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病院の面会、盆・正月の親戚や家族との宴会、これからも制限しなくちゃだめ?

コロナ禍で病院や高齢者施設での面会は制限され続け、盆正月の親戚との宴会も避けるように呼び掛けられてきました。対策緩和に舵を切る中、今後もこの制限は続けるべきなのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症の対策緩和に政府が舵を切る中、どの対策を止め、どの対策をこれから続けていくのか議論がある。

BuzzFeed Japan Medicalでは京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんの協力の下、5人の感染症の専門家(坂本史衣さん、小坂健さん、矢野邦夫さん、岡部信彦さん、西浦さん)に対策の評価を行ってもらった。

第7弾で議論するのは、病院や高齢者施設などでの面会や付き添いの禁止、お盆・年末年始などの宴会や親戚との会合を避けることについてだ。

※取材は2月上旬に行い、その時点の情報に基づいている。取材した順番に掲載している。

共通の質問に5人の専門家が回答

5人の専門家に、以下の2項目の感染対策について尋ねた。


  • 病院などでの面会や付き添いの禁止
  • お盆、年末年始などの宴会や親戚との会合を避ける

この2項目について、


  • 科学的に意味はあるか
  • これからも必要か
  • その他当てはまるものがあれば選択(社会的・経済的合理性がない、持続可能性が低い、推奨されたことがないか過剰反応、流行状況によって実施を推奨)


を回答してもらい、その回答に基づいてインタビューした。

【協力専門家】

西浦博さん(京都大学大学院医学研究科教授)
坂本史衣さん(聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャー)
小坂健さん(東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授、医師)
矢野邦夫さん(浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問)
岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所所長)

流行状況によって緩めたり締めたり

病院や高齢者施設は感染したら重症化リスクの高い人たちがいるため、コロナ禍で長く面会や付き添いが制限されてきた。

これについて、感染管理に詳しい聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは感染対策として科学的合理性はあるとしつつ、流行状況などによって対応は変えていいとする。

「マスクやソーシャルディスタンスと同じで、状況に応じて変えたらいいと思います。会うのであればマスクは着けてほしいですが、面会そのものを禁止することに関しては、今はデメリットの方が大きくなっている時期だと思います」

流行が拡大して面会に来る人が感染している可能性が高まったり、ウイルスの変異で病原性が強まって治療薬も効かなくなったりした場合は、落ち着くまで制限した方がいいとする。ただそれも、「落ち着けば緩和したらいい」と言う。

「この3年間、病院は面会については緩めたり締めたりを繰り返しています。今後も同じようにするのだと思いますが、今は緩めていく時期です」

終末期医療のように会う期限が限られている人の場合はどうだろうか。

「うちの病院ではずっとほぼ無制限でした。さすがに一度に20人来ると言われたら困りますが、数名が病室に入れ替わり入るのは構わないとしていました」

患者が病院で亡くなった場合、その遺族はお別れができたのだろうか?

「呼吸をしていない人から感染するリスクは低いので、ホスピスに限らず、納体袋は開いて会ってもらっていました」

お盆や正月の宴会や親戚との会合を避けるというのも、休み前によく専門家から呼びかけられてきたが、坂本さんはやはり科学的合理性はあるとしつつ、流行状況によって変えることが望ましいとする。

「流行状況や会う人の状態も考えて判断した方がいいと思います。例えハイリスクな状況でも、今会わないと次がないような人の場合は会うなど、ケースバイケースで考えるべきだと思います」

面会の禁止は人権問題

小坂健さんは、厚生労働省クラスター対策班で感染対策を検討してきた。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授で医師として在宅診療もしている。

「病院などでの面会や付き添いの禁止」については科学的根拠ありとしている。

「しかし、入院患者や入所者の基本的人権を守るという意味で、リスクを減らしながら面会してもらおうよというのが私のスタンスです。終末期で最後に家族に会えないなんて人権問題です。そんなの禁止されるなんてとんでもない!と思います」

ただ流行拡大の時期はどうしたらいいのだろうか?

「制限もやむを得ない場合もありますし、抗原検査キットを使って陰性確認するなどリスクを減らしてもらう工夫もしています。しかし患者は院内の売店には行けるのに、面会は禁止するなんてバランスが悪過ぎます」

お盆や年末年始の宴会や親戚との会合を避ける対策については、科学的合理性はあるとしながらも、流行状況によって考えるとした。

「もちろんリスクはあるのです。それでも帰省する1週間ぐらい前からどんちゃん騒ぎは控えておくなどの対策を強調すればいいと思います。今さらこれを避けることはしなくていいと思います」

面会も宴会もワクチンをうつことが前提

浜松市感染症対策調整監で浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫さんは、「病院などでの面会や付き添いの禁止」については科学的に意味がないとしている。

