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食事、睡眠、仕事や勉強、人付き合い 生き延びるために日常生活をどう乗り切るか

精神科医、松本俊彦さん講演詳報最終回の第3弾では、自傷行為や摂食障害など生きづらさを感じている人が、日常生活をどう乗り切ればいいのか診察室で行なっているアドバイスを伝えます。

自傷行為や摂食障害など、自分を傷つけ、大切にできない行為を繰り返してしまう人たちがいます。精神科医、松本俊彦さんの講演詳報最終回の第3弾では、日常生活で気をつけた方がいいアドバイスをお届けします。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

食事の問題はとても大事

自傷行為を繰り返す人のほとんどは摂食障害や摂食障害的な傾向を持っています。全く持っていない人はむしろ珍しい。若い女性でアルコールや薬物依存症の人たちも摂食障害を合併していたり、摂食障害的な傾向を持っています。

おそらく、自傷も摂食障害もアルコールも薬物の乱用も根っこはみんな似ているのではないかと思います。だから食事の問題はとても大事です。

自分のことが好きになれなくて、自信がない女性たちの多くは、自分の体重や体型をいつも気にしていて、こんな体型じゃダメだ、愛されないと思っています。

そう思って一生懸命、炭水化物を抜いたり、三度の食事を減らしたりしますが、耐えられなくなってリバウンドで過食してしまいます。

まずいのは、飢餓的な状態で食べてしまうことです。すごく吸収されてしまいますから。

摂食障害の症状があって、食べ吐きをやっている子は、普段、一生懸命食べないようにしていますが、うっかり食べてしまうと少し食べただけでものすごく太る。めちゃくちゃ吸収される食べ方をしているからです。

吸収を悪くするためには三度の食事をきちんと食べることです。

過食したかったら過食してもいい ただし三食食べること

それでも過食したくなっちゃいますよね? 過食しましょう。どんどん過食していいですよ。三度の食事をしている限りは。

松本俊彦さん提供

でも意外に、普段、三度の食事を抜いて過食しているときよりも太りません。それは騙されたと思って試してみてください。

そういう風にしているうちに忘れた頃に過食が治まってくることもあります。

もしも我慢すべきこと、何か頑張るべきことがあるとするならば、吐いたり下剤をたくさん使ったりすることはやめてみてください。吐いたり下剤を使ったりしている限りは、摂食障害は良くならないみたいです。

それをやめて過食は時々しちゃう、あるいは時々食べられなくなっちゃう、それは仕方ないという心構えでやっていく方がむしろ楽にこの症状と付き合うことができると思います。

でもそうは言ったって、たまに吐いちゃうことがありますよね。その時には絶対に自分を責めないこと。「そういうこともあるわ」と楽に考えてください。

何も完全に止めることはないんです。時々自分を責めすぎて、責めている罪悪感が余計過食をひどくすることがあります。ですから自分に優しくなりましょう。

ただ、ダイエットで何が危険かというと睡眠薬を飲んでいる場合です。

精神科に行って眠剤もらっている人は、夜に眠剤飲むと、意識がぼーっとしている時にどか食いしているんです。気づいたら冷蔵庫の中半分食べてしまったということがあるので、「ダイエットしている時に眠剤飲んだら危ないよ」と僕はよく言っています。

「魔の時間」の夜をどう乗り切るか

それから睡眠です。夜って本当に魔の時間です。長く起きているとろくなことがありません。

夜に1日のおさらいをしたり振り返りをしたりして自分のことを責めたりするのはやめましょう。夜は反省はしない。できる限り11時前には寝ましょう。

子供時代につらい体験にあっている方は夜が怖いんですよ。あかりを消して、眠りがやってくるまでの時間が魔の時間なんですね。なぜかというと、人生において嫌なことのほとんどが夜に起きているからです。

Laikwunfai / Getty Images

夜が子供時代のつらい記憶を呼び起こす魔の時間となっている人もいる

我々は寝ようと思って眠りがやってくるまでの時間を待つことができますが、トラウマを抱えた人はそれまでの時間が一番つらい。だからなんとか寝ようとして、睡眠薬をたくさん飲むうちに、睡眠薬の依存症になることもあるんです。

