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オゾン発生器の設置、奈良県・那覇市・大阪府看護協会でも… 専門家「オゾン発生装置による感染対策は必要ない」

奈良県や那覇市、宜野座村、大阪府看護協会も新型コロナ対策に効果不明なオゾン発生器を寄贈され、使用していたことがわかりました。専門家は「効果のない対策を行うことは勧められません」と指摘します。

新型コロナウイルスなど感染症の予防効果が明らかでないオゾン発生器の寄贈を受け、大阪府富田林市が学校や幼稚園に設置している問題。

奈良県、那覇市、宜野座村などの自治体や、看護職の職能団体である「大阪府看護協会」も同じ商品の寄贈を受け、新型コロナ対策として使っていたことがわかった。

販売元の三友商事が同社のウェブサイトで寄贈実績を紹介している。自治体や医療団体で使われている実績を示して販売促進を図っていたとみられる。

WHO(世界保健機関)厚生労働省文部科学省は消毒剤や、ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれがあったりする場所での空間噴霧を勧めていない。

専門家は、頻度の低い接触感染を防ぐとしても、感染経路の多くを占める飛沫感染への効果に疑問があるとして、「効果のない対策を行うことは勧められない」と批判している。

新型コロナ対策として寄贈「感染予防の一助として」

同社のウェブサイト上の「NEWS」欄には、自治体や団体に寄贈したことを、三友商事の社長が手渡す寄贈式の様子を写真と共に紹介している。

2021年3月31日には、「オゾン除菌脱臭器「AIRBUSTER」を宜野座村・那覇市へ寄贈致しました」というタイトルで、「三友商事株式会社は、感染予防の一助として、沖縄県宜野座村と那覇市に対して、オゾン除菌・脱臭器「AIRBUSTER(エアバスター)」を45台寄贈致しました」と紹介。

《全国的に感染症拡大が懸念される中、寄贈先の沖縄県宜野座村や那覇市は、毎春プロ野球チームがキャンプを行っており、感染症に対する関係者の皆様の不安を少しでも解消できればとの想いから、この度の寄贈に至りました》

と新型コロナ対策を示唆する形で紹介している。

那覇市教育委員会市民スポーツ課の担当者はBuzzFeed Japan Medicalの取材に対し、今年3月、販売元の三友商事から寄贈の申し出を受けて、設置したとしている。

「三友商事から、『沖縄セルラースタジアム那覇でキャンプを行なっている巨人軍のコーチから三友商事へ新型コロナ対策として何かできないかと相談を受けたので、無償で提供する』と聞いています。那覇市としても本市の感染対策の一助になればということで受けました」

最終的に合計エアバスター39台の寄贈を受けて、スタジアムを中心に、那覇市民体育館に、那覇市民首里石嶺プール、漫湖公園市民庭球場、市長応接室に設置し、人が利用している時間帯に稼働している。

WHOや厚労省が推奨していないことについては「知らなかった」として、「今のご指摘を上の方にあげて検討します」と語った。

宜野座村も15台の寄贈を受け、庁舎内の会議室や教育長室などに設置し、人のいる時に稼働していている。

「業者に確認したが、オゾンの濃度が0.1ppmまでなら問題はないと聞いている。東京消防庁などの行政機関にも納入実績があるということで、安全性は高いと認識している。健康被害が懸念されるという情報が出てくるなら見直しも必要かと思うが、今のところそういう話はない」

また効果については、業者に示された藤田医科大学の研究をもとに「低い濃度でも効果があると認識している」と話す。

奈良県 利益相反のある研究を根拠に「一定の効果が見られるのかな」

三友商事は5月17日、奈良県庁についても「感染予防の一助として奈良県庁に対して、オゾン除菌・脱臭器「AIRBUSTER(エアバスター)」を 30 台寄贈」と紹介している。

以下のように書かれており、新型コロナ対策を示唆しているように読める。

《全国的に新型コロナウイルス変異株の拡大が懸念される中、寄贈先の奈良県庁では、職員の皆様が日々県民の為ご奮闘頂いております。働いておられる職員の皆様の感染症に対する不安を少しでも解消できればとの想いから、この度の寄贈に至りました》

奈良県庁の政策推進課参事によると、寄贈されたオゾン発生器30台のうち23台は、保健所や軽症者向け宿泊療養施設の新型コロナ患者搬送用の車両に配備。残りは、保健所や福祉医療部などコロナ対応にあたる部署の執務室や給湯室、トイレなどに置いている。

全ての装置は職員の勤務時間中にも稼働しており、患者搬送用の車両では、患者が乗っている時もつけていると話す。

こうした消毒剤の空間噴霧についてWHO、厚労省が推奨していないことについては、「存じ上げませんでした」と回答。

科学的根拠のないものを使用することについては、2020年5月14日に奈良県立医科大学が発表した「(世界初)オゾンによる新型コロナウイルス不活化を確認(世界初)オゾンによる新型コロナウイルス不活化の条件を明らかにした」とする実験室レベルの研究の報道発表を根拠に「一定の効果が見られるのかな」と判断したとしている。

この研究は販売元の三友商事や製造元のタムラテコも研究グループの一つに名前を連ねており、利益相反がある研究として見なければいけない。

こうした研究を根拠に、職員や患者がいる場所で使用し続けることについて改めて問うと、こう言葉を濁した。

「どれほど影響があるのかは存じ上げていないので、取材の話も聞いて、勉強しなければいけないと思います。いつまで使うかは今の段階では答えられません」

看護師の団体「大阪府看護協会」も

寄贈を受けているのは自治体だけではない。

三友商事はウェブサイトで、看護職員(看護師、保健師、助産師、准看護師)の職能団体「公益社団法人大阪府看護協会」に5月19日、30台寄贈したことを紹介。

《大阪府内における新型コロナ感染症軽症者等の宿泊療養施設において、過酷な環境に身を置き、日々ご奮闘頂いています看護師の皆様の感染症に対する不安を少しでも解消できればとの想いから、この度の寄贈に至りました》

