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北欧の明暗を分けたコロナ対策 切り札となったデンマークの「コロナパス」と日本との違いは?

高福祉国と名高い北欧の中でも、新型コロナ対策では明暗がくっきりと分かれました。デンマーク在住の元新聞記者がその違いと、海外から見える日本の「弱点」を分析します。

感染者の抑え込みに成功し、コロナ禍からの出口が見えてきたてデンマークと、医療の逼迫も起きているスウェーデン。

井上陽子さん撮影

コペンハーゲンで、スマホ上の「コロナパス」を見せてレストランに入る人たち

北欧の中で明暗を分けた原因は何だったのか。海外から見える日本の対策の特異性は?

デンマーク在住の元新聞記者が分析しました。

北欧の中でも明暗を分けたコロナ対策

新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックの発生から1年余りが過ぎた今、感染者数が抑えられてワクチン接種による出口が見えてきた国と、高止まりが続き国民の不満が鬱積している国とに大きく分かれているように見える。

北欧でいうと、私が住んでいるデンマークは前者で、4月下旬に入ってカフェや美術館など多くの施設が営業を再開した。

8月には全国民のワクチン接種が終わる見通しもあり、ちょうど春の訪れと時を同じくして、冬もコロナも、厳しい時期を乗り切ったという開放感にあふれている。

井上陽子さん撮影

約4ヶ月ぶりに営業再開したコペンハーゲンのカフェ。春の日差しを楽しむ人たちで賑わっている

一方、首都コペンハーゲンから電車で30分の隣国・スウェーデンは、1日あたりの感染者数が高水準になり、医療状況が逼迫するなど厳しい状況に直面している。

ロックダウン措置を取らず、国民の自主的な対応に頼ってきた同国の独自路線は世界的に注目されてきたが、感染に歯止めがかからないことで政府の方針を疑問視する声が広がり、今、野党からも厳しい追及を受けている。

日本のコロナ対策のアプローチはスウェーデンと共通点が多いと指摘されており、今、厳しさを増しているのも似通っている。

私が肌感覚でわかるのはデンマークの状況なのだが、この1年あまり、多少のミスはあったものの、この国特有の強みを生かしてコロナ禍をうまく乗り切ったように見える。その切り札になったのが「コロナパス」だ。

デジタル先進国の情報インフラを活かした「コロナパス」

デンマーク政府は比較的早い段階から、ロックダウンによって感染者数を抑えた後は、大規模な検査体制を整えることで「コロナ検査で陰性の人」と「ワクチン接種済みの人」とで、社会の通常化を早期に目指す、という構想を掲げていた。

そのツールとして導入したのが、「コロナパス(パスポート)」と呼ばれるデジタル証明。デンマークが欧州の中でも早く社会再開にこぎつけたのは、コロナパスを早期に整備できたことが大きい。

井上陽子さん提供

「コロナパス」のアプリ。MinSundhedは「私の健康」という意味の医療ポータル

井上陽子さん提供

簡易検査の陰性結果を使ったコロナパス。検体採取時間と結果判明の時間が記載されており、デンマーク語、英語、フランス語表示の切り替えができる

コロナパスは、

  1. ワクチン接種済み
  2. 72時間以内に受けたコロナ検査で陰性
  3. 陽性判定から14〜180日以内

のいずれかであることを、医療ポータルのアプリで示すもの。

これがないと、カフェやレストラン、美容室、図書館などにも行けないので、社会の再開はコロナパスとセットである。

欧州連合(EU)は夏までに、域内での自由な移動ができるよう、互換性のある「デジタルグリーン証明書」の導入を目指しているが、デンマークのコロナパスはその先陣を切った形だ。デンマーク語、英語、フランス語の切り替えが簡単にできる仕様になっている。

デンマークは、国連の世界電子政府ランキングでもたびたび1位に選ばれるデジタル先進国である。

日本のマイナンバーにあたる「CPR(社会保障)番号」は、1968年に導入済みで、出生届や引っ越しの手続きなど、投票を除くあらゆる行政手続きがオンライン化され、国民もデジタルライフにすっかり慣れている。国民の医療データもオンラインで一括管理されており、これがコロナパスの土台となった。

