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新型コロナワクチンとHPVワクチン、どちらを優先すべき? 高校1年生のお母さんの疑問に答えます

高校1年の女子がHPVワクチンを3回とも無料でうつなら通常は今月まで、遅くとも11月までに1回目をうつ必要があります。しかし、コロナワクチンとの兼ね合いはどうしたらいいのでしょうか?

子宮頸がんや肛門がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

日本では小学校6年生から高校1年生の女子は全3回が無料でうてる定期接種となっていますが、1回目から3回目まで通常は6ヶ月以上、短くても4ヶ月以上の間を開けなければなりません。

つまり、今年度がラストチャンスの高校1年生は今月中に1回目、遅くとも11月までに1回目をうちはじめないと3回とも無料で受けることができなくなります。

早い自治体ではそろそろ10代も新型コロナワクチンをうてるようになってきて、高校1年生の娘がいるお母さんからこんな質問が寄せられました。

「このコロナ禍で新型コロナワクチンとHPVワクチン、どちらを優先したらいいの? どんなスケジュールでうてばいいの?」

そこでBuzzFeed Japan MedicalはHPVワクチンや新型コロナウイルスについて正確な情報を広める活動をしている「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」副代表で、「こびナビ」副代表の医師、木下喬弘さんに聞きました。

高校1年生は11月までに1回目のHPVワクチン接種を

ーー高校1年生の娘さんがいるお母さんから、最近の報道を見て、「やはりHPVワクチンをうとうと思う」と嬉しい言葉をいただきました。ところがコロナワクチンもそろそろうてそうなので、どうしたらいいかとの問い合わせもいただきました。どういうスケジュールで接種すべきだと思いますか?

HPVワクチンに関して重要なことは、3回無料期間にうち終わることです。今、定期接種になっているガーダシル(4価ワクチン)、サーバリックス (※ 2価ワクチン)は共に1回目と3回目の間に6ヶ月空けなければいけません。

※サーバリックスは現在、出荷調整がかかっているため、これから新たにうつことはできなくなっている。

しかし、止むを得ない事情がある場合は、短縮コースでガーダシルでは4ヶ月以上、サーバリックス では5ヶ月以上を空ければうてることになります。

ーーこれからうち始める人はガーダシルしかうてませんから、最低でも11月にはうち始めないと、高校1年生である来年3月までに3回目をうち終えることができませんね。

その期間にちゃんとうち終えることが必要だと思います。

CDCは同時接種OKと声明 決め手はもう一つのワクチンに緊急度が高いかどうか

ただし、期限は関係なく考えて、医学的にどちらを優先すべきかと言えば、これは確実にコロナワクチンです。

アメリカのCDC(疾病管理予防センター)は今、新型コロナワクチンと他のワクチンを同時接種してもいいと言っています。

ーー日本の厚生労働省は原則、同時接種はできないとしていて、2週間以上ワクチン同士の間を空けるようにと言っていますね。

そうなんです。CDCも同じでしたが、数ヶ月前に同時接種OKと変わりました。

ーーどんなワクチンでもですか? 生ワクチンでもでしょうか?

生ワクチンでもHPVワクチンのようなアジュバント(効果を高めるための補助剤)ワクチンでもコロナワクチンとの同時接種がOKとなりました。

ーー同時接種しても特に問題はないということが明らかになったのでしょうか?

そのあたりは微妙で、有害事象(因果関係は関係なくワクチン接種後に発生したあらゆる望ましくない反応)が同時接種で増えるかどうかは明らかではないと書かれています。

※CDCの文書では、他のワクチンと同時接種した新型コロナワクチンのデータはないが、これまでの別のワクチンの同時接種の経験では単独接種と同時接種の反応は一般的に似たようなものであったと書かれている。

ーーデータはないけれども、新型コロナにかかるリスクを考えると、遅れるよりは同時接種であっても早くうった方がいいという書きぶりですね。

そうですね。予防接種は遅らせるなとアメリカでは言っています。最初にこの同時接種の推奨が出た時に強調されていたのは、流行している感染症のワクチンは早くうてということです。14日間も空けなくていいと書かれていました。

それまではCDCもワクチンとワクチンの間隔は14日空けましょうと言っていました。それが、今流行している感染症に対しては、ワクチンの期間を空けるよりも早くうつ方が大事だから同時にうってもいいとなりました。

ーーもし今、インフルエンザや麻疹が流行っていることがあったら、同時でもいいからさっさとうった方がいいよということですね。

そうです。2週間待てないほどの緊急性があるものはうった方がいいという推奨の仕方です。

とすると、HPVワクチンは2週間の間に感染する緊急性の高い感染症のワクチンではないですね。なので、定期接種の期限を考慮しなければ、医学的には待ってもいいと言えば待ってもいいのです。

ーーただ、3回目を無料でうてなくなる時期の人なら、まずHPVワクチンを優先しようということですね。

そうですね。コロナワクチン接種の目処が立っていない人は、とりあえず今HPVワクチンの1回目をうった方がいいと思います。

同時接種して副反応が強く出る可能性は?

