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「いま中華街が一番安全だよ...」1人だけの客、コロナで売上激減の店の冗談と悲しみ。

横浜中華街から客足が遠のき、夜の街には閑散とした光景が広がっていた。

新型コロナウイルスの感染拡大が、普段なら多くの人々で賑わう横浜の中華街にも影を落としている。

客足が遠のき、夜の街には閑散とした光景が広がっていた。

香港料理と台湾料理を提供する店を持つ男性は、BuzzFeed Newsに冗談を交えて語った。

「変な話、いま中華街が一番安全だよ」

3月12日午後8時頃、横浜中華街を歩いた。目抜き通りの中華街大通りを歩く人はまばらで、そのほかの通りは、さらに人影が少ない。

シャッターを閉めた店が目立ち、「臨時休業」の張り紙が貼られた店舗もあった。

たまたま入った店で

裏通りを進み、それぞれの店内を窓越しに見ると、1人もお客がいない店も少なくなかった。

そんな時、女性が店の扉を開き、声をかけられた。「どうぞ、入って」

「中華街が怖いと思う人がいる」

初めて入った店だった。先客は男性1人で、活気のない店内を見渡してから、案内されたテーブルに落ち着いた。

生ビールと食事を頼むと、「人が少なくなりましたね」と先出の女性店員に声をかけた。すると、こう返ってきた。

「ほんと人が少なくなった。1月からだよ。売上はどーんと落ちた。今、コロナはどこで感染してもおかしくないのに、中華街が怖いと思う人がいるのが悲しいよ」

この店は、香港料理と台湾料理を出す「東珍味」。

先客の男性が店を離れ、私が料理を味わっていると、チーフオーナーの黎慶徳(らい・けいとく)さん(65歳)が、現状を説明してくれた。

「中華街はもともと、夜よりも昼間の方がお客さんは多い。しかし、夜も昼も少なくなってしまった。今は特に大きな店ほど閉めているところが多いね。家賃も人件費も払えないから。うちは、店を休み休みやっているよ」

黎さんは、東珍味のほかに2つの中華料理店、点心を作る店舗の計4店舗を経営。この日も2組の予約があったが、10日ほど前にキャンセルの連絡があったという。

従業員をクビにするわけにはいかない

1月から売上が落ち始め、3つある飲食店でそれぞれ休みの日を新たに設けるようになった。やりくりして、なんとか営業を続けているという。

従業員をクビにするわけにはいかない、との思いが強い。

「今が一番きついね。昨年と比べて、8割以上、売上が落ちました。来月はもっときつくなると思っている。夏まで続くと、本当にやばいかもしれません」

「でも、従業員はみんな家族がいるから、借金をしてでも一生懸命頑張りたい」

黎さんは香港出身。約40年前に来日し、東珍味を16年前に開店した。裏通りに面しているため、お客は大通りよりもさらに少ないと考える。

なんとかしたいと、新メニューを考案するといった試行錯誤の日々を続ける。ただ、不安は募る。

「お店に来て味見してほしい」。そう語る一方で、力なく何度も繰り返したのは「どうしようもないね」の言葉だった。

1人だけで過ごした時間、笑顔での冗談

記者が入店した午後8時頃から、閉店の午後10時まで、先述した男性以外にお客は誰も入らなかった。

そのため、黎さん自身もグラスに飲み物を注ぎ、「乾杯!」とグラスを2人で鳴らした。ずっと話し相手をしてくれ、食材の説明も丁寧にしてくれた。

黎さん「おいしい?」、記者「おいしいです」

黎さん「辛くない?」、記者「熱い!ピリ辛ですね。ちょうど良い。すごくおいしいです」、黎さん「ありがとうね」

横浜中華街に活気を取り戻したい。お客に来店してほしい。その思いを強くする黎さんは、笑顔でこう冗談も言った。

「変な話、いま中華街が一番安全だよ。人が少ないからね。だから来てくれたら嬉しいよ」

いわれのない差別的な手紙、市は「憤り」

新型コロナウイルスの影響で、横浜中華街の複数の飲食店には、差出人不明の封筒が届き、いわれのないヘイトスピーチや差別的言動を含む手紙が入っていた。

「中国人はゴミだ!細菌だ!悪魔だ!迷惑だ!早く日本から出ていけ!!」

中華街の飲食店などでつくる「横浜中華街発展会協同組合」は、それらの手紙を確認。全て同じ内容で、東京の複数の地域の消印となっていた。

組合の事務局長は神奈川県警加賀町警察署に相談したという。

事態を知った横浜市人権課は、組合を訪問。聞き取り調査を実施し、手紙を実際に確認した。その後、3月5日に市のHPで、こう呼びかけた。

「不確かな情報や誤った認識に惑わされて、人権侵害につながることのないようにお願いします。また、正確な情報を入手するように努めていただき、冷静な行動をお願いします」

市人権課の吉川正則課長は「ひどい言葉だった。不当で、差別的な言動であるヘイトスピーチという認識です」とBuzzFeed Newsに語った。

「中華街は、横浜市の発展を支えてきた存在で、市の中心的な観光地でもあります。手紙を見て、我々は憤りを感じています。許されるものではなく、人権侵害につながる行動はやめていただきたい」

市は1月から風評被害を確認し、応援

また、横浜市商業振興課によると、横浜中華街では1月から、風評被害による経営への影響が出ているという。

そうした市内での経済面の影響を鑑み、市は特別経営相談窓口を開設し、市独自の資金繰りのための支援メニューを創設するなどの対応をとっている。こうした情報が更新されるたびに、中華街の組合にも伝えているという。

市商業振興課の押見保志課長は「風評被害を受けながらも、中華街は一生懸命頑張っている」と言う。

TwitterなどSNS上では、風評被害を受け、横浜中華街を応援するハッシュタグ「#がんばれ中華街」をつけた投稿が出ている、とした上で、こう話した。

「中華街が頑張っている1つが、衛生面です。セミナーの開催や、試食の際にアルコール消毒を呼びかけるなど、商店街をあげて万全の体制を整え、取り組んでいます」

「市として、中華街の取り組みを応援したいし、努力を知ってほしいと思っています。ぜひ『#がんばれ中華街』と投稿するなど、応援してほしいです」