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新型コロナで広がるヘイト。「差別を許さない」日本や世界の対応事例

特定の人種や民族、感染症に対する差別や中傷、ヘイトスピーチは、いかなる場合でも許されるものではない。どう対応するべきなのか、アメリカ、イギリス、インドネシア、日本での事例を見てみる。

インターネット上の差別発言やヘイトを含むデマ、暴行などの「ヘイトクライム」(憎悪犯罪)ーー。

新型コロナウイルス感染が拡大する中、特定の国の出身者や人種への差別が各国で起こっている。

日本でも横浜中華街の複数店に、ヘイトスピーチ(憎悪表現)を含む手紙が届いた。新型コロナウイルスに感染し死亡した志村けんさんをめぐっては、SNSや記事コメント欄などで中国人に対するヘイトスピーチ、殺害などを呼びかけるツイートが見受けられた。

新型コロナを発端とする差別に、各国はどう対処しているのか。アメリカ、イギリス、インドネシア、日本の4カ国での例をみながら、コロナをめぐる「差別への対応」を考える。

アメリカ:「差別は違法です」ニューヨーク市長

Discrimination is ILLEGAL in New York City. If you experience or see any sort of hate crime or discrimination related to COVID-19 or anything, please report it immediately. To New York City's vibrant Asian-American community: your city stands with you.

@NYCMayor

ツイートには、市長の妻であるマクレイ氏が、アジア系コミュニティをサポートする意思表明のため、チャイナタウンを訪れた動画も。

新型コロナウイルスを発端にした差別への対応でも、差別禁止法や条例がある国とない国では、対応にも違いもある。

ニューヨーク市のデブラシオ市長は3月11日、「ニューヨーク市では差別は違法です」とはっきりとTwitterで明言した。

ニューヨーク市には人権法があり、出身国や人種などを理由に差別することが禁じられている。

同市内の地下鉄などでは、マスクをしたアジア系の乗客が暴行を受けるなどの事件が発生していた。

特定の人種や民族、感染症に対する差別や中傷、ヘイトスピーチは、いかなる場合でも許されるものではない。デブラシオ市長は、差別に対する姿勢をツイートでこのように伝えた。

「新型コロナウイルスに関連するヘイトクライムや差別を受けたり、目撃した人は、すぐに通報してください。ニューヨークの活気に満ちたアジア系アメリカ人コミュニティの皆さん、市はあなたたちの味方です」

差別報告センターを立ち上げ実態調査。1週間で670件も発生

アメリカでは、新型コロナウイルスの感染が急増しており、アジア系の人々へのヘイト事件も頻発している。

そのような状況の中で、3月19日には2つのアジア系人権団体と大学が協力し、ヘイト事件を報告できるウェブ上の「報告センター」を8カ国語対応で開設、差別の実態を調査した。

主宰の人権団体の報告によると、報告センター立ち上げから1週間で、全米から673件の報告があったという。

1日100人を超える被害者の4分の3が女性だった。団体は「緊急を要する場合は911に通報してください」とも呼びかけている。

イギリス:大学も「差別許さない」と声明。通報フォームも

イギリスでも中国人やアジア系の人々を標的にしたヘイトクライムが起きたことを受け、コベントリー大学とウォーリック大学は2月7日に共同声明を出し、「私たちはいかなる人種差別も容認しません」と明言した。

両大学にはそれぞれ、ヘイトクライムの被害に遭った学生や職員のための相談窓口があるため、被害に遭った場合にはそこへの相談と警察への通報を呼びかけた。

また、イギリスのサセックス大学では学生自治会も自らウェブ上で声明を発表し、学生が人種差別を報告できるウェブフォームを設置した。

バスでの差別では、その場にいた人も声をあげた

イギリスのでバス乗車中に3月上旬、ヘイトクライムを目撃したという、長谷川トミーさん(東京大学)はBuzzFeed Newsに、乗客らも差別をした側の人に対して怒りの声をあげていたと語る。

長谷川さんはブリストルからロンドンまでの高速バスを利用していた際、怒った男性がアジア系の女性に水をかけた事件に遭遇した。

周りの乗客は男性が差別的な動機で水をかけたということに気付くと、皆一斉に男性に対して怒り、被害者女性にも「絶対許せないね」などの言葉をかけていたという。

長谷川さんは自身が目撃した差別への対応を見て「普段から『差別はダメ、差別にノー』と言うことの重要性を感じた」と語る。

インドネシア:日本人が被害に。両国大使館は声明を発表

日本でも新型コロナウイルス感染者が多く出ていたことから、海外では日本人が差別被害に遭うこともあった。

インドネシアでは、子どもを含む日本人が差別的な言葉をかけられるなどの被害に遭い、その際には、在日本インドネシア大使館や在インドネシア日本国大使館がそれぞれ、声明やビデオ動画でメッセージを発信した。

