜ、施設名の公表基準について強調されたのですか? すべてを隠すことなく、住民に公表すべきではないですか?

私が公表基準にこだわったのは、集団感染が発生した多くの施設を支援してきたからでもあります。

そこで、差別や偏見に苦しむ職員を数多くみてきました。集団感染が生じた施設で働いているというだけで、子どもが幼稚園に通えなくなったり、スーパーで知人に会ったら逃げられたりということも実際に起きています。

集団感染が生じて苦しいときに、少なからず職員が離職していくことで、医療機関や高齢者施設の機能が維持できなくなっていきます。

そうした施設を私たち有志の医師は支えてきました。県民に知る権利は確かにあると思いますが、今でも、一律に公表することには反対の立場でいます。

また、集団感染が生じたときに、すぐに公表するという方針を県がとってしまうと、そのこと自体がストレスになり、小規模な施設では診断や検査が遅れてしまうことも考えられます。感染対策を行ってきた立場では、事後に制裁的な影響のある対応をとることは、できる限り避けていただきたいのです。

ただし、そうして中小の医療機関や高齢者施設を守ろうとしながら、事実上、自分の病院の集団感染を隠すことになってしまいました。

現場の対策に忙殺されていたとは言え、専門家として公表基準の作成まで支援すべきだったと反省しています。

そこで、7月5日をもって、県専門家会議の委員を辞任しました。信頼関係を揺るがせた責任を感じています。とりわけ新興感染症対策は、住民と行政との信頼関係が何より大切です。

これから夏に向けて、重要な局面ですので、力を合わせて乗り切っていかなければなりません。県行政へアドバイスをする立場からは身を引きますが、引き続き現場の一員として、頑張りたいと思っています。