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「1億総中流」と「分厚い中間層」ってぶっちゃけ何が違うの? 立憲民主・枝野代表が語った自民との“明確な違い”

10月31日に投開票日を迎える衆議院。現野党第一党の立憲民主党・枝野幸男代表が、BuzzFeed Newsの単独インタビューに応じた。

10月31日に投開票日を迎える衆議院。

解散から投開票までわずか17日間と、戦後最短の選挙戦が繰り広げられる中、自民党が単独で過半数(233議席)を維持できるか、そして野党がどれほど議席を獲得できるかに、注目が集まっている。

新型コロナウイルス対策や経済、ジェンダーなどの分野でどのような政策を掲げ、政治に距離を感じる人や若年層とはどう向き合うのか。

現野党第一党の立憲民主党・枝野幸男代表が、BuzzFeed Newsの単独インタビューに応じた。

コロナ対策「いかにゼロに近づけるか」

ーー自民党のこれまでの「withコロナ」的な政策とは対照的に、立憲民主党は今年2月の段階で「zeroコロナ戦略」を策定しました。今回の公約には「zeroコロナ」という言葉が見受けられませんが、方針転換したのでしょうか。

ゼロを目指して、感染の拡大防止に全力を挙げるという趣旨は変わっていません。

「交通事故ゼロ」など様々な標語があるなか、なぜか我々の「zeroコロナ」だけ「ゼロになんかなりっこないでしょ」と悪用されましたので、あえて「zeroコロナ」という言葉は使いませんでした。

ただ、水際対策を徹底し、感染経路を把握し、PCR検査を拡大することで、限りなくゼロに近づけていくための努力をすることが大事だ、という趣旨は変わらずです。

とにかく感染をリバウンドさせないためには、いかにゼロに近づけるかという努力をしなければ、社会活動や経済活動もできないと考えています。

ーー5月には、ワクチンの接種証明で社会活動を緩和する国内版「ワクチンパスポート」を導入しないよう求める提言を、当時の河野太郎・新型コロナウイルスワクチン接種推進担当相に提出していますね。

立憲民主党が5月6日に出した「ワクチン接種に関する第2次提言」の主な項目です。 #立憲コロナ相談会 配信中▶︎ https://t.co/m2ZoNCmBw7

Twitter: @CDP2017

体質などの問題からワクチンを接種できない人もいるわけですから、それで差別が生じるようなことがあってはいけないと考えています。

ですから、ワクチンを打てない方などに対しては、PCR検査を安く、簡単に受けられるようにすることに力を入れ、補完的にワクチン接種を使うということはありだと思います。

ーー検査を強調しすぎることで、ワクチンの優先順位を低く受け止められてしまう恐れはありませんか。

我々も、ワクチンも大事だと思っています。しかしワクチンをうっていても感染し、人にうつす可能性はあるわけですから、ワクチンだけでは万能ではない。

やっぱり軸はPCR検査とワクチンで、さらに言えばそこに抗原検査などを組み合わせていくべきと考えています。

「1億総中流社会の復活」とは

ーー経済政策では「1億総中流社会の復活」を打ち出しています。今このキャッチフレーズを掲げる理由は。

「分厚い中間層」など様々な言い方があると思いますが、「分厚い中間層」は中間ではない人たちの存在を前提にしているんですよね。そうでしょ?

「1億総中流」というのは、貧困・困窮状態にある低所得の人たちを取り残さない、すべてを中流にする。

昭和の後半においても「1億総中流」というのは幻想だったとは思いますが、低所得者を取り残すのではなく、「1億総中流」にするんだということで、この表現の方が我々が目指している社会像として、ある意味、正確なんじゃないかという意味を込めています。

ーー個人の年収1000万円程度まで所得税を1年間、実質免除するという公約が注目を集めました。一方で、バラマキ政策ではないかと批判する声もあります。

これは分配政策ではなく、緊急経済対策です。もちろん明日の暮らしに困っている低所得者層への支援をまず急がねばなりませんが、コロナの影響で、中間層まで含めて相当な数の人が傷んでいる。 

そして消費や、これまでコロナの影響で落ち込んでいた観光や飲食業、文化・イベント産業などの需要を喚起しなければなりません。そうした状況に対応する緊急対策として必要なことだと考えています。

「分配」が先か「成長」が先か

ーー自民党も格差対策や「成長と分配」という言葉を繰り返しています。立憲民主の泉健太政調会長は先月の段階で、岸田文雄氏の政策について「立民とほぼ同じ。連立を組めるのではないか」と話していましたが、どのように差別化していきますか。

