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コロナ療養期間の見直し 短縮した期間も感染力があるなら、何にどこまで気をつけたらいいの?

政府が9月7日に短縮した新型コロナ陽性者の療養期間。でも短縮した期間はまだ人に感染させるリスクがあります。職場などに復帰したとして、何をどこまで気をつけたらいいのでしょう?専門家に取材しました。

政府は9月7日から、新型コロナ陽性者の療養期間を短縮しました

しかし、ウイルスの性質が変わったわけではなく、短縮した期間はまだ人に感染させるリスクがあります。

このリスクのある期間、職場などの日常生活に復帰できると言っても、どこまでの行動なら大丈夫なのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、オミクロンの感染力がある期間や潜伏期間の文献を整理した大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授の中島一敏さんに聞きました。

療養期間を終えても感染リスクはある

——政府は9月7日から新型コロナ陽性者の療養期間を短縮しました。具体的には、症状のある人は、発症日を0日目として発症7日後、かつ症状が軽快してから24時間経ったら解除となります(入院している場合は発症10日後、かつ症状警戒後72時間)。3日間の短縮です。

こうした対策の変更をする時には、必要な注意喚起をして、政府はこのような考えで進めていくのだと説明しなければいけません。そのための議論が十分にできた上で出したのかどうかは、課題だと思います。

症状のある人の療養期間を10日から7日に短縮したことに関しては、「専門家の意見も聞いて、この期間は感染させるリスクはないと評価したので療養解除OKです」という単純な話ではありません。

発症してからウイルスはどれぐらい出ているのかを見た資料がありますが、9月7日のアドバイザリーボードでもアップデートした追加の資料が出されました。

発症から7日時点で残存リスクが23.9%です。8日時点でも16%がウイルスを排出しています。つまり療養を8日目に解除した後も生きたウイルスが取れるわけです。

——生きたウイルスが排出されるということは、人に感染させるリスクがあるということですね。

普通はそうです。療養が解除されたからリスクがゼロになるわけではなく、1割ぐらいは人にうつす可能性があるまま解除されるということです。

療養期間の短縮があっても、その後の感染予防とセットで解除されることが必要です。解除後も残る感染リスクに関してはこう対策していく、ということが十分示された上での短縮でなければいけません。

アドバイザリーボードも示した療養期間の短縮

——この症状のある人の療養期間短縮については、9月7日の厚労省アドバイザリーボードで脇田隆字座長が出した補足資料で同様の内容を提言しています。厚労省の短縮の通知は「アドバイザリーボードにおける議論を踏まえ」と書かれていますが、専門家とすり合わせの上で出てきた数字なのでしょうか?

療養期間の短縮を専門家が提言したということではなく、8月2日に専門家有志で出した提言があり、脇田先生の名前で出した補足資料は、それを具体的に補足したということです。

8月2日に専門家有志が出した大きな方向性に関する提言に関しては、全数報告の見直しが必要だという議論や、療養期間の短縮の話も出てきています。

それを実際に進めるにはどうすればいいのかを補足資料では書いています。

大事なことは、リスクがその期間はないから短縮期間は完全に元の生活をしてOKと言っているわけではないことです。その期間もウイルスを出して人に感染させるリスクはあるので、十分対策を立てることが必要だという視点が一つあります。

もう一つは、これは全ての専門家が合意したものではないと注意書きを入れているところです。

なお、上記については、リスク評価に基づいた検討ができていないため、同意できないとの意見もあった。(9月7日アドバイザリーボード脇田座長資料より)

8月2日の専門家有志の提言には僕も名前を連ねていますし、遠い先を見据えてロードマップを見ながら、今の状況を評価しつつ進めていくのは大事です。

しかし、脇田先生の文書の中で示されているように「リスク評価に基づいた検討ができていない」ことにも注意が必要です。

7日に短縮することが持つリスクには、一人一人におけるリスクもあれば、流行全体に対するリスクもあります。今、感染者数は下がってはきていますが、オミクロン前の流行と比べれば、まだ感染者数のレベルは高い状況です。

医療負荷も完全には取り除けてはいません。今後9月から12月にかけて、インフルエンザの流行も予想され、コロナとの同時流行の可能性もあります。新たな変異株が出てくる可能性もあります。

つまり、これからの3ヶ月は次の流行に備えた非常に重要な時期です。今の状況で療養期間を短縮することにはどういう意味があるのか、どんなリスクがあるのかも考えなければいけません。

高齢者との接触、会食、対面で人としゃべる業務は避けるべき期間

——第8波も来ることが確実視されている時に、療養期間の短縮が裏目に出ないかが心配です。この短縮期間、例えば職場ではどのぐらいに振る舞うべきなのでしょうか?人とマスクをして話すぐらいならいいのか、対面で人と話すようなことは避けたほうがいいのか。高齢者やリスクの高い人に接触しないようにと言っていますが、健康な人にも感染させたくはないですよね?