そういう人は、たぶん、夜にフラッシュバックが出てきてしまうのです。意識もぼーっとするからでしょう。その場合にはあかりをつけて寝ましょう。煌々とあかりをつけて寝るといいと思います。

パートナーが隣で寝ているのに申し訳ないという人は別の部屋で寝ましょう。その方が安全な場合もあります。

それでも落ち着かない人がいます。トラウマを抱えた人たちの特徴は、寝付けなくて、空が白んでくる明け方になると急に眠くなり、次の日の夕方まで寝てしまうという眠り方です。

睡眠薬を使って無理やり寝るよりは、しばらくのあいだは昼夜逆転の方でもいいんじゃないかなと思います。ずっとこのままでいいとは思わないけど、一時しのぎとして、朝まで待ってから眠るのは最悪ではないと思っています。

仕事や勉強 アクセルを全開にしないで

次に仕事や勉強です。

自傷する人も摂食障害の人もアルコールや薬物の依存症の女性も共通していますが、みんな自分に自信がありません。自信がない人は「褒められ依存症」になりがちです。

認めてもらいたくて、喜んでもらえそうなことを一生懸命頑張ります。

子供時代は勉強だし、大人になれば仕事だし。もしかすると治療や回復のプログラムを一生懸命頑張ることによって援助者から褒めてもらおうとする人もいるかもしれません。それで頑張り過ぎてしまう。

Kool99 / Getty Images

自信がない人は仕事でも勉強でも褒められたくて、アクセル全開にしがちだ

自信がない人は、日々の生活を犠牲にして頑張り過ぎてしまいます。いつもアクセル全開なんです。でもそれでは潰れてしまいます。だから「中くらいでやっていいよ、手を抜きなよ」と声をかけるのですが、怖くて手が抜けないのですね。

自分はダメで怠け者だと思っているから、ちょっと手を抜けばゼロになっちゃうと思ってしまう。「そんなことはないよ。全開にしない練習をしてみよう」と伝えています。

そんな人は、試験前に寝ないで隅から隅まで教科書を写して完璧なノートを作るんですよ。頭のいい子だからそんなノートを作らなくても、教科書に少し書き込みをするだけでそこそこの点が取れるはずなんです。

でも自分はそれをやらないと絶対に点が取れないと思い込んでいて、ノート作りに追われてしまって寝る時間がなくなっている。とにかく、今回あえてノートを作らないでやってみてと言わないといけない場合もあります。

こういう人は計画を作ることも大好きです。ギッチギチの相当頑張らないとクリアできない計画を作りますが、生活や勉強の計画を立てる時には、一番体調が悪い時に合わせて作れとお願いしています。

摂食障害を抱えながらの子育ては? 親ではなく外部に頼ろう

それから最近では、摂食障害を抱えながら主婦をやったり育児を抱えたりしているお母さんたちもいます。そういう患者さんたちはたいてい母親との関係が悪いです。

母親との関係が悪いと、人一倍良い母親になりたいと思っています。ただ、実際には母親としても自信が持てないし、妻としても自信が持てないし、女性としても自分はダメなんじゃないかという思いがある。

Kokouu / Getty Images

育児に悩んだら、公的なサポートを

そういう風に劣等感を抱えていると、本当につらいことがあって育児や家事がうまく行かない時に、誰にも頼れないのです。相談すると怒られるんじゃないかと思っています。それでもどうにかこうにか頼れるのが母親だったりします。

ところがこの母親は、自分の時にはちゃんと育ててくれなかったくせに、歳をとって経験を積むとうまくやれるようになっているんです。それを目の前でやられると本人はすごく腹がたちます。

いつの間にか自分の子供がばあさんの方になついているのを見て、「私の時にはやってくれなかったくせになぜ?」と思うようになるんですね。

しかも、母親が「あんたこれダメじゃない」って説教したりする。そうなると、もうズタボロですよね。だからいつもママさんの患者さんに言っています。母親には頼るなと。できるだけ、行政のいろいろな育児サービスとか使えるものは全部使えと。

