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「あなたがいてくれるだけでいいんだよ」女子日本代表の選手を救った、ある言葉。彼女がいま伝えたいこと

日本代表に選出された現役アスリートとして初めて、同性パートナーがいることを公にカミングアウトした村上愛莉選手。カミングアウトとは「自分を大切にする手段の一つ」だと語る。

そのとき、ラグビー女子日本代表の村上愛梨選手(32)は、自分の声が震えるのを感じた。にじむ涙が抑えられなかった。

チームメイトや競技関係者の前で、初めて、自分のことを言葉にするのが怖かったからだ。

2020年4月、日本ラグビー協会理事だった谷口真由美さんが、ジェンダーや性的マイノリティについて代表選手らに講義をした日のことだ。

「自分はLGBTの当事者なんですが、選手として、自分にできることはありますか?」

質疑応答で思い切って質問した村上さんに、谷口さんはこんな風に答えたという。

「あなたがいてくれるだけでいいんだよ。何か特別なことをしようとしなくても、自分のことを話してくれただけで、もうすでにすごいことだよ」

その言葉に背中を押され、村上選手は翌年4月、日本代表に選出された現役アスリートとして初めて、同性パートナーと交際していることをメディアを通じて公表した

カミングアウトから1年。村上さんはいま「カミングアウトとは、自分を大切にする手段の一つだと感じています」と語る。

自分を受け入れてもらえなかった「傷」

村上選手の人生は、スポーツとともにある。

小学生の頃は男子に混じって野球に打ち込み、中学から始めたバスケットボールで実業団までプレーした。

2014年に1人の観客として観戦したラグビーの熱気に当てられ、26歳で転向を決意。2019年には15人制の日本代表選手に選ばれ、国際試合も経験した。

自分が同性を好きになることに気付いたのは、高校1年生の頃だ。

だが、当時は「女性は男性と恋をするのが当たり前」。“仲が良すぎる”女子2人を指して、「アイツら距離近すぎない?」「気持ち悪いよね」と陰口を叩く声を耳にすることが日常だった。

絶対にバレてはいけない。誰にも相談できずに、自分のことを隠し、殺し続ける日々は当然、プレーにも影響した。

「ある時、部活のチームメイトに呼び出されて、『お前、女同士で付き合ってるんだろ』と言われたんです。その時は、必死で否定したけど、自分を受け入れてもらえなかった傷は、かなり深く残りました」

「人を信頼できなくなって、プレー中も自分を出しきれず、ボールを追いかけていても、どこかで諦めちゃう自分がいました。ミスを強く叩かれても何も言い返せず、練習が終わったら更衣室に立てこもって泣きまくるような日々でした」

「それでもスポーツが好きだったから。本当にスポーツがなかったら、電車に飛び込んでいたんじゃないかと思います」

カミングアウトしなくてもいい

そんな村上さんの心を少しずつ解きほぐしたのは、正面から自分とぶつかり、向き合ってくれた大学時代のチームメイトや、自分のセクシュアリティを隠さず、オープンにしているパートナーとの出会いだった。

自分を押し殺し、「クローゼット」で隠れて生きていた時は、将来が思い描けず、「自分もいつかは男性と結婚するんだろうな」と思っていた。

でも、同性婚の実現を求めて、各地の当事者が国を相手取った裁判を起こしたことを知ってからは、自分も行動するしかないと、傍聴やボランティアに通うようになった。

「いつか見返してやる」という思いから実業団まで続けたバスケ、そしてラグビーも、村上選手の原動力であり続けた。

特にラグビーは、さまざまな体格や資質をもつ選手が必要だ。

がっしりした選手が務めるプロップ。ジャンプ力がある長身の選手が選ばれるロック。小柄で頭の回転が速い選手が多いスクラムハーフ。俊足自慢のウイングーー。

多様性を尊重してチームを作るラグビーの特質も、村上選手の支えになった。

「カミングアウトしてから1年が経って、本当に色々なことがありました。でも結局は、自分が自分らしくいられることが、人生においてすごく大切だと認識できるようになりました」

「自分の学生時代と同じような苦しい経験をしている子たちがいる。そう思って、自分は表に出ることを決めましたが、付き合っていたパートナーや家族、チームメイトなど周囲の環境が整ったので、自分もやっと言うことができました」

「だから、カミングアウトすることで自分らしくいられないような環境であれば、カミングアウトする必要もないし、カミングアウトしなくても自分らしくいられるなら、そのままでもいいと思います」

「隠さなければならない」社会を変える

村上さんはいま、「誰も一人にしないプロジェクト」というLINE相談所を構えている。そこでもやはり多く寄せられるのが、カミングアウトに関する相談だ。

性的マイノリティに対する偏見や差別が根強い日本では、自分のジェンダーやセクシュアリティを「隠す」という選択肢を選ばざるを得ない人が少なくない。

かつての村上さんと同じように。

村上さんはそんな環境をこそ、変えていかなければならないと考えている。

「LGBTであることを隠さなければならない。そんな前提があることがそもそもの問題だと思うので、違いがあっていいんだという考えに日本がなっていったらいいのかなと思います」

日本代表に選出された現役アスリートとして初めて、同性パートナーがいることを公にカミングアウトした、ラグビーの村上愛莉選手。 周囲に受け入れてもらえず、自分を押し殺してきた10代を振り返り、カミングアウトとは「自分を大切にする手段のひとつ」だと語ります。 https://t.co/GYrebXJEB7

Twitter: @BFJNews

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