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「感染拡大地域から沖縄への渡航は避けて」7月の4連休が感染爆発の瀬戸際。専門家がいま伝えたいこと

夏休みが目前に迫る中、今年も基本的には渡航自粛を促すことを求める提言が出されている。若者へ「お願い」は届くのか?高山義浩さんに話を聞いた。

緊急事態宣言が明けて間もない東京では、再び感染拡大が始まった。

今年の夏の感染状況は五輪や変異ウイルスの影響も考慮する必要があり、先が見えない。

夏休みが目前に迫る中、沖縄県の専門家会議では今年も基本的には渡航自粛を促すことを求める提言が出されている。

今も緊急事態宣言が続く沖縄では何が起きているのか。そして、この夏の感染拡大を防ぐためどのような対策が必要となるのか。

沖縄県立中部病院に勤務し、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部参与でもある高山義浩さんに話を聞いた。

※インタビューは7月4日午後にZoomで行った。感染状況に関する情報などはその時点のものに基づく。

夏の感染拡大、沖縄はどうなる?

ーー沖縄では現在も緊急事態宣言が続いています。第4波が鎮静化しつつある状況ですが、この夏に予想される第5波の見通しを教えてください。

かなり厳しい状況だと思います。もちろん、これまで同様に流行には地域差があるでしょう。この夏は、人の移動がかなり活発になることが予測され、それを制限するような施策はとられていません。

首都圏や大阪など大都市圏で一定の流行がはじまり、それが全国へと人の移動とともに広がっていくということは、これまでの経験から見ても明らかです。この夏、特に人が多く訪れる地域では、感染が拡大すると思われます。

この夏には、沖縄で大きな流行が起きる可能性が高いです。夏の沖縄は、気温が高く、日差しも強く、エアコンを効かせた室内に人々が集まって過ごしがちです。

毎年のように沖縄ではインフルエンザが流行してきましたが、昨年は 新型コロナが大流行しました。大都市圏での流行規模次第ではありますが、この夏に沖縄で感染拡大するものとして対策が必要です。

感染拡大地域から沖縄への渡航はやめて

ーー4連休後の沖縄の感染状況はどれほど悪化すると見ていますか?

いま、沖縄の目標としては、できるだけリバウンドを回避することです。しかし、リバウンドの要因のひとつである渡航者が増えてきました。

沖縄コンベンションビューロー(OCVB)によると、8月中の入境観光客数は、昨年の20万人に対して、今年は50万人と見込まれています。この渡航者への対策については、渡航前検査など呼びかけはしていますが、旗を振っているだけで、実効的な対策がとれているとは言えません。

渡航者による影響でどれほど感染拡大するかは、東京や大阪など本土でどれだけ感染が拡大しているか次第です。

もしも、奇跡的に東京や大阪でデルタ株の流行を防ぎ、「安心安全」な五輪を開催できるような状況になっていたとすれば、沖縄に観光客の方が来ても、帰省する人がいても、私たちは恐れません。

実際、渡航者数と感染者数のグラフを照らし合わせると、昨年の10月から11月にかけて「Go To トラベル」で、沖縄にも多くの観光客が訪れましたが感染状況は大きく変化していません。

一方、昨年の7月や今年の1月、4月以降に認めた沖縄の流行は、いずれも本土で大きな流行が生じていることがきっかけとなっています。そしてこれから、本土でデルタ株が流行していくとすれば、このまま夏を迎えると、間違いなく沖縄は大きな流行へと発展します。

つまり、「4連休後の沖縄はどうなりますか?」という問いに対しては、「その前に東京・大阪はどうなっていますか?」という問いで返したい。大都市圏の感染状況次第で、沖縄における4連休の影響も変化します。

ーー感染拡大を防ぐために、4連休中の強い対策以外にはどのような対策が必要なのでしょうか?

県の専門家会議では以下のようなメッセージを取りまとめました。

1.緊急事態宣言や重点措置が出されている等、感染拡大を認めている地域からの不要不急の渡航は控えてください。

2.必要があって来訪される場合には、渡航前(3日前から直前まで)にPCR検査による陰性判定を受けてください。

3.ワクチン接種を完了されている方については、離島を含めて往来いただけます。事前のPCR検査も不要です。

※PCR検査の結果が陰性であっても感染自体が否定されるわけではありません。また、ワクチンを接種していても感染を確実に防げるわけではありません。渡航中には会う人を限定し、人ごみでマスクを着用したり、手指衛生を心がけていただくなど、一般的な感染予防をお願いします。

感染が拡大している地域にお住まいの方は、できるだけ渡航を避けてください。これは沖縄に限らないことで、移動を自粛していただくことが大切です。

その上で、どうしても渡航の必要がある場合には、渡航の前に、あらかじめPCR検査を受けていただくようにお願いしています。もちろん、検査陰性であったとしても、感染していないとは言えません。なので、渡航中の感染対策は心がけてください。

また、2回のワクチン接種を完了している方については、流行地域からであっても渡航の制限は求めない方針でいます。ただし、ワクチンの効果も完全ではありませんから、やはり渡航中の感染対策は心がけていただければと思います。

到着時に那覇空港でも検査を受けることはできます。ただ、私たちは、機内感染を回避するためにも、できれば搭乗前に検査を受けていただきたいと考えています。

那覇空港へは、東京から2時間40分、大阪から2時間15分という長時間のフライトです。搭乗待合を入れると3時間ぐらい混雑した状態になるため、事前に検査を受けてから渡航していただいた方が良いと、県の専門家会議では結論づけています。

これには根拠があります。まだ発生間もない昨年3月のことですが、大阪から那覇へのフライトに1人の感染者が搭乗したことを那覇保健所が確認しました。そこで、乗員・乗客141名のうち連絡がとれた122名に検査を実施したところ、14名もの感染を確認しました。

フライトのたびに、感染者が増幅されて那覇空港に上陸している可能性があります。感染性を増した変異ウイルスにおいては、エアロゾル感染のリスクも高まっているので、その頻度は増していると考えられます。

そして、機内で感染した方については、到着時に空港で検査しても陰性であり、100%すり抜けます。

なので、長距離フライトの乗客を相互に守るためにも、また、沖縄の医療を守るためにも、旅行前に検査を受けるようにしてください。このことは、前々から沖縄県が呼びかけてきていることです。

ーー専門家会議からのメッセージはあくまで「お願い」という理解で良いでしょうか?

