ロサンゼルス現地時間5月21日、パンクロックバンド、ザ・リンダ・リンダズのメンバーが、自宅の居間で演奏している。靴下を履いて飛び回り、髪の毛が顔を叩くのもお構いなし。
一見ありふれた午後のようだが、10代のメンバーたちにとっては、夢のような時間だ。
バンドメンバーは、10歳~16歳のアジア系アメリカ人とラテン系アメリカ人。ルシアとミラは姉妹、エロイーズはそのいとこ、ベラは親友だ。
4人がロサンゼルス市立図書館で演奏した曲「レイシスト、セクシスト・ボーイ(人種差別的で、性差別的な男子)」が、ネット上で話題になっている。
「本当にすごくて、圧倒されました」とルシア(14)は自宅の裏庭でBuzzFeed Newsに話す。
「来週演奏できる?」とダイレクトメッセージが殺到しているそうだ。当の本人は「え? 来週? 学校だけど」。
20日、8年生(日本では中学2年生にあたる)のルシアは、科学のオンライン授業の真っ最中だった。父親がスタジオから家にきて、バンドの演奏がネットで話題になっているぞ、とルシアと妹のミラ(10)に伝えた。
「信じられませんでした」とルシアは話す。
「『え? どういうこと?』って感じで、インスタグラムを見てみたら、フォロワーが10万人になっていて驚きました」
5月28日時点で、ザ・リンダ・リンダズのインスタグラムアカウントのフォロワー数は、22.6万人に増えている。
SNSで何百万回も再生されている動画は、ミラの曲紹介から始まる。
「中国人に近寄らないように父親に言われた」と学校で男子に告げられた経験をもとに曲をつくった、とミラは話す。
「私は中国人だよ、と伝えると、その子は後ずさりしました」と5年生のミラは言う。
「エロイーズと私は、この経験にもとづいて曲を書きました」
「これは、その子と、この世界にいるすべての人種差別的で、性差別的な男子についての曲です」とエロイーズ(13)は演奏を始める前に言う。ヴォーカルとベースを務めるエロイーズが歌い始める。
「Racist, sexist boy, you are a racist, sexist boy(レイシスト、セクシスト・ボーイ、君は人種差別的で、性差別的な男子だ)」耳をつんざくような激しさだ。
これは、ロサンゼルス市立図書館で行われたアジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産継承月間プログラムの一環で、ザ・リンダ・リンダズが演奏した8曲のうちの1曲。8曲のうち6曲は、オリジナルだ。
このミニコンサートは録画され、5月4日にネット配信されたのだが、21日に同図書館が「レイシスト、セクシスト・ボーイ」の動画を投稿したところ、ネット上で大騒ぎになった。
何千もの人が動画をシェアして、その中にはオークワフィナやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーなどの有名アーティストも含まれる。
「ものすごく尊敬する人たちが再投稿してくれていて、『わあ!』って感じです。こういう方々とこんなに近くで接することができるなんて、これまで考えたこともありませんでした」と、ギター担当で、たまにベースも弾くベラ(16)は話す。
動画が拡散され、バンドは一晩で有名になったが、これはまぐれ当たりではなかった。ザ・リンダ・リンダズは、ここまで実績を積み上げてきた。
2018年にロサンゼルスで開催されたガールスクール・フェスティバルで、クリスティン・コントロールのピックアップバンドとして演奏したのが初めてだった。同年、ハイランドパークのザ・ハイ・ハットで一夜興行をするのに、ベラがミラ、エロイーズ、ルシアを誘い、それから一緒に活動している。
バンドの名前は、2005年に公開された山下敦弘監督の映画『リンダ リンダ リンダ』を観て決めたという。映画は、学祭でパンクロックバンド、ザ・ブルーハーツの曲を演奏する10代の女の子たちを描いている。映画のタイトルはザ・ブルーハーツの曲「リンダリンダ」に由来しており、ザ・リンダ・リンダズも同曲を演奏している。
ザ・リンダ・リンダズはパンクロックバンド、ビキニ・キルの前座を務め、ザ・ディルス、ベスト・コースト、アリス・バッグなどと同じステージに立ってきた。
オリジナル曲の「クラウディア・キシ」は、2020年の夏に放映されたNetflixドキュメンタリー『クラウディア・キシ倶楽部』のために書いたものだ。2021年3月にリリースされたNetflix映画『モキシー〜私たちのムーブメント〜』では、ビキニ・キルの「Rebel Girl」とザ・マフスの「Big Mouth」をカバーしていて、同映画にも出演している。
2020年の米大統領選の前には、人々に投票するように訴えるシングル曲「Vote!」を発表した。
同年12月、初の4曲入りのEPを発表し、この中には、ベラ作の自分のシャム猫について書いた曲と、エロイーズ作のコロナ禍で友だちに会えなくてさみしい気持ちを書いた曲が収録されている。
「レイシスト、セクシスト・ボーイ」の動画は、アジア系アメリカ人に対する憎悪犯罪(ヘイトクライム)が増えている中で撮影された。これは、新型コロナの大流行に伴い、人種差別をしてのアジア人に対する攻撃が増加したことによる。
ザ・リンダ・リンダズのメンバーは自分たちの祖父母のことが心配になった。一時は、「無力感」を覚えたこともあり、状況が改善することなどあるのだろうかと考えた、とルシアは話す。
「(人種差別やヘイトクライムは)絶対にいけない、というのを理解できない人が、常にいるようです」とルシアは言う。
「私たちはまだ若くて、まだ学生で、全部を知っているわけではありませんが、大切なことを知っています。でもその大切なことを、受け入れられない人がいます」
「こういった感情はみんな、ずっと抑えつけられていた。だから大声で叫ぶと気分がいいです」とエロイーズは言う。
「レイシスト、セクシスト・ボーイ」を作るきっかけとなった出来事が起きたとき、新型コロナウイルスのことで、人々が中国や中国人を責めているのを、ミラは知らなかったそうだ。
人種差別を経験したのは、ミラにとってあの出来事が初めてだった。「どう反応したらいいのか、まったく分かりませんでした」とミラは話す。
「どうやって言い返す?」姉のルシアが割って入る。
「どうする? めちゃくちゃかっこいい歌を書く以外に」
その日、ミラとエロイーズは、車の中で歌詞を考え始めた。
そのあと家でアイデアに行き詰まったため、5時間ほどZoomで話し合い作りあげたそうだ。「書いたことで、すっきりしました」とミラは言う。
最初、ハロウィーン用の投稿でこの曲を演奏した。そのときは、「Idiotic Boy(ばか男子)」という曲名だったが、差別的にならないよう歌詞を書き直した(idioticは知的障害者に対する差別的な用語でもあるため)。
「ゴールは、この世界をよりよい場所にすることです」とルシアは話す。
「この曲は、実際に起きた体験を共有していて、人々に学んでもらおうとするもので、その人の知性を理由に傷つけようとするものではありません」
最近は、たいていの時間メンバーで曲を書き、新しい曲を録音して過ごしているそうだ。近い将来オフラインで、観客の前で演奏できることを願っているという。
でもまずはみな、この学年度の授業を終えて、期末試験に合格しなければならない。
「夏休みはもうすぐそこ。待ち遠しいです」とルシアは言った。