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間もなく新学期 夏休みは延長しなくていいの? 検査はどう利用すべき? 公衆衛生の専門家が考える学校のコロナ対策

コロナの感染拡大が続く中、学校は間もなく新学期を迎えます。一斉休校は必要なのか。検査はどう利用すべきなのか。先生の対策は? 子供たちを守るための学校での感染対策について、公衆衛生の専門家に聞きました。

全国的に新型コロナの感染拡大が続く中、学校は間もなく新学期を迎えます。

一斉休校は必要?

検査はどう使う?

先生の対策は?

感染力の強いデルタ株が猛威を振るう中、子供たちを守るために学校での感染対策はどうしたらいいのでしょうか。

BuzzFeed Japan Medicalは、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに聞いた。

※インタビューは8月26日夜、27日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

一斉休校、夏休み延長、必要?

ーー新学期を目前にして、「一斉休校」や「夏休み延長」の決定に踏み切る自治体もありますが、現在の感染状況で必要なのでしょうか?

地域の小中高校の一斉休校は必要ないと思います。それによって得られることは少ないと考えます。

しかし、そうは言ってもみなさん、特に親は不安になりますね。学校の対策も最近は少し緩んでいるのではないかと考えているのではないでしょうか。

たとえば、9月1日は水曜日ですが、水・木・金曜日は半日登校で様子をみる自治体もあるようです。でも、夏休みを3日や1週間延長したとしても地域の感染状況は変わりません。

地域の流行の主体は大人です。大人の活動が止まらない限りは、少しの期間、新学期の開始を遅らせたとしても感染が地域でさらに拡大し、さらに再開の判断が難しくなることもあるでしょう。

今、流行の火種は地方都市に移っています。お盆休みの影響で、今、地方が燃え上がっている状況です。1週間後にさらに感染状況が悪化したならば、「前より悪くなっているのだから休校は解除できない」ということにならないようにしたいです。

ーー親は子供の感染を心配していますが、休校になったら自分の仕事に影響があることも同時に心配しています。

はい。そうでしょうね。子供を守ることだけを目標として新型コロナウイルスの特徴を考慮しても、今の段階では地域の学校を一斉に休校するという状況ではないでしょう。もちろん、個別に学級閉鎖や学校単位の休業を否定しているわけではありません。

ーーこのウイルスの子供への感染力などを考えると、あまり有効な感染対策ではないということですか?

新型コロナウイルスは、20代から30代の若い年代が感染を広げ、そこからさらに上の中年の年代や子供たちに広がるのが特徴です。インフルエンザが主に10代以下で感染が広がり、そこから成人や高齢者に広がっていたのとは異なります。

この夏休みの間に、塾、スポーツ、幼稚園や保育園で多くの感染者が報告されました。ただし、大きな感染拡大には大人が関わっているのが特徴です。

なかなか休めない大人が新型コロナの症状があるのに仕事を続けたこと、代わりになる人がいないので休めない社会的な背景があることも要因として考えられます。

デルタ株は子供たちに感染しやすくなったか、ですが、確かに10歳代以下の感染者の数は増加しています。

18歳未満の感染者の割合の中で特にどこかの年代が特に増えているかを見ると、デルタ株の影響を考慮しても今のところは明らかではありません。

今のところ、地域での感染の拡大によって全体数が増加したことが子供の感染者の増加の原因として考えられています。子供の感染率がデルタ株が増えているかどうかはもう少しみなければなりません。

ただ、印象としては高校生や、密な環境の幼稚園保育園の子供同士の感染は以前よりは見られていますので感染対策は今まで以上にしっかりとやらないといけないでしょう。

また、親や地域での感染が広がったことで、幼稚園や保育園のお子さんから親に感染する事例は以前より増えています。

そうしたこともあって、新学期の再開を延期する議論が自治体で行われているのです。

児童生徒や教職員に感染者が出た場合のガイドライン

ーー文科省で「学校で児童生徒等や教職員の新型コロナウイルスの感染が確認された場合の対応ガイドライン」が公表されました。どう評価していますか?

