コカイン中毒死が急増:原因は合成オピオイド「フェンタニル」の混入

    コカインによる中毒死は、2015年から2016年にかけて52%増加した。BuzzFeed Newsは、この異常な傾向には「フェンタニル」が関わっていると分析している。

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    Debanjali Bose / BuzzFeed News

    エル

    2017年10月末のある夜、マサチューセッツ州ホルヨークに住むエル(仮名)は、自宅の浴槽の縁に腰かけてコカインを打ったあと、意識朦朧となっていた。

    いつもなら、コカインを打つとすぐに強烈な感覚が押し寄せる。不安や妄想、さらには幻覚といったコカインの悪影響も経験したことはあったが、この夜は何かが違っていた。

    エルは、「本当に恐ろしくなりました」とBuzzFeed Newsに語る。「意識を失いそうになったかと思うと、今度は最高の気分になるのです。極度に警戒し、高揚しました。心臓がドキドキし、汗が出ました。呼吸も荒くなりました。そしてまた、気分が落ち込んでゆっくりになるのです」

    そのうち、何が起きているのか理解した。コカインにフェンタニルが混ざっていたのだ。ヘロインの50倍強力な合成オピオイドだ。

    エルはフェンタニルのことを知っていた。何年もの間、彼女はヘロインと、手に入るときはフェンタニルなどのオピオイドを使っていたからだ。しかし1年前、成人した息子がヘロイン中毒になったあと、コカインに変えた。「ヘロインはきっぱりやめるつもりでした。やめられるということを、息子に見せてやりたかったのです」。オピオイド離脱症状を抑えるため、麻薬中毒患者のためのクリニックに毎日通ったが、同時にコカインも使い始めた。

    フェンタニルで恐ろしい経験をした夜、運良くエルの友人が近くにいて、救急車を呼んだり、オピオイドの過剰摂取に効くナロキソンの鼻腔用スプレーを噴霧したりしてくれたのだ。多くの人は、彼女ほど幸運ではない。

    “Something dramatic is going on behind the scenes.”

    米疾病対策センター(CDC)によると、コカイン中毒死の数は何年もの間変化がなかったが、2015年から2016年にかけて52%激増した。この傾向は、連邦政府による最新のデータでも続いている。現在、年間約1万3000人がコカインで亡くなっている。鎮痛剤やヘロインに匹敵する勢いだ。

    2018年5月にジョージア州アトランタで開催された、ドラッグ過剰摂取の危機を話し合う会議で、「National HIDTA Assistance Center(全米麻薬密売多発地域対策支援センター)」で「National Emerging Threat Initiative(新たな全米的脅威への対策)」を担当するジョン・イーディーは、「このような事態の背景には、何か劇的なことが起こっています」と語った。

    研究者たちは、なぜコカインの過剰摂取が急増しているかを完全に解明してはいないが、最大の要因のひとつがフェンタニルであることはわかっている。かつては、あまり知られていない、病院で使われる薬のひとつだった合成オピオイド「フェンタニル」は、わずか5年の間に違法麻薬市場を乗っ取りプリンストム・ペティなどの有名人を含む、何万人もの人々の命を奪った。

    薬物の種類別過剰摂取による死亡者数

    Scott Pham / BuzzFeed News / Via CDC

    CDCは、フェンタニルやその類似体、トラマドールなど、化学的に製造された「合成オピオイド」による中毒死について報告している。2017年以降は暫定的な数値であり、CDCの「人口動態統計速報」および、調査中のケースが含まれていないためおそらくは少なく見積もられている「過剰摂取による中毒死」がベースになっている。

    フェンタニルを単体で用いる人もいるが、たいていは、ほかの薬物と組み合わせて用いられる。知っている場合もあれば、知らないでそうしている場合もある。フェンタニルがアメリカで初めて登場したときは、多くの場合ヘロインと混ぜて使用されたため、ヘロインによる中毒死が急増した。ここ2年ほどは、ヘロイン以外の薬物にも広まっている。

    押収された薬物に有害な成分が含まれていないかをテストしているNMS Labs社(ペンシルベニア州ウィローグローブ)の法医学者マイケル・リーダーズは、「フェンタニルについては、コカインはもちろん、メタンフェタミン、ピル、その他多くの物に混ぜられているのを目にします」と述べる。

    CDCによって報告されたフェンタニルを含むコカインの過剰摂取は、2012年には200件未満だった。それが、2016年までには4100件を超えるまでに膨れ上がった。コカインによる中毒死の約40%だ。