肉親に頼るとかえって傷つきます。第三者の方が自分よりうまくできても傷つきません。それで飯食ってるんだからいいやと考えられます。行政はだいたい一人ではなく複数の担当者が出てきて、自分をサポートしてくれるチームができる。チームのサポートを利用した方がいいと思います。

良い母親にならなければいけないと思っている人のもう一つの特徴は、保育園を利用することは悪だと思っていることです。保育園に入れることはネグレクトであると思っています。

保育園を使うと、そこの保育士さんたちもあなたのサポートチームの一人に入ってくれるから、すごく味方が多くなります。むしろ積極的に頼ってほしいし、入園申請のために診断書が必要ならいくらでも書くよといつも言っています。

でも、「自分流の子育てをしたい」とか、「保育園に入れると子供がいじめられる」とか言って躊躇する患者さんがいます。そんなことないよといつも言っているところです。

人間関係 怒りの感情とどう付き合うか

それから人付き合いです。自傷行為や摂食障害を抱える人たちのもう一つの特徴は、怒りを悪い感情だと思っていることです。

おそらく、最初に激しい怒りを感じた対象が、自分の親だったからだと思います。親には世話になったから、親には怒っちゃダメ、悪いのは私なんだと思い込んでいます。

松本俊彦さん提供

それでスッキリ解決するならば気持ちはもやもやしません。でもやはりスッキリしないからもやもやした感情の行き場がなくなります。それで食事ができなくなったり、どか食いしたり、自傷してしまいます。

怒りは悪い感情ではありませんし、正常な感情です。パーソナリティ障害の人の治療のゴールは何かというと、普通に穏やかに怒れるようになることなんです。

多くの患者さんは怒りを我慢して我慢してもう我慢できなくなったところで大爆発ということになる。もう少し早い段階で、「今の言い方傷ついたんだけど、言い直してもらえない? いくら何でもひどいと思うな」と言えるようになるのがゴールなんです。

でも、長年怒っていないとどう出していいのかわからない。うっかりコックを緩めると、今まで溜まっていたものが大爆発してしまうことがあります。そうするとものをぶっ壊したり、自分を傷つけたりしてしまう。そういう時にわりと被害が少なくなる方法があります。

まず自分が誰に怒っているかを同定してください。同定した後に、アマゾンで売っている藁人形セットを買ってください。ちゃんと五寸釘と軍手も付いています。釘を打つための石も付いています。

それを買って、ぜひ腹を立てているやつのことを考えて釘を打ってください。もしもその人が突然夜中に心筋梗塞で倒れたとしても、絶対にあなた方は刑事責任を問われることはありません。因果関係はないですからね。

こういうことをしていると、だんだんと怒ってもいいんだ、こういう風に誰かにぶつけてもいいんだと気づきます。

気分が落ちる人とは距離を置く

それから自分の身の回りを見渡してください。「あの人と会うと、なぜかいつも気分が落ちる」という人がいませんか? だいたいそういう人たちは必ずダメ出しをする人なんです。

説教したり、余計なコメントをしたりする人がいます。それから自分を支配する人たち。束縛が強かったり、価値観を押し付けたり、その人と違う意見をいうこちらを論破するまでまくし立てたりする人たち。そういう人たちは警戒してください。もし近くにいるならば、距離をとった方がいいかもしれません。

ただ、案外ダメ出しをする人とか束縛をする人たちってどんな人が多いかというと、家族、夫、彼氏、親友なんです。困ったことに一番近い人がそうなんですよね。

だからと言って離婚や家出は簡単に決断できない。そういう時には、ほかの友人関係などを豊かにしておいて、二人だけの世界に入り込まないようにすることです。少しでも苦手な人の影響力を落とすには役立つと思います。

それから、友達と恋人です。

松本俊彦さん提供

よく患者さんには、同性の友達からきた年賀状は必ず返事を書けと言っています。男は一次的に気持ちよくさせてくれることもあるかもしれませんが、最終的には荷物になることが多いです。