大規模な検査態勢を整備しているデンマーク

そして大きかったのは、大規模な検査態勢をかなりのスピードで整えたことだ。

検査には、PCR検査と、20分ほどで結果が届く簡易型の抗原検査(鼻からの検体採取)の2種類があり、検査はすべて無料。政府は国民に対し、週に2回の検査をするよう推奨していて、1日に50万人以上が検査を受けられるよう、全国に検査所と人員を一気に配置した。

最近だと、1日の受検者数が人口の約3%にあたる約20万人なので、日本でいうと、1日あたり360万人が検査を受けている感覚だ。

週に2回検査、と言われて、最初は「めんどくさいな」と思っていた。

でも、検査を促す”動線”の引き方もうまい。

井上陽子さん撮影

動物園わきに設置されたコロナ検査場で、順番を待つ人の列。医学生などを大量動員して検査を行っている

例えば、動物園。晴れた週末に、思い立って動物園に行こう、となった時に、動物園の隣にコロナ検査場が設置してあるので、まず、コロナの簡易検査が受けられる。

その結果が携帯電話にSMSで届くまでの約20分間、動物園入場の列に並んでおけば、待たされた感覚もそれほどなく入園できる。

最近、ある美術館に行った時も、道路の向かい側にある倉庫が、臨時のコロナ検査場に早変わりしていた。

デンマークは家具などのデザイン性の高さで知られるが、意匠という限定的な意味でのデザインに限らず、ユーザー目線で多くのシステムをデザインしていく考え方が浸透している。コロナ対策でも、国民が検査を受けるモチベーションを上げるように制度設計していくやり方には感心する。

井上陽子さん撮影

検査中の中の様子。投票場のように、ブースが仕切ってある

国民の不満に向き合う「コロナパス」戦略

ちなみにコロナパスは、ワクチン接種済みであることを証明する「ワクチンパスポート」ではない。

これがワクチンパスポートだと、何らかの理由でワクチン接種ができない人に対する差別の問題も懸念されるが、デンマークでは現時点でワクチンを2回接種済みの人は国民の約10%。50代以下では未接種の人が大半なので、今、バーなどに繰り出している多くの人は、コロナ検査の「陰性証明」の方を使っているわけだ。

PCRよりも精度は劣るにしろ、簡易検査を大量に行うことで社会の再開を目指す、というやり方を取ったのも、いかにもデンマーク人らしいなあと個人的に感じていた。

デンマーク人は、遅くとも午後5時には仕事を終えて帰宅するのだが、効率的な働き方の根っこにあるのが「長時間をかけて仕事を完璧にするよりも、8、9割でいいから仕上げる」という考え方。

簡易検査の導入に際しても、偽陰性、偽陽性が出ることへの懸念の声はほとんど聞かれなかった。

ただし、ワクチン接種の完了までまだ間がある中、ロックダウンの緩和で人々の動きが活発になることで、感染者数が増える懸念はあり、実際ここのところ、やや増加傾向にある。

大規模な検査は、あくまで感染拡大を予防するという補助的手段(感染者を減らしていくための主要な手段ではない)と捉えられているので、政府は今でも、集会人数の上限(屋内10人、屋外50人)などの行動制限を続けており、「距離を空ける」「屋内ではマスク」といったこれまでの対応を変えないよう呼び掛けている。

それでも、国民の不満にどう向き合うかを考え、ロックダウンによって感染を抑制した後は、国民に頻繁な検査を促しながらワクチン接種を進めて感染レベルを低く維持しつつ、「コロナパス」で社会の再開も目指すーーというデンマークの戦略は、国民に受け入れられている。

政府の見通しを信頼し、家の修理をしながら夏を待つ

コロナ禍のデンマークを率いたのは、同国2人目の女性首相であるメッテ・フレデリクセン首相、43歳。重要な方針が決まる節目節目で、生中継で語りかけるのを、国民が見守った人である。

AFP=時事

デンマークのコロナ対策を率いてきたフレデリクセン首相

最初のロックダウンを決めた時には、他党の声を聞かず「独裁的」という批判が上がったり、法的根拠がないまま国内のミンク全頭の殺処分を命じるといったミスはあったものの、フレデリクセン政権のコロナ対応は総じて評価されている。