政権ができてみたら、従来の自民党から変わっていないことが明らかになったと考えています。

自民党は結局、成長の果実を分配して、次の成長につなげると言っている。でも成長していないことが問題で、その原因には格差や将来不安がある。

これを解消する再分配こそが先に来ないと成長もしない。「成長」が先か「分配」が先かということで、明確な違いがむしろはっきりしたと思っています。

ーー政権公約の第1弾として9月に打ち出した7項目には、森友・加計・桜を見る会の真相解明や、学術会議問題などが並びました。一つひとつ非常に重要な問題ではありますが、与党になった時の政権担当能力が問われている場面で、野党的な批判・検証能力を訴えるのは、アピールポイントが少しズレているようにも感じました。

そういう誤解が生じるかな、というリスクも覚悟で、あれは政権担当能力を示しました。

どういうことかというと、(公約は)あの後、第10弾まで出しています。第1弾として、閣議決定ですぐにできることを出したのです。

経済政策や格差の是正は、法律や予算を通さないと実行できません。しかしそこで示したことは、政権さえ変われば最初の閣議で全部決定できることです。

政権をとっても最初は「ねじれ」ですから、法律を通すのも簡単じゃありませんし、時間もかかります。

そこをしっかりと区別して、「すぐにできることはこれですよ」ということをまず示したと。その点については、一定の評価もいただいています。

女性候補者18.3%「大変残念」

ーー日本は世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2021」で156カ国中120位を記録し、特に政治分野におけるジェンダーギャップが問題視されています。今回の選挙で立憲民主党が擁立した候補者の女性比率は18.3%ですが、この数字についてはどう考えていますか?

正直に言って、大変残念です。できるだけ女性を選ぼうとしてきましたが、やはり政治の世界では、よほどの理由がない限り、現職や元職が優先されるということ自体は崩しようがないと思っています。

しかし、2019年の参院選で候補者のほぼ50%が女性(候補者42人中19人が女性)だったように、来年の参院選ではそれに近いことを実現したいし、できると思っています。

ーー7月には、党内のジェンダー平等に向けた改革を進めると掲げ、2030年までに議員と党職員の女性比率を3割にする目標を発表しました。しかし、目標が低すぎると批判する声もあります。

ここで重要なのは、「議員」と「職員」の女性比率を30%としていることです。

候補者を並べるだけだったら、やろうと思えばできます。しかし、議員ということは当選させなければなりません。

また、職員については、この目標を目指すから今いる既存の職員に辞めてくれと言うわけにはいかず、職員の数をトータルで増やしていきます。

そういった意味で、現実を考えると、かなりハードルの高い目標を掲げているつもりです。

女性議員を増やす具体的な方策についても、我々は提起しています。

比例代表の候補者名簿を男女交互に並べて、1位当選は女性から選ばれ、2位当選は男性から選ばれるような制度を組む方法などは、超党派でかなり検討が進んでいます。

こうした制度が導入されれば、少なくとも比例代表では完全に男女同数になるような候補者の擁立の仕方を、我々はします。ですので、早く国会で成立させたいと考えています。

ーージェンダー関連の政策では「選択的夫婦別姓」に対する各党の姿勢も注目を集めています。

自民党は、岸田さん自身が党の選択的夫婦別姓推進議連の呼びかけ人の一人であるのに、総裁になった今、公約に別姓の「べ」の字もない。

やはり自民党の構造自体が「選択的夫婦別姓」すら実現できないということを示しており、対立軸は明確です。

ーー岸田氏は首相就任直後から「生まれ変わった自民党を国民に示す」と語っています。その言葉に期待感を抱いている人もいるかもしれません。

これは政治のプロの世界かもしれませんが、やっぱり政党のリーダーって、初めてその地位についた時が一番求心力があるんですよ。だって、党内で選挙をやって選ばれたわけですから。

その直後にできないことが、その先できるはずがないっていうのは、政治の世界では常識で。総裁になった直後の総選挙で公約に入れることすらできなかったことを期待するのは、ほとんど無理だと思います。

「政治が生活に関わると気付かざるを得なくなった」

ーーこれまで国政選挙で投票したことがなく、今回初めて一票を投じる2000人を対象にアンケート調査した結果、回答者の66.6%が投票する理由に「新型コロナウイルスによる生活の変化が関係している」と答えました。

残念ながら、日本に暮らしていると、政治が自分たちの暮らしに直接結びついていることを感じる機会が、実は少ない。特に若いみなさんが政治に関心を持ちにくい構造がありました。

