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「行政の会議は氏名も含めて公開が原則」 なぜ国は審議会や議事録を隠してはいけないのか?

国の審議会や議事録は、本来、どのように取り扱われることが求められているのでしょうか? 憲法とメディアが専門の法学者は、「発言者の氏名も含めて公開が原則」と様々な規定から読み解きます。

発言者を特定するなというルールに抗議し、BuzzFeedが名前入りで報じたところ、今後の審議会は傍聴させないペナルティをちらつかされている厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。

そもそも法的にこれは許されるルール、そしてペナルティなのだろうか?

本来、国の審議会やその記録は、どのように取り扱われるべきなのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、憲法とメディア論が専門の慶応大学の横大道聡教授に聞いた。

3回連載の2回目は、審議会が法的にはどのような取り扱いになっているのか具体的に見ていく。

統治過程の公開原則 国会、裁判所は憲法で公開を規定

ーー前回まで、表現の自由とメディアの役割、そしてその理念を具体化するための情報公開法や公文書管理法の規定について聞きました。次に審議会や検討会など会議の公開についてはどのように定められているのか教えてください。

立教大学名誉教授の憲法学者、渋谷秀樹先生が書かれた憲法の教科書は、日本国憲法の統治に関する規定を通覧してみると、「統治機構通則」とも呼べるものがあると指摘しています。

それは何かと言えば、「統治過程の公開原則」だと言います。

渋谷先生はさらに踏み込んで、こうも言っています。

統治過程の公開原則は、客観的法規範にとどまらず、主観的法規範(権利)といえないか。統治機関の保有するすべての情報は、本来、主権者たる国民のものであり、その内容について国民は主権者として知る権利があるとする理解が、現在の憲法学の共通の到達点といってよい。(渋谷秀樹『憲法〔第 3 版〕』)(有斐閣、2017年)


つまり、統治機関が保有する全ての情報は、本来主権者たる国民のものであって、その内容に関して国民は主権者として知る権利がある、という理解が現在の憲法学の共通の到達点なのだと言うのです。

先ほどから述べてきたのは行政機関の話でしたが、これは統治機関全体に通用する議論なのだと言っています。

憲法の規定では、国会については憲法57条で、「両議院の会議は、公開とする」となっています。そして37条と82条で裁判所の公開について定めています。

第 57 条 1  両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。

2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると 認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。

3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載し なければならない。


第 37 条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受け る権利を有する

第 82 条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

(憲法)

統治機関である国会、内閣、裁判所、つまり立法、行政、司法のうち、立法と司法については憲法上、公開でやることが定められているのです。

行政については憲法に公開の規定がないのですが、これはあとで説明します。

憲法上、国会の本会議については規定がありますが、委員会については公開の規定がありません。

国会法上、52条1項で、「委員会は、議員の他傍聴を許さない」という規定があって、形式上、会議は非公開が原則になっています。

ただ52条1項の但し書きで、「但し、報道の任務にあたる者その他の者で委員長の許可を得たものについては、この限りでない」という規定があります。

事実上の運用を見てみると、報道関係者は基本、自由に報道できますし、一般国民も議員の紹介を受ければ傍聴席に余裕があるかぎり、傍聴できています。インターネット中継も行われますので、公開を原則として運用されているといってよいと思います。委員会の会議録(議事録)も当然公開されています。

行政の会議は? 審議会は原則公開、発言者も

ーー気になるのは、今回の大麻検討会のような行政の会議の公開です。憲法に規定はないということですが、何によって規定されているのですか?

行政機関の公開については、いくつか分かれます。

まず、内閣が意思決定を行うための会議である閣議については非公開、非公表で行います。これは慣例上そうなっており、憲法学でこれが問題だと指摘する議論はほぼないと思います。

議事録は作成も公開もしていなかったのですが、2014年以降、概略版ではありますが、公開されるようになっているのが現状です。

今回問題となってくるのは、国の審議会等です。

これについては、閣議決定があり、「審議会等の整理合理化に関する基本的計画(1999年4月27日閣議決定)」により方針が定められています。その文章を見てみると、ある箇所にこういう文言が書かれています。

1.審議会等の委員の氏名等については、あらかじめ又は事後速やかに公表する。

2.会議又は議事録を速やかに公開することを原則とし、議事内容の透明性を確保する。なお、特段の理由により会議及び議事録を非公開とする場合には、その理由を明示するとともに、議事要旨を公開するものとする。

審議会等の委員の氏名などについては速やかに公表し、会議または議事録を速やかに公開することを原則として、議事内容の透明性を確保するのだと言っています。

そして、特段の理由によって非公開にする場合はその理由を明示するとともに議事要旨は公開しろとも言っています。

但書として、第三者の利益や公共の利益を害する場合については議事録または議事要旨の全部または一部を非公開とすることができるとしています。

これらは議事録の公開についてのルールですが、同じことは、審議会自体の公開についても基本的に妥当するでしょう。つまり、あくまで原則は審議会等は公開でやるのだということです。各省庁などが制定するルールでも、原則公開とされているはずです。

ーー議事録には発言者の氏名も入れることになっているでしょうか?

