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国民の「知る権利」を守るために、報道と権力はどう戦ってきたか?

原則公開なはずの国の審議会が、為政者の都合で非公開になることがあります。それは合理的な理由がある正しい措置なのか? 権力とメディアがどう戦ってきたのか、考えます。

発言者を特定するなというルールに抗議し、BuzzFeed Japan Medicalが名前入りで報じたところ、今後の審議会は傍聴させないペナルティをちらつかされている厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。

「表現の自由」とは何か、「報道・取材の自由」とは何か?

ここまで民主主義の根幹を作るものとして、国民の知る権利や表現の自由が認められ、国の会議は公開の原則があることを確認してきた。

3回連載の最終回は、法で保障された、国の情報を得る自由を守るために、報道と権力はどう戦ってきたのか。そして今後、どうしていくべきなのかを考える。

憲法とメディア論が専門の慶応大学の横大道聡教授に聞いた。

これまでもあった会議の内容が伏せられた事例

ーーこれまで、他の会議でも会議の内容が伏せられたことはありました。統治機関の情報は原則、公開というルールから言えば、法的には間違っていると言えますか?

新聞記事を調べてみると、確かに似たような話はこれまでもあったようです。

2014年1月31日の朝日新聞の記事では、 「特定秘密保護法の運用基準などを議論する情報保全諮問会議(座長=渡辺恒雄・読売 新聞グループ本社会長・主筆)について、内閣官房が発言者や詳細を伏せた形で会議の要旨が作られたという内容が書かれています。

これまで述べてきたように、行政の審議会は公開でやるのが原則で、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成することが閣議決定やガイドラインなどで定められています。

しかし、記事では「委員らの発言は『機密性の高い事柄も議論になり、(議事録全文の)公開には問題がある」との理由から匿名にされたようです。

2つ目は2017年に天皇の退位に関する皇室会議の議事についても、やはり議事録を作成せず、詳細なやりとりは公表しなかったことが報じられています。

菅義偉官房長官時代に、国民がこぞってお祝いすべき日に関するものであって、どなたがどのような発言をしたか明らかにすることは望ましくないのだ、ということで皇室会議が合意したためだと理由が述べられています(朝日新聞2017年12月9日)。

もう少し大きなニュースになったのは、2019年の知的財産戦略本部「検証・評価・企画委員会」の話です。

新聞記事を引用しますと、このように書かれています。

この会議で交わされた議論の発言者名については、外に向けて発信しないように――。政府のある有識者会議で、公開なのに、発言者の「匿名化」を傍聴者らに求めるルールが導入された。......完全公開だったのを変更し、委員や取材者も含む傍聴者が会議の中を外で発信する際は発言者の所属や氏名を「特定しないよう求めることができる」とし、傍聴者の録音・録画も禁じた。新たに就任した座長が早速、ルールを適用した。... ...ネット上でも、「批判を恐れて無責任に物事を進めるための仕組み」などと批判が相次いだ。知財本部は今月28日に開く次の会合では「匿名化」を求めない方針という。「反響を受けて総合的に考えた」としている 。(朝日新聞 2019 年10月23日、朝日新聞デジタル 2019年10月28日)

公開の会議なのに、発言者の匿名化を傍聴者に求めるルールが導入されたということです。しかし、これに対してネット上でも批判等があったため、結局、その後の会議では、匿名化は求めないことになったという話です。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議も非公開に

最近の話でいうと、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議でも、発言者匿名の問題が取り上げられていました。

議事概要は公開されていますが、発言者がどのように発言したか、議論がどのように進んだかは分からないような形になっています。

なぜそのような形にしたかというと、「誰が発言したかよりも、どんな内容が話されたのかが重要なのだ、発言者名を明記すると自由に議論していただけなくなるのだ」という説明です。

中日新聞2020年5月14 日の記事では、もう少し詳しく匿名化した理由が説明されています。

内閣官房の担当者は「指針は、誰が何を言ったかなど発言者と発言内容をひも付けることまで求めていない」と述べた。その上で「議事概要公表は指針の趣旨目的を踏まえている。今後も、(誰が何を発言したかが分かる)議事録を作成する予定はない」と話した。/ 内閣府の公文書管理委員会の委員としてこの指針の策定 に関わった三宅弘弁護士は「指針は『発言者及び発言内容』と明記しており、誰の発言なのかを記す義務がある。議事概要では政策決定過程が検証できる資料とは言えない」と指摘。「詳細な議事録を作成し、情報公開法にのっとり公表の是非を決めるのが政府の正しい態度」と話した。(中日新聞 2020年5月14 日)

