子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。
日本では女子のみが適用となり、公費でうてる定期接種も小学校6年生から高校1年の女子が対象となっている。しかし、HPVは男性もかかる中咽頭がんなどの原因となることでも知られている。
海外では男子接種も広がっているが、HPVワクチン「ガーダシル」を製造販売しているMSD株式会社(東京都千代田区)が日本で初めて、従来は認められていなかった男子への適用拡大を厚生労働省に承認申請したことがわかった。
4価ワクチンを男子にも適用申請
HPVには200種類ほど型があるとされている。性交経験があれば、8割の人が感染しているありふれたウイルスだ。
MSDが製造販売しているのは、HPVの中でも特にがんになりやすい「16型」「18型」、性器にできる良性のいぼである「尖圭コンジローマ」の原因となる「6型」「11型」の計4種類を防ぐ4価ワクチン「ガーダシル」だ。子宮頸がんの6割程度を防ぐとされている。
このワクチンについて、MSDは男子にも適用を拡大するよう承認申請した。
HPVは中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなど男性のかかるがんにも関わることがわかっており、異性間・同性間問わず性的接触でうつしあう。男子接種の導入を求める声が国内でもあがっていた。
北海道大学大学院生殖・発達医学分野の特任講師のシャロン・ハンリー氏のデータによると、世界では77か国が男子接種を承認し、24か国で公費接種も行われている。
一方、MSDは今回の適用拡大申請について、メディアに広報しないなど「情報は非開示にする」としている。この理由について、MSD広報担当者は、「混乱を招くから。情報の非開示がHPV感染の予防にとって良いと判断した」と話している。
日本で承認されているHPVワクチンは他に、グラクソ・スミスクライン社のサーバリックス(16型、18型の感染を予防する2価ワクチン)があるが、こちらは男子接種への拡大は今のところ考えていないという。
安全性が証明されるも日本では接種率が激減
日本で新たに子宮頸がんになる人は毎年1万人おり、約3000人が亡くなっているにも関わらず、接種率は低い。
HPVワクチンをめぐっては、接種直後に体調不良を訴える声が相次ぎ、国は2013年4月に公費でうてる定期接種にしたわずか2ヶ月後に個別にお知らせを送る「積極的勧奨」を差し控えるよう自治体に通知した。
その影響もあり、接種率は約70%から1%未満に激減している。
被害を訴える人から国や製薬会社を相手取った損害賠償請求訴訟も起こされているが、接種した女子とそうでない女子とで現れる症状に差がない名古屋スタディなど国内外の調査で安全性が示されている。
世界では男子や低所得国も含めて定期接種になっている国が増えてHPVワクチン不足となっており、ほとんどうたれずに余っている日本への医療ツーリズムも盛んに行われてきた。
9価ワクチンも承認審議へ
MSDは2015年7月に、9つのHPV型への感染を防ぐ「9価ワクチン」(6、11、16、18、31、33、45、52、58)の承認を申請しており、厚労省は4月中に薬事・食品衛生審議会医薬品部会を開き承認の審議に入る。
世界では少なくとも71か国で承認されており、先進国では9価ワクチンが主流となりつつある。