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「新型コロナウイルスの再感染は致死的」医師の動画に批判、専門家「信用しないで」

新型肺炎を引き起こすコロナウイルス(COVID-19)をめぐって「新型コロナウイルスの再感染は致死的」と主張する現役医師の動画が拡散。感染症の専門家で神戸大学教授の岩田健太郎医師は「そういう事例の報告はない」と注意を呼びかけている。

「新型コロナウイルスの再感染は致死的」。そう説明する現役医師の動画がネット上で拡散されている。感染症の専門家で神戸大学教授の岩田健太郎医師は「そういう事例の報告はない」「引用論文が明示されていないものは信用しない方がいい」と注意を呼びかけている。

「中国のドクターによると…」

問題の動画は東京都町田市の「多摩境内科クリニック」がYouTubeに公開したもので、3月1日までの再生回数は6万回を超える。

ニコニコ動画にも同内容の動画が投稿されており、こちらは4万3千再生。動画を紹介するツイートは2500回以上リツイートされている。

動画は同クリニックの福富充院長による「新型コロナウイルスの再感染は致死的、という話をします」という言葉で始まる。

福富院長は「中国の新型コロナウイルスを治療したドクター」の話として、「新型コロナウイルスに感染して、もう治ったと思っていて、また再感染することがあって。2回目に感染した時は死亡してしまう」と説明。

コロナで抗体依存性感染増強?

死亡の理由は「抗体依存性感染増強現象」(ADE)によって説明できると述べ、そのメカニズムを次のように解説している。

《初感染の後、症状がなくなって「退院おめでとう」「治った」と思わせておいて、チームでやってくる。新型コロナウイルスって全部同じじゃなくて、少し違ったやつもいるんですよ。フェイントみたいなものですよね》

《血清型が少し違うウイルスがやってくるんですよ、治った人のところにね。で、再感染を起こすと。すると何が起きるか。体の中に免疫ができていて、普通だったらその免疫が2度目に入ってきたウイルスをやっつけて大丈夫なはずなんですけど、やっつけられないんですよ》

《ウイルスのところに抗体がくっついて、そうすると免疫担当細胞のところに引き寄せられるんですね。免疫担当細胞って警察みたいなものですけど、捕まえる警察のところにみんな集まってきて、免疫担当細胞に感染する》

《だから、免疫不全を起こすということで。免疫不全っていうとみんなすぐエイズ、HIVを考えると思うんですけど、免疫不全ってHIVだけのものじゃなくって、いろんなウイルスにそういう性質があって、確認されてるんですね》

《新型コロナウイルスもきっとこういう同じ仕組みで。過去のコロナウイルスと同じような仕組みで免疫不全、ADEを起こしているんだろう、ということですね》

「80年に1回の凶悪なウイルス」

福富院長は「インフルエンザなんてレベルじゃない」「すごい凶悪な、80年に1回、人々が忘れたころに社会に大混乱を起こすウイルス」などと新型コロナウイルスの危険性を繰り返し強調。8分40秒あまりの動画の最後を、こんな言葉で結んでいる。

《再感染を起こすとコロナウイルスを免疫がやっつけることができなくて、心不全を起こして突然死する》

《風邪なんてもんじゃないです。本当に風邪のようなフリをしてるだけですので。「ほかのウイルスと同じようなものですよ」って、それ騙しですので。みなさん絶対に、このウイルスには騙されないでください》

岩田教授「再感染は確認されていない」

BuzzFeed Japan Medicalは、動画の内容について岩田健太郎教授に見解を聞いた。(※岩田教授の話は2月28日時点の情報に基づいています)

――新型コロナウイルスの再感染で「抗体依存性感染増強」になり、突然死するということは起こりうるのでしょうか。

「起こりうるか」という質問に対する答えは常にイエスなんですけど、「起こりやすいかどうか」についてはノー、「起こっているか」についてもほぼノーです。

文献を検索しましたが、調べた限りではそういう事例の報告はありませんでした。

そもそも「2回感染した」という事例は、1度も確認されていない。検査で陰性になった後に陽性になったという人が、「2度目に感染したのか」はまだ謎なんです。

大阪の事例にしても、中国の事例にしても、陰性になったのは検査で見つけられなかっただけで、ずっと感染していただけなのではないか。再感染より「再燃」(いったん減少したウイルスが再び増加すること)の可能性の方が高いと考えています。