議事録についてどういうルールになっているかというと、2011年の「行政文書の管理に関するガイドライン」(2011年1月内閣総理大臣決定)に書いてあります。

なお、審議会等や懇談会等については、〔公文書管理〕法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、開催日時、開催場所、出席者、議題、発言者及び発言内容を記載した議事の記録を作成するものとする。

以下の内容を記載した文書を残さなければいけないし、会議自体も公開でやるのが大原則なんだ、というのがガイドラインで決められています。

  • 開催日時
  • 開催場所
  • 出席者
  • 議題
  • 発言者
  • 発言内容

会議公開の原則はいずれも憲法からの要請 ガイドラインで簡単に変えられない

ーーこれまでの話の流れからすると、民主主義国家では、知る権利や表現の自由が前提としてあり、そのために統治機関の情報も公開されるし、会議も公開でやるのが原則と理解できます。

その通りです。まず第一に、国民主権国家においては表現の自由、知る権利、情報公開、公文書管理が存立の基盤にあるのだと理解されています。

だから憲法上、明文で国会や裁判所の公開について定めがある。

行政については、憲法上の規定はないわけですが、先ほど紹介した国民主権の理念に基づいて行政文書の保存・管理・公開が要請されているわけですから、事実上、憲法上の要請であると言えると思います。

そして、会議の運営に関しても公開が原則であり、例外的な場合のみ非公開にできるというのが紹介してきた閣議決定等々の考え方です。

これもやはり憲法からの要請として捉えるべきであって、ガイドラインを変えたら自由に非公開にできるという話ではないはずです。

これを別の側面から言えば、会議を非公開にするのであれば、会議ごとにその必要性、合理性を説明する義務が非公開とする側に課されるのが大原則であると考えられます。

原則公開を非公開とした理由に納得いかない場合は?

ーー審議会は発言者の氏名も含めて原則公開。例外的に非公開にするならば、その必要性と合理性を説明する義務が主催者側にあるということですね。今回問題としている大麻検討会では事務局が最初に説明をしていますが、この内容に納得がいかない場合、メディアはどのような形で異議申し立てをすべきでしょうか?

また、検討会を開始する前に、本検討会の公開・非公開の取扱いについて御説明いたします。本検討会につきましては公開とさせていただきますが、新型コロナウイルス感染症対策のため、一般の方の会場への入場を制限し、報道機関の方のみ入場とさせていただいております。

検討会の議事録の公開につきましては、委員の先生方は議事録に出席者として掲載されますが、発言者氏名を公にすることで発言者などに対して外部からの圧力や干渉、危害が及ぶおそれが生じることから、発表者氏名を除いた議事録を公開することとしておりますので、あらかじめ御了承いただきたいと存じます。(第1回「大麻等の薬物対策のあり方検討会」議事録)

私もそういう会議に出るような時に、メディアに発言を切り取られて報道されると思うと、やはりちょっと嫌だなと思うことはあると思います。

でも、自分がちょっと嫌だなと思うということだけで非公開にできるわけではない。やはり原則は開示なわけですから、非公開にするに足りるだけの理由を示さなければならない。

記事(発言者の特定禁止、録音禁止、時代に逆行する「大麻使用罪」創設の議論、なぜ過剰な厳戒態勢?)を読みましたが、構成員に要望書が来た程度のことを理由としていますね。率直に言って、それぐらいで非公開にしなければならないのかと疑問に思いました。

脅迫があって、「意見を変えないと危害を加える」としてナイフや爆発物を送りつけたとか、そういうわけでもない。

また、そういう脅迫等がくる可能性が高い会議でもないと思います。もともと「所持」が違法な大麻について、「使用」も罰することにして、罪の範囲と重さを変更するという話です。これを行うことで、その方針を決めた人たちに身に危険が及ぶということはあまり想定できないと思います。

現実に当事者がどこまで具体的に危険を感じたかはわからないですが、そうだとしたら、それをきちんと説明しないと、非公開に納得できないメディアが出てきても当然だろうなと思います。

ーー事前に事務局と議論し、傍聴申込書には、要件への「同意」ではなく、「読んだ」という意味だと但し書きを加えて、チェックマークを入れました。そのうえで、最後に発言者を特定して記事を書きました。私としては抗議の手続きを積み重ねたうえでルールを破ったつもりなのですが、他に手段はありますか?

難しいですよね。非公開にすると言っているのを公開しろとその場で争うのもなかなか難しい。そういう意味では今回のやり方はあり得る方法かと思いました。

ただ、追従するメディアは無かったわけですよね。援護したり、擁護したりしてくれるメディアもあまりない。そこはちょっと「あれ?」と思います。

次は、過去に審議会の公開をめぐって議論になった具体的な事例を見ていこうと思います。

(続く)

【横大道聡(よこだいどう・さとし)】慶應義塾大学法科大学院教授

1979年、新潟県生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(法学)。鹿児島大教育学部准教授などを経て2018年から現職。専門は憲法、比較憲法。