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「自分だけは大丈夫」の脆さ。30歳のぼくがHIV検査を受けてみた

芸能人や有名人が感染し、話題になることもあるHIVウイルス。「彼氏やパートナーが感染。自分もエイズかもしれない」「エイズになったらどうしたらいい?」陽性を知るきっかけとなるのがHIV検査。検査が信じられない、怖いと感じている人もいるかもしれません、そこで、今年30歳になる筆者が初めての検査を受けてみました。結果を待っている間の怖さや、陰性がわかったときに感じたこととは?

「結果が出たときのことを説明しますね。HIVウイルスに感染していたら、陽性、プラスと言います。感染していなかったら、陰性、マイナスと言います」。

丁寧に説明してくれる医師を前にして、ぼんやりと聞く。HIV(エイズ)検査を受けるなんて初めてだった。

「万が一に備えて」というフレーズは、人生でいくつも聞いてきた。「保険は入ったほうがいい」、「がん検診は受けた方がいい」、「遺書は書いた方がいい」。

「万が一」は、自分には適用されない。そんなことを感じていたからか、日々の生活で精一杯だからか、どれも行動に移したことはない。

HIV検査も同じだ。可能性としてはありうる。だけどまあ、大丈夫だよね。だって、別にこれまで特になにもなかったし。

根拠はない。

これまで大病も入院経験もなく、息災な人生だった。だからなんとなく、これからも大した事件事故はないんだろうと思っていた。今も少しだけ、そう思っているかもしれない。

HIV検査を受ける大切さは知っている。身に覚えがなくても感染する可能性はある。だけど、「自分は大丈夫」と受診することはなかった。

この春、30歳になった。BuzzFeedが「性教育週間」として性に関する記事を集中的に配信することになり、大台の年齢だしなあとHIV検査を受けてみた。

検査を受けたのは、新宿駅から徒歩5分ほどの東京都南新宿検査・相談室。スマホであっさり予約できた。平日は夕方、土日は日中、好きな時間帯を選択するだけで、無料で受診できる。

受付で予約番号を伝えると、受付番号を渡される。名前を伝える必要はない。番号を呼ばれて部屋に入ると、検査の概要について丁寧に説明をされた。

HIVに感性していたら陽性、プラス。感染していなかったら陰性、マイナス。一週間後に結果が出るという。

別室にうつって、採血へ。目の前で注射器が新品であることを示される。「ほら、未開封って意味のシールありますよね、はがしますね」。

すごく丁寧に説明していくんですねと聞くと、「使い回しじゃないか気にする人もいらっしゃいますからね」と返ってきた。その感覚は、自分では分からなかった。ふーん、程度の感想しかない。

それからの1週間は特に何もなく過ぎた。途中で不安になるかと思っていたが、そういったこともなかった。結果を聞く当日になって、あーそういえば今日だ、と気付くくらいだった。

検査・相談室の受付で申込書を見せ、受付番号を渡される。すると、すぐに番号を呼ばれた。

え、もう?

そこの左手を真っすぐ行って、部屋に入って下さいねーーそう言われ、結果通知の部屋の前に立つ。

これ、万が一ってあるの?

そう思うと、胸の奥が少し苦しくなってきた。身に覚えはない。そのはずだ。ドアを開けると、机の向こうにおばあちゃんくらいの年齢の医師が座っていた。優しい教頭先生みたいな雰囲気だ。

検査申込書を渡して、検体番号を照らし合わせる。「ほんとうにこの番号ですよね」と、確認を求められる。医師の顔も見られず、何度も何度もその数字を確認する。

その間、自分の頭のなかにあったのは万が一、という言葉だった。大丈夫、何もないはず。なのに、心臓の音がやけにリアルに聞こえる。怖い。もしもHIVに感染していたら、親になんて言えばいいんだろう?

「番号は……はい、大丈夫です」と伝えた。

医師は手元の資料をパラパラめくりながら、ちょっと待って下さいねーと確認し始めた。

室内にはスティングの「When we dance」が流れていた。不安な気持ちを落ち着かせようと、意識的に聞いていた。高校生のときによく聞いた声だ。

ではこちらですねと、紙を見せてきた。身を乗り出してそこにある番号と結果を確認した。そこには「(ー)」という記号があった。

「はい、結果です。番号に間違いはありませんね? 陰性です」

良かったですねと笑顔で言われ、深く息を吐いた。感染していなかった、大丈夫だった。少しずつ心臓の鼓動が遠くなっていくような気がした。万が一は、なかったんだ。

別室へ移ると、そこにはカウンセリングを担当する医師がいた。怖かったですと正直に話した。「これ、もしもHIVに感染していたとしたらどうなったんですか?」と聞いた。最終的には死ぬんですか?

今は薬の開発が進んでいますからと、医師は答えてくれた。「ちゃんと検査して治療を受ければ、ほとんど死ぬことはありません」。状況次第で治療が難しい場合はありますが、と。

検査を受ける前の自分のことを振り返る。もしこれで感染していたら終わりだと思っていた。さっきまで、「万が一」の恐怖に襲われていた。

検査を受けて良かったです。そう伝えると、医師はこう言った。「検査を受けることが大事なんです。感染していても、治療はできる。検査は、ほんとうに大事」。

結果を聞いて外に出た。あっさりと終わったが、「万が一」という言葉はまだ脳裏にこびりついていた。今まで、その言葉をここまで意識したことはなかった。

自分は大丈夫だとどこかで思っていたし、これからも思い続けるだろう。だけど、その安心感はとても脆いのだと、検査を受けて思い知らされた。結果を聞かされる前のあの沈黙とにぶい胸の痛みは、まだ覚えている。

自分は、大丈夫。何を根拠に?

近くにあったベローチェに入り、アイスコーヒーを飲む。これまで聞いてきた多くの「万が一」を思い出してみた。痴漢冤罪、事件事故、がんなどの大病……。それらは起こりうる「万が一」だったんだ。

それらに怯えて暮らすわけでもない。だけど、この何事もなく過ぎていく日々は、何かの拍子でバランスを崩してしまうのかもしれない。

受診と結果通知に、それぞれ20分ずつ。振り返れば大したことのない時間だったかもしれない。いま確実に言えるのは、「自分だけは大丈夫」という曖昧な確信には、いつか裏切られるんだろうなということだ。

それがいつなのか、何が起こるのかは分からない。それでも、「万が一」はいつかくる。

とりあえず次に親と会うときは、最高に美味しいご飯に連れて行こうと思った。

HIV検査の話をつまみに。

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