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3密を避ける、イベントでの大声禁止、科学的に意味があっても... 思い切って無くしたほうがいいのはどれ?

3密を避ける、イベントの人数制限、リモートワークなど、人と人との距離を取るコロナ対策「ソーシャルディスタンス」は今後も必要なのでしょうか? 感染症の専門家5人に、評価してもらいました。

新型コロナウイルス感染症の対策緩和に政府が舵を切る中、どの対策を止め、どの対策をこれから続けていくのか議論がある。

BuzzFeed Japan Medicalでは京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんの協力の下、5人の感染症の専門家(坂本史衣さん、小坂健さん、矢野邦夫さん、岡部信彦さん、西浦さん)に対策の仕分け作業を行ってもらった。

第2弾で議論するのは、人と人との距離を取るソーシャルディスタンスに関する対策だ。

※取材は2月上旬に行い、その時点の情報に基づいている。取材した順番に掲載している。

共通の質問に5人の専門家が回答

5人の専門家に、以下の10項目のソーシャルディスタンスの対策について尋ねた。


  • 3密をできるだけ避ける
  • 屋内空間で人と人との間を2メートルあける
  • イベントなどでの人数制限
  • 飲食店で真正面で話すことを避ける
  • イベントなどで大声を出す行為の禁止
  • 飲食店や映画館、劇場で隣の座席を一つあける
  • リモートワークの推奨
  • 会議はできるだけオンラインで
  • 時差通勤の推奨
  • 流行地への移動を避ける


この10項目について、科学的に意味はあるか、これからも必要か、その他当てはまるものがあれば選択(社会的・経済的合理性がない、持続可能性が低い、推奨されたことがないか過剰反応、流行状況によって実施を推奨)を回答してもらい、その回答に基づいてインタビューした。

【協力専門家】

西浦博さん(京都大学大学院医学研究科教授)
坂本史衣さん(聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャー)
小坂健さん(東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授、医師)
矢野邦夫さん(浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問)
岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所所長)

メリハリの効いた対策を

感染管理に詳しい聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんはソーシャルディスタンスに関する対策については「科学的合理性がある」と評価した上で、今後の必要性についてはこう話す。

「マスクもそうですが、ソーシャルディスタンスは感染経路の成立と関係しているので、感染者が増加して、医療が逼迫し、死亡者も増えているような状況なら行ったほうがいい。感染者の増減に合わせたメリハリのある運用をするのが理想的です」

「感染者が増えている状況では3密は避けた方がいいでしょう。2メートルの距離を開けるのは現実的に難しい。なるべく開けた方がいい、ぐらいでしょうかね」

イベントの人数制限やイベントで大声を出すことの禁止については、昨年11月〜12月に行われたサッカーW杯ですっかりコロナ前に戻ったかのような熱狂したスタンドの光景が記憶に新しい。

「これはどれぐらいリスクを取るかという話で難しいです。地域の中での発生状況を見ながら、感染者が急増中なら、その時期だけは止めるとするのが理想です。ただ既にチケットを販売しているなどで、迅速に対応を変えられないこともあるかもしれません」

リモートワークやオンライン会議、時差出勤については常時やるべきとは思わないが、流行状況に応じてそれぞれの組織が判断するのが望ましいと言う。

「流行状況をもとに対策を判断できるような情報を国や自治体が示すことが必要です」

人数制限は科学的根拠あり

厚生労働省クラスター対策班で感染対策を検討してきた東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授で医師の小坂健さんは、「3密回避」「屋内空間で2メートルの距離を空ける」「イベントなどの人数制限」は科学的根拠ありとする。

「こちらは少し古く、今はワクチンもあるので状況は変わってきていますが、こういう対策をうつと実効再生産数(※)をこれぐらい下げる、と示したサイエンス誌に載った論文です。人数制限は感染拡大を防ぐのに非常に効果があることがわかっています」

