日本のウインタースポーツに今、地球温暖化の影響が迫っている。
「もっと北に、もっと標高が高いところに行かないと、雪が十分降らず滑れないようになってきている」
「スキーシーズンが短くなっている」
プロスキーヤーの中島力さんは危機感を募らせる。
日本で降る雪の量は今後、気候変動のため減少傾向になると気象庁は予測する。
何が起きていて、今後はどうなるのか、取材した。
シーズンにも関わらず雪不足で山肌が露出し、営業できないスキー場ーー。この写真のような光景が今、世界各地で、そして国内の各地で起きている。
2019年12月〜2020年2月には暖冬で雪不足が顕著となり、西日本や北陸を中心とするスキー場では、オープンを大幅に遅らせたり、営業できなかったりという問題に直面した。
富山県で2020年2月に開かれた冬季国体では直前まで雪が降らず、開催が危ぶまれた。
「この冬、もう無理なんじゃないか?」スキー場から不安の声
気象庁の発表によると、日本の冬の平均気温は、様々な変動を繰り返しながら上がっており、100年あたり1.19℃の割合で上昇している。
気温上昇は降雪にも影響を与え、特に日本海側で積雪量が減っているという。
雪不足の年には、1月に入ってもオープンできないスキー場が出たり、シーズンの終わりも早くなったりするスキー場があった。
プロスキーヤーの中島さんは「スキーシーズンが短くなってきている」と実感するという。
「この冬はもう無理なんじゃないか、と、スキー場から不安の声が聞こえてくることも増えました」
「雪不足の年には、岐阜などでさえオープンできないままシーズンが終わったスキー場があります。雪がすごく降る地域でも、営業期間がかなり短くなったスキー場もありました」
スキーブームの終焉によるスキー人口減など様々な課題を抱える中、2019年末〜20年の暖冬では雪不足が追い打ちをかけ、島根、福井、長野各県などで閉鎖に追い込まれた中小規模のスキー場が相次いだ。
大人数を雇用するスキー場の閉鎖は、地域の経済にも大きな打撃を与える。
日本の冬はどうなってしまうの?専門家の見解は…
日本の降雪にどんな影響が出ていて、今後の予測はどうなのか。
気象庁気象研究所(茨城県つくば市)で気候変動と雪の関係を研究する主任研究官の川瀬宏明さんに話を聞いた。
川瀬さんは「北陸から山陰あたりは、雪が顕著に減っている傾向が見られます」と話す。
気象庁は1日の降雪量が20cm以上になった年間の日数や、一冬で最も多く雪が積もった量(年最深積雪)が、日本海側の各地域で減少傾向だとしている。
降雪は年ごとの変動が大きく、数年単位でも降雪量に上下があるが、日本でも世界でも、影響は少しずつ出てきている。
近年の暖冬については、どうとらえればいいのか。
2019年末〜2020年の記録的な暖冬では、多くのスキー場が雪不足の打撃を受けた。
川瀬さんはこの暖冬を「地球温暖化に伴う気候変動と異常気象の両方の影響」と説明する。
長期的な気候変動、つまり気温の上昇や気象パターンの長期変化は、19世紀の工業化以降に、人類が石炭、石油、ガスなどの化石燃料を燃やし、温室効果ガスを発生させることで、引き起こしてきた。
一方、気象庁は異常気象を「30年に1回以下で発生する現象」と定義している。
2019年末〜20年の暖冬は、異常気象だった。そこに気候変動が重なり、影響が大きくなったという。
「気候変動が起こる前、例えば100年前の今より約1℃くらい気温が低い状況で19〜20年のような暖冬が起こっても、もっと雪は降っていたかもしれないし、雪がとける量も少なかったかもしれません。つまり、昔の暖冬は今の暖冬より寒かったということですね」
逆に言えば、今後、気温が上昇する中で暖冬が訪れた場合、その影響はさらに大きなものになる。
川瀬さんはこう指摘する。
「予測の情報も考慮すれば、段々と雪が減っていき、将来さらに気温が上昇した状態での暖冬だと、標高の低いスキー場では地域によってほとんど雪がなくなる可能性があります」
「そうすると、その年は雪不足でスキー場の運営が厳しくなります。100年前の暖冬では運営できていても、将来の暖冬では運営が難しくなってきます」
ウインタースポーツへの影響。地域によっては大きな打撃
気温の上昇は今後、降雪量を左右していくことになる。
「雪を必要とするウインタースポーツへの影響は大きいと思います。以前行った計算でも、将来、地球温暖化が進行すると、北陸の標高が低いスキー場のあたりでかなり雪が減ってしまうので、影響を受けやすいかと思います」
「逆に標高が高い場所や、北の方は雪が減りにくく、影響を受けにくい可能性があります」
「もう一つは水資源の問題です。山に積もる雪は『天然のダム』と呼ばれていて、水資源としても大事です。山の雪が少なくなると、自然として保有できなくなるので、言い方を変えれば、人工のダムで貯めるしかなくなります」
気象庁は、産業革命に比べ気温が2℃上昇した場合、21世紀末(2076〜2095年平均)には北海道やほか一部地域を除き、全国平均で30%ほど降雪量や年最深積雪が減少するとしている。
しかしこれは、パリ協定が掲げる平均気温上昇を2℃以下に抑えるという目標が達成された場合だ。
もし現時点を超える追加的な緩和策がとられなかった場合は、4℃の上昇となり、そのシナリオでは、北海道の一部地域を除き、全国平均で降雪量などは約70%減少する。
雪が降らなくても「快晴」にはならない。地域によってはドカ雪の増加も…?
雪が降らなくなれば、冬の天気が良くなると思う人もいるかもしれない。
だが、雪が降らないからといって快晴が続く訳ではないという。
「日本海側の場合、雪が減って晴れ間が多くなるわけではなく、代わりに雨が続くことになります」
「山陰や北陸の沿岸などに関しては将来、雨ばかりの冬になってしまう可能性もあります」
また、気温上昇で雪が雨になるとともに、温暖化で海水温も上昇するため、海からの蒸発が増え、空気中の水蒸気が増えることから、一度に降る雨の量も増える。
それと同じ理由で、北海道などの元から気温が低い一部の地域では、真冬に降雪量自体も増える見通しだという。
温暖化で気温が上昇しても、0℃以下であれば雪として降るからだ。
日本海の海水温が上がるにつれ、地域により「ドカ雪」が増える懸念もある。
北陸などでは近年、大雪で1000台を超える車が自動車道で立ち往生する事態も相次いでいる。自衛隊が出動し、救助に当たるケースもあった。
平均的には雪が減っていく一方で、命を守るためにも、今後も時に起こる大雪に「備える必要がある」と川瀬さんは語る。
気候変動で影響が出るのは、もちろん降雪だけではない。
豪雨災害は激しさを増し、発生頻度も高くなると予測されている。
防災の観点からも、現在起こっている変化を知り、今後の気候変動でどのような変化が起きてしまう可能性があるのか、「知ること」が大切だ。
気象庁では、地球温暖化などの影響や今後についてまとめた「日本の気候変動2020」などの資料もウェブサイト上で公開している。
川瀬さんも「正しい予測情報を分かりやすく伝え、皆さんがこれからを考える材料の一つにしてもらえるよう努めていきます」と語った。
「また、環境省や経済産業省では、どうすれば温室効果ガスを減らせるかということも発信しているので、そちらにも目を向けてもらえればと思います」
参考文献:『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』(川瀬宏明著、ベレ出版)
日本に住んでいたら気候変動なんて関係ないって思っていますか?
海水温上昇で消えゆく魚。増える豪雨災害ーー。
私たちのすぐ身近でも、気候変動の影響がでています。
地球を守るために、私たちが守らないといけない「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える」という“約束“。
今、あなたに知ってほしい「変化」があります。
BuzzFeed Japanは、国連が主催するメディア横断企画「1.5℃の約束」に参加し、日本での気候変動の影響について取材しました。
サムネイル:Sumireko Tomita / BuzzFeed、getty image、時事通信