このように、やはり、新型コロナ対策であることを示唆する文言を入れている。

BuzzFeed Japan Medicalは大阪府看護協会に取材を申し込み、協会の求めに応じて質問状の送付をしたが、同協会の山口宗久事務局長はこう話し、答える姿勢さえ見せなかった。

「事実関係を調べているが、調べきれていない。受け取ったのは事実。回答できるかどうかも含めて今の段階ではわからない」

BuzzFeedは全国組織である日本看護協会にも以下の2点について質問状を送った。

  1. オゾン発生器の新型コロナへの効果、感染症対策への効果をどのように考えているのか
  2. 看護職を束ね、教育する機能も果たしている団体として、都道府県組織が、科学的根拠が明らかでない装置の寄贈を受け、活用していることが会員、または国民に与える負の影響についてはどのように考えているか


同協会の坂路幸恵・広報部長は、以下のように返信し、団体としての判断は示さない姿勢を明らかにした。

「オゾン発生器の新型コロナウイルス感染症に関する効果等に関する見解については、厚生労働省に確認いたしましたところ、厚生労働省としてオゾン発生器について見解を表明しているものは現時点では無いとのことでした。このため、本会からの見解は差し控えさせていただきたいと思います」

製造元や市役所が根拠とする研究は?

三友商事は自身や製造元も研究グループに入っている奈良県立医大の研究や、藤田医科大学の研究を寄贈先に示しながら、新型コロナウイルスや感染症全般に対する安全性や効果を信じさせている。

ウェブサイトに掲載している寄贈のリリースでも、この2つの研究を根拠として紹介している。

この研究について、新型コロナウイルス感染症の正確な情報を啓発する活動をしている「こびナビ」副代表の医師で公衆衛生の専門家である木下喬弘さんは、「効果のない対策を行うことは勧められません」と批判する。

まず、三友商事や市が根拠として示している研究はいずれも、「空間内を一定のオゾン濃度に保つことで、ウイルスを付着させたステンレスから採取したウイルスの『量』や『感染性』が低下したというものです」と指摘。

「つまり、大前提として、オゾンにより『飛沫感染』を防ぐ効果は一切検証されていません。あくまで、ウイルスが付着したステンレスを触ることによるヒトへの感染、すなわち『接触感染』を防ぐことができるのではないかという仮説です」

ただしこの仮説を元に、オゾンの噴霧を行うことにも以下のようにいくつか問題点があると話す。


  1. そもそも新型コロナウイルスは接触感染は稀であり、ヒトに対する効果に疑問がある
  2. オゾン濃度を一定に保つため、密閉された条件下で実験をしているが、そのような条件が現実に再現できるか疑問がある
  3. 仮に密閉空間が再現された場合、換気がなされないことを意味し、頻度の低い接触感染を防ぐために飛沫感染を許容することとなるため、本末転倒
  4. WHOは「消毒剤を人体に対して空間噴霧することはいかなる状況であっても推奨されない」としており、厚生労働省も同様の見解である


そして、人がいる環境でのオゾン噴霧はいかなる状況であっても許されないと強調し、こうした研究を根拠とする説明の仕方に苦言を呈す。

「今回の研究ではオゾン空間噴霧による飛沫感染の防御効果は全く検証されていないので、人がいる場所で噴霧することを支持するデータは一切ありません。こうした誤解を招く表現を元に使用を勧めているのであれば、極めて悪質だと思います」

また、市教委が子どもがいない時間帯に稼働するよう使い方を変えることについては、こう話す。

「放課後に誰もいない教室を密閉し、翌朝まで噴霧することで拭いて綺麗にすることを代用することになると思いますが、そもそも接触感染は感染経路の10%程度に過ぎないと考えられており、飛沫感染に比べると頻度は非常に低いです」

「『確実に感染した人』がいる場合であればまだしも、そうでない状況で、毎日児童が触ったものを全て消毒するというのは過剰な対策だと言えます。文部科学省も『清掃活動とは別に、消毒作業を別途行うことは、感染者が発生した場合でなければ基本的には不要』というガイドラインを出しています」

公衆衛生の専門家「オゾン発生装置による感染装置は必要でない」

こうした分析から、木下さんは「オゾン発生装置による感染対策が必要であるという理由がないと考えます」と結論づける。

三友商事や市教委が根拠としている藤田医科大学の研究のリリースでは、新型コロナの患者を診ている藤田医科大は9月上旬から大学病院の待合室や病室内でもオゾン発生器を使うとしていた。ただ、これについてはコロナ患者を診る感染症や救急分野の責任者が止めて、病院では使われていない。

「医療機関については、こんなものを使用していたら感染対策の知識がないと宣伝しているようなものなので、一刻も早くやめることをお勧めします。特に、外来などの人がいる環境での使用は、患者さんに害を与える可能性があることを十分認識していただく必要があります」

その上でこう訴えた。

「感染対策は、有効なものに限って長く続けることが何よりも大切です。明らかに有害な対策を行うのは論外ですが、健康被害が少ないと考えられるものであっても、効果のない対策を行うことは勧められません」

「本当に必要な対策がおろそかになることがないよう、科学的な根拠を元にした感染対策が重要です」

追記

日本看護協会の回答を追記しました。