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2021年度の医学部入試、女性の合格率が男性を初めて上回る 「男女ともに人間らしく働ける医療現場を」

女性差別が発覚した医学部入試で、2021年度は初めて女性の合格率が男性を上回ったことが明らかになりました。保団連は、男女別の合格率が公表されたことが公正な入試の後押しになったのではないかと分析し、男女共に働きやすい職場環境の実現を訴えています。

医学部の入試で女性受験者が差別を受けていた医学部入試差別問題(※)が発覚してから3年余り。

2021年度入試では、男女別の合格率の公表を始めた2013年度入試以来、女性の合格率が男性を上回ったことが全国保険医団体連合会(保団連)の調べで確認された。女性の合格率の方が高い大学も過半数だった。

全国保険医団体連合会

男女別の合格率の公表を始めた2013年度入試以来、初めて男女の合格率が逆転した

保団連の女性部は1月17日に声明を出し、「医師を志し勉学に励む女性受験生の努力が裏切られることのないよう、女性差別のない公正な入試の実施を」と受験シーズンを前に訴えている。

BuzzFeed Japan Medicalは保団連副会長で女性部長でもある齊藤みち子医師に話を聞いた。

※2018年に文部科学省の局長が息子を東京医科大学に裏口入学させることを見返りに便宜を図った汚職事件をきっかけに発覚。同大が医学部一般入試で、女子や浪人を重ねた男子受験者全般に不利になる点数操作をしていたことがわかり、さらに複数の大学で同様の点数操作がなされていた問題が明らかになった。

男女別の合格率、2013年度以降初めて男女逆転

文部科学省や保団連の集計によると、2021年度の男女別の合格率は、男性が13.51%、女性が13.60%となり、男女別合格率が公表されている2013年度以降、初めて男女が逆転した。

男性の合格率の方が女性の合格率を上回った大学は2021年度で医学部医学科のある81校中36校で、44.44%となった。こちらも2013年度以降、初めて男女が逆転した。

ただし、全国の男女別の各受験者数は男性6万2325人、女性4万3243人で、男性の方が依然として多い。全合格者に占める女性合格者数は41.1%だ。

文部科学省 / Via mext.go.jp
文部科学省 / Via mext.go.jp

これについて、保団連は1月17日に声明「女性差別のない公正な入学試験の実施を全医学部・医科大学に求める」を公表し、以下のように要因を分析している。

「理由は明らかにされていないが、20 年12 月に文科省が毎年の男女別合格率公表を表明したことが、女性差別のない公正な入試の実施を後押しした可能性もある」

医学部入試差別の要因として「出産・育児による女性医師の離職」が考慮されているとし、その背景には「過労死ラインを超えるような医師の過酷な働き方や、日本社会に根深い『男は仕事、女は家庭』という言葉に代表される性別役割分業がある」と分析。

「現状のままでは、入試差別が解消されても、女性医師は医師としての過酷な労働と家事・育児の二重負担に苦しみ、医療現場はより深刻な人員不足に陥るおそれがある」とした。

その上で、「男女ともに人間らしく働ける医療現場を実現するため、医師数の増員と、医療界の性別役割分業意識の解消に向けて、引き続き取り組みを強めていく」と締めくくっている。

この声明を全国医学部長病院長会議に送付したところ、「全医学部の学部長に周知する」との回答があったという。

公表で大学側に後ろめたさ? 働き方改革で差別もしていられない状況に

BuzzFeed Japan Medicalは声明を出した保団連女性部長の齊藤みち子医師に話を聞いた。

——この男女別の合格率は昨年9月30日に文部科学省がウェブサイトに掲載していたようですが、プレスリリースは出されていませんでした(※)。恥ずかしながら、保団連の声明で初めて知りました。

※BuzzFeedの取材に対し、文科省大学振興課大学入試室は「プレスリリースを出さなかったことに特段の意図はない」と話している。

保団連の事務局が昨年10月に見つけました。メディアはどこも報じていないということで、我々が声明を出し、そのタイミングでプレスリリースを出すことにしました。

全国保険医団体連合会提供

今回、文部科学省の公表データを掘り起こし、医学部入試シーズンを前に差別のない入試の実施を訴えた全国保険医団体連合会女性部長の齊藤みち子医師

元々、文科省は公表したくない立場をずっと貫いています。男女別合格率の公表を要求し続け、国会でも取り上げられた結果、ようやく公表に踏み切りました。

女性は入れたくないという大学側の意思を汲んでいるのだと思います。厚生労働省も医師の需給状況を計算する際に、男性医師の仕事量を1とした時に、女性医師は出産・育児があるからと0.8がけで計算しています。

——2021年度に女性の合格率が男性を初めて上回ったのは、この公表が後押ししたのではないかと分析されていますね。どう影響したとみているのですか?