何かの時に困った時に助けてくれるのは同性の友達です。同性の友達が多い人のは、悪い男につかまった時に、「あいつ悪い男だよ。別れた方がいい」と言ってもらえます。友達がいないと気づきません。二人だけの世界に入ってしまいますから。別れて寂しい場合も、同性の友達が他を紹介してくれて、寂しさも解消するでしょう。

同性でも鬱陶しい人はいます。そういうために私はあえてキープと言っています。ベタベタ付き合わなくてもいい。年賀状をやりとりする関係になっておいて、何かの時に相談ができる微妙な距離関係を保っておけばいいと思います。

男性依存への対処法

男性依存に悩む人も多いですね。

女性の患者さんで、受診するたびに車で送ってくれる男がかわっているのは何なんだろうと思うことがあります。

「男性依存だ、男断ちしなさい」と昔はよく言っていたのですが、最近は、「まあそういう風にしながら生き延びているんだろうな」と思うこともあります。

同じ患者さんを10年ぐらい診ていると、「あの時にあの男がいたから、えらい目にもあったし騙されたんだけど、でも一時的には死なずに済んだ面もあるよな」と思うことも結構あるんです。だから、男がダメだとは思ったりしません。

ただ、自分の男の履歴書を振り返ってみて、彼氏が替わるたびに男のランクが落ちている場合は要注意です。

収入とか社会的なポジションだけじゃないですよ。暴力をふるったり、アルコールとか薬物の問題があったり、ギャンブルしたり。男が確実に下り調子になっていると思ったときは、いったん男付き合いをやめて、2年ぐらいクリーンタイムを作ってください。

科学的な根拠はないのですが、不思議なことに「男下り」に気づいてクリーンタイムを2年ぐらいおくと、急にまた男のランクがリセットされることがあります。

それから、付き合っていて、彼氏がなし崩し的に家に転がり込んでくることがあります。同棲はしたければしてもいいですが、必ず最初に月々に入れるお金の話をしてください。

彼氏が泊まっていくから食事を作ってあげようという延長で、それが毎日になってくると、なぜ私ばかりが食費を出しているのか、ということでもめます。恨みつらみが溜まってきて、最後は破綻します。

しかもお金の話だから切り出しにくく、最後にはそれで悩んでしまうことになる。男が転がり込んできたらすぐに食費を徴収し、家事の分業を切り出してください。せっかくの同棲がチャラになるかもしれませんが、そんなことで逃げ出す男性と同棲する方が長期的には問題ですから、追いかける必要はありません。

自分一人でも生きられるように

それから、アッシーを利用する生活はやめてください。

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男性の送り迎えに頼っている人は公共交通機関を使うことを心がけてみよう

男と付き合うと、いつも男に送り迎えしてもらって、病院の受診も男の車でという人がいます。

男性依存になる人は、やはりトラウマを抱えている人が多い。しかも男性によって傷つけられているトラウマを抱えていることが多いのです。

そして、冷静になって考えると、公共の交通機関が苦手な自分に気づきます。満員の通勤電車とか満員のバスがとても苦手なんです。そこには男がいるからです。でも、アッシー生活に慣れると、車でないと移動できなくなります。

結局、年をとって男が寄り付かなくなった時、生活保護を受けて、生活保護の担当者に、「私は電車やバスが苦手なので、タクシー券ください」と言ってもくれるわけはありません。体の病気があるわけじゃないのに。

そうなると、生活保護でも生活できなくなります。自分の人生の選択肢を狭めないためにも、いつまでも公共交通機関を利用できる人間でいてください。

そのためにアッシーで甘やかされないように。車で送るよと言われても、「いや、自分で行きます」と言った方が、将来の自分のためにもいいと思います。

一人でも大丈夫 50歳過ぎたらみんな一緒

ちなみに異性関係では、「私は彼氏がいない」とか「まだ結婚できなくて負け犬だ」とか、嘆いている患者さんがいます。

自傷や摂食障害を抱える患者さんは、人と比較するのが大好きです。そもそも人間は比較が好きですよね。人間が傷ついたり、死にたいと思ったりするのは絶対的な不幸や絶対的な貧困ではありません。

