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息子が1人、パパは2人。YouTubeで話題の、ある家族を知っていますか?

3人家族のスウェーデンでの暮らしを伝えるYouTubeチャンネル「ふたりぱぱ」に、「代理母出産(サロガシー)の旅」について聞きました。

日本人とスウェーデン人のお父さん、そして、6歳の「息子くん」。

そんな3人家族が、スウェーデンでの暮らしを伝えるYouTubeチャンネルがあります。

お父さんが2人。だからチャンネル名は「ふたりぱぱ」。

2016年に代理母出産で「息子くん」を迎えた、みっつんさん(41)とリカルドさん(46)に話を聞きました。

親子でのアップルパイやシナモンロールづくりに、雪かきの動画ーー。

「ふたりぱぱ」のYouTubeには、ほのぼのした3人家族の動画が並んでいます。

チャンネル開設から約2年ですが、登録者数は17万人を超えました。

動画には、家族を見守るあたたかいコメントが綴られています。

若い時は「想像できなかった」、今の家族の形

今では17万人の”ファン”がいる家族ですが、今の「家族の形」は、2人が若い時には「全然想像できなかった」姿だといいます。

みっつんさんは、学生時代や結婚前の心境を、こう振り返ります。

「僕は日本で育った人間なので、カミングアウトすら考えてなかったし、子どもの時は、女性と結婚して子どもを持たないといけないのかな…と考えていました。でも大きくなるにつれて無理だな、嫌だな、と思ってきたんです」

「上京してだいぶカミングアウトできるようになったり、新宿2丁目にいって自分の存在を認められるようになる一方で、結婚は考えられませんでした」

「結婚も子どもも無理だろうけど、ライフパートナーはほしいと思っていました。それでもし子どもが持てなくても、パートナーと2人で、家族と呼べるんじゃないかと思うようになりました」

リカさんも「パートナーはいればいいなと思っていましたが、今の状態は想像もできなかった」と話します。

そんな2人ですが、リカさんが東京にある外資系企業で働いていた際に出会い、付き合っていく中で、少しずつ考えが変わっていったといいます。

約3年付き合った後、リカさんにロンドンのオフィスへの異動の話がきました。

リカさんの「一緒に行く?」との誘いをきっかけに、移住を決断。2011年、2人は結婚しました。

ロンドンで生活する中で、リカさんの妹に子どもが生まれたことなどもきっかけに、少しずつ2人の中に「子どもがほしい」という思いが芽生えていったといいます。

みっつんさんは、当時の思いを、こう語ります。

「僕自身は4人兄弟の末っ子なので、たくさんの姪っ子がいます。子どもと触れ合う時間も多く、子どもは欲しいなと思っていました」

「でも自分がゲイだと自認してからは、それは無理だなと、その気持ちをよそにやっていました」

「ロンドンで暮らしていた時は、リカの実家が近くなったこともあり、クリスマスなどもスウェーデンに遊びにいっていました。子どもがいる家族の時間というのを過ごすようになって、子どもがほしいと感じるようになったのだと思います」

そこから、2人の「代理母出産(サロガシー)の旅」が始まりました。

今でも交流がある代理母さんとの出会い、そして誕生

初めは、「可能性を調べることから始め、それぞれの選択肢の違いを知っていくことから」。

国際結婚であることや、今後、イギリス以外の国に移住する可能性なども考えながら、養子縁組や代理母出産などの選択肢についてリサーチを進めました。

2年弱にわたりリサーチを重ね、相談会に参加して、経験者や弁護士などの話を聞きました。

今でこそ、みっつんさんとリカさんの周りには代理母出産で子どもを授かった家族がたくさんいます。しかし、2人が代理母出産について調べ始めた2012年ごろは、周囲にそのようなカップルはゼロ。1から情報を調べました。

2人は悩みながら調べた結果、代理母出産の歴史が長く、代理母を担う女性と卵子提供者、そして生まれてくる子どもを守る法律や制度が整備されていて、安全や権利が保障されているのは、アメリカだと判断。アメリカでの代理母出産を決めました。

何年もかけて調べ、多くの人に話を聞いて実現した代理母出産は、文字通り、「旅」のようなものでした。

みっつんさんは、その経験をブログに綴り、後に書籍化した本のタイトルも、『ふたりぱぱ ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る』(現代書館、2019年)と題されました。

著書では、リサーチの段階から、子どもの誕生まで、実体験が詳しく綴られています。

2人の代理母となったのは、アメリカに住むステファニーさん。

著書だけでなく、YouTubeにも何回も登場していて、今でも交流が続いています。

息子くんが誕生し、初めて腕の中に抱いた時の感情を、みっつんさんは著書でこう綴っています。

《感動とか嬉しいとか胸がいっぱいとか、いろんな言葉が頭に浮かぶが、どれもそのときの自分の気持ちを表現できない感じだった》

《ただただ、生命を感じる、それだけ。身体自体はとても小さいのに、その存在だけは、その瞬間、世界中で一番大きいもののように感じていた》

「息子くん」が生まれた際には、ステファニーさんがみっつんさんたちに、サプライズで超音波写真や妊娠中の日記などをまとめたアルバムをプレゼント。

その後は逆に、ふたりぱぱが1年に1回、息子くんの成長や家族での写真をまとめたフォトブックをステファニーさんに贈っています。

みっつんさんは「ステファニーは本当に、遠いところに住んでいる家族のよう」と話します。

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com

「じゃあ僕はどこからきたの?」息子への伝え方

ステファニーさんから出生時にサプライズで贈られたアルバムは、息子くんに代理母出産について伝える一つの方法にもなっているといいます。

みっつんさんは、話します。

「代理母出産については、年齢に応じて伝えてきました。知り合いでも妊娠している女性を見ることもあります。一般的に赤ちゃんというのは女性のお腹からでてくるんだよという話から始まり、息子が4歳半くらいの頃に『じゃあ僕はどこからきたの?』という質問をされました」

