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「情報が伝わっていない」外国人住民へのコロナワクチン接種。いま急がれる対策とは

言葉の壁などを理由に、日本に住む外国人に、ワクチン接種に関する情報が届いていない現状があります。京都で診療をするベトナム人医師らが、調査を実施しました。

日本語に不慣れな外国人住民に、いかに新型コロナウイルスワクチンの情報を届け、希望者への接種につなげるかが、各地で課題となっている。

京都民医連中央病院のベトナム人医師、ファム・グェン・クィーさんは関係機関などと連携し、在日ベトナム人を対象にワクチン接種についてのアンケート調査を行った。

外国人の接種をめぐり、どのような対策が必要とされているのか、クィーさんに話を聞いた。

出入国在留管理庁の発表によると、日本に在留する外国人は288万7116人(2020年度末の最新値)。

自治体は、在留外国人にも日本人と同じようにワクチン接種券を送っている。

しかし、各自治体で接種スケジュールは異なり、電話やネットでの予約方法は日本人でも難しいと感じることが少なくない。日本語に不慣れな外国人にとってはなおさらだ。

クィーさんは京都府保険医協会や在日ベトナム大使館とも連携し、オンライン調査を実施。国内に住むベトナム人2062人が回答した。(調査期間:2021年3月11日〜3月31日)

59%「無料で接種できると知らない」

調査によると、回答者の93.5%が「予防接種を受けたい」としたが、59.9%が無料で接種できることを「知らない」と答えた。

外国人向けの予防接種情報の不足については、31.3%が「とても心配」、34.7%が「心配」、23.1%が「少し心配」と回答した。

調査は3月実施だが、6月に東京・大阪の大規模接種センターで若年層の予約が可能になった頃から、クィーさんのFacebookには戸惑う在日ベトナム人からのメッセージが増え、相談が絶えないという。

「手紙(接種券)が届いたらもう受けられますか」「私は受けるべきですか」などの質問が寄せられ、クィーさんは「情報が伝わっていない」と感じている。

調査で接種に関する具体的な心配を聞くと、最も多かったのが「副反応が出た時の対策」。その後、「予防接種の副反応」「副反応で入院加療になった時の経済的負担」「副反応で仕事が中断される心配」などが続いた。

ほかにも「自宅へ郵送される案内が読めない」「予防接種に関する返事と予約ができない」「医療従事者と話せない」など、言語に関する心配も目立った。

クィーさんはこう指摘する。

「ワクチンや副反応に関して、正しい情報が伝わっていません。フェイクニュースや信頼できない噂ばかりがFacebookなどで広がってしまう傾向があります」

一部の自治体では、多言語での案内の送付や予約サイトの設立、接種会場での通訳導入など対策を講じている。

クィーさんはそうした対策が各地で広がることが必要だと考えている。

クィーさんと共同で調査に当たった京都府保険医協会は、京都府や府内の市町村に対し、外国人への接種サポートの要請をしている。

多言語情報を「どうやって伝えるか」が鍵

クィーさんは多言語情報の必要性に加え、その情報をいかに「外国人に届くように伝えるか」ということが重要だとする。

厚生労働省は、ファイザー、モデルナ両社のワクチンの説明書や予診票について、17言語の翻訳を公開している。

しかし、クィーさんは「日本語ばかりの厚生労働省のウェブサイトをチェックしたり、その情報にたどり着ける外国人はなかなかいない」と指摘する。

政府や自治体が多言語情報を用意することは「一歩前進」だが、その貴重な多言語情報が存在するということが肝心の当事者たちに伝わっていないからだ。

政府や自治体には、積極的なSNSでの多言語での情報発信を求める。

厚生労働省は6月末に、ワクチン情報などを発信する英語のTwitterアカウントを開設したが、7月14日午後時点でフォロワーは250人ほどにとどまっている。

クィーさんは普段、京都民医連中央病院の腫瘍内科・総合内科で診療にあたっているが、仕事のかたわら、医療・ワクチン情報などをベトナム語で発信している。

日本政府が発信するベトナム語でのワクチン情報が在日ベトナム人に届くようにと、ベトナム人医療者らが運営するウェブサイトで、情報をまとめている。

日本に住むベトナム人は約44万8千人(2020年度末時点)で、うち、約半数の20万8千人は技能実習生だ。国籍・地域別では中国に次いで2番目に多い。

クィーさんのFacebookも、在日ベトナム人など2万人以上にフォローされているため、積極的にワクチン情報などを投稿しているという。

日本人はTwitterを利用する人が多いが、ベトナム人の間ではFacebookが主な情報収集の場で、接種に関するアンケート調査も、在日ベトナム人に人気のFacebookページ「TAIHENネットワーク」などの協力を得て実施した。

接種に関して「お金」や仕事の心配も

調査では、接種後の副反応で治療や入院が必要になった場合の経済的負担を懸念する声も多く寄せられた。

健康被害がワクチン接種によるものだと厚生労働大臣が認定した場合は、予防接種法に基づき、医療費の給付など救済が受けられる。

アンケート回答者の世帯年収は、年収200万円以下が6割弱を占めた。うち約100万円が24.3%、100万円以下が15.6%だった。

クィーさんは「収入が低い人も多いため、お金のことを心配する人が多いようです」と話す。

接種で仕事に穴をあけてしまうことを心配し、予約がとれても休みを取ることに引け目を感じてしまう人もいる。

クィーさんは言う。

「ベトナム人は技能実習生が多いので、会社の人には、接種できるよう仕事への配慮もしてほしいです。仕事の調整ができないと思っている人や、自分に(接種の)権利があることすら知らない人もいます」

「もし副反応で体調を崩したら、『みんなに迷惑がかかる』『給料が減る』『怒られる』と思ってしまう。接種は無料でできることなど、同じ職場の人が伝えてあげてください。希望しているのにまだ打てていない人がいたら、ぜひフォローしてほしいです」