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私たちは家族じゃないの?結婚21年目の2人が国を訴えた理由

アメリカで性別変更をしたトランスジェンダー女性。しかし既に婚姻関係にある妻がいるために、日本の住民票での性別変更ができない状態に。日本で同性婚が認められていないためです。2人は国を相手取って裁判を起こしました。

日本に住むアメリカ人のエリン・マクレディさんは2018年10月、出身地のテキサス州で性別を「男性」から「女性」に変えた。パスポートの表記も「女性」になった。

しかし、日本の区役所で住民票に記載されている性別を変更しようとすると、認められなかった。

エリンさんは、性別を変える18年前に日本人女性の緑さんと結婚しているからだ。日本は同性婚を認めていないため、エリンさんが性別を変更すると、これまでの婚姻関係が成立しないことになる。

2人は家族であり続けること、そしてエリンさんの住民票の性別表記も「女性」に変更することを望んでいる。

エリンさんと緑さんは6月、国と東京都目黒区・大田区を相手取り、国家賠償を請求する訴訟を提起した。

賠償金が目的ではなく、婚姻後にも性別変更を望む人や様々な形の家族がいる中で、それを認めない現行の日本の制度に疑問を投げかけたいという。

エリンさんと緑さん、弁護団は6月21日、東京地裁で会見を開いた。

会見でエリンさんは、こう話した。

「私が性別変更をする時、私や緑の家族、周りの皆がサポートしてくれました。日本政府だけがサポートしてくれません。なぜでしょうか」

2人には中学生と大学生の息子3人がいる。3人ともエリンさんの性別変更はすんなり受け入れ、以前と変わらず家族として暮らしている。

裁判では「日本における『家族』とは何なのか」ということを問いかけている。

弁護団は、住民票の性別を女性に変更しないことは、憲法13条が保障する人格権としての「真に自認する性別に即した社会生活をおくる」エリンさんの利益を侵害していると指摘。

また、区が2人の続柄を「縁故者」にするよう求めたことや、法務省・総務省が区に適切な指導を行わなかったことは、憲法24条1項が保障する「適法に成立した婚姻関係に対して公権力から不当な干渉を受けない」というエリンさんと緑さんの利益を侵害すると主張している。

アメリカでの性別変更後、以前住んでいた東京都目黒区の区役所で、2018年に住民票の性別変更をしようとした時、住民票上の性別を女性とする代わりに、緑さんとの続柄を配偶者から「縁故者」に変更するよう提案された。

「家族であり続けたい」と望む2人には「縁故者」という続柄は受け入れることができず、法務省や総務省に問い合わせるよう区役所に求めた。

その後、状況は変わらず、今年春に大田区に引っ越した。転入の手続きをした際に2人とも「女性」に丸をつけて書類を提出したが、やはりそのまま通ることはなかった。

職員が各所に確認作業をした結果、ここでもエリンさんは男性として書類を提出しなければいけないと告げられた。緑さんは「(エリンさんが)消しゴムで女性の箇所の丸を消して『男性』に丸をする姿を見て、涙が出た」という。

緑さんは「私たち自身のありのままで生きていける社会を作りたいと思っています」と話す。

男性・女性両方の身分証明書を保持する状態に


住民票の性別変更ができないということは、どんな状況なのか。

エリンさんが持っている正式な身分証明証に、性別欄に「女性」と書いてあるもの、そして「男性」と書いてあるものの2種類が、同時に存在するということだ。

米国ですでに公的に性別を変更しているエリンさんは、米国政府発行のパスポートでは公式に「女性」だ。

また、日本在住の外国人が持つ「在留カード」も、パスポート上の情報が記載されるため、「女性」となる。

一方、日本で発行される健康保険証や運転免許証などは、日本の住民票の情報に基づいているため、すべて「男性」の表記になっている。

「同じ境遇にある人たちのためにも」

エリンさんは、同様の状態に陥っているカップルから相談を受けることがある。

日本に住むエリンさんの外国籍の友人に既婚者のトランスジェンダーの人たちがおり、エリンさんと同様に日本での性別変更を希望しているが、実際に行動に移せない人がいるという。

配偶者ビザを保持しているため、性別変更をすることで婚姻関係が「解消」されてしまえば、日本に住む在留資格も失うからだ

エリンさんは会見で、こう語った。

「形は違っても、わたしたちのような家族はたくさんいます。そういう家族は家族じゃないんでしょうか?政府が認めてくれない理由はなんでしょうか?」

エリンさんは永住権を取得しているため、在留資格のことを心配することなく提訴することができた。

自身が国を相手取って提訴することについて、BuzzFeed Newsに対しこう語った。

「私たちは、自分たちのためというより、他の同じ境遇にある人たちのためにも提訴していると考えています」

また日本では、未成年の子どもがいると性別変更は認められない。2004年に施行された「性同一性障害特例法」では、一定の要件を満たせば、戸籍の性別変更が認められるが、生殖腺がないことなどの手術要件の他、現に婚姻していないことや未成年の子どもがいないことなどの条件がある。

エリンさんは、こうした制約のない出身地テキサス州の裁判所で、性別を変更した。

日本の性別変更をめぐる条件についても会見で、このように問題提起した。

「私は自分の国では性別変更ができましたが、日本人なら私のような形で性別移行はできません。結婚していて、未成年の子どもがいたらできないからです。その理由はどこにあるんでしょうか?」

弁護団の一人の加藤慶二弁護士は、会見でこう指摘した。

「そもそも本国で性別変更が認められたのなら、そのまま日本できちんと女性として扱われなければいけないのではないでしょうか。理屈的にもおかしいと思いますが、実際上の問題として、ある一人の人物が場面によって女性として扱われたり、男性として扱われたりするという事態になっています」

「エリンさんの場合は、本国で女性として扱われ、日本でも入管の扱い(在留カード)では女性として扱われている。ところが、住民票や住民票に紐づいた健康保険などは男性のままになっている。一人の人間についてこんなバラバラになっているのは、人格権の問題から非常におかしいと考えます」

また、住民票での性別変更によって2人が家族でなくなってしまうことについては、こう指摘した。

「一連の流れは、同性婚状態になってしまうからそれを避けたいということになっているのでしょうけど、実際お二人はずっと日本では結婚生活を送っています。アメリカの方で性別変更をしたとしても、今日本でも2人が結婚状態にあるということは変わりません」

「お二人は結婚している法律的な状態があるのに、住民票の記載ではエリンさんを縁故者などにして法律婚をしていないようにさせてしまうということ自体も、お二人が自分らしく生きる権利かつ憲法24条が定める婚姻の自由を侵害するということを、裁判の中では主張していきたいと思います」