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新型コロナ感染者数の増加は第7波の始まりか? 世界で緩和策が進む中、日本はどんな選択をするのか

新型コロナの感染者が増加に転じ、第7波の始まりかと言われています。世界中で対策緩和が進む中、日本はどのように対処するべきでしょうか? 公衆衛生の専門家に聞きました。

全国的に新型コロナウイルスの感染者が徐々に増えており、リバウンドが始まったと言われています。

これは第7波の始まりなのでしょうか?

もしそうなら、私たちはどんな対策を取ればいいのでしょうか?

世界各国でコロナと共に生きる対策緩和が進む今、日本はどういう道を選ぶのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんと考えます。

ワクチン接種が次の波の重さを決める

——全国的に新規感染者の数が増えていますが、これは第7波に突入していると考えていいのでしょうか?

その可能性はあります。

リバウンドしている要因としては、30〜40代などの活発な成人の年代の感染者が増えつつあります。

また、BA.5というオミクロンの新しい亜系統が増えてきています。国立感染症研究所の推定だと、日本では7月1週で24%がBA.5になっています。

BA.5はこれまで以上にワクチンの効果を減弱することがわかっていて、ワクチンをうっていても発症します。「ワクチンをうったから大丈夫」と思っている人でも感染します。

重症度が増しているという報告はまだないのですが、高齢者に感染が波及した場合には、これまでのオミクロンと同様に重症や死亡に至る方がでるほどの病原性は残っています。

このBA.5の割合が今後増えることで、感染拡大が更に進むと考えられます。

夏休みに入って接触機会が増えてくると、新規感染者数は上昇し、お盆のあたりにはもしかしたら第6波よりも大きい波になる可能性もあります。

次の流行の大きさは、成人がどの程度3回目のワクチンを済ませているか、高齢者の4回目が7〜8月に進むのかにかかっています。それによって、波の高さや重症者の多さは変わってきます。

一番困るのは急激な増加です。今年の1月〜2月は2日で感染者数が倍になるような、指数関数的な増え方をしていました。あのように急激に増加すると医療も社会も困ります。増えるにしてもなるべく、なだらかな増え方にしたい。そしてピークもできるだけ低くしたい。一方で社会経済への影響は最小限にしたい。

そうしたなかで、今後再び感染拡大した際に市民の皆さんにどういう行動を求めていくのか、考えていかなければならない時期にあります。

オミクロンの重症度を考えると、今までのような厳しい対策は社会的にも受け入れられないかもしれません。しかし、対策を行わない場合の影響からも目をそむけてはならない。これまでもそうでしたが、さらに難しい応用問題になっています。

症状のある人が「うつさない」を最優先に

——これまでのように、飲食店の制限などはやらないことも考えられるのでしょうか?

それは今の段階での対策ですか? それとも急激に増えてきた時の対策ですか?

——まずは今、増え始めた段階ではどう考えるでしょう。

今の段階で大事なのは、今までやってきた対策の中で、何を継続して、何を止めるのかを見極めることです。

公共の場面での環境のアルコール消毒を接触感染対策として行うことについては、ワクチンも行き渡っているし、病気の重症度も下がっていることなどを考えると辞められる部分もあります。

ワクチンがでるまでは感染した場合のインパクトが大きかったので、「うつらないようにしましょう」「そしてうつさないようにしましょう」という2本立ての声かけをしてきました。

でもここからは、まず「症状のある人がうつさないようにしましょう」ということを強めに言い、その上で「自分を守るためにうつらないようにしましょう」といいう重みづけに変わってきています。

今、重要なのは、「症状のある人が、他の人にうつさないこと」です。

オミクロンの特徴としてまだ伝わっていないのは、「熱・喉の痛み・咳」が主な症状なのですが、熱のない人がかなりたくさんいるということです。しかもワクチンを接種していると軽い症状です。

「熱がないから大丈夫」とは言えません。「熱、喉の痛み、咳」のいずれか一つでもあれば、他の人に会わないようにしてほしい。症状に気づく前からうつしている場合もあるのですが、症状があれば自分でも危ないとわかります。症状があったら人と会わないことを徹底することが大事です。

家庭の中でも症状がある人がいれば、距離を開けてもらって家族の中で広げないようにしましょう。

症状がない人に関しては、公共の屋内でマスクの装着を継続してもらうことが大事です。

急激に増えた場合、感染拡大を許すのか?

——さらに増えてきて、東京だけでも新規感染者数が1日万単位になってきた場合は、どんな対策を打つべきだと思いますか?対策緩和が叫ばれていますが、感染状況が悪化すれば飲食店制限なども考えられますか?