明治維新以来、一番自殺が少なかったのはいつか知ってますか? 第二次世界大戦中なんですよ。みんなが貧しくて、みんなが苦しいときは連帯感が湧いて、意外に自殺が減ってきます。

我々が傷つくのは、格差なんです。周りと比べて自分だけ貧乏とか自分だけ不幸とか、前の自分に比べて落ちぶれたとか、そういうことで傷つきます。その延長線上で摂食障害や自傷の人はいつも人と比較して傷ついています。

あの人の方がいいバッグを持っているとか、女性の場合は彼氏とか結婚とか、子供がいるいないとかが大事な基準になっています。

でも、これはちょっと女性陣に怒られちゃいそうなんですけれども、大丈夫ですよ。結婚しててもしなくても、50過ぎたら大抵みんな不幸ですから(笑)。

そのへんで井戸端会議している女性たちの話を聞いてみてください。子供いる人も旦那の愚痴ばっかり言っているし、子供がいうこと聞かないとか子供がバカでいい学校行けないとか言ってますよ。

20代、30代の時には、私だけ独身で不幸だと思っていても、ここに来ると並んだなというか、むしろ身軽な自分の方がいいなと思うことが多々あるんですよ。

さらに、結婚が幸せとは限りません。なるほど、男性の場合には結婚は自殺予防的に働きます。独身の男性の方が自殺リスクが高いけど、結婚した男性は自殺リスクが低くなります。でも、離婚すると著しく自殺リスクが上がります。

でも、女性の場合は違います。女性は、確かに30代前半までは独身の方が自殺リスクが高いですが、30代後半、40代からはあまり差がなくなります。そして50代をすぎると、明らかに離婚した人の方が自殺リスクが下がります。残念ながら。

どうも女性の場合、結婚は自殺に対して予防的に働かないような気がします。おそらくこれは結婚がいい悪いではなくて、やっぱり日本の社会の中では、男女の分業とかかかってくる負担が違うのだろうと思います。

男は、会社や仕事関係で傷ついて自殺リスクが上がります。女性は、身近な家族との関係で傷ついて自殺リスクが高まる。だからそういう意味で今、お嘆きの方も、50過ぎたらみんな一緒だと考えてください。これから私は花開くと思うのもいいかと思います。

同じ病気の仲間や精神科医とどう付き合うか

同じ病気の仲間、依存症の自助グループの仲間、これはとても大事だと思います。同じ病気の仲間をたくさん持っている方が、その後の仕事とか社会的な活動につながる可能性が高いからです。

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3回は会ってみてから精神科医を選ぼう

医者と診察室でちまちま話をしていたって、絶対に人生は開けません。私の患者さんの中でよくなった人は診察室の関わりでよくなったのではなくて、診察室の関わりである年齢まで生き延びて、診察室の外のリアルな人間関係での出会いで変わっています。

そういう出会いを安全な形で提供してくれるのは、同じ病気の仲間だと思います。仕事を始めて病気でない人に混じって働くようになると、なおのこと、定期的に仲間たちと会ってガス抜きをする必要があります。

普通の健康な社会人を普段は演じているわけです。でも時々はその仮面を外して病気のことをありのまま話せる場所を作っておかないとうまく行きません。

それから精神科の医者です。主治医は忙しくてすぐに患者のことを忘れてしまいます。

駆け出しの時には患者さんのことが忘れられなくて、夜も忘れられなくて、週末も考えたりしてた時期があります。でもそれだとまだまだ未熟なんですよ。

ベテランになってくると診察室を出た途端に患者のことを忘れるようになります。でも忘れっぽくなり、「えーと君は何に困っていたんだっけ」となりやすいので、ぜひアピールしてください。

短い診察時間ではアピールできないという方は、聞いてほしいことをメモに書いて渡してください。診察の間に読めるかどうかはわかりませんが、必ず読みます。返事は書きません。そういう風にして、あなたというソフトを主治医にインストールしてください。

