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検査を拒否しても、新型コロナウイルスは知らんぷりしてくれない

発熱しているのに、検査を拒否する親子をちょくちょく見かけるようになった小児科医の森戸やすみさん。先日は「夫の会社に確認しないと」と検査を受けるかどうかを会社に尋ねたお母さんもいました。どういうことなのでしょうか?

 新型コロナウイルス感染症の第8波がやっとピークアウトして、新規感染者が減ってきました。

今までに新型コロナにかかってしまったことのある人は多いですし、2回目の感染だという子は珍しくありません。3回目、4回目という子もいると聞きます。

 この冬の季節は、急な発熱で受診した場合、新型コロナなのかインフルエンザなのか症状や診察した様子から見分けることはできません。

 第7波のときは一緒にRSウイルス感染症が流行り、その際には多少は症状の違いがありました。でも、それでさえ発熱してすぐには見分けられません。そのため、検査キットがとても有用です。

 でも、最近、その検査を拒否する保護者がいるのです。

 新型コロナの検査とは?

実際に感染したことがなくても、検査を受けたことのある人は多いでしょう。

新型コロナウイルスの抗原検査は、細い綿棒を鼻の奥に入れ、鼻咽頭の分泌物をとったら小さな入れ物の中で試薬と混ぜて検査キットに垂らします。

 キットによって所定の時間、8〜15分待つと陽性つまりウイルスがいるか、陰性かが判定できます。

市販の検査キットも同じなので、ご自宅でやったことのある人も多いと思いますが、子どもは嫌がるものですね。

検査を拒否する親子たち

クリニックでもお子さんが嫌がることはとてもよくあるので、一緒に来た保護者の方の協力を得て、膝の上に抱っこしてもらうなどして検査を行うのですが、先日検査を親子ともに拒否する方がいました。

上記のように、症状と周囲の流行状況から類推はできるものの、検査なしでは信頼性の高い診断はできないこと、新型コロナウイルスだった場合は本人がつらいばかりでなく周囲に感染を広げてしまうこと、自治体のサービス(パルスオキシメーターの貸し出しや食品などの支援物資)が受けられないこと、重症化して入院することになった場合、入院先の選定に困ることなどを説明しました。

それでもやはりダメでした。

理由を尋ねても「いや、受けさせたくないんで」とのことで、対症療法の薬を処方しました。

 会社の承諾がないと検査を受けられない?

そして最近は、「夫の会社に承諾を得ないと新型コロナウイルスかどうかの検査が受けられない」という母親がいました。

その人は、お子さんが急に高熱を出したので受診させに来たのですが、私が「インフルエンザと新型コロナを同時に調べるキットがあるので検査しましょう」というと、会社にいるお父さんに電話してみるというのです。

なぜ会社に許可を得る必要があるのか尋ねましたが、「よくわからないけれど、以前に事後承諾になった際はいろいろ言われたから今日は予め連絡します」と言います。

その人とお子さんは院外に出てスマホで通話し、待合室で折返しの電話を待っていました。

熱のある患者さんは他の患者さんから距離的に離れるか、予約時間をずらすことで時間的に一緒にならないようにしていますが、その親子はずっと待合室にいるしかできませんでした。

数十分待っている間に、新型コロナと診断されたばかりの子が近くを通ることもありました。

そして、とうとうお父さんからの電話があり、検査をしたところインフルエンザでした。初めに検査をしていれば、高熱があってつらい中待合室にいる必要はなかったし、新型コロナの患者さんと接するリスクもなかったのです。

親が「濃厚接触者」にならないために検査拒否?

