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飲食店の換気、パーテーション、必要ですか? 新型コロナの主な感染経路、エアロゾル対策でやめられること

新型コロナの主な感染経路は飛沫感染。空中を漂う細かい飛沫の粒子「エアロゾル」による感染を防ぐための換気やパーテーションは今後も続けた方がいいのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症の対策緩和に政府が舵を切る中、どの対策を止め、どの対策をこれから続けていくのか議論がある。

BuzzFeed Japan Medicalでは京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんの協力の下、5人の感染症の専門家(坂本史衣さん、小坂健さん、矢野邦夫さん、岡部信彦さん、西浦さん)に対策の仕分け作業を行ってもらった。

第4弾で議論するのは、主要な感染経路として注目される「エアロゾル感染(※)」対策だ。

※ウイルスを含む細かい飛沫の粒子が空中をしばらく漂い、それを吸い込むことで感染する経路

※取材は2月上旬に行い、その時点の情報に基づいている。取材した順番に掲載している。

共通の質問に5人の専門家が回答

5人の専門家に、以下の4項目のエアロゾル感染対策について尋ねた。


  • 飲食店でこまめに換気をする
  • 公共の屋内空間でこまめに換気をする
  • 飲食店のパーテーション
  • 接客窓口のビニールカバー


この4項目について、


  • 科学的に意味はあるか
  • これからも必要か
  • その他当てはまるものがあれば選択(社会的・経済的合理性がない、持続可能性が低い、推奨されたことがないか過剰反応、流行状況によって実施を推奨)


を回答してもらい、その回答に基づいてインタビューした。

【協力専門家】

西浦博さん(京都大学大学院医学研究科教授)
坂本史衣さん(聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャー)
小坂健さん(東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授、医師)
矢野邦夫さん(浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問)
岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所所長)

機械換気が機能しているか点検を

感染管理に詳しい聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは飲食店や公共の屋内空間での換気は科学的合理性があり、これからも必要だと判断する。

「通常ビルでは(機械設備を使って給気と排気を行う)機械換気を行っています。窓があっても季節によっては窓開けができないので、こまめに換気するというよりは、常時稼働している機械換気が設計された通りの換気回数や風量で機能していることを定期的に点検し、フィルターの掃除などのメンテナンスをすることが必要です」

さらに人がたくさん集まる場所では、きちんと換気できているか確認することも大事だと指摘する。

「二酸化炭素モニターで定期的に測ってみて、換気が不良なら換気設備の点検や空気清浄機を設置するなど改善を図る必要がある。『こまめに換気』というと時々窓を開けるというイメージですが、そういうことができない場所が多いです」

ちなみに二酸化炭素モニターは「NDIR(非分散型赤外線)方式」が推奨されている。

一方、飲食店で席と席の間に置かれているパーテーションや、接客窓口に貼られているビニールカバーについては、科学的にあまり意味はないと判断する。

パーテーションは今後は続ける必要はないとするが、接客窓口のビニールについては、流行拡大期やマスクを着けない人に対応する時は使えるかもしれないと言う。

「今後、マスクを外す人が増えた場合、流行拡大期に、銀行などたくさん会話をする窓口でマスクをしていないお客さんに対応する場面では、飛沫を浴びるのを防ぐためにあってもいいかもしれません。但し、換気を阻害していないか確認が必要です。」

「飲食店のパーテーションが横に置かれているならば、知らない人が話しかけることはほとんどないのであまり意味がありません。正面に置かれているならば直接飛んでくる飛沫をブロックするので効果はゼロではないですが、エアロゾルは迂回できるので、感染対策としての効果は高くはありません。不要だと思います」

「二酸化炭素モニター、置いているだけでは意味がない」

小坂健さんは厚生労働省クラスター対策班で感染対策を検討してきた。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授の医師だ。

飲食店や公共の屋内空間でこまめに換気をすることは科学的根拠があるとする。

「オミクロンはエアロゾル対策が中心だとわかっている以上、こまめに換気をするのか、持続換気をするのかという議論はありますが、いずれにしろ換気が大事だということは強調すべきだと思います」

小坂さんも建物の機械換気が機能しているかを調べることが必要だとする。

「流行初期に感染が拡大したクルーズ船のダイヤモンドプリンセス号は3割しか外からの空気を取り込めずに空気を循環していたことが知られています。僕がいる東北大の大講堂も調べてみると換気が十分できていないことがわかり、対策がなされました」