再感染が確認されていないということは、それが心不全を起こすということも当然確認されていない、ということです。

見つかってから数ヶ月しか経っていないウイルスについて、あたかも「そういうことがあるんだ」という風に主張することは、あまり誠実なやり方とは言えません。

やるならせめて、「これはあくまで仮説だけど」ぐらいの言い方をするのが、良心的な医者の態度だと思います。

「免疫」という言葉に注意

――そもそも「抗体依存性感染増強」とは。

何をもってそういう話をしているのかよくわかりませんが、2度目の感染で重症化する感染症はあります。デング熱なんかは典型的です。

デングのウイルスは4種類あって、1回感染するとその1つのウイルスタイプにはもう感染しないだろうと言われているのですが、別の3種類のものに感染すると、免疫増強が起きて重症化することがよく知られています。

――しかし、それが新型コロナでも起きているという根拠はないと。

そうですね。そんな話はないです。

動画の中で「血清型が少し違うウイルスがやってくる」という発言がありましたが、まだそんなものは確認されていません。

――現役医師が不確定な情報をネットに流すことについてはどう思われますか。

「自己免疫」って言っちゃうと何でもありなので、よく使われるんですね。「自己免疫」とか「免疫応答」とか。

「免疫力増強」も、インチキ医学を見分ける際のキーワード。「免疫」という言葉を使うと、うまく説明できた印象を与えることができる。非常に都合のいい言葉です。

サイトカインストームはコロナに限らない

――動画のなかでは、新型コロナウイルスによる「サイトカインストーム」(免疫系の暴走)についても言及されていました。

重症化すると炎症が激しくなり、サイトカインストームが起きることはあります。ただ、それはほぼすべての重症感染症で起こることで、新型コロナに限ったことではありません。

こういう時に言われがちなのが、免疫を強くするためのサプリメントがいいんじゃないか、免疫抑制剤を使うといいんじゃないか、といった話。

2003年のSARSの時もまったく同じ議論が起きて、(免疫抑制効果のある)ステロイドを使った事例が多くありました。SARSの場合はステロイドは治療効果がないか、むしろ悪くなる、ということであまり推奨されなくなったんです。

結核性髄膜炎など、ステロイドの効果がある感染症も一部にはあります。でも片手で数えるほどです。世の中には物凄くたくさんの感染症がありますけど、免疫を抑制することで良くなる感染症というのはほとんどありません。

例外的に稀な事象を、さも一般事象であるかのように広めてしまうことを「過度な一般化」と言います。

HIVとコロナは「まったく別物」

――動画の説明欄には「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)による免疫不全のしくみに近似」とも書かれています。

全然似てないです。コロナで起こっていることとHIVとは、似ても似つかない。まったく別物と言っていいと思います。免疫不全があるという証拠も不十分です。

ウイルス感染を起こすと白血球が減ったりして、一種の免疫抑制的なことが一過性で起こることはあります。それは割とどのウイルス感染でも起こることで、HIVとはまったく意味が違います。

引用論文でわかる信頼性

――動画の説明は「中国の新型コロナウイルスを治療したドクター」の話が根拠になっています。

「誰かが言っている」というのは、まったく愚にもつかない話。引用論文が明示されていないものは、一切信用しない方がいいです。

――こうした医療情報に接する際に、視聴者・読者が注意すべきことは。

バズワードに引っ張られない方がいいです。みなさん「免疫力」とかの言葉に弱いので。

「有名人だけが使っている」「みんなが知らない」「政府が騙している」といったワードには注意してください。


BuzzFeed Japan Medicalは、多摩境内科クリニックに対して、情報の根拠となる論文や中国人医師の名前などを問い合わせているが、3月1日午前8時現在、回答はない。返答があり次第、追記する。