私と同じ小児科医の友人にそんなことがあったと話したところ、「そういう『会社に許可を得ないと』という人はけっこういる」というのです。

産業医をしている友人は、おそらく家族が新型コロナウイルス感染症と診断されると、お父さんである社員は自宅待機になるので嫌なのではないかと推測しています。

検査を受けずにいたらウイルスも知らんぷりしてくれると思うのでしょうか?本人や会社が否認しようと、感染した子はつらいしウイルスは排出されます。

Yahoo! Japanには「新型コロナウイルス感染症まとめ」というページがあり、受診するべきなのはこういう人がこういう症状のときということがわかります 。

市販の検査キットなどで自宅で検査をして、自宅療養してもいいですが小学生以下は受診をしてください。

また、自宅療養をどのようにするかもこちらにあります(陽性者登録、自宅療養について )。小学生以下の子どもだけでなく、症状が重い人、65歳以上の人、基礎疾患がある人、妊娠中の人は医療機関を受診しないと心配です。それだけ重症化のリスクが高いからです。

 検査を受けなくてもウイルスが消えるわけではない

今回の上記2つのケースの問題点は、検査を受けないと本人が重症化した場合、治療につなげることに時間と人手がかかること、周囲の人に感染を広げ新たな重症者を出してしまう可能性があることです。

子どもの新型コロナウイルス感染症は軽症で終わることが多いものの、解熱した途端に普段どおりの生活に戻った場合、周囲へうつすかもしれません。

現在、日本では発症した日をゼロとして、7日経つまでは、元気になっても自宅療養するべきだという基準を示しています。医学的には10日経つまで人に感染させる恐れがあるとも言われています

濃厚接触者となった家族も最後に患者さんに接してから5日経つまでは自宅待機という基準です。検査キットで陰性を2日間続けて確認した場合は3日で自宅待機が解除になる場合もあります( 陽性者の療養期間が短縮 陽性者の療養期間・濃厚接触者の待機期間のまとめ )。

「検査を受けて陽性だとわかったら行動制限をしなくてはならないから嫌です」「社員が自宅待機になっては困ります」という人が多ければ多いほど、感染は収束しません。自分が通勤途中や職場で感染を拡大するリスクを考えてほしいものです。

重症化、後遺症が残るリスク、会社が責任取れる?

そして、検査や治療を受けるか受けないかの判断を会社がするのは間違っているでしょう。

新型コロナはお子さんでも、まれながら合併症が起こったり後遺症が残ったりすることがあります。診療を受ける権利を侵害することになりませんか?

 持病のない子は、抗ウイルス薬を使わないので解熱鎮痛薬など対症療法をしますが、感染の落ち着いた頃に後遺症が残ることがあります。

アメリカで新型コロナ感染症にかかった66万人を調査したところ、成人でよく報告されている味覚・嗅覚の変化、胸痛、疲労・倦怠感、心肺の徴候や症状、発熱・悪寒など以外にも、肝酵素値異常、脱毛、発疹、下痢などが多いと報告されています

 MIS-C(多系統炎症性症候群)という重い合併症を起こすこともありますが、「新型コロナにかかったことがあるかどうか検査を受けていないのでわかりません」という状況でそれらしい症状が出た際は、判明するまでに時間がかかるかもしれません。

こういったときに検査を渋った会社は責任をとってくれるでしょうか?

また、2022年1月から9月の間に、新型コロナウイルスに感染した20歳未満の子どもが62人、基礎疾患を持っていなかった子も29人亡くなっています(新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報))。

 医療を受ける権利よりも、会社都合が優先されるべきでしょうか?

 政府は感染対策を全面的に緩和していく方針です。これまで以上に個人の判断で対処することが求められる段階に入りますが、自己判断で検査を拒否することには大きなリスクがあります。

 新型コロナウイルスに関わらず、発熱してつらい症状が出たら、医療機関を受診し必要な検査を受けましょう。

【森戸やすみ(もりと・やすみ)】 小児科専門医

1971年、東京生まれ。1996年、私立大学医学部卒。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、どうかん山こどもクリニックを開業。ツイッターはこちら。BuzzFeedへの寄稿はこちらで読める。
主な著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(同)、共著に『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(同)など。