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日本の新型コロナ死亡率、「1千万分の1」は誤り。致死率も低下する中、「現在の対策は過剰」は本当か?

「現在の日本の新型コロナウイルスは 1/10000000の死亡率です」という誤った情報が拡散している。10月20日時点での日本における新型コロナウイルス感染症による死亡者数は1672人。人口100万人当たりに置き換えると、死亡者は13.2人 / 100万人だ。

「現在の日本の新型コロナウイルスは1/10000000の死亡率です」

そんな誤った情報が拡散している。

発端となっているのは美容外科医・高須克弥さんのツイートだ。現在、2200回以上リツイートされ、Twitter上で拡散している。

高須さんは「現在の日本の新型コロナウイルスは 1/10000000の死亡率です。未知のウイルスに対する過剰防衛推奨の時期は過ぎました。恐れすぎて自粛しすぎるのは間違いだと思います。勇気を出して日常生活を戻すべきです」とコメントしている。

現在の日本の新型コロナウイルスは 1/10000000の死亡率です。 未知のウイルスに対する過剰防衛推奨の時期は過ぎました。 恐れすぎて自粛しすぎるのは間違いだと思います。 勇気を出して日常生活を戻すべきです。 僕は経済活動自粛の後遺症で沢山の死亡者が出る次のフェーズを怖れています。 https://t.co/BOFQSkJp2q

Twitter

だが、この情報は誤りだ。高須さんの示す死亡率が正確ならば、全国の死亡者はこれまでに12.6人となる。しかし、10月20日時点での日本における新型コロナウイルス感染症による死亡者数は1672人だ。

人口100万人当たりに置き換えると、死亡者は13.2人 / 100万人。高須さんのツイート内容と比較するため1000万人あたりで整理すると、新型コロナによる死亡者は132人 / 1000万人だ。

また、国立感染症研究所の感染症疫学センターが算出した調整致死率は8月30日時点では2.4%だ。

こうしたデータを踏まえると、高須さんのツイートは新型コロナのリスクを過少に評価していると言わざるを得ない。

100万人あたりの死亡率と合わせて注目すべき「致死率」

国立感染症研究所

新型コロナのリスクを正しく理解する上で、どのような指標に注目すべきなのか。

死亡率と合わせて重要な指標が致死率(致命率とも表現される)だ。

致死率とは、どのような指標なのか。国立感染症研究所の感染症疫学センター長を務める鈴木基さんはBuzzFeed Newsの取材に対し、「一般的には分母にその対象となる疾患に罹患した人の数、分子にその疾患で亡くなった人を入れて計算される指標」と説明する。

「致死率に関しては大きく2つの考え方があります。1つがコロナに感染して発症した人(症例)を分母に置く『症例致死率』というもの。もう1つが症状の有無に関わらず、無症状の方を含め全ての感染者を分母に置く『感染致死率』というものです。ですが、どちらの致死率も正確な数値はどのようなものかを断定することは非常に難しいものです」

その上で、一般的には「症例致死率」の考え方に基づき、その疾患による死亡者数を症例数で割ることで致死率は導き出されるという。

ここにおける症例数とは、日々報道されている陽性者数とイコールだ。ただし、そこには発症していない無症状病原体保有者が含まれていることには注意しなくてはならない。

致死率算出の上で配慮すべき2つのポイント

Yuto Chiba / BuzzFeed

国立感染症研究所の感染症疫学センター長を務める鈴木基さん

致死率の算出過程では、症例数や感染者数を全て把握することはできないこと、死亡者数を過大 / 過小に評価している可能性があることに配慮する必要があると鈴木さんは言う。

「実際には感染して発症しても検査を受けることなく、症例数に含まれていない患者もいるので、いくつかの仮定を置いた上で推定値を計算するほかありません」

実際の症例数の合計は現在までに判明している症例数よりも多いことが予想されるが、どれほど増えるのか。考える上での1つのヒントとなるのが、厚労省が実施した抗体検査の陽性率だ。

6月1日から7日にかけて、厚労省は東京都・大阪府・宮城県において一般住民(合計7950人)を対象に無作為抽出に基づく抗体検査を実施した。

その結果として示された抗体保有率は東京都が0.1%、大阪府が0.17%、宮城県が0.03%であった。これは人口に占めるその時点までに感染した人の割合を表しており、発症した人に限定するとその割合はさらに少ないと考えられる。

厚生労働省

なお5月末時点までに東京都で報告された症例数は約5200人であり、単純に人口(1400万人)で割ると0.04%という値になる。

そのため、実際の症例数は「これまでに報告されている数よりも多いことは間違いないが、10倍以上違うことはないのではないかと考えている」とした。

また、分子に置く死亡者数に関しても「現在報告されている数をそのまま使っていいのか、慎重に考える必要がある」と説明する。

現在、新型コロナと感染が確定された患者が亡くなった場合は「新型コロナウイルスによる死亡」として計上される。「だが、医学的な原因としてその人が新型コロナで亡くなったとは限らない」。

インフルエンザの場合、感染後に肺炎や心不全を起こし、入院が長引いた上で亡くなるケースもある。また、肺炎の場合、致死率を計算する上で肺炎と診断されてから28日以内に亡くなった人の数を分子に置いて計算されている。

このようなケースは新型コロナウイルスにおいても考えられるため、医学的には非常に難しい判断が求められるが、現在は期間を区切ることなく死亡者数としてカウントされている。

そのため、報告されている死亡者数が実態よりも過大な可能性があると鈴木さんは指摘する。

一方で、インフルエンザの超過死亡の考え方と同様に、新型コロナウイルスが原因で亡くなった人が完全に把握されているとも限らない。そのため、報告されている死亡者数が過小である恐れもある。