前回示した議事録に何を記すべきかを定めたガイドライン(指針)ですが、誰が何を言ったかなど、発言者と発言内容を紐づけることまでは求めていないのだと解釈しています。

その上で議事、概要公表は指針の趣旨目的は踏まえているから、今後も誰が何を発言したかわかる議事録を作成する予定はない、というのが当局の担当者の発言です。

政府の立場は、専門家会議は、ガイドラインの定める「歴史的緊急事態」における「政策の決定又は了解を行う会議等」に該当しないため、「発言者及び発言内容等を記載した議事の記録」を作成する必要がない、などというものである。

これに対して公文書管理の委員会で、先ほどの指針作成にも関わった情報公開の専門家、三宅弘先生は、「いや、そうではない」と反論しています。

指針は発言者及び発言内容と明記しており、誰の発言かを記すことは義務なのだ、議事概要では政策決定過程が検証できる資料とは言えない。だから詳細な議事録を作成し、情報公開法にのっとり、公表の是非を決めるのが政府の正しい態度なのだという主張です。

BuzzFeedが問題としている大麻検討会と同じような事態が、新型コロナの専門家会議でも起こっていたことがわかります。

コロナ専門家会議をめぐる対応には日弁連からも批判が出ており、会長声明という形で、発言内容を明記した議事録を作成すべきだと表明しています。

さらにNPOの「情報公開クリアリングハウス」が、専門家会議について情報公開請求をしたところ、やはり発言内容がわからない議事要旨しか出してこなかったことから、詳細な議事内容を明らかにするよう求める訴訟を行っています。

BuzzFeed Japan Medicalの大麻検討会の記事

そういう流れの中で、今回のBuzzFeedの大麻検討会のケースが位置付けられるのではないかと思います。

この検討会では、会議の傍聴を報道関係者に限定した上で、留意事項として、録音するなとか、発言者の特定を行うな、と求めています。

「以上の留意事項を確認し、内容について同意します」という確認事項にチェックを入れなければ、傍聴を断るという形で傍聴申し込み用紙を作っている。

これに対して、岩永さんは、内容を確認したという意味だと留保を書き加えてチェックしたと説明しました

当局側は、こうしたルールを設けた理由として、もし発言内容、発言者を公にすると、外部からの圧力、干渉、等々が起こる恐れがあるとしています。大麻はセンシティブな問題だから、そうしているのだとの説明がなされました。

「発言者氏名を公にすることで、発言者等に対し外部からの圧力、干渉、危害が及ぶおそれが生じることから、発言者氏名を除いた議事録を公開することとしており、同趣旨から報道機関の方にも発言 者の特定をしないようお願いしている」

「薬物の関係はセンシティブな問題で、発言者に圧力がかかることも実際に起こっている」

「(構成員に)要請書や電話が来ていると耳にした」

「初回に会場のビルの外でデモのようなものが起こった」

「会場のビルの管理者からこのまま続くなら会場として使わせないと言われた」

(BuzzFeedの記事に書いた監視指導・麻薬対策課の説明)

そのことも含め、最終回の第8回の会合が終わった後に、委員の発言内容の詳細を氏名入りで伝える記事を2本配信し、これに対して抗議が来て、許容し難いから今後、BuzzFeedの検討会や審議会の入場に関しては検討させていただきたいという話になったというのが今回のケースでしたね。

知る権利に奉仕するメディアとして、厚労省のルールの妥当性を問う姿勢はあり得る

ーー法的に見ると、私の報道のケースはどのように判断できますか?

これまでの法的な議論を踏まえながら、このケースやこのケース以前の似たような事例について考えてみます。

まず、あくまでも、会議は公開されなければいけないし、委員名と発言内容を紐づけた形で議事録も作成されなければいけない。この大原則が出発点です。

それは指針でもガイドラインでもそうなっていたし、なぜそうなっているか遡れば、憲法の国民主権国家における存立の基盤としての原則から導かれる要請だからです。

ですから、「当局がルールを定めたのだから従え」という単純な話に落とし込まれるべきではないと思います。

メディアは国民の知る権利に奉仕する主体であるわけで、この観点から今回の厚労省のルール自体の妥当性を問う姿勢は当然あり得てしかるべきです。むしろ問題提起することに、相応の意義はあるはずです。

「センシティブなテーマだから匿名に」は妥当か?