褒められたがりやの患者さんは、医者にも認められたくて良い子を演じます。文句を言わずに言うことを聞いてしまいますが、それでも病気が良くならなくて、生きるのが楽にならなかったりします。

困っていることがあったらきちんと言ってほしいのですが、多くの患者さんは診察室に入ったとたん、頭が真っ白になったりします。

「また来週」と言われて、病院の帰り道、言おうとしていたことが何も言えなかったから、だんだん腹がたってきます。「あの医者は、話を聞いてくれない」って。「あなたが何も言わなかったから聞かなかったんだ」と思うのですが、患者さんからすると頭が真っ白で言いたいことが言えないわけですね。

こういう人もやはり、診察の前にこれは絶対に言わなければならないということをメモに書いて、それを読み上げてください。

いろんな医者、自分にあう医者を探すためにあちこちドクターショッピングすることは悪いことではありません。ただ、その医者がいいか悪いかは最低3回会ってみてください。1回会って良くても、2回、3回で悪くなることもあります。

3回目の印象は1年後の印象とそれほど変わらないみたいです。1回目の印象は1年後の印象と大きく変わるそうです。3回は会ってから変えた方がいいと思います。あと最後に、講演をしたり本を書いたりする医者はやめといたほうがいいと思います。だから僕のところに来ないでください(笑)。

薬も選んだ方がいい 飲まない方がいいかもしれない薬

やばい薬があります。この薬はやばいからもらわない方がいいよという薬です。

松本俊彦さん提供

もし、処方されている人がいたら、主治医と相談してみてください。やめられる可能性があるかどうか。

それから市販薬。トラウマ抱えている患者さんは頭痛持ちの人が多いです。頭痛薬をたくさん飲んでいます。しかし、頭痛薬を飲んで頭痛が悪化している人はたくさんいます。市販の風邪薬や痛み止めをたくさん飲んでいる人もいます。依存性の強い成分があるから注意してください。

松本俊彦さん提供

それから、アルコール。お酒を飲むのがいいか悪いかですが、一応知識として知っておいた方がいいことがあります。

酔っ払うと、過食しやすくなります。それから、酔っ払うと自傷しやすくなって、傷もどうしても深くなります。お酒に酔うと死にたくなる人たちがいます。精神科治療薬の効果が落ちることがあります。

それからアルコールと一緒に睡眠薬、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や抗不安薬を飲んでいる方は依存症になりやすいので注意してください。

あとはカフェインも注意してください。摂食障害の人はカフェインが好きです。待合室で抱えている人いますし、アイスコーヒーをガブガブ飲んでいる人もいます。おそらく食欲を抑えてくれるからだと思います。

松本俊彦さん提供

カフェインがたくさん入った飲み物にはこんなものがありますが、注意してください。みんな意欲を出そうとか食欲を抑えようとしているのかもしれませんが、カフェインはすぐ慣れが生じます。

そして効果が切れた後の倦怠感がすごく長い。だんだん頑張っている時間よりも疲れから回復する時間が長くなって、効率が悪くなることがあります。カフェインで元気を出すのは、元気の前借りだということを忘れないようにしてください。

それから精神症状にも影響を与えて、怒りっぽくなったりパニック発作を起こしやすくなったり、不眠もひどくなって睡眠薬の量が増えたりすることがあります。カフェイン飲みすぎて睡眠薬の量が増えるなんて馬鹿げています。

ネットとの付き合い方 

ネットとの付き合い方も注意が必要です。ブログやSNSをやるのは全然OKです。でも自傷キャラを全面に出したアイドルになるのはやめてください。だいたいこれをやった人は死んでいますから、これはやめておきましょう。

自傷の動画や写真をアップしないでください。それを見て、自傷を我慢している人が切りたくなってしまいます。他の人を巻き込まないでください。

SNSは架空の空間なので、距離感に注意してください。SNS上で友達でも実際の友達ではありません。実際に会う時には慎重になってください。

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SNSは距離感に気をつけて

自分の投稿にコメントしてくる人にいちいち返事するのはやめましょう。フォロワー数が多くなると、コメントを返すだけで1日が終わります。基本、Sキャラでやって、コメントもらっても返事しない。たまに気が向いた時に返事するぐらいの方が楽だと思います。