そのあたりの場面に応じた具体的な議論は、十分にはできていないと思います。10日から7日に3日間短縮していますが、3日間は何をしてもOKというわけではありません。

僕自身は、この3日間は感染が広がり得るような行動は避ける、その中でも高齢者など感染が起こった時に非常に大きな影響がある重症化リスクの高い人に対しては、より一層注意することが大事だと思っています。

高齢者に接触しないことはもちろん、例えば療養明けということで、快気祝いしたり、人とご飯を一緒に食べるようなことは避けるべきです。

——例えば、人手が不足しているから、受付や接客の仕事に復帰するとします。どちらもマスクをしていたとしても人と話す仕事ですが、3日間はこういう業務はしないほうがいいということですか?

そうですね。療養期間の解除は、仕事を前と同じようにやっていいという免罪符ではないのです。対面の接触が多かったり、会話が多かったりする業務は控えたほうがいいと思います。

どのような仕事をどの程度するのかは、個人の意識というよりも、職場のリスク管理の問題です。

3日間は感染させる可能性のある職員が職場に戻ってくるとしたら、この人に何をさせるのかは会社が考える必要があります。業務の中で感染が広がるリスクが高いものに関しては、産業保健、労働衛生の観点からも会社が責任を持って配慮すべきだと思います。

個人でやる感染対策もありますが、仕事は個人の意見だけでは決められません。上司が「これをやれ」と指示した時に、個人は断れない状況もあるでしょう。責任の主体は職場の責任者だと思いますし、この3日間の感染管理には責任を持つべきだと思います。

行政も「3日間は感染のリスクが残っているので注意しましょう」と療養明けの本人には注意喚起していますが、3日間の感染予防に責任を持つべき職場には伝わっていません。本来は両方に伝えるべきだと思います。

——逆にリモートワークができる仕事なら、仕事ができる元気があるなら、人に感染させるわけでもないので仕事していいわけですよね。

制度的には療養期間として設定されていますが、療養には治療と感染拡大防止という二つの側面があります。

治療としては「具合の悪い時は休みましょう」ということですし、規定の7日や10日が経った後も、具合が悪ければ休むということです。

——10日経っても具合が悪いと、ウイルスを排出している可能性もあるのですか?

これは症状が長引く「long covid」の問題もあって、急性感染が終わった後も症状が続くことがあります。完全回復ではないけれど、感染させる可能性は低い。それならば、生活を戻しましょうということになりますね。

例外的に免疫状態が下がっている血液疾患の場合、長い期間ウイルスを排出する人がいることはわかっていますが、あくまでも例外です。それよりも感染性がなくなっても症状が続くことはコロナでよく見られ、体調を重視して職場復帰を検討すべきだと思います。

療養期間内でも、十分に回復し、元気でむしろ仕事をしたいという人もいるでしょう。体調も問題なければ、リモートワークなど人に感染させない条件での業務は、医療上は一人一人の状況に応じて検討可能かと思います。

ただし、療養中のストレスや症状のぶり返しもあり得ますので、無理強いにならないような配慮や注意は必要でしょう。

医療機関や高齢者施設の職員は療養短縮すべき?

——医療機関でも人手不足が目立っていますが、感染すると重症化リスクの高い医療機関や高齢者施設には、この療養短縮は適用しない方がいいのでしょうか?

僕はそう思います。

高齢者施設については今回の療養期間短縮については不安を持っています。実際に色々な問い合わせも受けます。「大丈夫なの?」と聞かれたら、「大丈夫だと保証はできない」と答えています。

この3日間については感染させる危険があるので、直接、患者や高齢者に接する人を仕事に復帰させることについては、さまざまな考え方があります。

従来の10日間の療養期間で運営できるならそれでもいいし、短縮療養と検査を組み合わせて、検査で陰性を確認した上で復帰し、その上で3日間はリスクの高い人との接触を避けるなど、業務内容を変更する方法もあります。

医療機関や高齢者施設は、一般の環境よりも高いリスクを抱えているところなので、一般の職場とは違う議論が大事だと思います。

宿泊療養施設は?

——宿泊療養施設でも混乱しているようです。東京都では、要件を満たして短縮期間を希望した人は「自主退所」として対応して、10日経過するまでは自主的な感染対策を求めているようです。

どういうふうに運営するかは自治体が主体になって決めていくと思います。医療機関や施設に入るのは、一つは治療の必要性があるからで、具合が悪ければ短縮期間に限らず治療を続けることが必要でしょう。

医療上の観点からは、軽症の人に対する宿泊療養の短縮はあってもおかしくないと思います。

宿泊療養は行政が提供していますから、短縮する場合、感染予防は、公の責任から、個人や復職する企業の責任に移っていくのだと思います。自治体によって市民にどこまでのサービスを提供するのかで考え方は変わるかと思いますが、療養期間が短縮された場合でも、残りの3日間は感染リスクを考えて行動するべきなのは変わりません。

文書を出している行政がきちんと説明しないと、わかりにくいですよね。

3日短縮で社会は回るか? 資源のどこに配分するかという問題も

——そもそも3日間だけ療養期間を短縮することで、社会は回るようになるのですかね?

