投票に行こう、と言われても。
住民票は実家にあるし、不在者投票の手続きも面倒くさそう。何より政治に興味が湧かない。
都内で暮らす会社員の秦和輝さん(23)もそう思い、これまで投票したことがなかった。
でも、今回の衆院選は違う。「初めて投票する」理由ができたからだ。
「彼と結婚したい」
秦さんが自分はゲイだと確信したのは、2年ほど前のことだ。
中高生の頃から海外の男性アイドルグループが大好きで、周囲の男の子たちとは、何となく話が噛み合わない。
そんな自分に薄々気付いてはいたものの、大学時代にヨーロッパへ留学したことが、一つの節目となった。
「行く先々がどこも多様性にあふれていて、セクシュアリティやジェンダー関係なく、様々な人々が仲良く生活できているのを見たときに、自分のセクシュアリティも認めて、オープンにして生きていった方が幸せだと感じるようになったんです」
秦さんは今、レバノン出身のパートナーと同棲している。
彼と結婚して、これからもふたりで一緒に生きていきたい。その未来を選択するために、今回初めて一票を投じることを決めた。
「初めて選挙権を得た2017年の参院選は上京したばかりで、住民票は九州の地元に置いたままでした」
「その頃はそこまで政治に関心がなくて、不在者投票の方法も詳しく知らなかったし、知っていたとしても手続きがめんどくさくて投票していなかったと思います」
「2019年の衆院選は留学中で、その時も選挙のことはあまり気にしていませんでした。でも今は自分の将来に関わることがはっきりわかったので、投票しなければと思っています」
神奈川県在住の学生、りょうさん(18)も、同性婚やLGBT新法の制定を求めて、今回初めて投票する。
「なぜ同性婚やLGBT法案の実現が必要だと感じているかというと、私が当事者の一人だからです」
「なにか特別悪いことをした訳でもないのに、生まれながらにして愛する人と結婚することはおろか、パートナーと一緒に住む部屋すら探すのが困難だからです」
同性婚は世界30か国で既に法制化
自治体が独自に同性カップルの関係を公的に認める「同性パートナーシップ制度」は、全国100を超える自治体で導入されているが、これらの制度に法的な効力はない。
相続権や子の親権をはじめ、パートナーが外国籍だった場合に取得できる「配偶者ビザ」も、結婚がもたらす法的な代表的な保障の一つだ。
秦さんのパートナーの場合は「高度人材外国人」として永住許可申請ができる予定だが、「自分たちは運が良かっただけ」と秦さんは語る。
政府「同性カップルの結婚は想定されていない」
政府はこれまで同性婚について「現行の憲法において、同性カップルが結婚することは想定されていない」との答弁を続けてきた。
岸田文雄首相も「多様性を認めるということで、議論があってもいいと思うが、まだ認めるところまで私は至っていない」と発言している。
公益社団法人「MarriageForAllJapan」が、今回の衆院選で各政党に送った公開質問状への回答でも、自民党は政府と同じ立場を貫き、パートナーシップ制度についても「国民の理解増進が前提」で「その是非を含めた慎重な検討が必要」だとして、消極的な姿勢を示した。
これに対して、連立与党を組む公明党は、同性婚の法制化に賛成し、「国民的議論を深めつつ、必要な法整備に取り組む」と答えた。
野党第一党の立憲民主党は「同性婚を可能とする法制度の実現を目指す」として公約にも掲げ、共産党、社民党、れいわ新選組も、同性婚に賛成の立場を示している。
日本維新の会は、同性婚を法制化するか「結婚とは別の制度であるパートナーシップ制度」を法制化すべきと回答。
国民民主党はパートナーシップ制度の拡充・法制化の検討をはじめ、トータルで議論する必要があるとしている。
「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反」は、同性婚を実現するためには憲法改正が必要との立場だが、「憲法が同性婚を禁止している」という主張は学説上もほとんど存在しないとされ、政府もそうした主張はしていない。
「いつか実現すれば良いというものではない」
Marriage For AllzJapanは今回の選挙に合わせて、国会議員や候補者の同性婚に対する賛否を可視化したサイト「マリフォー国会メーター」を立ち上げた。
同団体代表理事の寺原真希子弁護士は、10月5日に開いた「マリフォー国会メーター」の設立会見で、「同性婚はいつか実現すれば良いというものではありません」と語った。
「今この瞬間も同性婚ができないことで、将来を思い描くことができず、生き悩んでいる人がいます」
「同性婚を認めることができるか否かは、日本社会が個々人の行き方を本当の意味で尊重できる社会に移行していけるかどうかの試金石。同性婚の法制化は、同性カップルだけでなく、日本社会全体の利益となると考えています」
10月31日に投開票される衆院選。「経済的に苦しい」「政治に不満がある」。様々な思いを抱え、この選挙で初めて投票する人たちがいます。
BuzzFeed NewsはWebアンケートと取材を通じ、「私が初めて選挙に行く理由」を聞きました。
(サムネイル:Getty Images)