もちろん、そうです。

地域流行が生じている、強制的に人の流れを止めるのが一番ですが、法的にも困難であることは理解しています。

また、渡航前のPCR検査をお願いし、実際に多くの方に協力いただけたとしても、すべての感染者を補足できるわけではありませんから、沖縄への流入は続くことになります。これは、国の検疫システムで全例に検査を実施しても、変異ウイルスが入り続けていることでも明らかです。

本土で感染が拡大している状況では、水際で感染を食い止めることができる、という幻想を抱かず、県内に入ってきていることを前提に対策をとることが必要です。かつ、それでも流行が生じたときには、早めに緊急事態宣言など強力な拡大防止策を速やかに打つことです。

若者への「お願い」はどこまで届くか?

ーー五輪が開催されようとしている今、行政から市民へのお願いのメッセージはどこまで届くのでしょうか?特に若い人々は重症化しにくいこともあり、以前からメッセージが届きにくいことが指摘されてきました。「医療崩壊」の危機が目前に迫っても、なかなか身近に感じにくい部分もあるのではないでしょうか?

若者たちへのリスクコミュニケーションの失敗はあるというのは認めざるを得ません。あまりに脅かしすぎました。日本人の悪い癖なのかもしれませんが、他人を脅かすことで従わせようとするところがあります。

子どもに対する親の姿勢にも、そういうところがありますが、正しい情報ではなく、誇張して伝える。最初は上手くいくのですが、そのうち信頼を失っていきます。

コロナは風邪だと言ってる人たちがいますが、その人たちにとっては風邪なんです。それは間違いではない。もちろん、後遺症の問題もあるので、ナメてはいけませんが、20代、30代で死亡することはまずありません。ほとんどの人は風邪で終わります。

ところが、一部の専門家やメディアが脅かし続けました。その不信への反動が出ているということもあるのだと思います。彼らが感染した場合のリスクについてどこまで適切に情報提供できていたのか、専門家として反省しています。

改めて若者たちに、私たちがなぜ協力を求めているのかを明確に伝え、そして彼らの考えに耳を傾けることが必要です。

少なくとも、オリンピックや観光関連のイベントを、なし崩しで実施しながら、個別の若者たちに自粛を求めることはできないと私は思います。

ーー行政は若者たちと、どう向き合うべきなのでしょうか?

めったに病院を利用することのない沖縄の若者たちにとって、「医療崩壊」とは自らの危機ではありません。むしろ、繰り返し聞かされるうちに死語と化しつつあります。

人生でもっともチャレンジと出会いに満ちたものであるべき青春にあって、一方的に自粛を求められた1年となっています。誰も若者たちの声には耳を傾けず、ただ、高齢者を守るためにと一方的に協力を求められてきました。そろそろ、若者たちは限界にあります。

たとえば、20歳の青年にとって「20歳」は一度きりです。オリンピック以上に限られていて、一度きりの大切な人生の1ページです。彼らにはパートナーを見つけ、人生を楽しみ、社会を前進させる権利があります。

この葛藤から目を背けて、自粛の旗を振り続けていても、沖縄の若者たちはもはや限界です。

これから夏にかけて、若者たちはビーチパーティを楽しむ季節です。頭ごなしにダメだではなく、「じゃあどうすればできるのか、一緒に考えよう」と話し合うこと。たとえば、パーティー前にPCR検査を無料で受けられるようにするから、それを受けずにパーティーを開くのはやめてといった取り引きもあるでしょう。

移動はしてほしくない。でも…

ーー政府の中ではワクチン接種が加速する中、どこかのタイミングで「Go To キャンペーン」を再開しようとする動きがあります。キャンペーン利用の条件にワクチン接種を位置付ける案もあるようですが、こうしたアイディアについてはどのように捉えていますか?

基本的には首都圏や大阪など大都市圏における感染拡大をある程度鎮静化させていくことが、まずは重要です。

ただし、ワクチン接種者に限って「Go To キャンペーン」利用を認める、もしくはPCR検査を無料で受けられるような環境を整備し、渡航前の検査で陰性であれば利用を認めるという方法はありだと僕は思います。

もちろん、感染症の専門家の立場としては移動はしてほしくない。ですが、仕事をしている中で我々は沖縄の経済、特に観光事業者が苦しんでいることを知っているからです。

同時に、飲食事業者と同様に観光事業者も苦しんでいる中で、そうした人々の事業を下支えするための議論はあまり広がらず、感染が下火にならないうちから「Go To キャンペーン」の議論が始まることに違和感を覚えます。

観光の需要を喚起する前に、まずはいま経営の危機に瀕しているところを救うための補償金をもう少し出せないのでしょうか。そうした補償が充実すれば、観光事業者もより一層自粛に協力してくれるはずです。

(後編に続く)