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「配偶者」の耐えられない重さ 結婚でしかできないことを問われて

同性婚が認められていない日本。パートナーシップを営む二人の生活や将来の安心のために、既存の法律や制度を活用する書類作成を広めてきた行政書士が感じている限界をお伝えします。

相手の世話や相続ができれば結婚状態にそっくり?

結婚でしかできないことはなんですか?

それが編集部からのお題でした。

同性間での結婚ができないなか、私はパートナーシップを営む二人の生活や将来の安心のために、既存の法律や制度を活用して、まずできることをしようと呼びかけ、取材や著作に取り組んできました。実務のサポートのために行政書士の事務所を開いてからは6年になります。

私は結婚の「効能」(?)を、つぎのようにまとめています。

  1. 公証:ふたりの関係がたんなる友人同士などではない、人生上かけがえのない、特別のものであることを証明し、社会的にも承認される。
  2. 世話:相手が心身の故障があったり判断能力が低下したとき、その療養看護にあたったり、病院や介護施設などの手配をしたり(身上監護)、本人にかわって財産管理にあたれる権限。
  3. 相続:相手が死亡したとき、その所有するものを承継できる。
  4. 再生産:子どもを産み、育てること。


結婚をすることで、この公証、世話、相続、そして再生産が安定的に、確実に行なえると了解されています。逆に、公証、世話、相続、再生産ができるのであれば、「結婚」しているのとおなじ状況だともいえるわけです。

自己決定を契約や遺言などの書面で表示

そのための方法は、なにかあるのでしょうか。

世話の内容は、相互の委任契約として交わすことができます。認知症や事故等で判断能力が失われ契約の能力がなくなったときに備えては、相手をあらかじめ代理人に指定して権限を与えておく「任意後見契約」があります。

なお、こうした財産管理や契約の代理は婚姻することでできるわけではなく、現在は夫婦間でも役所や銀行等では本人確認や委任状が求められます。すでに本人に判断能力がないとなれば、裁判所に申し立てて後見人に指定されることが必要です。

相続は、ご存じ、「遺言」があります。財産処分の指定とともに、パートナー等を遺言執行者に指定しておくことで、死後の片付け等にも当たらせることができます。

そしてふたりの関係を周囲に承認してもらったり第三者に示したりするには、結婚式を挙げることもよいでしょうし、パートナーである意思をきちんと書面にしておくこともよいでしょう。

現在は本人の自己決定が尊重され、意思が書面等で第三者にも表示されれば、それに従った対応をしてもらえる時代です。とかく言われる病院の締め出しや死に目に立ち会えないといった話も、相手を医療のキーパーソンに指定し、療養看護や同意書への署名権限をあらかじめ与えておくことができます。

個人情報保護を理由にパートナーへの病状説明などを拒否する病院には、本人がすでに同意済みの相手であると書類で示せば、病院も納得して対応できるでしょう(逆に、家族だから話すというだけでは、法的には第三者への無断開示にあたる場合もあります)。

住宅賃貸での困難も、二人の関係が事実婚と同様のものであることをなんらかの書面で証明できると、対応が進みやすい。同性カップル間での子どもの養育については、共同養育の委任や合意の契約を作成することが、第三者(保育園や諸学校、病院等)への対応にも有効だと思います。

私的自治の原則だけでは越えられない「配偶者」の壁

法律と制度を味方に、自分たちの暮らしと権利を守ろう。現行法下でもかなりのことができるのだから、それすらやらないで情緒的に「生きづらい」とだけ言うのはまだ早い。仲間たち、もっと勇気をもってーー!。

そう呼びかけて、仕事に取り組んできました。

そのうえで、なお自由な契約と周囲がそれを認める私的自治の原則だけではどうにも超えられない壁について、これからご紹介していこうと思います。

日本は、婚姻意思のある適法(法定年齢以下とか肉親同士でないなど)な二人が役所に届出を提出することで成立する届出婚主義を採用しています。婚姻は戸籍などで公示され、法で保護され、パートナーは「配偶者」と呼ばれます。

配偶者にはその地位にもとづき、つぎのような法的保護が与えられます。

【相続税と配偶者控除】

遺産の承継には既述のように遺言が活用でき(相続ではなく遺贈といいます)、そのさい贈与税ではなくお得な相続税の計算方式が適用されます。

親族が相続する場合は遺産の評価にさまざまな軽減措置が設けられ、遺族の生活安定のため相続税額が少なく、場合によってはかからないようになっています。

しかし、親族よりどれだけ親密な仲でも、法律上は他人である同性パートナーが遺贈を受ける場合はそうした軽減措置が一切なく、さらに算出された相続税を2割増しで払います(それだけ親族が優遇されている)。

そもそも配偶者が相続するときは、1億6000万円までの遺産は非課税です。

収入がない(年収103万円未満)配偶者を自分の扶養に入れ、そのぶん所得税を軽減してもらう配偶者控除は、当然、同性パートナーの場合には適用がないこともよく知られています。

【家賃やローンの分担】

同居する場合、二人で家賃(賃貸の場合)やローン(購入の場合)を折半することが多いでしょう。

同性カップル相談で家購入のご相談も多いなか、一人の名義で賃貸契約したり、一方の所有名義になっているとき(多くがそうでしょうが)、もう一方が相手に渡すお金は、税法上どう考えればいいのでしょうか。

賃貸なら、主たる賃借人からの一部転貸借?

