ネットや広告の「包茎はダメ」という呪い
包茎は不潔でかっこ悪いし、おまけにパートナーに嫌われる。そんな広告が青年向け雑誌や新聞に溢れている。
しかし今、包茎に対する新しい見方が広がりつつあるという。

泌尿器科医の岩室紳也さんは、そもそも男性の多くが「包茎はダメ」と考える原因について、次のように話した。
「女性に『包茎とむけちん、どちらがいいですか?』と聞いても、女性は困るんですよ。なぜならそんなことに興味はないからです。
ところが男性たちはなぜか、むけたほうがいいと思っている。ネットで『包茎』を検索すると、そうした情報がたくさん出てくるからでしょう」
男性は広告やネット上の情報のせいでそう思い込んでいるだけだという。
しかし、広告にはデメリットばかり書かれているし、やはり手術をしてでも「むけちん」になったほうが良いのではないだろうか。
仮性包茎の手術は「必要」か
一般に「包茎」と呼ばれる状態には大きく分けて2種類ある。1つは、包皮を翻転させる(いわゆる「むく」)ことが困難な状態で、治療が必要となる。一般病院での治療には保険も適応される。
一方、勃起すれば皮がむけ、性生活に支障がない「仮性包茎」の治療の必要性については、医師の間でも意見が分かれる。

仮性包茎の手術に対する医師らの意見を聞いてみた。
賛成派
性器専門クリニック・本田ヒルズタワークリニックの本田昌毅医師は、仮性包茎の治療手術に対して肯定的な意見を示す。
「(真性包茎はもちろん)仮性包茎の治療も必要と言えます。
露茎(いわゆる『むけちん』)のおちんちんにくらべ、包皮の中に高温多湿な環境がうまれるので、ウイルスやバクテリアの温床になりやすいんです。
セックスの際に包皮の粘膜からヒトパピローマウイルスに感染して、子宮頸がんの原因になるという研究結果もあります」
「また、老後に介護を受ける際のエチケットなどを考えても、仮性包茎を治すことにはメリットしかありません」
反対派
泌尿器科医の石川英二さんは、「病気」ではない仮性包茎の積極的治療が不要であるという姿勢だ。
著書『切ってはいけません!―日本人が知らない包茎の真実』の中で、かつて欧米で礼賛された割礼(幼少期の包皮切除)のメリットの乏しさについて言及している。
また、「包茎治療がセックスの質を向上させる」という宣伝文句に矛盾する調査結果も示している。
本田医師が指摘したヒトパピローマウイルスのリスクについて聞くと「人種や宗教などの文化面などで異なる」ため立証は難しいと話した。
このように各派の主張をみると、現段階では結論に達しておらず、手術のメリットやデメリットを断言することは難しいことがわかる。
仮性包茎は「少数派」で恥ずかしいこと?
健康面や性生活の質向上のためだけでなく、包茎であること自体に自信を持てず、手術に踏み切る人がいる。
包茎であることを恥ずかしがり、公衆浴場に足を運べないという声まである。
確かに、かつて日本では包茎が少数派とされていた。しかし、石川医師は上述の著書の中で、解剖学者・足立文太郎の調査を示しながら、日本人の多くが包皮に「くせ」をつけることによって、平常時でも剥けている状態を維持できる可能性を示唆する。
また現代の状況について、岩室医師は日本人男性の7割は、勃起していないときは包茎だと指摘する。
日本において大多数の男性が仮性包茎であるこんにち、「周囲と違って恥ずかしい」ということはないはずだ。
一方、新たな「少数派」神話も生まれている。
包茎治療を行う国内最大手クリニックである、東京都の上野クリニックの公式サイトでは「日本人は外国人に比較して包茎になりやすい」とある。日本人に包茎が多いというのは本当だろうか?

日本人男性は外国人と比較して包茎になりやすい傾向にあるようです。
海外の場合、宗教上の理由などで小さな頃に「割礼」を行う習慣があるのですが、日本ではこの習慣は一般的ではありません。「割礼」とは、オチンチンの皮を切って、亀頭をむき出しにする儀式で、包茎の予防効果もあります。
WHO(世界保健機構)の報告によれば、世界全体で割礼を受けているのは3人に1人ほど。
世界の割礼人口の多くは、西アフリカや中東などに集中している。主にユダヤ教とイスラム教が多数を占める国や地域で、宗教的「割礼」が行われているからで、80%以上の男性が受けている。
かつては割礼の比率が高かったイギリスやオーストラリア、カナダなどの先進国も今では非割礼が主流となっている。
一方、先進国の中でもアメリカや韓国などでは、慣習的に子供の包皮切除がなお多く行われている。
包茎の定義にもよるが、「世界的に見ても日本人には包茎が多い」と言うことは難しい。
むしろ世界的な包茎人口は増えつつあると見ることもできる。
失った包皮を取り戻そうとする人も
また海外では、生後直後に包皮切除を受けた男性が専用の器具や手術によって包皮を再生させるという例もある。主にセックスの質の向上などを目的に行われるという。
「仮性包茎よりもむけちんがいい」という価値観はもう古いのかもしれない。
それでも手術を受けるなら、クリニック選びを慎重に

手術のメリットに疑問があるだけでなく、実は少数派でもない仮性包茎。それでも手術受けたいという人は、リスクを認識してから臨むべきだ。
独立行政法人国民生活センターは昨年6月に調査資料「美容医療サービスにみる包茎手術の問題点」を発表した。
過去5年の男性からの相談のうち、半数以上にのぼる1092件が包茎手術に関するものだった。
治療に問題があったケースだけでなく、広告に謳われる予算を遥かに超えた料金で即日契約を結ばされたという事例もある。
本田医師はトラブルの絶えない包茎治療業界について、次のように話した。
「価格競争があり、執刀医の人件費も安く抑えなければいけない。初心者同然の医師が執刀しているだけでなく、彼らを指導するのもまた素人である場合がある。
中には小帯(性感帯としての役割を持つ部分)を切ってしまうような医師もいるので、そんなことをするくらいなら手術しないほうが良いというケースはある」
さらに、安全なクリニックの選び方について「総院長が個人名を出してクリニックをやっているところは信用できる。一方で、医師の他にカウンセラーがいるところがあるが、何かあった時に責任の所在が曖昧になって危険」だと話した。
また、国民生活センターは費用の安さを前面に出したクリニックや、術前後の写真が、広告やホームページにみられる医療機関(医療広告ガイドライン・医療ホームページガイドラインに違反する可能性がある)を検討対象から外すよう注意を促している。
手術を受ける際は、トラブルの可能性も考慮した慎重な検討が必要となる。
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