有名人がファンに個別のビデオメッセージを送る動画プラットフォーム「カメオ(Cameo)」から、ハリウッドスターたちが反ウクライナ的なメッセージを発信する動画が拡散している。
しかしこれは、当人たちには無断で編集されたものだ。ロシアの工作員によって手を加えられ、プロパガンダに利用されていると、マイクロソフト脅威分析センター(Microsoft Threat Analysis Center、MTAC)が報告した。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで知られるイライジャ・ウッドや、『ブレイキング・バッド』のディーン・ノリス、『プラトーン』のジョン・C・マッギンレーなど、7人の有名人による動画が確認されている。
Cameoは、プラットフォームと契約した人(俳優などの有名人が多い)がユーザーから報酬を受け、お祝いや励ましなどの私的なビデオメッセージを投稿するプラットフォームだ。イライジャの場合、340ドル(約5万円)から依頼できる。
報告によると著名人らは、「ウラジーミル」という人物にメッセージを送るよう依頼を受けた。「ウラジーミル」がアルコール中毒や薬物中毒に苦しんでおり、助けを求めるよう促す、という内容だった。
WIREDによると、イライジャは動画で次のように語りかけている(イライジャのアカウントは現在、一時的に利用不可能になっている)。
「僕はただ、あなたがちゃんと助けを得ていることを確認したい」
「あなたが必要とする助けを、ちゃんと得られるよう願っている。愛を込めて、ウラジーミルへ」
動画に絵文字やリンク、場合によってはメディアのロゴなどが付けられ、有名人たちがあたかもウクライナ大統領、ウォロディミル・ゼレンスキーに向けて語りかけているかのように仕立てられていたという(ウラジーミルとウォロディミルは同じ姓。前者がロシア語、後者がウクライナ語発音だ)。
BBCによると、動画はソーシャルメディアやロシア政府が管理するテレビ局などを通して拡散された。
ロシアはかねてから、ゼレンスキー大統領をはじめとするウクライナの政府高官たちが薬物中毒者だというプロパガンダを用い、国民からのウクライナ侵攻に対する支持を得ようとしている。
一連の動画は、そのメッセージを裏付けるかのように利用された。
当人たちは、編集や無断転載を事前に知らされていない。
ニューヨーク・タイムズによると、元の動画に出演した著名人らはコメントの要請に応じなかったが、イライジャの代理人は、Cameoでメッセージを録画したとはいえ「ゼレンスキー大統領に宛てたものでも、ロシアやウクライナ侵攻に関係するものでもない」と述べた。
Cameoの広報はBBCに対し、ロシアのプロパガンダに動画が利用されたことは、同社のコミュニティガイドラインに違反するとコメントした。
「このような違反が立証された場合、カメオは通常、問題のあるコンテンツを削除します。購入者のアカウントを一時停止したうえで、さらなる問題の発生を防ぎます」
MTACは、ロシアのサイバー攻撃や影響工作は「ウクライナ国民の士気を低下させ、外部からの軍事的・財政的な支援の低下を狙っている」と警告する。いまのところ、人工知能(AI)ツールを高度に活用するなど、実質的な影響力をもたらす活動は確認されていないものの「マイクロソフトは引き続きこの分野を注意深く監視していく」と述べた。