「万が一、ウイルスが変異して病気の重症度が増した時には制限は必要になると思います。そうでない限り、面会や付き添いはやっていい。高齢者や終末期の人が家族に会えないなんて気の毒過ぎます」

「ただし、面会する人もマスクや手洗いは必須です。人数が多すぎると管理できないので、スタッフが管理できる人数に絞る必要はあるかもしれません。面会する人は症状がある時はもちろん行ってはいけません」

お盆や年末年始の宴会や親戚との会合を避ける対策についても、今後はいらないという。

「お盆や年末年始の宴会や親戚との会合を避けようと呼びかけている人々には、『今から10年、20年それをやり続けるのか?』と問いたいです。いつかどこかで区切りを決めなくてはいけないはずです。5月8日と決めたなら、そこで思い切ってやめるべきです」

ただ、面会にしても宴会にしても、重症化リスクの高い高齢者や免疫が下がっている人は、ワクチンをうって備えておくことが前提だとする。

「本人がうたないというのは自由ですが、万が一、家族がうつしておじいちゃん、おばあちゃんが死んでしまったら、残りの人生ずっとそれを抱えなければいけません。ワクチンをうって、その上での制限なしでなければいけません」

面会、正月やお盆の宴会、流行状況に応じて判断

川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは、病院や高齢者施設での面会や付き添いの禁止については、科学的な根拠はあるとする。

「面会者からうつったという事例もあるわけですから、流行している時に重症化リスクの高い人に面会はさせないことは感染対策としての根拠はあります」

お盆や年末年始の宴会や親戚との会合を避ける対策についても、科学的根拠はあるとする。

そして、両方とも今後は流行に応じて制限を加えることは仕方ないと話す。

「7波や8波ぐらいの流行規模であれば、面会してもいいと思います。ただしそこには条件があって、面会する人がきちんと感染対策をしているとか、時間や人数を制限することなどが必要です。それでも、面会の禁止そのものは感染対策の一つの手段としてとっておく必要はあると思います」

終末期医療の患者さんの場合でも、流行がこれまで以上に拡大した場合は会わせないことが許されるのだろうか?

「その場合は当然会わせるように工夫をすべきと思います。個別に注意を伝えることが必要で、人数や時間を制限したりしなければならないでしょう」

お盆や年末年始の宴会や会合も、やはり流行状況に応じて決めてほしいと言う。

「これはやはりその時の状況に応じて判断していく必要があって、厳格な基準は作れないのです。今会わなければもう会えない人の場合は、感染対策よりも優先されるかもしれませんし、個別に考えていく必要も出てきます」

面会解禁、感染した場合の病院側の免責も必要

京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんは「病院などでの面会や付き添いの禁止」については科学的に合理性があるとしながら、今後は必要ないとした。

「社会全体で流行自体を受け入れる変化がある中で、ここだけ過度に強い対策を継続することは難しいです」

「ただし、訪れる人のリスクが上がることはもう止められませんので、それに対する対応を可能な限りやって面会のやり方を工夫するしかないと思います。僕のような流行対策に保守的な人間でもこう考えるぐらいですから、これ以上続けるのは一般の皆さんの価値判断でも『遅すぎた』と思うでしょう」

「変化させないといけない時期に来ていると思います。しかし病院側・施設側はみんな責任問題となって訴訟を起こされる可能性を不安に感じています」

「緩和すれば、当然の結果として今までとは違う頻度・規模のクラスターが起きるでしょう。医療機関や高齢者施設での感染に対する法的な免責も必要になります」

終末期医療を受けている人が最期に面会できないのは人間的ではないという批判が繰り返されてきた。

「一方で、そこで感染すると最後の一押しになってしまうのも事実です。ワクチン接種前は特にそれを避けたかったわけですが、今後も続けることは支持されないと思います」

お盆や年末年始の会食や親戚との会合を避けることをずっと専門家は呼びかけてきたが、西浦さんは今回、科学的に合理性があるとしながら、今後は必要ないとした。

「もう年末年始は3回、心臓が止まる思いでデータを分析してきました。初年度は初めての年末年始の後に急増し、2年目はオミクロンの流行が始まってものすごい冷や汗をかき、今回は行動制限のない年末年始で今までないペースで一過性に増えました」

「今までの他の対策のバランスを考えると、面会と似ています。親戚や古い友達と会うことはおそらく必須な社会活動の一環として支持されるのではないでしょうか。緩和社会の中でそれを制限することに社会的な合理性はないでしょう。持続可能性もない。ここは疫学者としてではなく、現実を見ています」

「流行状況があまりにも悪くなったら、どうか年末年始だけは、というお願いをしたい気持ちはあります。でも流行が抑えられていたら、思い出になっていく対策かなと思います。そんな期待は浅はかなものであって、現実には流行はしばらくあるでしょうけれど」

(続く)