ローンなら、所有者の住宅に居住させてもらっている家賃? 所有者には不動産所得が生じている? そうなるとその住居は居住用ではなく事業用として、住宅ローン控除も取り消される??

民法には、夫婦は「婚姻から生ずる費用を分担する」(761条)とあり、配偶者間で家賃やローンの分担はあたりまえのことでなにも問われないでしょう。税務署が家庭内にまで目を光らせることはないでしょうが、同性カップルの同居には税務上の不安定さもあるように思われます。

なお、税法上の配偶者はすべて法律婚にかぎり、同性カップルも事実婚カップルもともに対象とはなりません(所得税基本通達2−46 )。

また、住宅ローン控除は、本人が転勤等で居住しないとき、配偶者が居住している場合は継続しますが、パートナーではその適用がありません(詳細は税理士にお尋ねください)。

社会保障制度の恩恵や共同親権も

【社会保障制度の被扶養者】

健康保険や年金など社会保障制度において、配偶者の収入が130万円未満の場合、自分の会社の健康保険や厚生年金で被扶養者にすることができます。

被扶養者にすると、

  1. 会社の健康保険で病院等にかからせることができ、みずから国民健康保険に入る必要がない
  2. 3号被保険者として基礎年金部分が厚生年金で負担され、みずから国民年金に入る必要がない


また、一緒に生計を維持している配偶者が亡くなった場合、年収850万円未満ならば、子どもがいなくても相手の厚生年金から遺族厚生年金(年額40万円ぐらい)が出ることがあります。

社会保障関連の法律では、配偶者にはつねに「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」という注記があり、事実婚の場合も適用されるのが特徴です。

しかし、それが異性のみで同性も含むのかは、まだ公的に判断されたとは聞いたことがありません。

介護休業法でも、介護休業をとることができる配偶者にはおなじ注記があります。年上のパートナーの介護のために、会社についにカミングアウトしてまで介護休業を申請したゲイがいます。しかし、会社は認めず、やむなく相手と養子縁組(!)して、子として介護にあたろうとしたそうです(残念ながらその1か月に死去されたそうですが)。 

今後、こうした事例を一つひとつ洗い出し、検討してく必要があるでしょう。

【共同親権】

未成年の子は婚姻している父母の共同親権に服します(民法818条)。同性カップルから子は生まれませんが、連れ子がいるとかなんらかの方法で出産した場合、生母には親権がありますが、法律上、他人であるパートナーに親権はありません。

その子と養子縁組し、法律上の親として親権をもつことはできますが、逆に実親の親権が失われます。他人の産んだ子どもを養子にする場合も、夫婦養子ができず一方としか縁組できません(かつ裁判所の許可が必要)。

6歳未満の子を養子とし、実親との血縁関係を終了させる特別養子縁組は、配偶者のある者でなければできません。

既述のように、共同養育については委任契約や合意契約の活用が考えられますが、婚姻制度の外で共同親権者としての立場は難しそうです。なお、自分の万一に備え、遺言でパートナーを親権者がわりの未成年後見人にしておくことはできます。

外国人の在留資格や別れた後の保障も

【外国人の在留資格】

憲法上、外国人に入国の自由は保障されるものではなく、在留の権利も法務大臣の広汎な裁量によるとするのが判例の立場です(マクリーン事件)。

外国人が日本に入国・滞在するには、仕事や留学などのための在留資格を得るか(その活動しかできない)、日本人の配偶者等の身分・地位の在留資格を得る必要があります。

仕事・留学等で来日し、日本人と恋に落ちても、結婚することができないため、その活動が終われば帰国・別離を余儀なくされます(在留資格一覧表)。

逆から言えば、海外で同性婚をし、日本へ帰国しても、パートナーは独自の在留資格で入国するほかはなく、日本人の配偶者としての在留資格は与えられません。

本国で法的結婚をしている外国人同士のカップルについて近年、他方を帯同する場合は「特定活動」というきわめて裁量範囲の広い資格で対応するようになりましたが(人道上の配慮だそうです)、一方が日本人の場合は一切対応がありません。

今回の集団訴訟でも、日本人と外国人のカップルが立ち上がっているのは、そのためです。

【別離時の保障】

結婚が不幸にして破綻する場合もあります。共有財産の分割(財産分与)やその原因を作った側からの損害賠償金(慰謝料)の支払いが行なわれます。

その話し合いがうまくいかないとき、家庭裁判所での調停や裁判を利用することができますが、同性間での利用は困難と考えられています。

破綻時にはそれまで黙過されてきた二人のあいだの格差が顕在化し、弱い立場のものーー経済力がない、年下、外国人、有病・障害者などーーに、不利益が押しつけられがちです。

