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「家族であり続けたい」結婚20周年の2人が、国を提訴すると決めた理由

米国で性別変更をしたトランスジェンダー女性。しかし既に婚姻関係にある妻がいるために、日本で性別変更をすると「家族を失う」ことになります。2人は国を相手取って裁判を起こします。

アメリカ人のエリン・マクレディさんは2018年10月、幼少期から抱いていた自身のジェンダーに関する「違和感」を乗り越えるため、出身地のテキサス州で性別を「男性」から「女性」に変えた。パスポートの表記も「女性」だ。

エリンさんは、性別を変える18年前に日本人女性の緑さんと結婚し、3人の息子たちと東京都内で暮らしている。

地元の区役所で、日本でも性別変更をしようとした。すると、妻・緑さんとは「同性婚」の状態となる。日本では同性婚が認められていないため、婚姻関係を書類上、「解消」せざるを得ない。

このため日本で性別変更をできないまま、家族で居続ける道を選んでいる。

こんな状況にあるエリンさんと緑さんが、日本で性別変更をしても婚姻関係が認めるよう、近く国を相手取って裁判を起こす。

受け入れがたい「縁故者」への変更。裁判は「問いかけ」

緑さんはBuzzFeed Newsに対し、この裁判を「世間への問いかけ」でもあると話す。

「同性婚が認められない現実に対し、1人でも多く声を上げていくことで変わっていくと思います。本当にこれでいいんですか?と問いかけたい。大きい意味で、日本や社会が変わってほしいからこの裁判をやろうと決めました」

エリンさんの性別を日本でも女性へと変更し、かつ婚姻関係を保てるよう、2人は各方面に働きかけてきた。しかし、区役所からの答えは「性別を変更するのであれば、続柄を『縁故者』に」という提案のみだった。

それは「家族であり続けたい」と思う2人には受け入れがたかったため、表記変更はしなかった。十代の息子たち3人は、エリンさんの性別変更をすんなりと受け入れており、書類上の話であっても家族がバラバラになることも「絶対に避けたい」と2人は話す。

エリンさんは言語学者で、青山学院大学で英米文学科の教授を務める。日本でもキャリアを形成してきており、また息子たちも日本で学校に通っているため、日本で家族として暮らしていくことを望んでいる。

しかし、こうした経緯から、本人の自認上も米国での法的地位上も「女性」のエリンさんは、日本では今も書類上、「男性」のままだ。

2人は今年、結婚20周年を迎える。「問題を認識してもらい、社会を変える」手段として、提訴に乗り出すという。

目指すは「特例」ではなく「同性婚法制化」

日本では2019年、同性同士の結婚を認めないのは憲法が保障する自由や平等に反しているとして、全国13組の同性カップルが国を相手取り、一斉提訴した。

緑さん、エリンさんも「思いは彼ら、彼女たちと一緒」と話す。

2人は自身のケースを「特例」として国に認めてほしい訳ではなく、最終的には「日本で同性婚が認められること」が目標だ。

2人のように、片方がトランスジェンダーで元々、婚姻関係にあったというカップルは珍しいが、日本で婚姻関係が結べない同性の国際カップルにも多く出会ったという。

緑さんは「ある国では2人の結婚が認められているのに、日本では認められないという現状があります。行動を起こせる人が起こさなければと思いました」と話す。

日本とアメリカの法律の間で

日本に住むエリンさんの外国籍の友人でも、既婚者のトランスジェンダーの人たちがおり、エリンさんと同様に日本での性別変更を希望するが、実際に行動に移せない人がいるという。

配偶者ビザを保持しているため、性別変更をすることで婚姻関係が「解消」されてしまえば、日本に住む在留資格も失うからだ。

エリンさんは永住権を取得しており「友人や同じ境遇にいる人たちのためにも闘いたい」と語っている。

また日本では、未成年の子どもがいると性別変更は認められない。2004年に施行された「性同一性障害特例法」では、一定の要件を満たせば、戸籍の性別変更が認められるが、生殖腺がないことなどの手術要件の他、現に婚姻していないことや未成年の子どもがいないことなどの条件がある。

エリンさんは、こうした制約のない出身地テキサス州の裁判所で、性別を変更できた。

エリンさんはそのことについてこう語る。

「私は日本で婚姻関係にある中でも、性別変更ができた特殊なケースです。もし私が日本人であればできなかったことなので、私には日本に住んでいるLGBTQ+の人たちが置かれる状況を改善する努力をする責任があると思いました。それは自分の問題を解決するより、ずっと大切なことだと感じます」

正式な身分証明書に「2つの性別」

住民票の性別変更ができないということは、いったいどのような状況なのか。

これは、エリンさんが持っている正式な身分証明書は、性別欄に「女性」と書いてあるもの、そして「男性」と書いてあるものの2種類が、同時に存在するということだ。

米国ですでに公的に性別を変更しているエリンさんは、米国発行のパスポートでは「女性」だ。

また、日本在住の外国人が持つ「在留カード」も、パスポート上の情報が記載されるために「女性」となる。

一方、日本で発行される健康保険証や運転免許証などは、日本の住民票の情報に基づいているため、すべて「男性」の表記になっている。

「私が女性としての人生を歩むことに変わりはない」

2つの性別が記載されたそれぞれの国発行の身分証明書などを持ち歩くことに、エリンさんは困惑も示す。

「私は女性であり、女としての私の人生を歩み続けます。そのことに変わりはありません。しかし書類上2つの性別を持つことで、日常生活で法的な問題に直面する可能性はあるのかなとは思います」

「例えば、法的にはどちらの性別のトイレを使うことが許されているのでしょうか?日本政府にとって私の正式な性別とはどちらなのでしょうか?本当に変な状況に置かれていて、どうすれば良いのか分からないというのが正直なところです」

2人は現在、裁判に向けて日本語のサイトと、英語のサイトでクラウドファンディングを実施している。

裁判に向けて5月にも弁護団と本格的な準備を始める予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、時期を遅らせるという。

弁護団「おかしいと声を上げて闘うことはとても大切」

2人の裁判は、4人の弁護士でつくる弁護団が支える予定だ。クラウドファンディングのウェブサイトに、弁護士団はメッセージを寄せた。

「今回の2人には『トランスジェンダーの性別変更に手術を要する日本と要しない他国』、『同性婚ができない日本とできる他国』という事情から、極めて理不尽な状況が降りかかっています」

「エリンさんがアメリカで女性に性別変更をしたにもかかわらず、日本でエリンさんが女性としてきちんと取り扱われない。二人は日本で婚姻しているのにもかかわらず、エリンさんの性別変更によって、緑さんの住民票上の記載を『妻』でなくそうとする。まったくおかしなことです」

「おかしいことに『おかしい』と声を上げて闘うことは、とても大切で、そして、とても労力を要することです。どんな人も一人ひとりが尊重される社会、人権がきちんと保障される社会を皆さんと共に築いていきたいと思います」

エリンさんの性別変更やこれまでの経緯は、こちらの記事から。

18年間も結婚していたのに「妻」と認められなくなるなんて (2019年4月26日掲載)

夫はある日、女性になる決意をした。2人の”妻”の思い(2019年5月22日掲載)


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