ーー大麻はセンシティブなテーマで、委員に危害が加えられる恐れがあるから匿名で、という説明は妥当でしょうか?

真に必要な場合に、発言を匿名化すること自体はあり得ることです。それ自体は指針等も認めています。

ただ今回がその例外的事案に該当するかについては、検証しなければいけません。厚労省側の説明で妥当かどうかは、問題として取り上げて検証していくべきだと思います。

例えば、「クレームが来るかも」というだけで匿名化できるとすれば、利害関係者が存在する会議のほとんどは匿名化して良いということになります。ですから重要な会議であればあるほど、匿名化しやすくなることになりかねません。

また、「非公開にしてほしい」と要望する委員が一人でもいれば非公開にできるとすれば、これもおよそほとんどの会議は匿名化できることになると思います。これもやはり問題です。

また先ほど指摘がありましたが、今回の会議の内容が、実際に公開している他の会議と比べて特に秘匿が必要な会議だと言えるのか。

あるいは匿名化しないと自由闊達な議論ができないような性質の会議なのかどうかは問うていく必要があるかと思います。

ーー私の行動を批判する人たちの中には、「チャタムハウスルール」を挙げて、発言者の特定を行わない形式もあり得るのだと主張している人がいました。発言者の氏名も含めて公開が原則の国の審議会でこのルールは採用されるべきですか?

チャタムハウスルール自体、有益な場合が少なくありません。

チャタムハウスのウェブサイトでは、このルールを適用するメリットとして、「自分が所属する組織の見解とは異なる個人としての立場で発言することができ、自由な議論を促すことができる。また、引用された場合の評判や影響を気にする必要がないため、リラックスして発言できる」と述べられていますが、それはその通りだと思います。

しかし、先ほどから述べている考え方に照らすと、国の審議会などでも採用すべきルールであるかは疑問です。

※イギリスのシンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」で使われた、会議の際に参加者が守るべきルール。参加者は会議の中で示された情報を外部に公開することはできるが、発言者を特定する情報は伏せなければならない。

これまでも公で発言している有識者 匿名で何から守るのか?

ーー厚労省の担当課長は、「委員名に関しては、僕は全て公表していいと思っていたが、委員が自分の名前を出してくれるなという人もいたわけだから、その方のご意見を尊重することは事務局として当然だと思っている」と取材に対して話しました。この説明についてどう考えますか?

委員も引き受ける以上、原則公開であるということを踏まえてやるべきです。また、この検討会は、所属と身分が明らかにされた上で行われた少人数の会合です。構成員名簿は既に出ているわけです。

名簿をみると、麻薬製造業者関係者など二人が匿名になっていますが、そのほかは名前も所属も出ています。

そして有識者として会議の委員に選ばれている以上、その問題について一定の知見があり、公の場で発言もしてきたはずです。つまり、その人がこの問題に対してどういうスタンスをとっているかというのは、議事録を見なくても既にだいたいわかるはずなのです。

それなのに、その人の会議での発言、会議の内容を匿名化することによって何を守るのか、と言えるのではないかと思います。

実際問題の話をすれば、例えば規制改革会議など規制緩和に関する会議はもっと生々しくお金が動くところですが、そういう会議も公開で行われています。そこに参加している委員や行政法の先生に関しても、メール、クレーム、申し立てなどがくるようですが、公開で行われているのです。

危険の可能性と公開の原則 どうバランスをとる?

ーー別の法律の専門家にも聞いたところ、「厚労省は公開を原則とする考えを持ちつつも、大麻に関しては様々な活動家もいて不測の事態が起こり得ることを避けたいという考えとのバランスでギリギリの両立を測ったのではないか」と言われました。「活動家がもしかしたら不測の事態を起こすかもしれない」という考えで、非公開の例外措置を取ることはあり得ますか?

