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海を渡る金子みすゞ 詩と生涯伝える絵本がアメリカで出版 美しい挿絵と響く言葉

英語絵本「Are You an Echo?」(こだまでしょうか)。「想像力を働かせて、他の人の見方を理解することの大切さ。この絵本が時代に呼ばれている感覚があります」

「みんなちがって、みんないい」。命を慈しみ、深い思いやりの眼差しを向けた詩人金子みすゞ。その詩や生涯を伝える英語の絵本が出版されました。自分中心に考え、異なる外見や考えの人たちを排除する風潮が世界に広がるいま、みすゞの言葉を広める意味は——。

金子みすゞは1903年、山口県に生まれた。本名はテル。当時の女性としては珍しく高等女学校まで通った。書店で働きながら、詩の投稿を続け、西条八十に認められるなど脚光を浴びた。

だが、見合い結婚後に人生は暗転する。夫から移された病気に苦しみ、詩作も禁じられた。離婚するが、その元夫から一人娘を奪いに来るという手紙を受け取り、自ら命を絶った。娘を自分の母親に育てさせてほしいと書き残して。26歳だった。

死後、その作品は長く忘れられたままだった。作品「大漁」を目にして魅了された詩人・矢崎節夫さんが痕跡をたどり、1982年に遺稿集を発掘。2年後「金子みすゞ全集」が発行された。みすゞの詩は1996年度、小学校の国語の教科書に採用された。

英語絵本の題名は「Are You an Echo?」(こだまでしょうか)。前半は、みすゞの生涯と作品を織り交ぜた。後半は詩集で、15編の詩を対となる英訳と載せた。絵本画家・羽尻利門さんが挿絵を描いた。

イワシの気持ち

著者は米シアトル在住のデーヴィッド・ジェイコブソンさん。みすゞの詩に出会ったのは2012年。エール大で日本の政治経済を学び、いまは出版社で働くジェイコブソンさんの元に、日本の友人から詩集が送られてきた。

新年の華やぎの中、逃げていく「去年」へ至す想い。大漁を祝う人々と対比される、獲られたイワシに寄り添う気持ち。「優しい心、思いやりの心。その普遍性。みすゞの視点の転換、その広さに目を開かれました」とジェイコブソンさんはBuzzFeed Newsに語る。

「100年ほど前に日本で書かれた詩ですが、時代や文化を超えて、アメリカ人の私の心に迫るものがありました」

朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮の
大漁だ。

浜はまつりの
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰮のとむらい
するだろう。

大漁「金子みすゞ童謡全集」より

At sunrise, glorious sunrise
it's a big catch!
A big catch of sardines!

On the beach, it's like a festival
but in the sea, they will hold funerals
for the tens of thousands dead.

BIG CATCH 「Are You an Echo?」より

自分が一番で人間が中心といった考え方を完全にひっくり返す詩。詩の英訳は1995年と99年に出ているが、みすゞの存在は広く知られていない。ジェイコブソンさんは、子どもが触れやすい絵本を作ろうと思い立った。みすゞの人生を織り交ぜて。

議論を重ね、自死も取り上げた。自分の感情に対して正直だったみすゞ。そして正直な詩。正直にみすゞの人生をみせないと、読者を裏切ると思ったという。「死を覚悟していたみすゞ。死を前向きにもとらえている」とジェイコブソンさんは話す。

蚕は繭に
はいります、
きゅうくつそうな
あの繭に。

けれど、蚕は
うれしかろ、
蝶々になって
飛べるのよ。

人はお墓へ
はいります、
暗いさみしい
あの墓へ。

そして、いい子は
翅が生え、
天使になって
飛べるのよ。

繭とお墓「金子みすゞ童謡全集」より

A silkworm enters its cocoon——
that tight, uncomfortable cocoon.

But the silkworm must be happy;
it will become a butterfly
and fly away.

A person enters a grave——
that dark, lonely grave.

But the good person
will grow wings, become an angel
and fly away.

COCOON AND GRAVE 「Are You an Echo?」より

漁村に生まれたみすゞ。海岸には打ち捨てられた魚の死骸があった。「死が身近にあった。生死は隣同士。喜びと悲しみは一体だと知っていた」と矢崎さんは解説する。

違う言葉、同じ気持ち

言葉の背景や語感がまったく違う2言語。実は、2014年春ごろから、滋賀県在住の元英語教師・坪井美智子さんと、その姪でカナダ人のサリー・イトウさんが趣味でみすゞの詩の英訳を進めていた。イトウさんも詩人で大学で英文学も教えている。

イトウさんはブログに英訳を載せた。それをジェイコブソンさんが見つけて、連絡を取り、3人の共同作業が始まった。どう、みすゞの人生を英語圏の読者に伝えるか。

当初、離婚の際にみすゞは結婚が「mistake(過ち)」だったと気づいた、と表現されていた。だが、坪井さんは日本人女性が結婚相手を選ぶのが難しかった時代背景を説明。削除した。

日本語独特の表現もあった。

「母さま、いやよ」(海を歩く母さま)、「蝉も暑くて/脱いだのよ」(蝉のおべべ)といった言葉遣い。日本語なら女性の声で聞こえてくる。でも英語では再現しにくい。

「世界のものはみィんな、/神さまがおつくりなったもの」(みんなを好きに)。「神さま」を「God」と訳したが、読者が思い浮かべる神は様々かもしれない。

それでも、みすゞの詩には、言葉の壁を超える力が宿っている。ジェイコブソンさんは「同じ感情を抱きますし、子ども時代の遊びや思い出も同じだと感じました」と話す。

捕鯨

ジェイコブソンさんが「どうしても入れたかった」詩に「鯨法会(くじらほうえ)」がある。欧米には捕鯨を野蛮な殺戮だと強く非難する人たちもいる。生き物の命をいただく畏敬の念と感謝の気持ち。「鯨の魂をこうして鎮めていることは知らないと思います」

認められた詩の価値

絵本は2016年9月に出版。著名な児童文学批評家ベッツィー・バードさんは「美しく、心奪う。すべての人が読むべき本だ」と絶賛した

全米英語教師協会が薦める児童向け詩集リストに入り、米加の図書館150館以上が購入した。

「アメリカには自然より人間の方が優位だという考え方があるかもしれません。みすゞの詩は衝撃的だと思います」「日本とは縁のない図書館司書らが、詩の価値を認めて、購入しているのがとても嬉しいです」とジェイコブソンさん。

自分と違う顔つきや文化、宗教の人たちを差別したり、排除したりする風潮が高まる今。ジェイコブソンさんはこう話す。

「人にも自然にも幅広く向けられたみすゞの心。いまこそ世界を優しく見つめる目が必要ではないでしょうか」

「想像力を働かせて、他の人の見方を理解することの大切さ。この絵本が時代に呼ばれている感覚があります」

バズフィード・ジャパン アダプテーション・スタッフ

Saki Mizorokiに連絡する メールアドレス:saki.mizoroki@buzzfeed.com.

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