それは重要な指摘だと思います。3日間の短縮で得られるものと、3日間の短縮によって負うリスクとがあると思います。

「3日間短縮されたからといって変わらないよ」という人もいるでしょうし、「変わる」という人もいるでしょう。そこは政治的な決断の部分です。

第6波から負荷がかなり高くなって、自宅療養者へのサービスが十分に行き届かなかったところがあります。医療上の観点からは、病状の管理がすごく重要です。

そういう視点で見ると、最初の1週間は重症化するかどうか気を付けて見ておかなければならない期間になります。

療養期間の間、行動制限をかけることによる感染予防効果の意味もあれば、自宅・宿泊療養は、療養者をフォローして重症化しないかどうかを確認し、重症化した時にはいち早く次の医療につなげる意味もあります。

こういう視点で見ると、最初の1週間はとても大事なのです。

——今回、短縮しても、最低限、重要な期間は押さえているということなのですかね?

丁寧なフォローが必要なのは最初の1週間です。この最初の1週間をきちんと見るのがとても大事です。

オミクロンになってからは、亡くなるまでの期間は短くなっていて、急激な変化が起こります。

フォローする対象者が多過ぎて最初の重要な1週間に十分に目が行き届かなくなるよりは、より重要な時期をきちんとフォローできる方がいい。7日間は高齢でリスクがある人たちに集中して、具合が悪くならないかどうかをきちんとチェックする。

そこに資源を配分する方が、社会全体で重症者や死亡者を減らすためには大事です。7波では資源がより枯渇して、回らなくなっています。医療も保健所も回らなくなった時に、どういう人たちにより集中するかを見直すのはとても大事です。今回の短縮にはそういう意図もあるのかもしれません。

無症状の陽性者の解除は?

——無症状者については、検体採取日を0日目として、7日間を経過した場合には8日目に療養解除とこれまでと変わりません。ただ、5日目に検査キットによる検査で陰性を確認した場合には、6日目に解除ですね。

確かに、無症状の検査陽性者から生きたウイルスが検出される期間は短いというデータが示されています。

ただ、症状がない検査陽性者は、いつが感染の始まりかがわからないという問題が常につきまといます。

発病した検査陽性者は、発病して3日目に検査陽性になるので、そこから振り返れば3日前から感染していたとわかる。起算日がはっきりしているので、そこまで戻って、療養期間を7日間にするか、10日間にするかなどの議論ができます。

一方、無症状の陽性者は、検査がプラスになったタイミングしかわからないので、どうしても期間の評価が発病者よりも難しいです。

結果的に見て、生きたウイルスが取れたと示されてるのは陽性判明から5日以内です。ただ、それより長い人がいてもおかしくない。常にその不確実さが残ります。

だから、やはり解除後も注意しながら過ごす必要がありますが、発症した人の方が感染の拡大リスクが高いことは、これまでのデータでも示されています。

濃厚接触者の待機時間の短縮と、陽性者の療養期間短縮は影響が全く違う

——濃厚接触者の待機時間は前に短縮した時から変わらないですね。最短で3日経ったら解除です。

ここもちゃんと議論した方がいいと思うのは、3日で待機期間を解除すると、それ以降に発病する人が半分残っていて、検査をすり抜けた人たちの感染力は解除後に最大になることです。

「陽性者」の場合は、療養期間の間、どんどんウイルス量が減っていくので、今日より明日、明日より明後日と、人にうつす可能性はどんどん減っていきます。残存リスクは縮小する方向に向かう中で、療養期間の短縮の話があります。

ただ陽性者の場合も、残存リスクがある期間、高齢者施設の職員をどうすればいいか、通所施設の利用をいつからしてもいいかなどを考えなければいけません。そういう部分については、「高齢者との接触や高齢者施設への訪問は注意してください」としか行政文書には書かれていません。曖昧です。

これを具体的な対策の方法に落としていかなければいけません。

一方、「濃厚接触者」の短縮においては、すり抜けた人の感染力は解除後に強くなっていく。

隔離している期間を短縮することによるリスクの影響は、陽性者と濃厚接触者ではまったく違うのです。

濃厚接触者は家庭内の濃厚接触では3〜4割が感染し、3日の待機期間だと残りの半分は解除後に発症します。事前の検査陰性では、その人たちを十分拾い上げることはできません。

一緒くたにされがちですが、こういうところが詳細に検討されていません。

濃厚接触者の待機期間の短縮の方が、残存リスク上は問題があります。コロナの感染のリスクを下げるためには、濃厚接触者という概念と、濃厚接触者の人たちの感染予防行動はすごく重要です。

そこはもう少しちゃんと議論しないといけないなと思います。

【中島一敏(なかしま・かずとし)】大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授

1984年、琉球大学医学部卒業。沖縄県立中部病院、琉球大学、大分医科大学(現大分大学医学部)を経て、2004年〜14年国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、2007年〜09年世界保健機関(WHO)本部感染症流行警報対策部、警報対策オペレーションメディカルオフィサー。その後、東北大学病院検査部講師兼副部長を経て、2016年4月から現職。

専門は実地疫学、予防医学、感染症学。特に感染症危機管理やアウトブレイク対策を得意とし、新型コロナウイルス対策でも専門家として行政に助言をしている。