「大麻活動家」がどこまで危険視される団体なのか、よくわかりません。

例えば昔、千葉県の土地の収容に関する委員会の委員長が、成田闘争問題が絡んで、襲撃されたことがあります。その後、土地収用委員会の活動が再開された際は、委員名すら非公開で、会合も当然非公開でやりました。殺される危険があったからです。

しかし、少なくとも大麻に関する議論に関しては、これに匹敵するほどの危険性がないことは明らかだと思います。

さらに言えば、表現の自由の基本的な考え方ですが、反対する者が騒ぎを起こすことを理由に表現する側が制約を受けるのはおかしい、という考え方があります。

今回もそれに近いものがある。

反対する側が騒ぎを起こすから会議は非公開にするという判断は、生命の危険や、その危険が具体的に予見される場合であればあり得ると思います。

しかし、抽象的に「何かが起こる可能性がある」とか、活動家が要望書を持ってきた程度で非公開にできるのであれば、騒いだもの勝ちの世界になりかねない。それはやはり違うのではないかと思います。

「大麻活動家」のような人が何をしているのかわからないですが、そんなに危険視しなければならない人たちなのかと思いますし、もしそんなに危険なのだとしたら、参加している人たちは、普段の大麻に関する社会的な発言も命がけでやっているのかと疑問に思います。

また、別の会議を匿名にした報道を見ると、ネットで叩かれることなどで発言が萎縮してしまうという懸念を理由として挙げていました。

確かにそういう世の中になってきて、言葉尻を捉えて、「あいつの職場に電凸しよう」などの反応が起きて迷惑を被ることは、注目が高い会議だとあり得る話です。

だからといって自動的に匿名にするのは違う。そういう懸念はあるし、生命の危険があったら当然だめですが、やはり原則は公開であるということを維持しつつ、ケースバイケースで非公開、匿名にできるだけの事情があるかを判断すべきだと考えます。

「現実に差し迫った危険があるか」がポイント

ーー2019年に開かれた芸術祭「あいちトリエンナーレ」の中の「表現の不自由展」に脅迫が来て、客や職員の安全を守れないかもしれないということでいったん中断しました。同じ作品を集めて開いた大阪の「表現の不自由展かんさい」も、クレームで会場の利用許可を一度取り消されたことがありました。愉快犯のような人間が真似したら、なんでも止められかねないのが怖いところですが、こうしたケースはどのように判断すべきなのでしょう。

不自由展のように、公の施設を会場として貸すことについては最高裁の判例があります。現実に差し迫った危険がない限りは、会場の管理の上で支障があるとか、公の秩序を乱すおそれがあるといった理由の下で貸さなくていいということはできない、という内容です。

そして「危険」がある場合でも、「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは、憲法21条の趣旨に反する」と述べ、それは会場を貸さなくてもいい理由にはならないと述べています。

今回、大阪の会場を貸さないとしたことについては、最終的に大阪地裁と大阪高裁が実行委員会に会場の利用を認め、最高裁で司法判断が確定しました。

このように判例の考え方は、具体的に差し迫った危険がなければ拒否できないということです。そうした対応は警察がやるべきで、中止ということをもし認めると、反対者に拒否権を与えるようなものだという考えです。

ーー私が書いてきた大麻の検討会は、初回の会合で警察に警戒を要請し、実際に警察はその場に来ました。周りでデモのようなものも行われ、一部の人が会場に入ろうとするのを警察が止める場面もあった。そして、会場を貸した民間のビルは次回以降もこんな騒ぎが続くようなら困ると告げたそうです。会場を貸す側の考えは、どれぐらい配慮する必要がありますか?

関連しそうなケースとしては、ニコンサロンでの慰安婦写真展中止事件があります。東京と大阪で開く予定だったのが、ニコンが会場を貸さなかったということで仮処分を申し立て、東京では開けたが、大阪では中止になったという事件です。

これも判例があるのですが、契約でいったん貸すと決めた以上、警察に警備を要請するとか開催の実現に向けた努力をしなければいけない、その努力もなく一方的に貸さないというのではだめだと言っています(東京地判平27・12・25判例集未登載)。

公の場所の方が私的な場所よりも判断の余地は広いですけれども、ちょっと混乱の余地があるだけでだめだというのは違うという裁判例があるのです。

ーー民間であっても拒否するようなことは軽々には言えないと言うことですね。

いったん契約を結んでいたらそうです。

ーーその民間の意向を理由に、主催者である行政が非公開にして匿名にするのはおかしいと言えるでしょうか?

会議に使う場所としては公の場所もあるはずです。別に民間のビルでなければいけないわけではない。民間の会場に拒否されたことを理由にするのはおかしいと思います。

メディア側の問題は?