結婚法は同時に離婚法であり、二人の本質的平等を守るためのものですが、結婚の枠外にある同性パートナーシップは、その対象でもないのです。

養子縁組へのチェックが厳しくなっている

いかがだったでしょうか。婚姻の実質面である「世話」や「相続」は契約や遺言の活用で乗り越えることができるものがある一方、配偶者の地位に付随する保護には絶大なものがあります。

そして、いくら書面で実質をやりくりしても、婚姻によって得られる配偶者の地位という証明効果はだれにも一目瞭然。昔の唄の文句ではありませんが、「妻という字にゃ勝てやせぬ」です。

もちろん、税制や社会保険の被扶養者扱いは、両者が収入をもち経済的に自立・対等であれば関係ないともいえますが、共同親権や外国人の在留資格に鮮明なように、法律上は同性カップルを想定していないため、いまも無権利・不平等状態におかれた人が存在しつづけています。

ちなみに、同性間での婚姻に反対・懐疑する人のなかには、養子縁組を利用すればいいと主張する人もいます。

たしかに縁組すれば、法律上の親子として病院などでの事実的対応はもちろん、税制や社会保障、相続など法的対応にも問題は少ないといえます(養子が先に亡くなる場合、養親と実親が相続人になるなど、面倒な場合もあります)。

しかし、養子縁組は本来、親子関係となる縁組意思が必要であり、法務省は縁組意思のない養子縁組を防止する通知を発出して、虚偽の養子縁組には戸籍事務にあたる市区町村長に不受理の指示も行なうことを示唆しています。

同性婚を認めると不法利用や悪用で移民が増える、養子縁組すれば(同性カップルの不利益は)みんなフォローされるんだけどね、というツイートを見かけましたが、それこそ虚偽養子、養子縁組の不法利用です。

婚姻のできない二人のあいだに法的関係を導き出す方法として、私は養子縁組の利用を否定していませんが、かならずしも安全な方法でないことは留意する必要があるでしょう。いちばんよいのは、こうした方法をとらずとも、同性間で婚姻ができるようにすることです。

小さなウソは心を腐食させる

現在、(男女が)婚姻すると、現行法ではどちらかの氏を選択し、どちらかが戸籍筆頭者(戸籍)や世帯主(住民票)となり、住民票で他方は世帯主との続柄で表示されます。

相手の肉親とも「姻族」の関係となり、法律上、6親等内の血族と3親等内の姻族には扶養義務があります。夫婦間には、同居・協力・扶助の義務があり、ほかにも貞操義務など判例上、信頼を破壊させた責任が問われることもあります。

ちなみに、結婚ができれば遺言がなくても配偶者は相手の遺産を相続できますが、通常、子がいない同性カップルの場合、現行法上、配偶者(パートナー)とともに故人の親が存命であれば親に3分の1、親死亡の場合はきょうだいに4分の1の法定相続分があります。

スムーズな遺産承継にはその人たちの協力が必要です(具体的には、相続放棄や遺産分割協議書への署名捺印が必要です。遺言でパートナーへの全相続を指定すればそれらは不要)。

婚姻制度に入ることは、「よいこと」ばかりではなく、こうした婚姻の課題や「わずらわしさ」も同時に引き受けることを意味します。それらも了解したうえで、今回の集団訴訟アクションは、婚姻したい人が性別だけを理由に婚姻できないことに問題提起をしています。

同性カップルに「特権」を与えよというのではない、マイナスをゼロへ、おなじ出発点に立たせてほしい、と訴えているのだと私は受け止めています。

二人の関係が認められず、人に問われるごとに口を濁したり、親族や学校・会社など周囲の親しい人にも本当の自分をおし隠して小さなウソ(異性に置き換えて話したり)をつき続けながら生きることは、いつしか人の精神を内がわから疲弊させ、腐食させていきます(こちらの上下のストーリーもぜひご覧ください)。

伴侶のあるなしにかかわらず、そうした思いの人はきっと少なくないでしょう。

日本を、人の心を傷(いた)めない国とするきっかけへーー。

それが、私がこの裁判に寄せたい言葉です。

【永易至文(ながやす・しぶん)】NPO法人事務局長、ライター、行政書士

1966年愛媛生まれ。進学・上京を機にゲイコミュニティを知り、90年代に府中青年の家裁判などゲイリベレーションに参加する。出版社勤務をへて2001年にフリー。暮らし・老後をキーワードに季刊『にじ』を創刊。2010年よりライフプランニング研究会、13年NPO法人パープル・ハンズ設立、同年行政書士事務所開設。同性カップルやおひとりさまの法・制度活用による支援に注力。