それは、ロックダウンからの段階的な緩和措置や、年齢層ごとのワクチン接種スケジュールなど、「我慢の先に何が待っているか」という見通しをシンプルでわかりやすく発信してきたことが大きい。

井上陽子さん撮影

デンマーク政府が示しているワクチン接種のスケジュール

コロナ検査やワクチン接種の手続きが、すべてオンラインで完結しているのもストレスがない。それから、欧州でもイタリアやフランスのような厳しい外出禁止措置は取らなかったので、我々はまだましな方、という心境だったのも率直なところだ。

ロックダウンにより、デンマークでも著名なレストランが閉店に追い込まれるなど影響は受けたが、政府への不満がそれほど高まらなかったのは、企業に対する寛大な補償を早期に打ち出したことも大きかった。

ユーロスタット(欧州統計局)によると、デンマークを含む北欧諸国は、英国など他の欧州各国と比べての経済的打撃を限定的にとどめている。北欧型福祉国家の手厚い保障と、観光業への依存度の低さが有利に働いたようだ。

在宅勤務に切り替わったことを機に、家の修理やらペンキ塗りやらに精を出す人が増えたのもデンマーク人らしかった。

家でまったりと過ごすデンマーク語の「ヒュゲ」という言葉は、日本でも知られるようになったが、ここでは長い冬を自宅で快適に過ごすために、古い建物を自分の手で丁寧に改修しながら、センスのいい空間に仕上げている人が多い。

大工をやっているパパ友は「かつてない仕事量」と嬉しそうだったし、我が家もこの冬は、いつも頼んでいる大工さんのスケジュールを確保するのに苦労した。

幸福度の高さで知られる北欧の国々は、「社会への信頼度が高い」という特徴がある。

政府や医療関係者はベストを尽くしていると信頼して、オンラインでみんなで合唱したり(デンマーク人は合唱が大好き)、家の修理でもしながら、コロナパスで夏には旅行に行けるようになるのを待つ。この1年は、そんな雰囲気だった。

スウェーデンの政策と風向きの変化

一方、隣国スウェーデンの様子はかなり異なっている。

スウェーデンは昨年以来、ロックダウン措置は長期的に持続可能ではなく、経済・社会に与える悪影響が大きいとして否定してきた。

ロックダウンは行わず、ソーシャル・ディスタンスを取るといった自主的な対応に頼るというスウェーデン政府の方針は、国際的な注目を集めたものの、結果として死亡者数が増加を続け、今年4月26日現在で人口580万のデンマークの死亡者数が2475人であるのに対し、人口が2倍(1020万人)のスウェーデンでは13923人に上っている。

すでに昨年4月には、海外メディアを中心に、スウェーデンの独自路線への厳しい見方が広がっていたのだが、その頃に会ったスウェーデン人と話をすると、国の方針を擁護する声が多く、意外に思ったのを覚えている。

曰く、亡くなっている人のほとんどは介護施設の高齢者で一般には広がっていない、長期の休校が子供のメンタルヘルスに与える影響などを考えると、単に死亡者数だけでスウェーデンの対応を非難するのは短絡的、等々。他国と違い、それまで通りの生活が送れていることに感謝しているようだった。

スウェーデンでは公的機関が大きな権限を持っており、新型コロナウイルスへの対応も公衆衛生庁の疫学者、アンダース・テグネル氏が中心となって立案をしてきた。

だが、昨年冬から感染力の強いイギリスの変異ウイルスが広がり、感染者数の増加に歯止めがかからなくなってからは、テグネル氏への支持も低下し、専門家に一任してきたステファン・ロベーン首相の姿勢にも批判が高まった。

AFP=時事

スウェーデンのコロナ対策を専門家に一任してきたステファン・ロベーン首相

昨年12月には、カール16世グスタフ国王がテレビ演説で、多くの死者を出した政府の対応は「失敗だった」と異例の批判を行った。

13歳以上の授業がオンラインに切り替わり、午後8時以降のアルコール販売も禁止に。それまで一貫して「効果がない」としてきたマスクの着用も、公共交通機関の利用時には推奨されるようになり、「これまでは何だったのか」という困惑と不満の声が広がったという。