公表することで大学側に後ろめたさを抱かせたのだと思います。

点数操作を公に認めている大学以外も、男女差別をしていたのではないかと私たちは推測しています。世間の目に各校の男女別合格率がさらされることで、「やはりこれはおかしいのではないか。このまま続けるわけにはいかないのではないか」という意識が芽生えたのではないでしょうか。

また、医師の働き方改革が始まろうとしている中、ここである程度、男女差別を解消しておかないとまずいという意識が働いたと思います。

今もまだ、「女性医師は出産や育児があるからフルでは働けない」という意識の下で職場での扱いが考えられています。

働き方改革で男性医師の労働時間を減らせば家庭に割く時間も増え、育児中の女性も普通に働けるということに気づく人が増えてきたのではないでしょうか。

女性の受験者数の少なさ 「子どもの頃からの抑制が働いているのではないか?」

——この傾向は今後も続きそうでしょうか?

今年、来年の入試の結果を見てみないとまだわかりません。このまますんなり女性医師が増えて50%に近づいていくかどうかは、今回の結果だけではなんとも言えません。

——合格率は逆転しましたが、受験生の数自体まだ女性の方がかなり少なく、全受験者の41%です。全合格者に占める女性合格者の割合も41.1%となりますが、なぜでしょうね。

トータルで見れば、元々女性の方が成績は優秀なはずです。入試差別について考えるシンポジウムに出ていた予備校の先生は、「女性は入試で差別を受ける可能性があるから、合格ラインすれすれの場合は志望校のレベルを下げさせる指導をしている」と言っていました。

——医学部受験を考える段階から、すでに女性ということで「頑張れ」と励ますのではなく、「諦めろ」という力が働くということですか?

これは社会全体の問題だと思っています。そもそも「女の子が医者になるのはどうか」という考えが、周りの至るところにあります。「出産や育児もあるのだからそんな厳しい職場に行かなくても」という圧力もあるのではないかと思います。

医師に限らず、研究者でも社長でも「女性がそんな大変な仕事を狙わなくても」という雰囲気が社会全体にある。子どもの頃から「医師になりたい」という希望を出すこと自体、それとなく抑制されていると思います。

面接、小論文の点数はブラックボックス 男女別の平均点公表を

——声明の中で「男女別合格率のみならず、受験科目ごと(筆記試験、面接等)の男女別成績なども調査し公表すべきである」と書かれています。これはどういう意味ですか?

入試で何を科目にするかは大学ごとに違います。点数操作がなされたら別ですが、筆記試験は基本的に差別のしようがありません。

しかし、面接や小論文をどう評価するかは、試験官の意識が働きます。差別できる余地がある。男女別の平均点数で女性の方が明らかに低いのであれば、差別がある可能性があります。

実際に、私の後輩の女性医師が大学で大学で長く入試にかかわっていて、ある時から面接が試験科目に加わったそうですが、その理由は女性の点数を抑えるためだったと聞きました。

もちろん表向きはそんなことは言われていませんが、面接や小論文なら試験管が自由に点数をつけられる。その点数を公表し、明らかに男女で差があれば、是正を求めることができます。

男女ともに過酷な働き方を変える必要

——「女性医師は出産・育児で働けなくなる」と大学側がみなしてしまうのは、産婦人科など当直が必須な診療科だとローテーションに入ってもらえなくなるという考えが働いていると思います。そもそも男性医師も含めて医師の働き方が過酷過ぎるし、育児を女性だけが担っている問題が底にあると指摘していますね。

医師の働き方改革で、一部の医師は残業を年間1860時間まで認めるという形になりました。一般社会から考えると、過労死ラインを超え、とてつもない残業時間です。でも勤務医にアンケートを取ると、過半数の医師が歓迎していました。

つまり「そこまで減らしてくれるならありがたい」という状況でこれまで働いていたということです。男性医師がそんな働き方をしていたら、妻が医師だとして、子どもがいたらフルで働けなくなります。

極端な言い方をすれば、医師も全員8時間労働にして3交代にすれば、女性医師も十分働けます。また、社会的に夜間保育をきちんと整備すれば当直もできる。夢のような、程遠い話ですけれども、それを目指さなければいけません。

——今の20代、30代は男性も「自分も子育てをしたい」という意識が高まっていると思います。これからが変わるチャンスではないでしょうか?