主に、濃厚接触者の特定と休校の基準が盛り込まれています。

休校の基準は、「学級閉鎖」「学年閉鎖」「学校全体の臨時休業」と3つのレベルでの基準が挙げられています。地域の一斉休校については定めていません。

例えば学級閉鎖は、学級内で複数の感染者が判明した場合、感染者が一人でも風邪症状がある人が複数いる場合などで、5〜7日程度を目安に判断するように書いています。

運用はなかなか難しいです。やりながら考えるしかないですね。

今までは保健所の判断を仰いでいたのが、今は頼れなくなったのでこういう基準を示しています。ただ、一律にこれを運用するのは難しい。結局はどの程度の接触があったのかに左右されます。

一つ大事な注意点ですが、「検査をしない子は学校に来させない」という運用はやめていただきたいです。すぐに検査ができない状況もあります。親が同調圧力をかけるケースもあるようです。そこは養護教諭や担任の先生と一緒に考えてほしいところです。

何はともあれ、人間関係を崩さずに運用していくことが大事です。難しい判断をしながら乗り越えて、さらに厳しくなるであろう冬まで学校を開けていられるようにみんなで工夫しましょう。

学校での感染対策は基本を徹底 重要なのは大人の感染対策

ーー学校での感染対策として、何を考えたらいいですか?

まず、大事な順に、

  • 具合の悪い人(発熱、喉の痛み、咳など)はちゃんと休む
  • ワクチンをうてる人はうつ(12歳以上)
  • 不織布性マスクを使う(ウレタンは使わない)
  • お昼ご飯は黙食で
  • 接触の多い部活、合唱などは控える
  • 教室や狭いところの換気を十分に行う

などの基本を徹底することが大事です。先生もワクチンをうった人が増えてくると危機感が薄まりますが、子供たちはほとんどうてていません。だんだん緩んでいる対策をもう一度点検して、改めて徹底してください。

ーー部活はやめた方がいいのですか?

何をやるかによると思います。合唱は今はリスクが高いですね。運動部でも寮生活であったり、密な場面があるとリスクが高いです。どうもこれまでの事例をみていると、部活をしながら感染したというよりも、終わったあとに一緒に食事をしたなど、前後の人間関係の中で広がっている印象があります

苫小牧のアイスホッケーのチームが100人以上感染しています。こういうことがあると風当たりが強くなるのでそれぞれの部活で相当に気をつけることが重要です。

できれば感染リスクの高いものは一時的にでもやめていただきたいというのが正直なところですが、一方で部活によって人生が変わる方もいるので難しい。ただ、感染拡大期は一時的にはやめていただくことはお願いしたい。

ーー日本小児科学会と小児科医会は26日に「現在の新型コロナウイルス感染流行下での学校活動について」という提言を出し、家庭の経済的負担軽減のために無料で不織布マスクを配ることも考慮すべきだとしています。

そういうこともできるとなお良いです。企業や市民などが寄付してくださるなど応援していただけるといいですね。ウレタンマスクや布マスクは感染予防の効果が薄いので、学校ではそうしたマスクをつけてきた子供を頭ごなしに叱るのではなく、不織布マスクを渡してあげてください。

小学校低学年の場合は不織布マスクは苦しいかもしれません。つけられる子供だけでもつけてほしいです。

学校では、以下の4つの感染経路が考えられます。

  1. 大人(職員)同士
  2. 大人から子供
  3. 子供から大人
  4. 子供同士

新型コロナウイルスでは、通常は大人(職員)同士の感染が最も起こりやすいです。次に大人から子供への感染が多いと見られます。つまり、学校の感染対策で特に重要なのは、学校にいる大人の感染をどう防ぐかです。

担任の先生は、体調が悪いからといっても急に休むことが難しい。まずは、体調が悪ければ先生もすぐに休める体制にすることが何よりも重要になります。

学校の中で教師がお互いにカバーできるようにすること、それでも難しい場合には教育委員会などから人材を支援することも必要かもしれません。

ーーワクチン接種は、年齢順を守った方がいいということでしたね。

学校の先生は自治体で優先してうつようにしてほしいです。

子供のワクチン接種は現在12歳以上が対象ですが、重症化しやすい40歳から60歳の年代の接種が十分でないので、その年代の方が優先されます。しかし、接種できる機会があれば、親子で話し合って接種することは良いと思います。

抗原検査キット、どう使う?

ーー最近、政府は抗原検査の簡易キットを子供たちに使うことを打ち出しています。これはいつ、どんな時に使うことが想定されているのでしょう。80万回分用意するようですが、感染対策の効果はありそうですか?