「その時に、ステファニーからもらったアルバムを3人で一緒に見て、あなたはステファニーから生まれてきたんだよ。ぼくたちは男同士で、でもあなたに会いたいと思ったから、ステファニーや卵子提供者さんにもお願いをして、最高のギフトをもらって、君が誕生したんだよ。たくさんの人が手伝ってくれてくれたんだと、アルバムの写真を見ながら話しました」

ブログや著書で、代理母出産について詳しく綴った背景について、みっつんさんはこう語ります。

「代理母出産という選択肢を考えた時、何も知らない状態では、ぼくたちも『それって大丈夫なの?』という不安も少しありました。でも、自分たちで調べていく途中に、これだったら大丈夫だと思いました」

「生まれてくる子どもに、ちゃんとそれを説明できるようになっていたいと思いました。情報をきちんと整理するためには、書いた方が良いと思い、文章に残しました。今でも少しずつ伝えてはいますが、口頭で説明するには膨大な情報なので、息子が大きくなった時に、読んでほしいと思います」

「社会の人たちに知ってほしいという思いもあります。賛否はあると思います。僕がそうだったように、イメージだけでは『よくわからないもの』『悪そうなもの』という印象を持っている人もいると思います。『そうじゃないんだよ』ということを、知識や材料として得てもらって、その上で議論をしてほしいという思いがあります」

代理母出産をめぐっては各国で法律が違い、全面禁止の国もあれば、代理母に対して補償が支払われる国、妥当な出費の支払いのみ認められている国など様々です。

アメリカ国内でも、州や仲介する機関によって違いがあるものの、代理母になるためには公的な経済的保護を受けていないことや、子どもを一人以上生み、自ら育てているなどの条件もあるといいます。

代理母を巡り様々な議論があることは、2人も承知しています。

そのうえで著書では2人が、代理母を担う女性の権利が保障され、適切な同意と健康管理が行われることを念頭に代理母探しをしたこと。丁寧なマッチングのプロセスで出会い、出産までも週1のビデオ通話やメッセージのやり取りが続けられたことなどが綴られています。

ふたりぱぱでも「特に何も聞かれない」

3人は、息子くんが生まれてから、リカさんの母国であるスウェーデンに移住しました。

息子くんが誕生した2016年から毎年、3人が住むスウェーデン北部ルレオのプライドフェスティバルに参加しています。

フェスティバルでは、スウェーデン最大のキリスト教会、スウェーデン国教会が主催し、子どもを育てるLGBTQの会も開催。初めて参加した時は、ふたりぱぱの家族のほかに、もう一家族だけだったのが、参加する家族は年々増え、今では15家族ほどが参加しています。

近所にも、子どもがいるレズビアンカップルの家族がおり、地域でも「ふたりぱぱ」や「ふたりまま」の家族の存在は、日本と比べると珍しくありません。

幼稚園やご近所でも「特に何も聞かれなかった」といいます。

みっつんさんは言います。

「スウェーデンでは同性婚ができ、同性カップルが子どもを持つことが制度上認められているので、安心して生きていけます。マイノリティも取りこぼされない社会、国作りがされていると感じます」

「マイノリティが特別なわけではなく、皆が平等にあるための、対応がとられています。僕たちが『ふたりぱぱ』だからと特別視もしないし、フラットな空気を肌で感じながら生活しています」

一方で、YouTubeチャンネルの視聴者は主に日本在住。

まだ日本では、ゲイカップルやレズビアンカップルが両親という家族はそう多くはありませんが、視聴者からはいつも、あたたかいコメントが寄せられます。

遠く離れた日本に、17万人もの登録者がいて、応援の声が届くことに、リカさんは「びっくりして驚いています。でもすごく嬉しい」と話します。

みっつんさんは、こう語ります。

「僕たちの普段の生活を伝えていくことで、皆さんが何かを感じてくださったらいいなと思っています」

「今まではゲイカップルに対して『違う人』と思っていた人や年齢が上の方々からも、『なんか一緒だね』『拍子抜けした』みたいなコメントもたくさんいただいています」

「日本からは遠く離れていて、YouTubeだとウェブ上の話と感じるかもしれないですが、人間、『慣れ』ということが大切だと思います。『自分の周りにいる』ということが1番いいなと思っているので、ウェブ上でかもしれないですけど、『ふたりぱぱ』を近く感じていただけたらと思います」


同性婚が制度として認められておらず、性的マイノリティに対する差別や偏見がまだ根強い日本。さまざまな葛藤や障害を乗り越えて、それぞれの家族と生きる人々の暮らしを取材しました。

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