しかし、それはある意味、幸せなことだったのかもしれません。

たとえば、10万円の給付も世帯単位だったために、自分の元には届かないという若い人がいたり、学校生活をはじめ様々な活動が制約されたり……。

「なんでこんなことになるんだ」というようなことに、政治が関わっていると気付かざるを得なくなったのがコロナだと思います。

それだけに、目の前の自分たちの暮らしが大きく脅かされている人が政治に関心を持ち始めていることに対して、我々は謙虚に向かい合わなきゃいけないと考えています。

ーー埼玉大の松本正生名誉教授の調査によると、立憲支持者の約61%は60歳以上で、自民の38%よりもはるかに高いと週刊朝日が報じています。若年層にどのようにアピールしていきますか。

高齢者の方の支持が比較的高いというのはそうなのかもしれませんが、結果でしかなくて。

「高齢者ばっかり得で、若者は損だ」。また逆に「若者ばっかり得で高齢者に損だ」みたいな。私は世代で区切る、世代間の対立を煽るような分断を壊さないと、この国は良くならないという考え方です。

実際に街頭の反応を見ると、実は年配の方と10代20代の方が非常に多い。このコロナを経て、若い皆さんに我々の考え方や価値観にかなり反応してきていただいている、という手応えは持っています。

ーー若い世代の中には、政治家は票を獲るために高齢者層ばかり重視している、といった不満もあるのではないでしょうか。

例えば年金制度や介護保険制度がなくなったら、親や祖父母の老後の生活費から介護費用まで全部、若い世代が自分で負担することになるわけです。

それを社会全体で分かち合ってくれるわけですから、実は介護保険が充実すれば、若い人のリスクが小さくなるんですよね。

逆に高齢者から「近くに保育所ができたら騒音でうるさい」みたいな話を聞くたびに、私は反論しているんですよ。

公約では、国公立大学の授業料を半額にまで引き下げ、私立大生や専門学区制に対する給付型の奨学金を大幅に拡充すると掲げました。

若い人のための政策のように思えますが、それだけじゃありません。若い世代が持っている意欲と能力を活かすことで、実は5年後、10年後の日本の経済が支えられ、それが高齢者の年金を支えるんです。

ということで、僕は「これは高齢者のみなさんのための政策ですよ」と言って打ち出していますが、直接恩恵を受けるのは若いみなさんでしょうね。

党結成から4年「大変困難だった」

ーーこれまで国政選挙に行ったことがない人を対象にしたアンケートでは、今回投票しない理由に「投票したい候補者・政党がいない」ことを挙げる人が最も多くいました。4年前に1人で旧立憲民主党の結成会見をした時から始まって、その「選択肢」になれたと考えていますか?

実は「選択肢になる」ということについては、2つの大きな意味があります。

政治に関心を持てない、投票したい先が見つからないという有権者に対する選択肢になることと、政権選択可能な「政権の選択肢」にならなければならない、という2つです。

実は結党した時には、野党第一党になるとは想像もしていませんでした。前者の、投票先が見つからない人の選択肢になることだけを意識していました。

しかし小なりとは言え、野党第一党になった以上は、やはり両方を満たさなければならない。なかなか両立しにくい課題です。実は、大変困難な4年間でした。正直言って。

なんとかギリギリ両立させる中で、政権の選択肢としての最低限の構えを作ることができたのではないかと考えています。

しかし、投票する先、期待できる先がないと思っている人に対する答えを完全に出し切れたとは思っていません。もっともっと、努力していかなければならないと思っています。

ーー4年前の衆院選では、街頭演説に大勢の聴衆が集う様子が注目を浴び、「#枝野立て」などのハッシュタグも話題になりました。当時の熱気と比べて、今の立憲民主党への期待感は萎んでいるとの見方もあります。

あれは一種の判官贔屓もあって、あの熱狂が何年も続くことは、政治の世界ではありえません。

4年前も、衆院選の公示1週間前に党が立ち上がって、選挙が始まってからどんどん盛り上がっていた形でした。

私は熱狂で政権を変えるのは、必ずしも良いことだとは思っていません。本当は熱狂なき政権交代を実現したいと思っています。

とはいえ、選挙にはやっぱり熱狂という部分が必要なことも間違いないので、それにどれほど近づけるかが勝負だと思っています。



(インタビューは公示前に実施。政権与党の自民党にも党役員ら幹部複数人に取材を申し込んだが、スケジュールなどの都合から実現に至らなかった)