インド北部のジャンム・カシミール州で起きた8歳の少女のレイプ殺人事件が、激しい議論を呼ぶ事態となっている。
ジャンム・カシミール州の山間にある村カトゥアで、8歳の少女が拉致され、1週間にわたり寺院に監禁されてレイプされたうえ、最後には殺された。犯行の残虐性に怒った多くの人々が、インド各地で抗議デモを開いたりして声を上げた。
それに加え、事件にはもう一つの背景が横たわっていた。インドの多数派ヒンドゥー教を信仰し、ヒンドゥー国家づくりを求めるヒンドゥー至上主義者が、少女をレイプして殺害することで、イスラム教徒の遊牧民に恐怖心を与えて追いだそうとした可能性が浮上したのだ。
BuzzFeed Newsが閲覧した地元警察の報告書によると、被害者の8歳の少女は2018年1月10日にカトゥアで拉致され、薬を与えられたうえ、ヒンドゥー寺院に閉じ込められた。そこで複数の男たちに繰り返しレイプされ、1週間後に殺害された。
警察が少女の遺体発見から2日後に容疑者として逮捕したのは、19歳の男だった。この男は一人で少女を拉致し、殺害したと自白した。しかし、特別捜査班が現場に派遣されて捜査したところ、全く異なる構図が浮かんできた。
19歳の男のおじ、サンジ・ラム容疑者(60)と、警察官のティラク・ラジ、ディーパク・カジュリアの両容疑者の関与が明らかになったのだ。
警察当局によると、ラム容疑者はヒンドゥー至上主義者だった。
ヒンドゥー至上主義とは、「インドはヒンドゥー教国家」であるべきだと信じ、ヒンドゥー以外を排斥する政治思想で、以前からイスラム教徒への嫌がらせを繰り返していた。二人の警官も、イスラム教徒を挑発したりしていたという。
一方、被害者の少女はバカルワルと呼ばれるイスラム教徒の遊牧民だった。ラム容疑者は、バカルワルを怯えさせて村の周囲から追い出すため、19歳のおいなどを使って少女を拉致。監禁したうえ、殺害した疑いが持たれている。暴力を用いて気に入らない異教徒の遊牧民を追い払う「民族浄化」を狙った可能性があるのだ。
ジャンム・カシミール州はイスラム教徒が多数派を占めるインドで唯一の州で、住民の間ではインドからの独立やパキスタンへの編入を求める運動が続いている。これを抑えるため数十万人単位のインド軍が常に住民の動向を監視しており、「世界で最も軍事化された地域」と呼ばれる。
インドでは2014年、ヒンドゥー至上主義団体「民族義勇団(RSS)」などを支持基盤とする右派政党のインド人民党(BJP)が総選挙で、インドで30年ぶりとなる単独過半数を獲得する勝利を収め、ナレンドラ・モディ氏を首相とする政権が発足した。
モディ政権は日本との関係を重視し、新幹線のインドへの導入を決めたりしてきたが、一方でその政権下では、BJPを支えるヒンドゥー至上主義者の活動が目立つようになり、イスラム教徒ら少数派の抑圧が目立つようになっている。イスラム教徒の方が多いジャンム・カシミールでも、BJPやRSSが勢力を伸ばそうとしている。
「牛殺し」で殺人相次ぐ
その一例が、「牛殺し殺人」と呼ばれる一連の事件だ。
牛(乳牛)は、ヒンドゥー教では神の使いとされる神聖な存在で、殺してはならないとされている。病気などで死んだ乳牛や雄牛は、イスラム教徒や、肉食する低カーストのヒンドゥー教徒が農家から回収し、食料にしたり皮革を加工したりしている。だが、その運搬途中などで「牛を殺した」と疑われてリンチを受けたりする事件が相次いでいる。
インドのデータジャーナリズムサイトによると、2010年から2017年6月までにに、牛肉に関連した襲撃事件が63件あり、28人が殺害された。その97%は、モディ政権発足後に起きたという。
こうした状況のなか、ジャンム・カシミールで捜査当局がヒンドゥー至上主義者の関与の疑いを深めると、一部のヒンドゥー教徒から、激しい非難の声が上がり始めた。殺人への非難ではなく、「事件はでっち上げで、無実のヒンドゥー教徒が逮捕された」「ジャンム・カシミールのヒンドゥー教徒を守れ」というものだった。
また、女優のスワラ・バシュカルさんが、犠牲となった少女を悼むメッセージを掲げると、今度はバシュカルさんを広告キャンペーンに起用したアマゾン・インディアに対するボイコット運動が始まった。
インドでは近年、残酷な性犯罪事件が相次いだことなどから、性犯罪に対する社会の関心が高まり、最高刑の引き上げなどが行われた。
だが、それでも性犯罪が減ったとはいいがたい。そこに起きたこの事件で、今度はインドに深く根を張るヒンドゥー至上主義と、宗教・民族的な少数派に対する排斥感情もあぶり出された。
インドでの性犯罪被害を巡っては、8歳のとき、私はレイプされた。インドで繰り返される悲劇を前に、声を上げることを決めた。もご覧ください。