ーー厚労省は今も2週間空けろと書いています。万が一、接種後に何か起きた場合の国からの補償を考えると、CDCの推奨とは別に、厚労省の提示している方針を守った方がいいのでしょうか?

一応、国の方針に従うことは大事だと思います。同時にうった方がいいというCDCは、今、危機が迫っている感染症は接種を優先しましょうと言っているだけで、HPVワクチンは本質的にそういう感染症ではない。国のルールに従った方がいいと思います。

ーーそもそも同時にうたない方がいいのは、相互作用で副反応が強くなるからですか? それとも何か起きた場合、どちらの副反応かわかりにくくなるからですか?

一応、HPVワクチンはアジュバント(効果を高めるための補助剤)が入っています。生ワクチン以外のワクチンは、基本的に反応を強めるためのアジュバントが入っていることが多いですが、今回のコロナウイルスに使われているmRNAワクチンはmRNAそのものがアジュバントのような役割を果たします。

同時にうったら「ダブルアジュバント」じゃないかという懸念はあるのでしょう。害であるという明確な根拠があるわけではないですが、免疫反応を体内に引き起こす二つのワクチンを同時にうつことになるのは事実です。

だから慎重な日本のワクチン行政の立場では、「一応やめておきましょう」と考えるのでしょうね。

しかし、現実的に今、乳幼児のワクチンでもたくさん同時接種が認められています。だからおそらく何も起こらないのですよ。

ーー起こらないだろうけれど、念のため、ということですね。

そうですね。

ーーすごく悪い可能性を考えるとすると、別の作用の仕方で免疫反応を引き起こすワクチンを同時にうつと、免疫が暴走して体に悪さをする可能性も否定しきれないということですかね。

そうですね。例えば心筋炎が増えるとか、そういう可能性もゼロかというと、否定するのは難しいです。

現実的な接種スケジュールは?

ーーコロナワクチンの接種券が届いていて、高校1年生が11月にうちたいと思った場合、どのようにうつべきですか?

コロナワクチンのスケジュールに合わせて、互いのワクチン接種を2週間離しながら、HPVワクチン接種も間にできると思います。

ーーその兼ね合いを考えながら、どっちも早めにうった方がいいということですね。

おっしゃる通りですね。

ーー高校1年生は差し迫ったスケジュールですが、それ以外の学年のお子さんはまずはコロナワクチンですかね。

そうですね。今、コロナワクチンの予定が立つのだったら、高校生も中学生もコロナワクチンを優先したらいい。

でもコロナワクチンのスケジュールがいつになるかわからず、接種券は届いても予約は取れない状況なら、とりあえずHPVワクチンの1回目をうち始める。そしてコロナワクチンの予定をその間に入れる方がいいと思います。

HPVワクチンの期間は少しずれたとしても医学的な効果はそれほど問題にはなりません。コロナワクチンの接種スケジュールに合わせて、少しフレキシブルに接種しても大丈夫だと思います。

ーー接種するお医者さんに相談しながらでしょうか。

「途中でコロナワクチンもうつので2週間空けようと思います」などと相談したら、HPVワクチンは少しずらしても大丈夫だと言われると思います。

基本的にワクチンの間隔はあまり詰めない方がいいです。新型コロナワクチンもファイザーで3週間、モデルナで4週間開けるのですが、もっと間を空けた方が効果がある可能性もあるぐらいです。

HPVワクチンは1回目から3回目は標準で6ヶ月、短縮バージョンで4ヶ月の間隔を開けるワクチンですが、これを2ヶ月ぐらいに縮めると良くないと思います。

ーー万が一間に合わなくて3回目を自費でやるにしても2回無料になればいいですよね。

3回とも自腹よりもだいぶんマシですよね。

ーーもしどちらかのワクチンで副反応が強く出た場合は、どう対処すべきだと思いますか?

例えばHPVワクチンでアナフィラキシーが出た場合、HPVワクチンはもう接種できませんが、コロナワクチンの接種を続けてもらうことは問題ありません。

逆に、コロナワクチンで心筋炎が出たとしても、原則的にHPVワクチンを控えてもらう必要はないです。ただし、個別の判断が必要な場合がありますので、接種を受けた医療機関でよく相談していただくことが大切です。

※自治体によっては、新型コロナ流行の影響を踏まえてワクチンの定期接種の期間を延ばしているところがあります。お住まいの自治体でワクチン接種のスケジュールを確かめてください。

【木下喬弘(きのした・たかひろ)】こびナビ副代表、みんパピ副代表

2010年、大阪大学医学部卒業。大阪の救命センターで約10年の臨床経験を積み、2019年にハーバード公衆衛生大学院に留学。卒業後にHPVワクチン(「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」)やコロナワクチン(「こびナビ」)に関する非営利組織を立ち上げ、医学論文や各国の推奨を元にした情報提供をしている。