    コカインと合成オピオイド(フェンタニルなど)の過剰摂取

    Scott Pham / BuzzFeed News

    CDCは、フェンタニルおよびトラマドールなどを含む「合成オピオイド」による中毒死を報告している。

    BuzzFeed Newsが分析したところでは、フェンタニルは、東海岸の多くの地域でコカインに混入されている。少なくとも8つの州、特にニューハンプシャー州、マサチューセッツ州、メイン州では、コカインによる中毒死の多くで、フェンタニルが使われている。しかし、西海岸などそれ以外の地域では、この2つの薬物の混合はほとんど見られない(われわれが行った分析の方法や全データについてはこちらをご覧いただきたい)。

    フェンタニルが、なぜコカインやメタンフェタミンの市場に入り込んできているのかは不明だ。警察官、公衆衛生当局職員、科学者、医療相談員など12名を超える人々にインタビューしたところ、さまざまな可能性が考えられるということだ。経済学の基本だと言う人もいる。つまり、より強いドラッグへの要求が強まり、「スピードボール」(コカインとヘロインを混ぜたもの)のように、薬物を故意に混ぜることになったというのだ。また、「もっと中毒になってほしい」とひそかに願う売人が犯人なのだ、という人もいる。あるいは、家で勝手に調合した人たちが、たまたま間違えただけかもしれないという意見もある。

    なぜこうした事態が起きているのかはさておき、フェンタニルを混ぜたコカインの増加は、黒人社会にこれまでにない打撃を与えているようだ。フェンタニルとコカインの混合物の過剰摂取による中毒死の割合は、ほかのどの人種よりも黒人が高い。

    依存症の専門家の中には、過剰摂取の問題がアメリカの白人とあまり関係がなくなると、政府は、ドラッグ使用者を治療するのではなく刑務所に入れるだけになるかもしれないと心配する人もいる。クラック・コカインが流行った時代(1980年代頃)の厳しい政策に戻ってしまう可能性があるというのだ。

    「Chicago Urban League(シカゴ都市同盟)」のキャシー・ケイン=ウィリスはBuzzFeed Newsに対し、「フェンタニルのせいで命を落とす人が増えているのは、有色人種です」と語る。都市部では、何十年も前からヘロインやコカインの問題を抱えてきたが、薬物中毒の治療や就労支援などの支援は現在、地方の白人コミュニティに焦点が当てられている、と同氏は指摘する。


    フェンタニルとコカインを混合した薬物の過剰摂取は、北東部で大きな問題となっているが、多くの薬物使用者はそれに気づいていない。

    フェンタニルを混ぜたコカインの過剰摂取による中毒死の割合は、多くの州で劇的に増加している。

    2016年には、フェンタニルなどの合成オピオイドは、ニューハンプシャー州におけるコカイン関連の過剰摂取の83%以上に見られた。マサチューセッツ州では、コカイン関連の中毒死の70%、メイン州では64%近く、コネチカット州では54%に、合成オピオイドが使われていた。

    2016年、フェンタニルなどの合成オピオイドを使ったコカイン関連中毒死の割合

    Scott Pham / BuzzFeed News / Via CDC

    灰色に塗られているのは、検視官が、コカインとフェンタニル両方を使用した中毒死が20件未満であると報告した州だ。CDCは、正確性とプライバシーの問題により、これらの州における中毒死の割合を発表していない。

    少なくとも8つの州で、フェンタニルとコカインの組み合わせは非常に一般的で、コカイン使用による中毒死の大部分を占めているようだ。

    コカイン関連の中毒死の50%以上が、フェンタニルなどの合成オピオイドも使っていた州(2016年)

    Scott Pham / BuzzFeed News / Via CDC

    検視官によって報告されたデータの質は、州によって異なる。CDCは、上の地図のペンシルベニア州やミシガン州などいくつかの州では、使用された薬物を挙げることなく、「薬物の過剰摂取による中毒死」と分類する傾向にあることを指摘している。灰色に塗られているのは、検視官が、コカインとフェンタニル両方を使用した中毒死が20件未満であると報告した州だ。CDCは、正確性とプライバシーの問題により、これらの州での中毒死の割合を発表していない。

    麻薬取締局(DEA)の監督化学者(supervisory chemist)を務めるジル・ヘッドはBuzzFeed Newsに対して、「北東部の北の方では、フェンタニルをほかの薬物と組み合わせて使用する例が最も多く見られました」と語る。

    例えばニューヨーク市では、2016年のはじめに、コカイン関連の中毒死の30%が、ヘロインではなくフェンタニルを使用していた。同じ年の第3四半期までには、それがおよそ50になった。コネチカット州では、2017年7月のたった1日のうちに、フェンタニルを混ぜたクラック・コカインの過剰摂取が7件あり、そのうちの1件は死に至るものだった。検視局のデータによれば、ニューハンプシャー州では2012年以降、オピオイドと組み合わせたコカインによる中毒死が、コカインのみによる中毒死を上回っている。