それからFacebookは注意してください。あれは、自分の人生の中で一番いいところだけを切り取って投稿しています。タイムライン見ていると、みんないつもうまいものを食べて、世の中の人がみんなパリピに見えてきます。すごく腹が立ってくるんです、あのリア充自慢に。

僕だって「リア充爆発しろ」という気持ちになるくらいですから、メンタルヘルスの問題を抱えている女性がこれを見ると世界全体に対する敵意が湧いてくるので注意してくださいね。

一方、ツイッターなどで鍵をかけた「病み垢」を作るのは大賛成です。そこで病んだこととか死にたいこととかバンバン吐き出してください。「死にたい」とか「世界を呪ってやりたい」とか色々言って結構です。

ただし個人情報が守られるようにね。内緒のアカウントで作ってください。こうすることで少しガス抜きができます。

自分を褒めて、弱さを認めてあげよう

最後にお願いしたいのは、自分を褒めてくださいということです。進歩とは何かというと、生きていることです。生きていること、治療を続けていること、あるいは自助グループや患者さんたちのグループにつながり続けているなら、それは文句なしに進歩です。

摂食障害や依存症を持っている患者さんたちは自殺リスクがすごく高い人です。にもかかわらず、今生きているということは間違いなく勝利です。

進歩は3歩歩いて2歩下がるのが当たり前です。良くなった場合も、家族には内緒にして、良くなったことをバレないようにしてください。家族はすぐに要求水準が高くなります。「もっともっと」と首が締まるので、家族には内緒で良くなりましょう。

まとめます。

松本俊彦さん提供

いろんな提案をしましたが、間違っても全部鵜呑みにしないでください。「おや?」と思ったり、納得いかなかったりすることは絶対に採用しないでください。でもいいと思ったところはやってください。

嫌なものは嫌といい、苦手なものは避け、つらい場所は逃げる。これも、回復する上で、すごく大事なスキルです。そして強さとは弱さを認めることだし、自立することは依存先を増やすことです。だからたくさんサポートを家族以外で作ってください。それがあなたにとって財産になるということです。

最後に、もう1回自傷の話に戻ります。時々、自傷をした人が昔つけた傷があるとコンビニとかレストランの制服が半袖で傷が見えるからバイトができないと相談してくることがあります。美容整形の手術を紹介してと言われています。

どうしてもというなら紹介しています。ただ、不思議なことに治療が始まって、傷が綺麗に消えると、ぶり返す人がいます。もしかしたら傷自体がお守りになっているのかもしれませんし、傷が綺麗になってくると切りたくなる人もいます。

だからあえて残しておくことも一つの手かもしれません。昔、大変な時期があったけれども、今はそこをくぐり抜けて成長したんだという証かもしれません。

傷を消すにしても残すにしても、自傷や摂食障害やいろんな問題を抱えて生きてきたわけです。抱えた自分は不幸だと思うかもしれませんが、人間はそういう経験をしないとマイノリティの人に対する共感性が持てないものです。

少数派の人たち、セクシュアルマイノリティとかいろいろな人がいると思います。時々、国会議員が「(LGBTは)生産性がない」とかおかしなことを言ったりしますね。

ああいう風なことを言わないためにもマイノリティの人たちへの共感性を持つことが大事です。でも共感性を持てる人たちは、やはり子供時代にいじめを経験したり、メンタルヘルスの問題を持ったりした経験があるんです。

だから、すぐに気づきやすい。そういう意味で自分たちがそういう問題を持ったということは、もしかすると、世の中を良くする上で大事な感性をおかげで手に入れたという考え方もできるのかなと思います。

【講演詳報1回目】自分を傷つけずにはいられない人へ 「決して良いことではないけれど、悪いことでもない」

【講演詳報2回目】自分を傷つけたくなったり、死にたくなったりしたらどう対処したらいいか


【松本俊彦(まつもと・としひこ)】

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)など著書多数。

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