スウェーデン南部に住む友人によると、感染者の増加のために医療の逼迫が起きており、手術の延期も相次いでいる。彼女の夫は急病で手術を受けたのだが、その後、医師による経過観察も受けられない状態が続き、不安を募らせている。

そして、”独自路線”とされるスウェーデン政府のコロナ対応を現地で経験してきた彼女から見ると、日本政府が取ってきた対応はスウェーデンと「ほとんど同じ」に見えたという。

入国者の扱いに見る日本の「例外主義」

昨年末、「スウェーデンと日本はコロナ対応の『例外主義』のツケを払わされている」という寄稿が、学術関係者で作るメディアに掲載された。

執筆したルンド大学(スウェーデン)のポール・オシェイ氏は、今日のスウェーデンと日本の厳しい状況は、両国の国民性が「他国よりも優れている」と考える例外主義者の惰性がもたらしたものだと指摘。日本では、感染拡大が手に負えない状況になっても「GoToトラベル」を中止せず、一時停止にとどめたことを例としてあげている。

スウェーデンの12倍以上の人口を擁する日本の死亡者数が約1万人にとどまっているので、すでに約14000人の死者を出しているスウェーデンと比べれば、抑え込みに成功していることは指摘しておく必要があると思う。

ただ、「民度の高さ」や「良識ある行動」を強調し、ロックダウンといった一般化した戦略を拒んだことが、両国での現在の感染拡大を招いた可能性があるという指摘は検証に値するのではないか。

私が日本の”例外主義”を感じるのは、海外からの入国者に対する対応だ。厚生労働省が指定するフォーマットで「紙での記入」が必要としていて、海外で発行された証明は、少しの項目の不備でも入国が拒否されることがあるという。

デンマークのように全てオンラインで完結する国で、わざわざ紙に記入してもらうのはかなりの手間なのだが、入国拒否のリスクを考えるとやらざるを得ない。オンラインのシステムを作って、直接的な接触による感染のリスクを減らしているのに、本末転倒である。

それに、状況が落ち着いているデンマークを含め、相当数の国からの入国者に、2週間の自主隔離に加えて「丸3日間のホテル室内待機」を求める必要性は、日本で変異ウイルスがこれだけ蔓延している中で、どれほど吟味されているのだろうか。

月曜日に入国すると金曜日の朝までホテルの部屋を出られないわけで、ドアも自由に開けられない、という話も聞く。デンマーク在住の友人夫妻(日本人)は、0歳と5歳の子供を抱えて日本に帰国しなければいけないのだが、ベビーカーで昼寝させることもできない狭い室内でどうやって長時間やり過ごすのか、途方に暮れている。

感染リスク 日本へ行く方が怖い

そもそも、ワクチン接種が進んでおらず、ほとんどの人がコロナ検査を受けずに日常生活を送っている日本に行く方が、感染リスクという面では怖いのだ。

ワクチン接種済みだったり、空港でのPCR検査で陰性結果を受けた後でも、狭いホテルでドアも開けられないといった硬直的な扱いを受けたら、海外から来た人はどう感じるだろう。日本政府は五輪を開催すると言っているが、選手を含め、海外からの五輪関係者にも同じことを求めるのだろうか。

パンデミックのような「動く標的」を相手に対応を考える場合は、状況に応じた機動性、柔軟性、スピード感が鍵だと思うのだが、入国者への対応にしろ、ワクチン整備のスピードにしろ、日本が最も不得意とするところを突かれたような気がしてならない。

【井上 陽子(いのうえ・ようこ)】

デンマーク在住の文筆家、コミュニケーション・アドバイザー。筑波大学国際関係学類卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了。読売新聞で国土交通省、環境省などを担当したのち、ワシントン支局特派員。2015年、米国からコペンハーゲンに移住。デンマーク人の夫と子供2人の4人暮らし。

noteでも発信している。Twitterは @yokoinoue2019


※編集部注:専門家の間では、感染確率の低い無症状の市民に幅広く検査をすることは感染対策として有効ではないという見解がデータに基づき示されており、BuzzFeed Japan Medicalもその考えに基づき報じています。

【参考記事】

無症状の市民に幅広くPCR検査をやるのがマズいわけ

「検査を増やせば新型コロナ感染者を減らせる」は正しいのか? 疫学の専門家に聞きました