「今、我々が見ている死亡者数の数字は過小評価と過大評価のせめぎ合いで見えている数字です。そのことを慎重に考えなくてはなりません」

「すべての感染者について、回復したのか新型コロナが原因で死亡したのかがわかれば理想的ですが、なかなかそうしたデータはありません。さしあたって我々の手元には報告されている症例数と死亡者数のデータしかない。だから、基本的には各自治体が報告している症例数を分母、死亡者数を分子として計算しています。ただし、シンプルな割り算では感染から亡くなるまでのタイムラグによる影響を受けますので、このタイムラグを補正して致死率を推定しています。それが調整致死率です」

国立感染症研究所

鈴木さんが9月4日の厚生労働省アドバイザリーボードに提出した資料によると、5月末までの累積感染者数 / 死亡者数をもとに算出される調整致命率は5.8%である一方で、8月30日時点では2.4%となっている。

鈴木さんも6月以降、日本における新型コロナによる致死率は下降傾向にあるとの認識を示し、「いわゆる第2波以降、症例数を分母とした場合の致死率はその前の時期に比べて確実に低い」と語った。

致死率なぜ低下?

こうした致死率の低下はなぜ起こったのだろうか?

鈴木さんは「たくさんの要因が重なっているのでは」とし、以下の4点を挙げる。

(1)第1波終盤から検査対象者が拡大された結果、無症状者や軽症者が分母に加わったこと
(2)第2波以降、感染が確認された人の多くは若者や高齢でもアクティブな人など比較的活動度の高い人たちであること
(3)検査対象者が広がることで、早く受診し、早く治療される人が増えたこと
(4)ステロイドやレムデシビル等、重症者に対する入院後の標準的な治療法が改善されたこと

国立国際医療研究センター

国立国際医療研究センターも9月30日に開いた記者会見で第2波では入院後の死亡率が低下したことがわかったと発表した際、発症から診断までの時間の短縮によって、全年齢層で入院時に重症者が占める割合が低下したことがその要因ではないかと示唆した。

しかし、致死率が低下する中で一部には第2波以降、ウイルスが弱毒化したという言説が広がっている。

だが、鈴木さんは「その可能性を100%排除することはできない」と前置きした上で、「世界各国の致死率のデータを見ると、必ずしも日本と同じように低下しているわけではない」ため、「ウイルスの性質が変わったことによる影響とは考えにくい」という。

また、ウイルス学者によるウイルスの分析においても弱毒化を裏付ける変化は確認されていない。

「現在の対策は過剰」は本当か?

Carl Court / Getty Images

致死率や死亡率の低下をうけ、「現在の対策は過剰」と主張する人もいる。

こうした主張については何を思うのか。

「新型コロナの感染が拡大しはじめて9ヶ月が経ち、我々含めて市民の誰もがもう疲れてきて、話すことにも飽きてきていることは当然だと思います。ですから、もうこの感染症のことを考えたくないと考える人がいるのは当然のことです」

ウイルスの特性も、またこの問題をより複雑なものにしていると鈴木さんは言及する。

「エボラ出血熱のように感染した人の50%~60%が亡くなることはない。そして、特に若い人の場合は感染しても致死率の上では心配するほどの病気ではないのも事実です。ですが、このウイルスは通常の季節性インフルエンザと比べて肺炎を起こすリスクが高い。また、特に高齢者では肺炎を起こしたときの致死率は通常の肺炎よりも高いのです。そのため、感染に気付かない若い人たちが活動すると市中でコロナが流行し、それが高齢者へと感染すると、高い確率で肺炎を起こし、通常よりも高い確率で死に至るのです」

これまでも明らかにされてきたように、新型コロナウイルスの重症化リスクは高齢者の方が高い。

「このウイルスは以前、東北大学の押谷仁先生が言っていたように『よくできたウイルス』。本当にいやらしいウイルスだと思います」

Sopa Images / SOPA Images/LightRocket via Gett

そのような中、「日本ではソーシャルディスタンスがおおむね保たれ、マスクの着用率も高く、3密対策が徹底された結果として感染者数は欧米に比べて抑えることができている」。

「今、死亡者数がそこまで多くないように見える。ですが、それは我々が基本的な感染対策を徹底した結果です。気を緩めた瞬間、いつ感染爆発(急激な流行拡大)が起きるかわかりません」

「感染爆発は流行の初期だけにおこる特別な事象ではなく、海外では現在も起こっています。日本も、いつそのような状況になってもおかしくない。やはり、人々の健康を守るため、健康被害を最小限に食い止めるために感染対策は続けていく必要があります」

自殺者とコロナの死亡者を天秤にかけるのは「議論を単純化しすぎ

Carl Court / Getty Images

その上で「このままでは経済的な打撃で自殺者が増える」といった懸念に対しては、「確かに自殺者が増えることは避けなくてはならないが、自殺者数とコロナによる死亡者数を天秤にかけるような議論は話を単純化しすぎていないか」と問題提起する。

「自殺はもちろん対策をすべき問題です。ですが、自殺対策とコロナ対策は両方同時に行うことができるものです。コロナ対策をやめることが、自殺対策になるわけではありません」

「それぞれを切り離し、まずはコロナ対策を行うことでコロナによる死亡者数を減らす。その結果として自殺のリスクが高まるのであれば、そうした高いリスクにある人々をターゲットとし、自殺対策をしっかり行うべきでしょう」

「今のままの対策をワクチンができるまで行うことは社会にとってストレスフルであることは間違いありません。この場面では感染対策を緩めても良い、ここに関しては最後まで厳密に感染対策を徹底するといった切り分けをもう少し明確にできるように我々研究者も取り組んでいかなければならないと思っています」


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知し、そのレポートを参考にしました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
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