    東海岸は、フェンタニル類似品の温床でもある。現在の流行のもっとも初期に報告された類似体のひとつであるアセチルフェンタニルは、2013年にロードアイランド州で初めて登場した。こうした類似体の中で最も厄介なのが、カルフェンタニルだ。フェンタニル自体は、ヘロインの約50倍強力だが、カルフェンタニルは5000だ。フロリダ州マイアミ・デイド郡では、コカインとカルフェンタニルを混合したドラッグにより、2016年に少なくとも84人が亡くなった。ほかのどの都市よりも多い。

    As little as 2 milligrams of fentanyl might lead to a fatal overdose.

    これらが致命的なのは、強力だからだけではなく、どんなかたちで混じっているのかが予測不可能だからでもある。わずか2ミリグラムのフェンタニルでも、過剰摂取による死をもたらす可能性がある。しかし、ドラッグの売人たちが、科学者のような正確さで調合することはあまりない。

    ドラッグ使用者の中には、自分が使うドラッグの中にフェンタニルが混ざっていることに気づく人もいる。ニューヨーク市保健精神衛生局のデニス・パオンが最近あるカンファレンスで発表したところによると、ニューヨーク市では、街で売られているさまざまな粉末状ドラッグの中に、濃縮されたフェンタニルが混入しており、混ざり方にばらつきがあって、チョコチップクッキーに入っているチョコチップのようだと苦情を言う使用者がいるという。

    しかし、多くのコカイン使用者はこうした混入に気づいていない。ニューハンプシャー州マンチェスターの消防署に勤める救急隊員クリストファー・ヒッキーは、「彼らは、『ただコカインをやっているだけだと思っていたのに』と言うのです」と述べる。彼が対応した過剰摂取のケースの約10%が、混ぜ物をしたコカインによるものだったという。「もしその人がコカイン中毒で、それまで鎮静剤をやったことがなければ、体への影響はさらに大きくなるでしょう」

    ボストン大学の薬物依存専門家であるリチャード・セイツは、同様の話をBuzzFeed Newsに語った。「自分はコカインを試していると思っていたのに、集中治療室に運び込まれて、検査したらコカインとフェンタニルの陽性反応が出た、という若者たちを見てきました」と彼は言う。「彼らは驚いていますよ」

    コカインは覚醒作用があり、フェンタニルは抑制作用があるため、この2つを誤って使うと、ことさら危険な可能性がある。

    メリーランド州ボルチモア市のリアナ・ウェン衛生局長は、「コカインだと思って使ったのに、実は正反対の薬を摂取したために、期待していたような気分の変化が得られない。そうすると、期待通りの気分になるために、もっと摂取しなければと思うのではないでしょうか」と述べる。「期待通りにはなりませんし、彼らはフェンタニルを過剰に摂取して死に至るのです」

    ボルチモア市では、コカインとフェンタニルを使った過剰摂取による中毒死は、2014年の82件から、2017年は9月までで400件以上に急増した


    フェンタニルがコカインに混ざるようになった理由はよくわかっていない。おそらく多くの要因があり、都市によっても異なるだろう。

    フェンタニルがコカインに混ざるようになった理由は謎だ。その原因はおもに、CDCの薬物過剰摂取データ上では、フェンタニルが混入したコカインによる中毒死と、その2つを意図的に混合した場合の中毒死が区別されていないことにある。

    「まったく途方に暮れています」と語るのは、「New England User’s Union(ニューイングランド薬物使用者連合)」の支部を運営するジェシカ・ティリーだ。マサチューセッツ西部で、ドラッグ利用者の注射針を安全なものに交換する地下運動的なプログラムに携わる同組織には、1カ月あたり60人の利用者がいる。ティリーの運営する施設では、フェンタニル混合コカインの過剰摂取が6例記録されている。ティリーは、「答えが見つからないのです。それがとてもおそろしい」と語る。

    ティリーのような治療支援者のあいだでは、コカインへのフェンタニル混入はおもに偶発的な汚染によるものとする見方が主流だが、捜査当局は、意図的な混合とする説に傾いている。たとえば、カナダのサスカトゥーンでコカインとフェンタニルによる中毒死2件が発生したとき、現地の警察は、「利益第一」の麻薬売人が依存症の顧客を増やす目的でフェンタニルを混入したと主張した。

