「違うよ! ピルだよ! 飲み忘れたらてーへんなんだよ。いくら言ってもてめぇが避妊しねぇから! ガキが出来たらどーすんだ!」
私が初めてピルを知ったのは、『NANA』というマンガだった。このセリフは、主人公がベッドの上で恋人に発したものだ。連載がはじまった2000年、小学生だった私には、強烈なイメージが植え付けられた。「ピルは避妊の薬なんだ」と。
低用量ピルが国内で認可されたのは1999年。その名目は避妊目的だった。
ピルとは、卵巣から分泌される2つの女性ホルモンを化学的に合成したもので、服用すると脳が排卵を抑制する薬だ。妊娠は排卵がなければ成立しないため、避妊が可能になる。
一方で、1日1錠飲むことでホルモンの安定が図られるため、生理を整える効果もある。しかし、月経困難症の治療としてピルに保険が適用されたのは、それから約10年後の2008年だった。
17歳で初めて処方されたピル。
受験のストレスが大きかったのか、思春期の不安定さか、高校2年生のときに生理がなくなった。正直、はじめは気がつかなかったし、異常だとは思わなかったが、養護教諭に勧められ、婦人科に行くことになった。周りから見るとかなり病的だったのだろう。
「このままだと将来的に妊娠できなくなってしまうかもしれないから、今は薬で強制的に生理を起こさせて、少しずつ回復していきましょうね」
「ずっとこの薬を飲まなくてはいけないのですか?」
「しばらくしたら身体が生理を思い出すので、薬を飲まなくてもちゃんと生理が来るようになりますよ」
こんな会話をした。医者は薬の名前を口にはしなかったが、そのときに処方されたのがピルだった。避妊のための薬を飲むの…? 17歳の私には理解ができなかった。
NANAに出てきたその薬を飲むと、再び生理が来るようになった。未成熟な身体には副作用が大きく、生理が近づくにつれ、異常な食欲とむくみがあらわれる。惨めだなぁと思ったのを覚えている。
生理が来るようになった事実を目の当たりにしても、疑問が解けることはなかった。私はなぜか避妊薬を飲んでいる。心当たる事実などないのに。
とにかく周りにはバレたくなかった
生理は28日周期で起こり、通常3〜7日間続くと言われる。これは保健体育の授業でも習う。でも、私の生理は薬を飲まないと「正常に」やってきてくれない。
生理がやってこない、すぐ終わる。正直「楽」な部分もある。しかし、「私は本当に妊娠ができるのだろうか?」という不安は頭の片隅にいつもあった。自分は普通ではないのだ――毎月それを実感する。将来に関わるかもしれない健康状態を周りに話せるわけもなく、自分の小さな頭だけで問題と向き合った。
それだけではない。ピルは「経口避妊薬」という名称を持つ。避妊という言葉は17歳の私には重かった。なぜなら、セックスが前提にあるからだ。もし避妊薬を飲んでいることが友人にバレだらどう思われるのだろう? 「私はセックスをしています」とバッジをつけているようで嫌だった。
避妊もセックスも普通の行為だ。けれども、公にするのははばかられる威力はあった。少なくとも当時の私にとっては。
婦人科のイメージはさまざまだ。「婦人科に行っているところを目撃されたら、あらぬ噂をたてられてしまう」、「妊娠に関わる問題がなければ行く場所ではないと思ってた」…こんな話はたびたび女子会でも話題になる。
でも、一度病院に足を踏み入れてしまえば、婦人科は妊娠以外にもさまざまな病気を治すための場所だとわかる。とはいえ、大人になった今でも、未婚の女性にとって、妊娠を連想させる言葉はタブーな雰囲気がある。
ピルの用途は「将来子どもを産むため」の人もいる
保険が適用されてから約10年。服用している人も増えている。
大学を卒業したころだろうか。「生理がすぐ来なくなっちゃうんだよね」と友人の前で発言したところ、「私も…」と返事が来た。そして「婦人科行ってるよ、ここがいいよ」、「この薬が良いよ」とアドバイスまで飛び交った。
締め切った窓が開き、風がとおるような感覚だった。私だけじゃないんだ。
避妊するためにピルを飲むことは決して悪いことではない。むしろ権利だとすら思う。でも、セックスを連想させる力によって、自身の健康を保つための薬を遠ざけたり、ネガティブなイメージを持つのはよくない気がする。
ピルが体質的に合わない人もいるので、万人に勧めることはできない。加えて避妊に対する価値観など、さまざまな問題を孕むので、断言できることは少ない。専門家でも意見が分かれるほどだ。
でも、ひとつ言えることがある。私がピルを飲み始めたのは避妊のためではなく、子宮の健康状態を保つためであり、将来的に元気な子どもを産めるようにするためだ。そして私のような人は大勢いる。これは事実だ。
(サムネイル:Getty Images)
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