• lgbtjapan badge

世界最大級の体験型LGBT博物館、2021年にもロンドンにオープン

何世紀にもおよぶLGBTの歴史をたどる、これまでにないタイプの体験型ミュージアムがロンドンに誕生する。仕掛け人のジョセフ・ガリアーノが、なぜ今LGBT博物館なのか、これまで語られなかった歴史をどう掘り起こして記録し伝えていくのかを語る。

ロンドンに世界最大規模のLGBT博物館をつくる計画が進められている。

博物館の名称は「クィア・ブリテン ナショナルLGBTQ+ミュージアム」。現在、設立準備を進めている発起人らによると、これまでにない規模で幅広いテーマを取り扱う予定で、ベルリンの同性愛博物館など、同性愛の歴史を扱った既存の博物館を超える施設となる。LGBTの歴史、アート、政治、カルチャーにまつわる品を集めた、他に例のないコレクションの構築をめざす。

バーチャル体験、イマーシブ(没入型)な体験型展示、大規模なデジタルプラットフォームを駆使した3D体験も企画している。幅広い人々にとって魅力ある展示にし、知られざるLGBTヒストリーを伝える場にしたい意向だ。

計画どおりに進めば、2021年にもオープンの予定。

ロンドンのサディク・カーン市長も博物館の設立に支持を表明。主要文化財団等との間では資金調達の話し合いが進められている。

社会的責任としての資金提供が期待できる大手企業とも接触しているほか、著名な篤志家をはじめ、広く一般からも寄付を募る。場所の選定も済み、確定に向けて動いている。

博物館のCEOを務めるのが、編集者で著述家、慈善活動コミュニケーションストラテジストのジョセフ・ガリアーノだ。理事会と顧問には、LGBTや金融、カルチャー界から幅広い人材を集めた。

メンバーには、LGBT権利団体ストーンウォールの共同設立者で1980年代から英国のLGBTコミュニティを牽引してきたリサ・パワー、ロンドン・サウスバンク大学COOのイアン・マーテンズ、ナショナル・ポートレート・ギャラリー元館長のサンディ・ネアン、英国の国会議員として初めて同性愛者であることを明かしたクリス・スミス卿、アーンスト・アンド・ヤング社のマネージングパートナー、リズ・ビンガム等の名がある。

博物館の構想を発表し資金調達を呼びかけるレセプションは2月末に行われた。

ガリアーノによると、博物館はLGBTという枠組みの中で、あらゆる人種、ジェンダー、指向の人を反映し、これまで顧みられなかったり破り捨てられたりしてきた歴史を手遅れになる前に記録に残すことをめざす。

ガリアーノは次のように説明する。

「LGBTの歴史はごく断片的にしか記録が残されていません。LGBTの中でももっとも表立って見える存在だったゲイ男性をとってみても、60年代より前の世代は高齢化していて、彼らの体験は失われつつあります。実際、多くはすでに知られることなく葬られた状態です。
BAMEと呼ばれる人たち(ブラック、アジア系、その他エスニックマイノリティの総称)や女性、トランスジェンダーの体験となると、男性とくらべるとさらに重視されてこなかったため、語られていない話がたくさんあるんです」

そのためか、支援者や出資を考えてくれそうな人と会うと「快く受け入れてもらえる機会は多い」という。

「企業やカルチャーの現場の人と話したり、若い世代のLGBT当事者と話をしたりすると、『どうしてこういう場所が今までなかったんだろう』という声があがります」

アートや日常生活の品、映像、プラカード、録音資料、個人の体験談などは、記録として過去の記憶をとどめるだけでなく、称えることにもなる。これまでの道のりを鮮やかな色彩で映し出し、過去から現在へと反響するのだという。

3Dやインタラクティブな演出を取り入れるアプローチの構想は、ひとつには訪れた人からできるだけ共感を引き出したい狙いがある。また、デジタル技術を活用することにより、歴史を伝える資料の多くを、広く国を越えて人々に体感してもらえる。

表立ったLGBTカルチャーにふれる機会が限られた国の人々にとっては、とりわけ意味がある。

壮大な取り組みであることはガリアーノも承知している。それでも「大事なことであり、やらなければいけない挑戦です。この国における理解には欠落した部分があって、今取り組まないと欠落したままになってしまいます」

構想が生まれたきっかけは、2017年に、英国で同性愛を犯罪とする法が一部撤廃されてから50年の節目を迎えたことだった。この節目は大きく取り上げられたが、もともと男性同士の同性愛に限定した法だったため、LGBTの中でもやはりゲイに焦点が当たる結果となった。

LGBTの人々にとって、英国で1967年に同性愛が合法化される前後50年ずつほどの間は、公民権運動やフェミニズム運動に加えて、近代史におけるもっともめざましい社会的、法的、文化的な変化の時代だった。

19世紀、同性愛は明確な存在とアイデンティティを知られることになったが、法的にも社会的にも大きく抑圧された。

だが19世紀末にオスカー・ワイルドが同性愛行為で有罪とされた裁判のあと、2度の世界大戦を経て階級やその他のしくみが徹底的に解体された。1950年代にマッカーシズムによってゲイ男性への弾圧が行われたのち、60年代の性解放の流れにゲイとレズビアンたちも影響を受ける。やがて同性愛の合法化と1969年のストーンウォール暴動を経て、ほどなくLGBTの権利のための戦いは大きなうねりとなっていった。

博物館の展示では、エイズの拡大、「同性愛を助長する行為」を禁じる地方自治法28条の制定、平等な同性婚の実現など、いくつもの勝利と挫折を紹介しながら、現在に至るまでの歴史をたどってゆく。