ゴールデンウィークの前に専門家分科会で、対策の4つの考え方を提示していました。

  • 社会経済活動を制限し、感染者を減らすことに重点を置く考え方
  • なるべく社会経済活動に制限を加えず、社会活動の維持に重点を置く考え方
  • 可能な限り医療機関や宿泊療養施設での隔離を行う考え方
  • 入院が必要でない限り、地域の医療機関や在宅での診療を優先する考え方


「ウィズコロナ」のようにコロナと共存する選択肢も示されたわけです。

5月、6月はまさにそうして、あまり感染者も多くなく乗り越えてきました。

ただ、急激に増えた状況でも「ウィズコロナ」を選ぶのか問い直すと、社会の中でまだ合意はできていません。

最近は感染者がある程度収まっているので、「もうコロナは終わりだろう?」と思っている人も多いのかもしれません。

日本は海外と比べて感染者はかなり少ない方なので、ワクチンを接種したとしても感染し得る人がいて、それなりに大きな波を作る可能性が残っています。

これまで感染者を抑え込んできたが故に、オミクロン登場で急激な感染者増加を経験したのが、韓国や台湾や香港です。それぞれが大きな流行の後に免疫を持ち、今は少し落ち着いています。しかしそこまでの波の中で数多くの死者を出して、大変な思いをしてきました。

日本はまだそのような状態にはなっていません。感染者が増えたとしても「もう厳しい対策はやらない」という方向に舵を切った場合には、亡くなる方や医療の逼迫は1月、2月と同じような状況か、それを超えるレベルになる可能性があります。

そういう事実を踏まえて、政治や市民はどんな対策をとるのか、今話し合っておかなければいけません。

急激に増えた場合の対策の議論を急げ

——感染対策には感染者を抑え込むプラス面と、社会経済活動が制限されるマイナス面があって、両者のバランスをどう取るかはまだ日本では決まっていないですね。

これから急激に増えていくとして、その時にどんな手を打つかははっきりと決まっていません。しかし、国民がそれぞれの選択肢を取った時にどう思うかは考えておいたほうがいい。

何も材料なしで考えましょう、ということではなく、こういう状況が起こる可能性があるけれど、どう考えますか?と先を見通した上で考えてほしいのですね。もちろん市民だけでなく、政府も専門家も考えなければいけません。

大事なのは自分の身は自分で守るということです。

自分は感染したくない、重症化したくないと思えば、感染リスクの高いところにはなるべく行かないようにし、3回目接種がまだの人はうつ、4回目の機会がある人はうつ。それが自分でできる対策です。

その上で、社会的に感染を抑えるための制限としては、法律に基づいたまん延防止等重点措置などがあります。

全体への制限をやるかやらないか決める時に、やらないのであればこういうリスクがあると知った上で選択した方がいい。やると決める場合も経済の問題など副次的な打撃があることも考えて、最後は政府が決める。

その議論を、そろそろ急がなければいけません。

夏休みの旅行、症状と飲食の場面は気をつけて

——選挙が終わって次の週末は3連休ですし、夏休みも始まります。夏の旅行はどうでしょうか?

旅行・出張はいくつかのパターンがあって、家族単位や一人で観光地を回って帰ってくるだけなら、飲食の場面だけ気をつけたらいい。混雑した時間を避けるなどです。移動自体、それほど感染リスクが高いわけではありません。

感染を広げるリスクが高めなのは、地元に帰って友達や親戚と会食や飲み会をすることです。大勢で集まったり、毎日のように会ったりすると、これは要注意です。

旅行に行く前に、念の為、検査を受けて陰性を確認しておいてもいいのではないかと思います。でもわれわれの調査でもこれまでに実際に症状がないのに検査を受けたことのある人は2から3割ぐらいです。実際には陰性確認のために検査する人はあまり多くない印象です。

まずは体調をきちんとみて、症状があったら行かないことが一番です。今までも、帰省をするといろいろな人に感染が広がることはわかっています。

ただ、お盆でもそうですが、一度チケットを買うとキャンセルするのがもったいなくて、無理して行ってしまうことがありますね。それはやめてください。

——これまでと言っていることは同じなんですよね。

基本的な対策は同じです。でも、ワクチンも広まっているし、病気の重症化リスクも下がってきているので、昨年の夏休みと全く同じ状況ではありません。必要な対策はきちんと抑えつつ、夏休みも楽しんでほしいと思います。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授

Youtubeでも情報発信中。

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。