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新型コロナウイルス「中国人が日本の健康保険を“悪乗り”するために押し寄せる」は不正確。まとめサイトが拡散

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大するなか、「中国人が日本の健康保険を“悪乗り”するために押し寄せる」と煽る記事が拡散されている。しかし、この情報は不正確で、無用な敵意や不信感を煽るおそれがある。

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡大するなか、「日本の健康保険に“悪乗り”するために、中国人が押し寄せる危険性がある」とする記事が拡散されている。

しかし、この情報は不正確だ。

そもそも、医療ツーリズムを含む観光目的の短期滞在ビザや、日本の医療機関で治療を受けるための在留資格で日本に滞在している外国人は、国民健康保険に加入することができない。日本の医療機関を受診しても全額、自己負担となる。

BuzzFeed Newsは、厚生労働省や出入国在留管理庁への取材をもとに、ファクトチェックした。

「日本の健康保険に“悪乗り”」

拡散されているのは、1月25日にまとめサイト「Share News Japan」に掲載された《中国で日本の健康保険に“悪乗り”する方法が拡散… 新型肺炎で中国人が押し寄せる危険性》という記事だ。

この記事では、夕刊フジのウェブサイトに掲載された、《【日本復喝】外国人に“食い物”にされる医療制度 400万円の医療費が8万円…日本の医療に“悪乗り”する外国人たち》という記事を引用。

日本の医療制度に“悪乗り”する外国人がいるとするその内容を紹介しながら、ネットの反応として「これが中国人の本当の目的だろ」などと書かれたツイートを掲載している。

この「Share News Japan」の記事は、計測ツール「BuzzSumo」で調べたところ、FacebookとTwitterで合わせて4万1千回以上拡散されている。

なかでも大きく拡散しているのは、高須克弥医師が「徳川幕府なら撃ち払い令を布告する事態だよ。これ。」という言葉とともに投稿したツイートだ。

これは、約2万8千回リツイート(1月29日正午現在)されている。

なお、まとめサイト「アノニマスポスト」も《外国人に“食い物“にされる医療制度 400万円の医療費が8万円…日本の医療に“悪乗り“する外国人たち~ネットの反応「早く何とかしろよこれ」「こういうのを一切取り扱わないのが日本のテレビ》と題した、同様の趣旨の記事を配信。

BuzzSumoで調べたところ、こちらは4000回以上シェアされている。

厚労省「正確ではない」

「中国人が健康保険を“悪乗り”するために押し寄せる」という記事の見出しや、そう類推させるような内容は不正確だ。

なぜなら観光や医療ツーリズムで主に利用される在留資格では、国民健康保険を利用することはできず、医療費は全額自己負担になるからだ。

厚労省・国民健康保険課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し「記事の内容は法律と正確に合致してはいない」と語った。

担当者によると、現行の制度において、外国籍の人に対して国民健康保険の加入と保険料の支払いが義務付けられるのは原則、適切な在留資格を持ち、日本に3カ月以上滞在する場合となる。

在留期間が3カ月以下の人、在留資格が「短期滞在」や、「特定活動」のうち医療機関で治療を受けることを目的としている人などは、国民健康保険に加入することができず、医療費は全額自己負担になる。

いわゆる「医療観光」「医療ツーリズム」においても、これら「短期滞在」もしくは医療目的の在留資格を取得して来日する人が多く、国保の対象ではない。

ネット上では「日本の健康保険が外国人に悪用される原因」として医療観光の強化を指摘する声もあるが、これも不正確だと言えるだろう。

なお、資格を満たしたうえで健康保険に加入している場合でも、保険料の支払い義務は加入した時点で発生しているため、治療後すぐに出国すれば保険料を払わなくていいという訳ではないという。

全国の実態調査、不正は「ほぼ確認されなかった」

そもそも、まとめサイトが引用した夕刊フジの記事は、産経新聞論説副委員長が書いたものだが、新型コロナウイルスに関しては一切言及がない。

この記事では、あくまで健康保険の悪用例として、「留学目的で来たはずの中国人が入学式の翌日に入院したケース」や、保険証を外国人同士で使い回す「なりすまし」などを挙げている。

「Share News Japan」はこの記事の一部を引用しながら、新型コロナウイルスに関する情報やネットの反応を組み合わせ、中国などから日本に訪れる人々に対して、無用な敵意や不信感を煽っているとも言える。

夕刊フジの記事で言及されている外国人による国保の不正利用に関しては、厚労省が2017年に全国で実態調査を実施。不正だと言い切れる事例は「ほぼ確認されなかった」と発表した

NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」が、その内訳を厚労省に聞き取ったところ、「不正な在留資格による給付である可能性が残るもの」が2人、ほかに出国により確認できなかったものが5人だったといい、不正が相次いでいるとは言いがたい状況だ。

さらに2018年1月には、厚労省と法務省が連携して、在留資格の滞在目的とは違う活動をしている可能性がある場合に、市町村が地方入国管理局へ通知する体制を運用し始めた

しかし、同年1~5月までの間に地方入管へ通知があった事例は2件にとどまり、いずれも調査の結果、在留資格の取り消しには至らなかった。

なお、移住連は、厚労省の全国調査に対して、「この調査は、省庁という公的機関による、外国人に対する差別や偏見の助長というだけでなく、国保資格をもつ外国人がその制度の利用を控えるといった萎縮効果を生む恐れがあります」と抗議している

外国人に国保加入を義務付けたのは、1986年

そもそも、日本の国民健康保険制度を、外国籍の人が利用できるようになったのは、1986年以降のことだ。

中曽根政権時代に、国民健康保険法の施行規則で「国籍要件」が廃止されてからだ。これで、日本に一定の資格で入国し、生活したり働いたりしている外国人の国保加入が可能になった。

その後、麻生政権時代の2009年7月に改正住民基本台帳法が成立し、3カ月以上滞在している外国人も住民登録が必要になった。

国民健康保険法は「住所を有するものは、国民健康保険の被保険者とする」と定めているため、改正法成立の3年後、民主党の野田政権時代の2012年7月から、外国人の国保加入要件における滞在期間が「1年以上」から、住民登録が必要となる「3カ月以上」に変更された。

厚労省の資料によると、国民健康保険の全被保険者2945万人のうち、外国人は99万人で、全体の3.4%だった。また、総医療費9兆6478億円(2017年3月~2018年2月診療分)のうち、外国人は961億円で、全体の1%にも満たなかった。

新型肺炎をめぐっては、「武漢から来た中国人観光客が、病院での検査前に逃走した」「新型コロナウイルスは人類史上最凶、致死率15%」などという誤った情報が拡散するなど、真偽不明の情報が多く溢れている。

過度な不安を煽るものも多い。パニックが広がりやすい状況だからこそ、情報の選定には冷静になる必要がある。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

【UPDATE】表現の一部を修正しました。