@KBRITokyo

インドネシア大使館が発表した差別に反対する声明

在日本インドネシア大使館は3月12日付けで「差別的な言動を容認しません」と明言する声明を発表した。

声明では、このようにインドネシア大使館の差別に対する姿勢が示されている。

「私たちはインドネシア在留邦人の方が不当な扱いを受けたとみられる事を懸念いたします。インドネシア政府は国籍関係なく、インドネシア国民又は外国人に対する差別的な言動を容認いたしません」

「インドネシア政府は適切な措置をとりつつ差別的な言動の再発防止のために最善の努力をいたします」

この件に関しては、ジョコ・ウィドド大統領も「怖いのはデマや過剰反応である」とのメッセージを届けている。

Facebook: video.php

在インドネシア日本国大使館の石井大使

駐インドネシア日本国大使館の石井大使は3月10日のビデオメッセージで「インドネシア在住の日本人はコロナウイルスの感染源ではなく、インドネシアの友人です。共に、コロナウイルス問題解決に向けて取り組んでいきましょう」と話している。

各国の差別への対応事例から見えること

これまで、アメリカ、イギリス、インドネシアでの例を見てきた。まとめると、各国の例から、新型コロナウイルスを発端にした差別に対して、以下のような対応が可能だと言える。

  1. 政府や自治体、首長が差別を許さないという姿勢を示す
  2. 大学など教育機関も声明を出し、相談窓口を設置する
  3. 差別に遭遇したら、その場にいた人も反差別の姿勢を示す
  4. ヘイトクライムが起きたら警察へ通報する


日本での対応はどうだろうか。

日本:支援団体が声明。歌手もSNSで言及

日本では、中国で感染急増した頃から「外国人客お断り」と書かれた紙を貼る飲食店が相次ぎ、SNSでも中国人などに対する差別的発言が目立った。

2月初旬には、厚生労働省は会見で「デマを信じずに、正しく恐れて。冷静な対応を」とし、またSNS上での中国人への差別的な書き込みに関しては「人が悪いわけではなくウイルスが悪い」と指摘している。

歌手の米津玄師さんは2月末、自身の公演の中止のお知らせと共に「混乱に乗じた悪質なデマや差別的表現に加担してしまわないよう、僕らだけでもなるべく冷静に努めましょう」とTwitterで発信していた。

また愛知県の大村知事は3月中旬、外国人や外国にルーツを持つ人々に対する誹謗中傷などに対して、こうツイートした。

「人の命に関わるような時にも、事実でないこと、デマ、誹謗中傷などで絡んでくる方には、ご遠慮頂いてます。藤田医大岡崎医療センターにクルーズ船の陽性者を受入れた際も、外国人に税金を使うな。中国人、韓国人を追い返せ、といった心無い抗議電話が沢山ありました。情けない限りですが、負けません」

ツイートは2万以上いいねされ、8千以上リツイートされている。

「差別や排外主義に強い懸念」と声明

外国人労働者や移住者を支援している「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」は3月18日、日本国内でコロナウイルス流行を発端とする差別に反対する声明を発表した。

声明で移住連は「私たちは、こうした新型コロナウイルスの流行と結びついた差別や排外主義に強い懸念を抱いています」とし、政府や自治体に対してはこう呼びかけた。

「政府や自治体に対し、新型コロナウイルス流行と結びついた差別や排外主義的な言動は許されないという明確な姿勢を示すこと、また、移民・民族的マイノリティの人権保障および脆弱な位置におかれた人びとを保護することを求めます」

「コロナに関連し不当な差別や偏見、あってはならない」

志村けんさんが3月29日に新型コロナウイルスに感染し死去したニュースをめぐっては、SNSや記事コメント欄に「中国人に殺された」などのヘイトスピーチが並び、殺害や排除を呼びかける声もあった

報道によると、それに対し衆院法務委員会で3月31日、共産党の藤野保史議員が「亡くなった志村さんまでヘイトに悪用する動きがある。今こそ特定の人種や民族を攻撃する行為は許されないと、強いメッセージを政府として発するべきだ」と森雅子法相に問いかけた。

森法相はそれに対し「新型コロナウイルスに関連して不当な差別や偏見があってはならないのは言うまでもない」と語ったという。

日本では差別取り締まる法律ない現実

日本では現在、差別を取り締まる法がない。2016年に成立した「ヘイトスピーチ対策法」があるものの、理念法であるために罰則規定はない。

神奈川県の川崎市議会では2019年12月、ヘイトスピーチなどを繰り返した人物に刑事罰を科す「ヘイト禁止条例」が全会一致で可決したが、ネット上の書き込みなどには適用されないなどの課題もある。

新型コロナウイルスをめぐって、法相や厚労省は差別を否定するメッセージを発信し「差別はあってはならない」との姿勢を示している。とはいえ、ネット上には日々そうした書き込みがされており、より強いメッセージの発信を求める声もある。

なお、法務相人権擁護局に対しては、被害当事者に関わらず、第三者でもネット上のヘイトスピーチに関する通報ができる。詳細は同局サイトより。

サムネイル:アメリカ・ニューヨークのチャイナタウンを歩く人々(AFP=時事)