8月25日に改定された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で書き込まれたようです。小学4年生以上の児童生徒が対象になっています。

ただよく読むと、

  • 基本的に発熱などの症状があるときは自宅での休養・医療機関の受診を原則にした上で(つまり学校にはでてこないようにして)
  • 直ちには医療機関を受診できない場合で
  • かつ速やかな帰宅が困難であるなどの事情のある児童生徒(小4以上)

という書き方になっています。実際にこの条件に当てはまる場合がどれくらいあるのかわかりませんが、極めて例外的なケースとして想定されているのかもしれません。

文科省は8月25日付けの事務連絡で中学校高校向けの検査のあり方について通知したところでしたが、基本的対処方針に抗原検査を使う方針が盛り込まれたため、子供たちを対象にした検査について、別途考え方を示すことにしているようです。

なかなか子供たちに対して学校で検査をするのは難しいと思います。親の同意などもどうするかなども課題ですね。

ーー陽性の場合、陰性の場合はどう対応すべきですか?

検査結果は4つの場合が考えられます。

  1. 症状があって陽性
  2. 症状があって陰性
  3. 症状がなくて陽性
  4. 症状がなくて陰性

です。それぞれどう対応するかを考えなくてはいけません。

症状があって陽性ならもちろん休みます。

症状があるのに陰性と出た場合は、検査の精度の問題もあるので、「陰性確認したので授業します」では困ります。受診してほしいですし、休んでほしい。

症状がないのに陽性となった場合は、偽陽性があるかもしれないので、PCR検査を追加すべきかもしれません。

症状がなくて陰性が一番多いと思いますが、それはその時だけは少し安心ということでしょう。

それぞれの対応をどうするのかは、管理者などで決める必要があります。どういうやり方がいいか、様々な意見を聞きながらみんなで決めた方がいい。

ーー検査結果によってどんな対応をするか、文科省は使い方やガイドラインで示さないのですか?

そうですね。示した方がよいと思います。または自治体で話し合うかでしょう。検査をいつ、どこでするのか。家でやるのか、保健室でやるのか。検査結果をどう使うかなどを考える必要がある。なかなか難しいかもしれないので、できるだけ学校医とも相談しながら進める必要があります。

ーー無症状の学校の先生に対してモニタリング検査をする方針も政府は打ち出しました。やるべきですか?

子供の感染は、大人が介在していると大きな集団感染になりやすいです。もともと大学生などで行っていたモニタリング検査の対象を広げるということでしょうか。できるだけ学校の先生にワクチン接種を進めることの方が優先度が高いと思います。

家庭内感染も防ぐ

ーー子供の場合、家庭内での感染もあり、そこから学校に持ち込むことも考えられますね。家庭での感染対策はどうしたらいいですか?

学校で職員や子供同士の感染が起きるのは新学期が始まって少ししてからでしょうね。むしろ新学期の最初に困るのは、「今、家で具合の悪い人がいるのだけど、子供の登校をどうしたらいいか」という問題だと思います。

周りの人は、具合の悪い家族が自宅待機を解除されてから14日間、様子を見なければなりません。子供だと約3週間など長期間学校に来られなくなります。

家庭において感染対策としてできることはたくさんあります。

家庭で感染が広まる場合、親が持ち込むことが多いです。会食うや会合への参加などは、仕事やお付き合いで断りづらいこともあるかもしれませんが、できるだけこうした機会を今は減らしていただきたい。

毎朝、家庭でお互いに、咳、咽頭痛、発熱、下痢などの症状がないかを確認します。少しでもあれば、今は数日休む方がいいです。

「前の晩に熱があったけど、朝起きたら下がっていた」という状況で出かける人がよくいるようですが、そうした症状は新型コロナでもよく見られます。ぜひ、その後数日は休んで症状の変化を確認してください。

児童・生徒や教員がこうした理由で休んだ場合、「あの人コロナじゃないの?」と噂したり、偏見の目で見ることのないようにしてください。

冬にどうなる?

ーーこれから秋、冬にかけて風邪やインフルエンザも出てくると思います。学校での新型コロナ対策、何を考えておくべきですか?

中長期でみると、新型コロナウイルスは冬に流行することが多いです。

この冬はワクチン接種が進んだとしても感染が拡大するかもしれませんし、昨年は流行しなかったインフルエンザの流行が戻ってくる可能性もあります。

一時的に対面とオンラインのハイブリッド授業や、オンライン授業に切り替えられるような準備も、今から行っておきたいです。

子供たちは私たちの宝です。家族、教員、そして地域が一体となって、できるだけ学びの機会を継続できるように協力しなければなりません。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。