実際にそういう働き方を選んでいる人もいます。派遣会社に登録して、自分の働きたい時間を選んで働く人も増えています。もちろん病院の中で頑張って、勤務時間の調整を要求している人もいます。

ただ、若い世代は育児に関わる男性が増えていると思いますが、夫婦で平等に分かち合っているところまでやっている人はまだ多くないでしょうね。

——医師としてのキャリアや専門性を培うことを犠牲にして、仕事と育児とのバランスをとっているのだとすると、それもまたもったいないですね。

キャリアや研究、専門性を同時には追えないから、育児の方を選ぶ、という人が今はまだ多いと思います。医師としてのキャリアも家庭での時間も大切にできる労働環境を作ることが必要です。

——その解決のためには一つの病院に医師を集める集約化などが必要で、受診する側も不便さを受け入れなければならないと思いますが、どう思いますか?

難しい質問です。お産も近くで産むことが叶わなくなっています。患者にこうした不便をかけないためには、やはり医師の定数を増やすことが必要だと思います。OECDのデータでは、人口1000人あたりの日本の医師数は2.5人で他の先進諸国に比べ非常に少ないです。

男女は同数、医師の仲間も女性が50%で当たり前だと思ってほしい

——ちなみに先生は1967年に医師になりましたが、差別はありましたか?

私の学年はそれでも女性が多くて医学部生80数人中10人女性がいました。でも、私の一つ上の学年は2人しかいませんでした。高校の同級生は医学部に進む女性は少なく、高校3年で「就職クラス」ができた時も圧倒的に女性が多かったのです。

——医師になってからの働き方はどうでしたか?

夫も医師で、私は民間の病院で40年弱働きましたが、子育ては親に頼りました。毎朝、実家に子どもを預けて、仕事をして、仕事が終わったら実家に帰って夕飯を一緒に食べて自宅に帰るという生活を続けていました。

産婦人科でしたが、大学から若い先生が当直のアルバイトに来るので滅多に当直はしませんでした。院長やアルバイトができない時だけ私がやりましたが、そういう時は子連れで行きました。その間は院長夫人や看護師さんが子どもをみてくれていたのです。

今思えば、本当はこんな働き方も差別の中に入りますよね。

——夫は子育てをやっていましたか?

ゼロですね。そうするしかない働き方をしていました。私が朝ご飯やお弁当を作っている間、洗濯をやってくれていたぐらいですね。

——両親の助けを借りつつ、育児は女性である先生が引き受けるという形だったわけですが、その頃と比べると女性医師の働き方は改善されていますか?

条件的には良くなっていますね。男女平等に意識が向いている人も今の方が増えているとは思います。ただ昔ながらの意識の人もまだ相当残っていると感じています。だからそれを変えていきたいのです。

——今回、男女の合格率で女子が上回ったことは、女子学生を励ます結果だと思います。若い医師たちにどういう言葉を送りたいですか?

人口が女性が50%なのですから、医者の仲間も女性が50%で当たり前だと思うのです。それを当たり前だと思ってほしい。

そのために、まだ入学試験でも差別は残っていると思いますので、科目ごとの男女別の成績の公表を求めていきます。

ただそこだけにこだわっていても世の中は変わりません。男女共に仕事も大事にできるし、生活も大事にできる働き方を実現していきたいです。

齋藤みち子(さいとう・みちこ)】全国保険医団体連合会副会長・女性部会長、産婦人科医

1966年、名古屋大学医学部卒業。同大学で1年のインターンを経て、67年11月に医師国家試験に合格。健康文化会小豆沢病院、佐々木研究所杏雲堂病院婦人科、堀尾安城病院(副院長)を経て、現在、国際セントラルクリニック、愛知婦人科細胞研究所で勤務。

産婦人科専門医、細胞診専門医。