ーーSNSでの反応を見ていると、記者アカウントの多くが私の行為を批判しました。「ルールに疑問を投げかけるなら、まず自分がルールを守れ」「ルールを破ることで当局がさらに厳しい規制をかける言い訳を与えてどうするのだ」という意見が目立ちました。

余計なことしやがって、という反応ですかね。もしそれでいいなら、記者クラブの弊害として指摘されてきたことがここでも妥当しますね。つまり、当局に従って言われたことをそのまま流すだけで、メディアの矜恃も何もない。

「当局がそういうルールを設けたのだから言われたとおり従うのだ」というのは本当にメディアとして望ましい態度なのか。これは、ほかのメディアも考えてもらわないといけない問題です。

つまり、今回、1つの会社が出入り禁止になって、競合他社がいなくなってよかったという話ではなく、こういう当局の対応に対しては、メディア全体として本当はもう少し声を上げていくべき問題だと思います。

ルールに従うというのは、原則はそうだと思うのですが、ルール自体が不合理な場合にメディアが声を上げなくて誰が問題提起できるのしょうか。

例えば、政治家のオフレコの席での失言は報じないのですか?と問いたい。必要があれば出すことが、メディアにも期待されているのではないかと思います。

ーー政治家の失言は出す意義がすごくわかりやすいので、オフレコ破りも支持されやすいです。でも今回は、大麻自体に悪感情をもっている国民が多く、この案件自体が国民の支持を受けにくいところがあります。

そうですね。これはBuzzFeedにも注文したいところですが、今回のようなケースは、なぜ実名で報じることに意義があるのかを報じた側が説明していかなければいけないと思います。

行政の会議は公開、実名で行うべきことなので、本来は例外対応をした側が説明責任を負うべき問題です。

しかし、今回はこういう理由で実名で報道する価値があると考え、そもそも会議自体も非公開にすべきではないということも問題提起してきた。だから記者として、会社として出す判断をしたんだということを積極的に発信していく。

それによって世間の賛同をなるべく得られるようにして、「ルール自体がおかしいともし声を上げなければ、今後、当局に変なルールを作られてもそれに縛られることになるが、それで本当にいいのか」という問題提起もできます。

人の自由を狭める議論、オープンに

ーー逮捕要件や罰則を拡大するというのは、人権を一時的に抑制し、人の自由を奪う要件をそれだけ広げるということです。それを議論するのは出来るだけオープンな場であるべきですし、どんな立場の人がどういう根拠を持って導入すべきだと主張しているのか、または反対しているのか。法学者がいうのか、弁護士が言うのか、当事者を診療してきた医師が言うのか、ジャーナリストが言うのかは大事な情報だと考えています。

確かに、国の審議会で我々の自由を制限するための議論をしているわけですよね。

その時に、どういう経緯があって、どういう議論が戦わされて、こういう提言につながっていったかは後々検証されるべきことがらです。医学的根拠もないのに「大麻は危険だ」という人がいたら、これはどういうことなのか?と事後的に検証する必要が出てくるかもしれません。

そういう意味で、実名と発言内容と紐づけることは意味があると主張できると思います。

よく、「なぜ事件の被害者の実名報道をするのだ」と批判が集まった時も、実名報道はリアリティを感じさせるのだとか、メディアは様々な説明をします。

今回、実名で報道することは、自由の制限の議論をオープンにすることも含めて、どんな意味があったか説明すべきだと思います。

ーーさらに今、権力のメディアに対する制限がどんどん厳しくなっていて、これに唯々諾々としたがっていたら、どんどん表現の自由が狭められるという危機感があります。意味のない制限に対し、一人ひとりの記者がそれぞれの場所できちんともの申すことがより大事になっている気がします。

今回のケースで、「変に逆らって、制限がさらに増えたら困るじゃないか」と批判しているメディアは、新しく制限が加えられたら、またそれにも従うつもりなわけですよね。

でも、それは国民の知る権利に奉仕することになるのですか? 大本営発表をそのまま伝えるだけのメディア、お上に決められたルールに唯々諾々と従っているだけのメディアに存在意義はあるのですか?と問いたいです。

おそらくネット上では、今回のケースというより、メディアに対して「奴らは特権意識を持っている」という批判が多い、という印象を受けています。

例えば最近、北海道新聞の若い記者が、旭川医大の学内に入って隠し録りをして捕まった事件がありました。あれも、「メディアなのだから逮捕はおかしいだろ」という言い方をするから批判されているのであって、なぜそのような取材をする意義があるのか、丁寧に説明していかなければいけないと思います。