「最新鋭のビルでは外からの換気の量を自動的に調節できたりもします。建物によって換気の状況は違うので、一度再評価した方がいいと思います」

換気の状況はやはり二酸化炭素モニターを使って日常的に確認した方がいいとも言う。

「ただ置いてある飲食店でも数値が高くなっているのに換気をしていないところがよく見られます。置いているだけで安心しても意味はない。店内ではなく、玄関に置いてあって実態が把握できない使い方をしているところもあります。意味ある使い方をしなければなりません」

飲食店のパーテーションや接客窓口に貼られたビニールについては、「基本的にいらない」と小坂さんは言う。

「飛沫が飛ぶのを直接防ぐ効果ぐらいはあるかもしれませんが、エビデンスはかなり限られています。むしろアメリカの学校でパーテーションを置いたら発熱者が増えたというネガティブな報告さえあります」

換気については全面的に賛成

浜松市感染症対策調整監で浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫さんも、飲食店や公共の屋内空間でこまめに換気をすることについては科学的根拠があると判断する。

「換気に関しては全面的に賛成です。コロナだけでなく、インフルエンザもエアロゾル感染することがあるので、換気をよくすることは常にいいことです。換気の徹底は新型コロナで得られた宝物の一つ。残していきたいです」

「飲食店のパーテーション」や「接客窓口のビニール」は科学的にも意味がないし、今後はいらないと判断する。

「これはすぐにやめてほしい。あれを使うことでむしろ換気は悪くなります。表面の洗浄もしていないから、ウイルスがベタベタについているはずです」

ちなみにスーパーなどのレジ打ちの人が使い捨て手袋を使うのもすぐに止めた方がいいと話す。

「ずっと同じ手袋をつけているわけですから、かえって不潔です。意味がありません」

パーテーションやビニールも「きちんと使えば」意味があるが...

川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんも、飲食店や公共の屋内空間でこまめに換気をすることについては科学的根拠があると判断する。

「換気については今後もやった方がいい。新型コロナウイルスを含んだエアロゾルが、いわゆる飛沫よりも距離が長く、時間も長く空中に存在することがわかっていますから、換気と言わずも“空気の入れ替え”は重要な対策になります」

「どちらもちゃんと使えばしゃべる側の飛沫をかぶることを止める効果があります。従業員を守るという点では、不特定多数を相手に接客する場合、例えばコンビニのレジのビニールカーテンみたいなものはあっても悪くはないと思います」

「僕もこの病気が出はじめた頃に診療所の受付窓口などでは設置したらどうかと提案したぐらいです。ただしその場合も、換気をちゃんとやることがセットです」

「ただ飲食店のパーテーションは、知らない人同士で使うのは意味があるかもしれませんが、同居家族と飲食店に行くのに使っても意味がありません。使う側の条件も関係してくると思います」

でも僕は、知らぬ同士が和気あいあいと飲むような世界が好きなんですけどね。

パーテーション、接客窓口のビニール「持続可能性低い」

京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんもこまめな換気は飲食店でも公共の屋内空間でも科学的根拠があるし、続けるべき対策だと判断した。

「換気は感染対策として最も大事なものの一つです」

飲食店のパーテーションは科学的合理性があるとしたが持続可能性が低く、今後は続かないとした。

「相対的に換気のほうが大事です。有効な換気をしていればエアロゾル感染の多くが防がれます。でも積み重なった研究では高さの高いパーテーションはかなり有効であると考えられていて、一定の効果が期待できます。でも経済活動が活発になる中で、取り払ってご飯を食べることが増えています」

「たとえば、デートで女性とご飯を食べにいくとします。ご飯の時以外の自分から出るエアロゾルが防がれているのか考えると厳しいです。外に出たら向かい合うわけですから。店で食事をする時だけ使って、どれだけ感染を防げるかはわかりません」

接客窓口のビニールは科学的に根拠がないとし、今後は必要ないとした。飛沫を防ぐ効果はないのだろうか?

「たとえばコンビニのレジなどで、商品を渡すときにお店の人は触って袋を渡してくれます。ビニールに付着したウイルスをどう処理するかも重要なのですが、おそらく感染しないように掃除することもできていない。持続可能性の観点から消えていくと思います」

(続く)