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「希望に溢れた命を絶つことは…」ある大学生の死から5年。同い年になった後輩が語り続けること

同級生にゲイであると暴露された学生が転落死した「一橋アウティング事件」から5年。誰もが安心して過ごせるキャンパスを目指して活動する在学生たちが、約19分間の追悼動画を公開した。

2015年8月24日、同級生にゲイであることを暴露された一橋大法科大学院の学生(当時25)が、キャンパス内の建物から転落し、亡くなった「一橋アウティング事件」。

事件から5年。そして、5度目となる学生の命日に合わせて、一橋大学でLGBTQの学生が安心して過ごせるキャンパス作りに取り組んでいる学生たちが、「それぞれにとっての一橋アウティング事件」と題した追悼動画を公開した。

「それぞれにとっての一橋アウティング事件」

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動画を作ったのは、一橋大学のサークル「LGBTQ+ Bridge Network」代表の本田恒平さん(25)と、副代表の西良朋也さん(22)、自身も性的マイノリティの当事者である山口紗英さん(21)の3人だ。

同サークルは、事件の記憶を忘れずに、一橋大学で学ぶ学生たちが安心できる場所をつくるために、同大の卒業生が2019年に設立した任意団体「プライドブリッジ」と連携しながら、活動を続けている。

昨年までは毎年、8月24日の命日が近づくと、本田さんら有志の学生たちがキャンパス内に献花台を設けて、亡くなった学生に想いを馳せてきた。

しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で、キャンパスへの入構規制がかかっているため、献花台の設置は断念。

その代わりに、一橋大学・大学院の在学生である3人が、事件を知った時に感じたこと、亡くなった学生への思い、一橋大学をどのような場所に変えていきたいかを語る約19分間の動画に、哀悼の意を込めた。

「私もこうなるんじゃないか」と恐怖

事件が起きた時は高校2年生で、一橋大学に憧れていたという山口さんは、事件について知ったときの「恐怖感」をこう振り返る。

「セクシュアルマイノリティの当事者の高校生ながらに、事件を知ってまず思ったことは、『これは絶対に(自分のセクシュアリティのことは)人に言えないな』と。私もこうなるんじゃないかと、亡くなった学生の状況に自分を重ねていました」

その後、実際に一橋大学に入学してからは「自分の周りでアウティングや、アウティングによる凄惨な事件を二度と起こしてはいけない」と考えるようになったという。

「LGBTQ+ Bridge Network」副代表の西良さんも「色んな感情が湧いてきて、自分が通っている大学で起こったことが驚きであり、こんなことがあってはならないという気持ちがまず湧いてきました」と語る。

「うちの兄なんだよね」

同サークル代表の本田さんは事件が起きた時、学部生として別の大学に所属していた。

事件が「自分ごと」になったのは、高校時代から親しくしていた友人の女性から「一橋大学事件で亡くなったのは、うちの兄なんだよね」と打ち明けられた時だ。

「その時から、自分が一橋大学に進学して、何かできることを探さないといけないと思うようになりました。使命感のような」と、本田さんは昨年の命日にBuzzFeed Newsの取材に語っている。

今年、本田さんは25歳になった。学生が亡くなった時と、同じ年齢だ。

「私が将来に希望や、やりたい事をたくさん抱いているように、彼も同じ大学院生として同じ気持ちだったのだろうと思います」

「その希望に溢れていた命を自ら断つというのは、どれ程辛い決断だったのだろうと、同い年になったいま、より強く思います」

誰かの人権を侵害していないか

一橋アウティング事件は、セクシュアリティを暴露する行為の深刻さを広く知らしめ、国立市が全国で初めて「アウティング禁止」を盛り込んだ条例を制定する契機にもなった。

また、国立市は来年4月から「パートナーシップ制度」を導入し、市内の在勤者や在学者も対象とする方針だ。在勤者や在学者も対象になれば、全国で初となる。

事件をめぐっては、遺族とアウティングをした同級生の間で和解が成立。大学側とは、2019年2月の一審判決で、遺族側の請求が棄却されたが、控訴審で協議が続いている。

本田さんは「大学は研究機関という機能だけでなく、生活の場でもあります。生活を営む全学生が居心地よく、勉学や課外活動に勤しむことが出来るように大学を変えていく必要があります」とBuzzFeed Newsの取材に語る。

「隣人に性的マイノリティがいることを認識するようになり、一人ひとりが『自分は誰かの人権を侵害していないか』と自問自答できる様な環境に変わっていくことを期待しています」

「LGBTQ+ Bridge Network」のホームページでは、追悼メッセージを募集している。締切はないものの、2週間後を目処に、寄せられたメッセージを亡くなった学生の遺族に送ろうと考えているという。


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