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3分でわかる。「入管法改正案」や長期収容、何が問題?5つのポイント

国会で審議が進む「入管法改正案」や入管による長期収容について、100人以上の国際法・国際人権法・憲法研究の教授たちが声明を発表しました。

国会で今、「入管法改正案」の審議が進んでいます。

この政府案は、難民申請者の受け入れ率や入管施設での外国人の収容、送還について大きな影響を与えるもので、多くの市民や弁護士らから反対の声があがっています。

国際法・国際人権法・憲法研究などの教授ら100人以上が5月11日、この改正案や長期収容について問題視する声明を発表。専門家3人が都内で会見を開きました。

「入管法改正案」や現在の入管施設への長期収容を巡る問題で、何が焦点となっているのか。

声明や会見の内容をもとに、5つのポイントにまとめました。

1:「改正案」で、日本の低い難民認定率はどう変わる?

日本の難民受け入れを各国と比較した時に顕著なのは、難民認定率の低さです。

難民認定率はカナダでは55.7%、イギリスで46.2%、アメリカで29.6%(2019年)なのに対し、日本では同年、0.4%。例年、1%を下回っており、極端に低い認定率です。

会見で中央大学の北村泰三教授は、その低い難民受け入れ率が、今回の改正案が通ればさらに低くなる可能性があると指摘しました。

「入管法改正案では、難民認定の方法や基準、認定率の改善について何も触れられていません。そもそも政府は、低い認定率を変えるような取り組みをしてこなかったのです」

改正案では、難民の申請回数の上限が設けられ、3回目以降は強制送還の対象になります。これまで申請中は強制送還の対象にならなかったものが、改正案が通れば申請中でも送還が可能になります。

難民として認定された人も何年もかかって複数回申請し、ようやく認定を受けるという現実があるため、申請に上限が設けられれば認定率がさらに低くなることが予想されています。

2:国に帰ったら殺されるから送還を拒否「それは犯罪ですか?」

改正案では、国に帰れない理由があったとしても強制送還を拒むと刑事罰の対象となりうる、いわゆる「送還忌避罪」(退去強制拒否罪)を新設する方向性を打ち出しています。

強制送還を拒むことを刑事罰の対象とすることについて、青山学院大学の新倉修名誉教授は「それは、そもそも犯罪ですか、というところが問題」と指摘しました。

「自分は難民だと言って日本へ渡ってきた人で、複数回申請をしても難民だと十分な証明ができなかった人がいるとします。母国に帰ると殺される可能性があるなど、危険な状態にあり、退去を拒否した人を犯罪者としてしまう。そもそも犯罪とはなんなのだ、というところが問われている」(新倉名誉教授)

北村教授もこれについて「送還を忌避することを罰則化、刑罰化するというのは、国際人権法に反することではないかと考えています」「相当問題がある」としました。

難民条約には、保護を求めてきた人を、正式な難民認定を受けたかどうかを問わず、危害が加えられることが想定される出身国に送り返すことを禁じる「ノン・ルフールマンの原則」があります。

日本もこの条約の締結国です。しかし、難民申請中でも強制送還したり、送還を拒むことを罰したりする規定を加えることで、この条約に反することになる可能性が指摘されています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も懸念を示しています。

3:長期収容問題、政府案で本当になくなりますか?

今回の入管法改正案の鍵となっているのが、入管施設での長期収容問題の解消です。

難民の申請回数の上限を設けたり、送還忌避罪をつくることで、送還を進めていくという狙いがあるとされています。

出入国在留管理庁の佐々木聖子長官は2019年9月の会見で、長期収容問題は「送還の促進ということで解決していきたい」と述べていました。

会見で北村教授は、海外では入管施設での収容期間に上限がある国も多いと指摘。しかし今回の入管法改正案では、そのような上限などについては言及されていないため、「現状のように何年も閉じ込めておくということができるような内容になっているのではないか」としました。

北村教授は「入管収容を継続するということは人権侵害である」として、長期収容問題に取り組む重要性を強調しました。

今回、発表された声明でも、「入管法改正案は、こうした入管収容のあり方を改善するどころかさらに悪化させるもの」とし、このように指摘しています。

《裁判所による司法審査を経ることもなく法務省入管庁という行政機関の判断のみで人の身体を無期限に拘束できる日本の入管収容の制度は、刑事手続の場合と比べても異例であり、自由権規約や拷問等禁止条約のような人権条約に照らして大きな問題がある》

4:収容者の死を説明しないままでの審議

声明では「見通しの立たない長期収容で心身を病み、自殺未遂をする人や、ハンガーストライキをする人、実際に命を落とした人も少なくない」とし、長期収容がもたらす影響や、入管収容施設内での死亡について指摘しました。

入管の収容施設内では適切な医療が与えられていないなどの問題もあり、ほぼ毎年、死亡者が出ています。

名古屋出入国在留管理局では3月、収容中のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが死亡。収容中に体調を崩していたにも関わらず、適切な治療が受けられていなかった可能性が高く、遺族や支援者は政府に説明を求めています。

北村教授は会見で、「ウィシュマさんの死亡というような、痛ましい事件もありました。まずは調査が必要。調査を十分にやっていません」「十分に審議をつくさずに採決するというのは避けないといけないと思います」と指摘しました。

「国際人権基準においても、死亡例については実効的な調査義務があります。国が関与したような場合は、その原因について調査をしなければなりません。入管収容というのは明らかに国の施設ですので、まずはそれを調査してその内容を公開し、そこから議論をしていかなければなりません」(北村教授)

5:日本は、国際社会での責任、果たせている?

恵泉女学園大学の上村英明教授は会見で、国際社会の中で、日本は先進国として「国際社会の中で、難民を受け入れる責任がある」と語り、難民認定率の低さや長期収容による人権侵害といった問題点を指摘しました。

「難民受け入れ率が高いフランスなどの国では、難民受け入れが『国際的な責任』だというある種の合意が、政府や国民にあります。しかし日本ではそれがありません。日本は民主主義の国で、国際社会の中での責任があります。改正案でそれが実現できるかというと、改正案によりもっとひどくなっていくということをみなさんに理解していただきたいと思います」(上村教授)

また、日本が国連人権理事会の理事国であることにも言及し、理事国としての責任を果たすべきだと指摘しました。

「人権理事会の理事国の日本で、国連の人権基準からみたらクエスチョンマークがたくさん出てくるような法改正をすることが、国際社会にもどのようなメッセージを送るかということも考えなければいけない。国際社会の人たちは日本を見ています」


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(サムネイル:難民申請中の家族。仮放免で収容施設から出てきて、息子と再会し、手を繋ぐ親子・Sumireko Tomita / BuzzFeed)