この1年は世界中で、宗教的な原理主義集団やオルタナ右翼(暴力的、差別的で過激な右翼)、極右といったグループとLGBTムーブメントの間で、扇動的な文化的戦争の動きが高まってきたといっていい。その発火点となったのがトランスジェンダーの権利だった。

こうしてLGBT解放の進展に対して脅威を振りかざす動きがあったことも、博物館設立への原動力になったとガリアーノは語る。おりしも取材の3日前の2月初旬、前年に同性婚を法制化していた英国領バミューダは、この措置を撤回している。一度合法とした同性婚を撤回するのは世界でも初の例だ。

「近年、たくさんの変化が立て続けに起きました。すばらしいことです。私も自分が結婚指輪をする日がくるとは思いもしませんでした。ただ問題なのは、政治的に難しい状況になると、こうした変化もあっという間に逆戻りしてしまうのです」

構想発表のレセプション後は、英国のLGBTコミュニティを巡る旅が始まっている。LGBTの歴史、社会的な歴史を伝える話を聞き取り、とりまとめて記録し、博物館のコレクションに加えるアイテムを検証していく。

「どんなものがあるのか知るところから始めなくてはいけません」。外部組織のキュレーターとも話し合い、博物館に展示するものを貸し出してくれそうな人を確認していく予定だ。

昨年、テート・ブリテンで開かれた「クィア・ブリティッシュ・アート」展で、関係者の興味を引くものが展示されていた。オスカー・ワイルドが同性愛の罪で1895年から1897年まで投獄された、レディング刑務所の独房の扉だ。

「はっと息が止まりました。あるものが、特別な文化的背景を背負った重みで、単なるもの以上の意味を持つ例を見せつけられました」

男性同士の性行為を描いた西暦1世紀の銀器、ウォレン・カップ(大英博物館が所蔵)も、博物館の展示に向けて貸し出しを強く希望している品のひとつだという。現在とはかなり異なる、19世紀以前のセクシャル・アイデンティティの複雑さをひも解きながら、できるだけ過去までさかのぼってみたいと考えているからだ。

そうした物理的な収蔵品に加え、概念的な面にもスポットをあてる。具体的には、「LGBTの系図」を作り、LGBTの歴史を作った人々の足跡をたどって、互いの関係や与え合ってきた影響を明らかにしていくつもりだ。

ガリアーノはこれについて、自身の歩みを振り返って次のように話す。

「18歳のとき、デレク・ジャーマン(映画監督)とサイモン・ワトニー(著述家、活動家)が大学へ来て、ゲイであることについて話をしてくれました。その後、デレクと手紙のやり取りをするようになり、私はそれを通じてゲイとしての自分のアイデンティティを確立していった面があります。二人はブルームズベリー・グループ(20世紀初頭の芸術家、知識人グループ)にいたダンカン・グラント(画家)を知っていて、グラントはヴァージニア・ウルフやヴィタ・サックヴィル・ウェスト(作家。ヴァージニア・ウルフと恋愛関係にあったとされる)ともつながりがあって、という流れがあります」

系図はより広い歴史的背景と対比させる形にして、それぞれの人物に関連する展示物を併せて紹介し、見る人に「こうした人たちが文化的な構造の中にどう深く根づいているかを知ってもらう」とガリアーノは言う。

「ほこりをかぶった昔々の歴史の話ではありません。一人ひとりの人生があるんです」

従来から博物館が果たしてきた教育的目的のほか、LGBT博物館にはもうひとつめざしているゴールがある。同性愛嫌悪やトランスジェンダー嫌悪による抑圧から生じた、心の傷を回復する場にしたいのだ。


「訪れた人が、ここには自分が反映されている、このカルチャーの中で自分の存在が認められている、そう思える場所にしたいと思っています」とガリアーノは言う。

「ありのままの自分でいいんだと思わせてくれる場所。母親にカミングアウトしたばかりの若い女性がお母さんと一緒に訪れて、お互いに少しわかりあえるようになるような場所です。過去に存在したさまざまな可能性を紹介し、さらにはこの先のあらゆる可能性を示してあげられれば、見た人は未来をもっとクリアに思い描けるようになるでしょう」

ガリアーノにとって、博物館は個人的なツールになるのと同様、政治的なツールにもなり得ると考える。その思いから彼が引いたのは、哲学者ジョージ・サンタヤーナの名言だ。「過去を思い起こせない者は、過去を繰り返してしまう」。

ただし、LGBTコミュニティにとって問題なのは忘れてしまうことではない。むしろ、LGBTが歩んできた歴史の大部分が、秘密にされ、合法でなく、あるいは恥の意識から押し隠されていて、そもそもこれまできちんと記録されていなかったのだ。

そのため、博物館の企画者としては、これから国内を訪ね歩き、「いろいろな人に体験や思いを話してもらい、関連する品を寄せてもらい」ながら、見えなかった歴史を発掘していきたいとガリアーノは言う。この活動はまず英国内のLGBTを中心にしていくが、博物館そのものと同様、いずれ拡大していくつもりだという。

「この件については大望がなければ意味がありません。これは実現しなくてはいけないし、これからのLGBTコミュニティと同様、わくわくするようなものにならなくてはいけないんです」

博物館側は政府にも接触して資金等について話をしていくつもりだが、ガリアーノはそれについては詳述を避けた。その代わり、こう言い添えた。

「ここはLGBTQの人たちだけの博物館ではありません。あらゆる人のための場所なんです」

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan