僕は夫に出会い、そして「夫夫(ふうふ)」になったーー。
一人の男性が、学生時代に「ゲイであること」に向き合い、悩んだ経験、そしてパートナーと挙式するまでの半生を描いたコミック本『僕が夫に出会うまで』が発売された。
原作者で漫画の主人公でもある七崎良輔さんは、ゲイであることを公表し、活動している。
LGBTのためのウエディングプランニング会社の共同代表で、東京都江戸川区でLGBTの人々をサポートする団体を運営している。
七崎さんは「漫画を通して、こんな人もいるんだよって伝えたい」と語る。
BuzzFeed Newsは、七崎さんに話を聞いた。
『僕が夫に出会うまで』は、七崎さんが2019年に出版したエッセイ本が原作。
多数のBL(ボーイズラブ)漫画を手がけてきた漫画家・つきづきよしさんがコミカライズの作画担当をし、2020年4月から文春オンラインで連載された。
累計4300万PVを突破し、SNSなどでも話題に。この4月、単行本化し全国の書店に並んだ。
七崎さんは、書籍とコミックのタイトルについて、「日本ではまだやはり、『“僕”が“夫”に出会うまで』というと、あれ?っという違和感があるのかもしれません」と話す。
読者には、その「違和感」もきっかけの一つにして、手にとってほしいという。
七崎さんは、パートナーの亮介さんを「夫」、そして2人のことを「夫夫(ふうふ)」と呼ぶ。
日本ではまだ同性婚が認められておらず法的な婚姻関係にはないが、支え合って生きる2人の関係は、婚姻関係が認められている異性同士の夫婦ともちろん何一つ違わない。
「LGBTという言葉は広がってきているけど…」
漫画では、七崎さんが小学校や中学校で同級生から受けた、嫌がらせの経験についてもリアルに描かれている。
オンラインでの漫画連載でそのようなシーンを読んだLGBTの若い読者からは「自分も同じような経験をした」「いじめられた」との声が寄せられた。
「私が学生だったのは15年ほど前ですが、学校ではまだそのようないじめがあるんだ…と思いました」
「LGBTという言葉も広がってきて、今の若い世代にとっては少しは住みやすい社会になってきているのではないかな、と思っていましたが、実際に悩んでいる子はたくさんいると実感しました」
電通ダイバーシティ・ラボが昨年末に実施した「LGBTQ+調査2020」によると、「LGBT」という言葉の認知度は約8割と、言葉自体は世間で広がってきている。
10代や20代の同性カップルやトランスジェンダーの人たちが運営するYouTubeチャンネルやTikTokも日常的に目にするようになってきた。
しかし、社会の中での差別や偏見、そして学校でのいじめや嫌がらせはいまだに起こっている。
「そのようないじめはもう、今の時代で終わりにしないといけません」
「多くの人に私の物語を読んでもらって、いじめについても一緒に考えてもらえたらいいなと思います」
友人に「受け入れてもらったから、今の私がいる」
漫画では、自身がゲイであると告白した、友人や母親への「カミングアウト」も大きなテーマの一つとして描かれている。
「カミングアウトしなければ、当然のように異性愛者として扱われ、『結婚しないのか』『孫の顔をみたい』などと言われ、当事者はその度に傷ついてしまいます。カミングアウトの問題は当事者だけの問題ではないのです」
「私は自分の性的指向を隠して生きていかないといけないのかなと思っていました。友人にも言おうと思って言ったわけではなく、勢いに任せて心の声が溢れて爆発してしまったようなカミングアウトをしました。でも、そこで受け入れてもらったから、今の私がいると思います」
意図したカミングアウトではなかったものの、信頼していた友人に受け止めてもらった経験は、七崎さんの自信にもつながった。
「カミングアウトをされたら『受け入れる友人でいるのか』『笑いの対象にしてしまうのか』、自分はどっちでありたいかということを考えながら、読んでいただけたらうれしいです」
そして、もし周りの人にカミングアウトされたら「否定しないでほしい」と話す。
「拒絶」された経験。しかし今では「同性婚の実現を心待ちに」
オンライン連載で最も反響が大きかったのが、コミック本では「番外編」として収められている、母親へのカミングアウトの回だったという。
「ゲイ当事者の方からは『いつか私もカミングアウトしたいと思っているけどなかなか難しい』『なかなか勇気を持てないけどどうしたらいいんだろう』と悩んでいるという連絡がきました」
「母親の立場から、『友達にもゲイの人がいるけど、実際にいま3歳の息子にそう言われたら素直に受け入れられるだろうか』という声もありました」
20歳でカミングアウトした時は、母の理解は得られなかったが、今では家族揃って受け入れ、サポートしてくれている。
母親の考え方が変わったと感じたのは、2017年に七崎さんの地元である札幌市で「パートナーシップ宣誓制度」が始まった時だった。
母親からわざわざ、制度がスタートしたことについて連絡してくれたのだという。
「親として私に『(ゲイであることを)一生隠して生きなさいよ』と言っていたのは、社会で嫌な思いをしてほしくなかったからだと思います」
「でも社会が変われば、嫌な思いはしなくていい。『変わらなくちゃいけないのは私じゃなくて社会だった』と母も肌身で感じたのが、札幌市でパートナーシップ制度ができた時ではないかと思います」
「制度が人の理解を変えた」と感じた瞬間だった。
それ以降、七崎さんと家族は、札幌でのレインボーパレードにも一緒に参加している。
「自分が結婚できないことは当たり前だと思っていた。でも…」
現在、全国のカップルが計5地裁で同性婚の実現を求めて国を提訴している。札幌地裁では今年の3月17日、判決が言い渡された。
地元での裁判の行方に注目していた七崎さんは、裁判の傍聴券を求めて並んだ。
七崎さんだけでなく、両親や妹夫婦なども駆けつけて、家族総出で並んだという。
「家族も一緒に並んでくれ、自分がカミングアウトした時を考えると、状況が進んでいるな…と感慨深いものがありました」
「今では家族そろって同性婚の実現を心待ちにしてくれています。本当に心強いです」
判決ではこの日、法律上、性同士の結婚を認めない現在の法律は、「合理的根拠を欠く差別的取り扱いに当たると解さざるを得」ず、「違憲」だとする判決が言い渡された。
七崎さんは、判決についてこう話す。
「結婚イコール男女がするものと思っていたし、私はゲイなので、自分が結婚できないことは『当たり前』と思っていました」
「でも、札幌の同性婚訴訟の判決もあった今、それが本当に『当たり前』なのか?ということを問う時がきていると思います」
漫画では、七崎さんとパートナー・亮介さんの築地本願寺での挙式、そして区役所に婚姻届を提出しに行き、不受理になったという経験も描かれている。
婚姻届は不受理にはなったが、その時に窓口の担当者が言ったのは「今はまだ、この婚姻届を受理することはできないんです」という言葉だった。
「今はまだ」、その言葉に胸を動かされた。
七崎さんは話す。
「不受理になって悲しい気持ちはあるけど、まだ希望がある。希望を捨ててはいけないと思いました」
「法的な部分など、難しい問題も山積みですが、同性婚に関しては今すぐにでも実現してほしいです」
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同性婚の実現を求めて全国のカップルが国を訴えた裁判や、各地でのパートナーシップ制度の広がりなど、少しずつ社会が変わり始めている今だからこそ、「より良い未来に生きる私たち」に向けて、「2021年の私たち」からのメッセージを届けます。
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