    麻薬売人が、マーケティング目的で混入するケースもあるかもしれない。自分の売るドラッグを競合相手のものと差別化するためだ。NMS Labs社のリーダーズは、「誰もが『俺のクスリは特別だ』と言いたがるのです」と述べる。

    だが、薬物使用者自身がフェンタニルとコカインを混合しているとする声もある。「両者を混ぜているんです――故意にね」と語るのは、メイン大学の薬物・アルコール研究プログラムに携わる研究者のマーセラ・ソーグだ。同氏によれば、メイン州の捜査当局が押収する薬物は、小袋に入ったコカインかフェンタニルが多いが、両者の混合物はないという。「エンドユーザーレベルの現象ではないかと思います。少なくとも、メイン州ではそうです」

    Debanjali Bose / BuzzFeed News

    薬物注射によりできた手の傷を指し示すエル。

    スピードボールと呼ばれるドラッグは従来、ヘロインとコカインを混ぜてつくられてきたが、フェンタニルが広まるのに伴い、その状況は変わりつつある。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の医学疫学者ダン・シッカロンはBuzzFeed Newsに対して、「この問題の説明としてもっとも可能性が高いのは、フェンタニルが一般的になり、ヘロインの代わりに使われるようになったというものです」と指摘する。

    治療支援活動に取り組み、東海岸の都市の路上で売られているドラッグのフェンタニル混入状況を調べているティノ・フエンテスによれば、フェンタニルはコカインの袋にランダムに混入しているように見えるという。この事実は、売人が意図的に混合しているのではなく、偶発的な汚染の可能性を示唆しているとフエンテスは言う。「売人が清潔なテーブルでドラッグを刻む可能性は高くありません」とフエンテスは語る。「私が話をしたほとんどの売人は、自分の売るドラッグに(フェンタニルが)入っていることさえ知りませんでした」

    そうした諸々の要因が同時に起きることも考えられる。スピードボールの使用者がヘロインと思いこんでフェンタニルを過剰摂取する可能性に加えて、「手っとり早く小金を稼ぐことだけが目的の愚か者」である下っ端の麻薬売人のなかには、ほかにない恍惚感を提供すれば、コカインの販売先を娯楽目的のドラッグ使用者にまで広げられるという考えから、ときどきフェンタニルとコカインを混ぜている者がいないとも限らない。「とはいえ、上位の売人がそれをしているとは思えません――顧客を殺したがる者などいませんから」

    事態をさらに複雑にしているのが、あらゆる都市のあらゆるコミュニティで、コカインにフェンタニルが混ざっているわけではないという点だ。ワシントンDCでセックスワーカーに医療サービスを提供する非営利団体「Helping Individual Prostitutes Survive(HIPS)」のシンディ・クレイはBuzzFeed Newsに対して、「現在の患者の話を聞く限りでは、フェンタニル混入コカインの過剰摂取についてはあまり耳にしません」と述べる。「現時点では、私たちの地域では起きていないか、あるいは、まだここまで広まっていないようです」

    CDCによれば、2016年にワシントンDCで起きたコカイン中毒死の46%に合成オピオイドが関係していたというが、コカインとフェンタニル、もしくはコカインとフェンタニル混入ヘロインを意図的に混合したことが原因だった可能性もある。

    DEAの薬物押収データによれば、これまでのところ、フェンタニルによる汚染が見られないドラッグはマリファナだけだ。だが、DEAのジョン・ハルピンは、このデータは「不完全」なものだと警告している。大規模な事件の押収物が中心で、地域のドラッグ市場に関する詳細なデータが不足しているためだ。「問題は、我々がどこにでも行けるわけではないことです」


    人口あたりの過剰摂取死亡率がもっとも高いのは白人だが、増加のスピードがもっとも速いのは黒人コミュニティだ。

    利用可能な最新のCDCデータによれば、2015年から2016年にかけて、過剰摂取による死亡事例はあらゆる人種で増えているが、とりわけ有色人種で大きく増加している。2016年に人口あたりの過剰摂取による死亡率がもっとも高かったのは白人で、人口10万人あたり25人だった。だが、その増加率を見ると、白人の前年比増加率は20%であるのに対し、ラテン系では24%近く、黒人では40%にのぼる。

    コカインに混入するフェンタニルが増えるのに伴い、この数字はさらに悪くなる可能性がある。というのも、1980年代に主要都市を襲った「クラック・コカイン」(煙草で吸引できる状態にしたコカインの塊)ブーム以降、黒人コミュニティではコカインが広く普及しているからだ。