取材の自由は憲法21条に照らして十分尊重に値するという位置付けが与えられています。取材で行われた行為だからこそ許されることは結構あります。

有名な事件で言うと、外務省の沖縄返還密約の機密文書を漏洩させた西山事件があります。

最高裁は、公務員の守秘義務を漏洩するようお願いするだけでは違法にならないと述べました。

「報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである」と述べています。

ジャーナリストとして粘り強く取材し、当局から情報を出させるのは当たり前の行為だからです。

ただ、あの事件では、記者が取材対象者の公務員と強引に肉体関係を結んで情報を取り、その後、態度を急変させたといった事情があったため、「正当な取材活動の範囲を逸脱し違法であるとして、有罪になりましたが。

あるいは取材源の秘匿についても、職業上の秘密については裁判で証言拒否できるという規定があり、国民の知る権利に奉仕する存在としてメディアも取材源の秘匿が認められています(最決平18・10・3民集60巻8号2647頁)。このようにメディアには、我々一般の国民には認められない特別な扱いが一定程度認められている。

それが十分かどうかについては議論の余地はありますが、日本でもそういうことにはなっている。

しかし、メディア自身が自分たちに与えられた特別扱いを当然視していては、国民からの納得は得られないでしょう。必要に応じて、その取材や報道がどのように国民の知る権利に奉仕するものであるのかを説明していくべきです。

メディアコントロールを許していいのか?

ーー今回の検討会は、「大麻使用罪」を作るかどうかがメインの目的の一つでした。途中で、採決もしていない段階で、「厚労省が使用罪を作る方針固める」「検討会が大麻使用罪創設に合意」という内容が3社から出ました。最初から方針が決まっていて、アリバイづくりのために審議会が開かれ、メディアが当局の共犯になっていく。そんな構図が見えます。目に見えるメディア弾圧ではないですが、緩やかに骨抜きにされるようで怖い話ではないかと思うのです。

外にいる限りではわからないところがありますが、為政者が賢ければ、香港のリンゴ日報弾圧のようなあからさまなことはせず、飴と鞭をうまく使い分けながら、おっしゃったようなやり方を巧妙にやるんだろうなとは思いますね。

ーーその巧妙なメディアコントロールに、メディアが唯々諾々と従っているのが解せないのです。

結局、ジャーナリストとして国民の知る権利に奉仕する存在だということを考えた時に、どう自己反省できるかだと思うのです。

例えば主要メディアでなくても、最近では週刊文春などの方が一般の人に信頼されているところがあります。

それは、まさに言われたことをそのまま広報のように出してきたメディアが自分で招いてきたことだとも思います。

そういうやり方を見直す、という意味では、今回の抵抗は良い問題提起にもなっているのではないかと思います。

(終わり)

【横大道聡(よこだいどう・さとし)】慶應義塾大学法科大学院教授

1979年、新潟県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。鹿児島大教育学部准教授などを経て2018年から現職。専門は憲法、比較憲法。

【参考文献】

・「議事要旨、発言は匿名 秘密法、諮問会議の議論公開」朝日新聞 2014 年 1 月 31 日。

・「退位決定、残った課題 皇室会議、議事概要公表 匿名、異論記載なし」朝日新聞 2017 年 12 月 9 日。

・ 上田真由美「公開会議なのに「発言者を匿名に」 政府の海賊版対策、発信にルール 個 人攻撃防ぐ狙いか」朝日新聞 2019 年 10 月 23 日。同「透明化より炎上回避?政府会議「発言者匿名」の是非は」朝日新聞デジタル 2019 年10月28日。

・高橋史弥「コロナ専門家会議、議事録作成せず、録音もなし。内閣官房「自由な議論で きない」Huffpost2020 年 5 月 29 日。

・小沢慧一「専門家会議の議事録作らず 政府、匿名の概要公開」中日新聞 2020 年 5 月 14 日。

・ 日本弁護士連合会「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の開催された全ての会議について発言者と発言内容を明記した議事録作成を求める会長声明

・情報公開クリアリングハウス「新型コロナ専門家会議情報公開訴訟を提起しました

・ 岩永直子「発言者の特定禁止、録音禁止、時代に逆行する「大麻使用罪」創設の議論、 なぜ過剰な厳戒態勢?」BuzzFeedNews2021年4 月23 日など。