※一人の感染者が感染させる二次感染者の平均値。

ただし、今後も続けた方がいいかと問われると、続ける必要はないと答える。

「感染状況にもよりますが、多くの方がワクチン接種や感染で免疫ができたことで、重症化のリスクが減ってきています。様々な社会生活にも影響のある人数制限でなくても、検査なども活用しつつリスクを減らしながら生活を楽しむことも必要です」

真正面で話すことを避けることも科学的合理性はあるが、続ける必要はないと考える。

「基礎的な研究によると、真正面よりちょっとした斜めの角度の方が感染しやすいというデータもあります。正面でなくてもエアロゾルも広がるし、そんなに意味があるだろうかと思います」

劇場などで隣の席を一つ空けることについても科学的な合理性はあるとしつつ、今後は続ける必要はないと考える。

「映画館や劇場でマスクを着けて、おしゃべりもしないお客さんばかりの空間で、隣を空ける意味があるかは疑問です」

リモートワークやオンライン会議については科学的根拠があるとし、時差通勤や流行地への移動を避けることには科学的合理性があるとする。

「結局、ゼロリスクを目指すならすべてやった方がいいことばかりなのですが、社会の価値観も影響しますし、不安や感染した時のリスクも人によってそれぞれ違います」

「結局は何を優先したいかの価値判断の問題になってくるのですが、個人の判断に委ねてしまうとみんなが集まる公共の場所ではどうするか、と議論になります。みんなが選択の余地なく使わざるを得ない公共の場では、流行状況によってある程度の対策を取るべきでしょう」

「これまでは同調圧力でどうにかなってきましたが、今後はそうもいかなくなる。外国の方たちも含めて色々な価値観の人が社会に入ってくる中で、ある程度のルールは示したほうがいいと思います」

「普通の風邪」として扱って

浜松市感染症対策調整監で浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫さんは、「3密回避」や「屋内で2メートルあける」ことについては科学的合理性があると評価する。

そして、流行状況など場合によっては続けた方がいいとするが、「持続可能性が低い」とも語る。

「たとえば満員電車の中でできるはずないし、学校でも無理。20年後を考えるとなくなると思いますが、5類になるまでは当面やっていてもいいでしょう」

「(飲食店で)真正面で話すことを避ける」「(飲食店や映画館、劇場で)隣の座席を1つあける」も科学的には意味がなく、5類になったらやめていいとする。

「こんなことを続けていたらお客の数が減ってしまうし、飲食店は潰れるでしょう。感染するとは思いますが、それは仕方ない。ただの風邪として考えるべきです」

リモートワークについては続けた方がいいとする。

「せっかくコロナが与えてくれた技術です。これはコロナに関係なく残した方がいい」

一方でオンライン会議は「研究者であれば、研究途中の情報など、機密性の高い情報が対面であれば入ってきます。顔を合わせた方がいい場合もあるので使い分けをすればいい」と語る。

感染対策としての時差出勤や、流行地への移動を避けることについては、いらないとする。

「ウィズコロナになれば、感染力の強いこのウイルスはあっという間に広がるから、どこが流行地ということは意味をなさなくなります。5月に5類にすればものすごい大きさの波が来るでしょう。5月の末には病院は高齢の入院患者で満床となり、医療は逼迫すると思います」

それでも、イベントの人数制限やイベントで大声を出すことの禁止も撤廃していいという。

「ウィズコロナではみなさん楽しみたいと思うし、制限をしていたらイベントの収益は上がりません。マスクの項目で言ったように、重症化リスクの高いお年寄りや免疫が弱っている人がいる病院や高齢者施設はゼロコロナを目指しますが、それ以外の場所では普通の風邪として扱う時に来ています」

流行状況によって行うべきか判断

川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは「3密をできるだけ回避する」「屋内空間で人と人との間を2mあける」「イベントなどでの人数制限」「(飲食店で)真正面で話すことを避ける」「イベントなどで大声を出す行為の禁止」は科学的根拠あり、と判断した。

いずれも流行状況によって、行うべきか判断したほうがいい対策とする。

そして、「(飲食店や映画館、劇場で)隣の座席を1つあける」「リモートワークの推奨」「会議はできるだけオンラインで」「時差通勤の推奨(感染対策として)」「流行地への移動を避ける」は科学的合理性ありとした。