    サンフランシスコに暮らすホームレスの薬物常用者を10年にわたって調査した2009年の著書『Righteous Dopefiend』のなかで、フィリップ・ブルゴワとジェフ・ショーンバーグは、白人と黒人の薬物使用者のあいだには違いがあり、後者はスピードボールを好むと指摘している。同様のパターンほかの都市でも広く見られ、メキシコ系アメリカ人、プエルトリカン、黒人の薬物使用者は、混合された薬物を注射することが多い。

    最新のデータが存在する2016年には、コカインとフェンタニルの組み合わせにより死亡した黒人は、人口10万人あたりほぼ1.9人だった。この数字は、ほかのどの人種グループよりも多い。

    フェンタニル混合コカインによる死亡事故の増加が特に懸念されるのは、一部の形態のコカイン、とりわけクラックにつきまとう汚名により、薬物常用者に治療を受けさせるのが難しくなる可能性があるためだ。

    “その汚名はヘロインより悪い”

    ニューヨーク市保健精神衛生局のパオンによると、同局が2017年に実施した匿名調査の際に、調査チームに対してある医療関係者は、「実際、クラック使用者と話すときには、ほかの人たちと離れたところで話をする必要があります。クラックを吸っていることを知られるのを、彼らがとてもおそれているからです」と語ったという。「その汚名は、ヘロインの使用よりもさらに悪いのです」

    一部の専門家は、法執行当局がクラック・コカイン時代の過ちを繰り返し、フェンタニルに対してほかのドラッグよりも重い刑罰を科すのではないかと懸念している。たとえば司法省は、フェンタニルを含むドラッグを販売した売人の刑期を長くし、フェンタニル1グラムの販売に対して求刑される現行の6年半の刑期に6カ月を追加する方針を支持している。しかし、過剰摂取のトレンドを注視している「ハームリダクション・オハイオ」のデニス・コーションによれば、そうした加重ベースの刑期は、売人がカルフェンタニルなどのより強力なドラッグに切り替える誘因になる可能性があると指摘する。カルフェンタニルは、量刑という点ではフェンタニルよりも軽いが、致死性ははるかに高い。

    一方、ピュー・チャリタブル・トラストによる最新の刑務所および公的データの分析によると、収監率と違法薬物使用または過剰摂取による死亡のあいだには、統計的に有意な関連性が見られないことが明らかになっている。


    南米からアメリカに流入するコカインが増えれば、フェンタニルの問題はさらに悪化する可能性がある。

    南米コロンビアの好天と和平合意は、アメリカに輸入されるコカインが増えることを意味する。アメリカのコカインの最大の供給源であるコロンビアでは、2017年のコカ収穫量が予想以上となり、2年連続の豊作だったと報じられている。DEAによれば、コカイン1グラムの路上販売価格は、2014年には220ドルだったが、2016年には156ドルに下がったという。供給が増えれば、価格の低下は続くだろう。

    Debanjali Bose / BuzzFeed News

    エルがハンドバッグに入れて持ち歩いている、フェンタニル検査用ストリップ。

    コカインとフェンタニルの組み合わせによる死亡者がすでにただならぬ数にのぼっているにもかかわらず、いまはまだ、出まわっているほとんどのコカインには、フェンタニルは含まれていない(たとえば、ニューヨーク市警による最近の分析によれば、押収した3000を超えるコカインサンプルのうち、フェンタニルが含まれていたのはわずか1%だった)。これはつまり、さらに多くのフェンタニルが違法ドラッグ製品に広まる余地が、まだおおいにあるということだ。

    ニューヨーク市保健精神衛生局のパオンは、違法薬物の「より徹底的かつ効率的な監視が必要です」と述べる。だが、路上で売られているドラッグの化学組成分析には、高額な費用がかかる。注射器1本分のフェンタニルなどのドラッグの検査費用は、300ドル前後だ。そして、公衆衛生当局は資金不足に苦しんでいることで有名だ。安価なフェンタニル検査ストリップを薬物使用者に広く配布すれば、効果が出るかもしれない。

    アメリカでは、毎月150万人近い成人がコカインを使用している。この数字は、ヘロイン使用障害患者推定数のほぼ3倍にのぼる。コカインの価格が下がり、供給が広がっているいま、コカイン使用者が増加するのは、タイミングが悪いとしか言いようがない。それが引き金となり、新たな局面の過剰摂取危機が起きるおそれがある。

    National HIDTA Assistance Centerのイーディーは、「私たちは相変わらず、十分な注意を払っていません」と指摘する。「オピオイドの蔓延は何を意味しているのでしょうか。オピオイドは、気分を下げさせるダウナー系のドラッグです。その落ち込みから逃れるために、使用者が刺激物を探しはじめるかもしれません」

    Debanjali Bose / BuzzFeed News

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:浅野美抄子、梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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