「このたび私、松丸 亮吾は同棲生活を始めることをご報告いたします」――。
2年前にこんな投稿をした、謎解きクリエイター・松丸亮吾さんの同棲相手は、茶トラ猫・リド君です。
謎解きを作るだけではなく、会社の経営など多忙を極めている松丸さんは「猫と暮らすことで生活習慣が劇的に改善した」と力説します。猫と暮らすと多幸感はありそうですが、生活習慣が改善? どういうこと……?
12月2日に代官山蔦屋書店で行われた、猫のためのスマート首輪「Catlog」のトークイベントに出演した松丸さん。この機会に、猫との暮らしと自身の変化について伺いました。
(聞き手:嘉島唯)
強制的に起こされる「定刻起床装置」を使っていた僕が……
――松丸さんは一人暮らしですが、リド君を迎えるにあたってハードルは高くなかったのでしょうか?
ハードルはほとんどありませんでした。ただ当初住んでいたのがペット不可の物件だったので引っ越しましたけど、もともといつかはペット可の家に住みたいと思っていたので、いい機会でした。
リドくんとは取材で行った保護猫施設で出会ったんです。最初に僕を見た瞬間からよだれがべちゃべちゃになるくらい指をくわえてきたし、僕が帰ろうとすると尋常じゃなく鳴く。僕は取材後に次の仕事に行ったんですけど、リドくんに心を射抜かれていたので全然集中できませんでした(笑)。後日「あの子を家に迎えたいです」と連絡して今に至ります。
――リド君と一緒に暮らし始めてから変わったことってありますか?
早起きするようになったというか……遅くまで寝てると起こされるようになりました。それがすごくいいです。
僕、本当に朝起きられないタイプだったんですけど、リド君がうちに来た当初は「朝ごはんあげなきゃ」という気持ちで毎朝6時に起きてましたもん。人間には使命感が大事だと思い知りました。
――松丸さんは「高校生の時は254日の登校日のうち250回遅刻していた」という話もありますよね。
そうなんですよ。リド君と暮らし始める前は、鉄道会社などでも導入されている「定刻起床装置」を使ってましたからね(笑)。タイマーを設定した時間になると空気袋が膨らんで強制的に起こされる装置を……。
でもリドくんを飼い始めた時に「猫の爪で空気袋をひっかかれちゃったら、もう一生使えなくなる」と悟ったので、今は押し入れの奥底で眠ってます。結構いい値段したんですけど。
その後に、病院で使うような電動ベッドも使ってたんですよ。起きる時間になると自動的に背もたれがリクライニングしてくれるので、重宝してたんですが、この機能も使うのをやめました。リクライニングして降りるタイミングでその下にリドくんがいたら危ないじゃないですか。
――起きるための装置が全部使えなくなってる……。
これは大変なことになるぞと思ったものの、だいたいリド君が起こしてくれるようになったので結果オーライです。遅くまで寝てると、リドくんがおもちゃをくわえてベッドにやってきて、布団の上に並べるんですよ。置くスペースがなくなると僕の身体にジャンプしてくるので、それで起きます。
人工的なアラームで目覚めるよりも、リドくんに起こしてもらうと多幸感が違うというか、良い一日が始まるなと思える。強いて言うならタイマーを設定できないことだけが問題なぐらいですね(笑)。
猫は偉大。休憩の有益さを教えてくれる
――メンタル面では変化はありましたか?
僕はあらゆる時間をもったいなく感じてしまうタイプで、休憩時間も謎解きを作ったり、仕事の整理をしてたりしてしまうんですね。休憩が下手で、頭がオーバーフローして行き詰まることも多かったんですけど、リド君が家に来て変わりました。
――休憩ができるように?
リド君が猫じゃらしを僕のところに持ってきたら「遊ばない」という選択肢はないので。だいたい1時間経つと部屋の奥から鈴のシャンシャンシャンって音が聞こえ始めるので、気がついたら遊んでます(笑)。リド君と遊んでいる10分弱は完全に仕事を忘れてますね。
行き詰まってる時ってずっと同じこと考えてるから、謎解きを作っていても良し悪しがわからなくなるんですけど、リド君と遊んでデスクに戻ると「これ案外良くない?」と思うことが多いです。
――客観性をもって見返せると。
試しにそのまま謎解きを提出してみると、思いのほか褒めてもらえる。リド君と遊ぶことで一回頭がリセットされて、冷静に物事を見られるようになってるんだと思います。
――休憩の有益さに気が付いた?
そうそう。ずっと働き続ける方が効率が悪いことをリド君が教えてくれました。1時間に1回必ず休憩が入るので、その度に気分転換できてます。リド君は10分弱遊ぶと満足してどこかに行くので、時間的にもちょうどいいです。
――家で仕事をしていることも多いのですね。
最近は出社する頻度も増えましたけど、打ち合わせはリモートでお願いすることも多いです。
猫あるあるだと思うのですが、リド君はパソコンと僕の間に意地でも入ろうとしてくるんですよね。オンライン会議をしているときは、リド君が必ず机の上に乗って、僕の方じゃなくてカメラを見つめ続ける。皆勤賞なんじゃないかってぐらいリド君は会議に参加してきます(笑)。
――逆に大変だったことはありますか?
ソファで爪を研ぐ……とかですかね。なんだろう……。
かわいいから全部許しちゃうんですけれど、振り返るとリド君は最初甘噛みができなくて一時期傷だらけになったこととか、ですかね。
洋服に穴が開くと思ったので、 噛まれる専用の服を買ったこともあります。一時期は、家に帰り次第、すぐ着替えてました(笑)。
ケガがひどくてメイクさんに心配されたこともありましたね。手首のあたりに引っ掻き傷が多かったので「嫌なことありましたか?」と聞かれて。
――誤解されてしまったと。でも、今は傷が見えないです。
いつからか、甘噛みを覚えてくれて本気噛みが激減しました。しつけっていうのかな……猫には言葉が通じないので、どうやったら学んでくれるのか試行錯誤しました。猫は「シャーッ」と威嚇するので、それを真似して僕も「シャーッ!」と叱ったつもりになっても、リド君には「何やってるんですか?」って顔されたこともあります(笑)。
結局、イタズラをした後は遊んであげないっていうシンプルな方法に落ち着きました。今は甘噛みも覚えましたし、引っ掻き傷も減ったので、根気強くコミュニケーションとると癖は変えられるんだと実感してます。
とはいえ、かわいいから何されても許しちゃうんですけどね。やっぱり猫と暮らしていると、孤独感を感じにくいですし、すごく豊かな気持ちになるんです。生活習慣も仕事の効率化も、そういう充足感から来ているのかもしれません。猫は最高です。
(インタビュー後編に続きます)