しかし、「(飲食店や映画館、劇場で)隣の座席を1つあける」ことは現在のように流行が落ち着いている間は当面やらなくていいと話す。

リモートワークについても「コロナ対策とは関係なくこれからも続けるべきでしょう。働き方改革が叫ばれている時に、コロナをきっかけに一気に『リモートでも仕事ができることはたくさんある』ということがわかったことは良かった」と話す。

可能な3密回避は何か主体的に考えて

京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんは「3密回避」は科学的根拠があって専門家としては推奨したいとしながら、「持続可能性は低い」と判断した。

「この感染症の流行で伝播を防ぐには最も重要な対策で、しばらくは続けてほしい。ただ、メリハリをつけないと続かない。家から出ないとか人と人との距離を取る対策については皆、疲れが見られます」

「疲れない範囲でできる3密回避は何か、皆さんに主体的に考えてもらいたい。どれを避けて、どれを避けないのか、各自の線引きがあってもいい。居酒屋で3密回避が無理でも、流行が酷い時は避けるなど、リスクを引き受けながら考えてもらうことが必要です」

2メートル空けることも科学的合理性があるとしたが、流行状況によって判断する対策とした。

「2メートルのほうが3密回避よりも先に形骸化していくでしょう。スーパーで並ぶ時に床に貼られたラインも守られていませんね。せめて特に流行状況が酷い時には協力を求めたい対策です。それだけこの先の流行リスクは厳しいと予測しています」

イベントの人数制限も科学的根拠はあるが、あまりにも流行が酷い時だけ協力を求めたいとする。

「残念ながら政策判断として、イベントの人数制限はしないことが決まっています。屋内イベントでは人数が多いほうが伝播が起こりやすいのは既に知られている通りです。社会経済活動の価値判断が影響しますが、あまりにも流行が酷い時には考えてほしいところです」

持続可能性が厳しい...思い切ってやめる仕分け対象も

「(飲食店で)真正面で話すことを避ける」「イベントなどで大声を出す行為の禁止」「(飲食店や映画館、劇場で)隣の座席を1つあける」は科学的合理性はあるとしながら、今後は必要ないと答えている。

「これは持続可能性がかなり厳しいと考えているので思い切ってなくす。その代わり絶対に続けてほしい対策を明確にする。本当の意味での仕分け対象です」

リモートワークは科学的合理性があるし、これからも続けたほうがいいとする。

「リモートで続けられる仕事は続けたらいい。今までは社会通念上、『人と人は会って話したほうがいい』と僕たちは教えられてきました。でも業種によってはリモートワークがとても上手くいくところがある。リスクが続く間は続けてほしいと思います」

ただ、労務管理上、社員が目の届くところにいるほうが安心という考えをする経営者もいる。

「勤怠管理は難しくなったと言われます。その中でパフォーマンスが落ちたかどうかは重要な要素で、継続するためにはそれを検証し、リモートのほうがむしろ捗るということを実証することが課題なのだと思います」

「会議はできるだけオンラインで」「時差通勤の推奨(感染対策として)」「流行地への移動を避ける」は科学的合理性はあるとしつつ、流行状況に応じて考える判断とした。

「たとえば京大の医学研究科教授会はオンラインでやっているのですが、機密性の高い情報をzoomで話して後ろで誰かが聞いている可能性があると、セキュリティ確保が難しくなります。リモートでやれるものはやって、そうでないものは流行状況によって調整したらいいと思います」

「Go Toトラベル」などが打ち出された時、流行地への移動も、流行地から流行していないところの移動も避けるよう呼びかけられてきた。

「Go Toトラベルの研究で分かったのは、流行が激しく起こっているところから移動すると流行が拡大することです。この先、緩和するにしても流行が酷い状態で移動を促すのは間違っています。感染者の空間的拡散を助長します」

「一方で、流行が酷くないならやれる範囲で動けばいい。そういう適度なメリハリをみんなで決める挑戦が求められます」

ソーシャルディスタンス関連対策に対する専門家の意見

(続く)