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子どものワクチンどうする? 我が子にうつかどうか決める時、考えるべきこと

5〜11歳向けの新型コロナワクチンが承認され、3月にも接種が始まろうとしています。専門家はこの年代への必要性を認めるものの、どの程度の強さで勧めるべきかは意見が分かれています。我が子にうつかどうか決める時にどう考えたらいいのか、様々な専門家を取材しました。

5〜11歳の新型コロナワクチンが特例承認され、3月にも接種が始まろうとしています。

専門家で共通しているのは、この年代の子どもにワクチンは必要だということ。

ただ、どの程度の強さで勧めるべきかは、意見が分かれています。

我が子にうつかどうか決める時に何をどう考えたらいいのか。BuzzFeed Japan Medicalは様々な専門家に取材しました。

12歳以上に使うのとは別の製剤 効果は? 副反応は?

まず、5〜11歳で承認されたファイザー社製のワクチンについておさらいしておきましょう。

これは、12歳以上が使うワクチンとは別の製剤です。中に含まれている有効成分、mRNAの量は、12歳以上のワクチンの3分の1の量となり、接種量も、希釈の方法も違います。

日本小児科学会は、先にこの年代に接種している海外のデータから有効性や安全性について評価しました。この評価に基づいて、1月19日に緊急提言「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を出しています。

海外で行われた試験では、この年代の子どもの発症予防効果は90.7%と高い効果を示しました。ただ、最近流行が始まったオミクロンに対する効果はまだよくわかっていません。

CDC(米国疾病管理予防センター)の報告によると、2021年11月~12月にかけて5~11歳に約870万回のワクチンが接種され、4万2504人が接種後の健康調査(V-safe)に登録しました。

この調査では、2回接種後、注射をうったところの痛みや腫れなどの反応が57.5%に、発熱などの全身反応が40.9%に見られました。発熱は1回目接種後の7.9%に、2回目接種後の13.4%に確認されています。

日本の「副反応疑い報告制度」に当たり、医師でも患者でも自由に報告できるアメリカの「VAERS(予防接種安全性監視システム)」には、同じ期間、4249件の副反応疑い(有害事象※)報告がありました。

※ワクチンとの因果関係があるかどうかにかかわらず、接種後に起きた全ての問題のある出来事。

このうち97.6%(4149件)では重い症状は出ておらず、その多くは接種量や製剤の間違いで、無症状か軽症でした。重症だった100件の中で最も多かったのが発熱(29件)です。11件が心筋炎と確定しましたが、全員が回復しています。

アメリカでは、5~11歳は16~25歳と比べて接種後の副反応が出る割合が少なかったとも報告されています

以上の知見から、学会はまず、子どもを新型コロナから守るためには、周囲の成人へのワクチン接種が重要だと強調します。

そして子ども自身の接種については、持病(※)のある子どもに対して「重症化を防ぐことが期待されます」と評価します。

※慢性の呼吸不全、重度の神経学的障害を持つ子、チアノーゼがある先天性の心臓疾患、ダウン症、小児がんや、その治療のために免疫の力が落ちている子、重度の発達障害、肥満児、慢性の腎不全、肝臓障害、先天性の代謝疾患、コントロールの悪い糖尿病などが、主に想定されています。

ただし、ワクチンが体調に影響を与える恐れもあることから、「本人の健康状況をよく把握している主治医と養育者との間で、接種後の体調管理等を事前に相談することが望ましい」と注意を促します。

また健康な子どもへの接種についても、「12歳以上の健康な子どもへのワクチン接種と同様に意義があると考えています」と肯定しました。

こちらについては、「メリット(発症予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要です」と注意を呼びかけています。

なお、海外では、アメリカ、カナダ、イスラエルがこの年代の子ども全てに推奨し、フランス、ドイツなどは重症化リスクのある子どもなどに推奨を限定しています。

メリットとデメリットを比較する

まず押さえておきたいのは、多くの専門家が、この年代の子どもに対してコロナワクチンが有効で、必要だと認めていることです。ただ、大人と同じように、すべての人に強く推奨すべきワクチンなのかどうかは見解が分かれます。

ワクチンをうつかどうか考える時に基本となるのは、ワクチンを接種することによるメリットとデメリットを天秤にかけて、メリットの方が大きければうつことを検討するという考え方です。

大人と比べて、子どもは新型コロナウイルスに感染しても重症化するリスクが低いので、ワクチンによるメリットを大きく感じにくい問題があります。オミクロンが主流となってからは、全世代において重症化リスクが下がり、さらにこの比較が難しくなりました。

免疫学、ウイルス学が専門の医師で新型コロナワクチンについて情報発信する「こびナビ」副代表も務める峰宗太郎さんは、「考えるべきは、子どもでの新型コロナウイルスのリスクがどの程度あるか、ワクチン接種にはどれほどのリスクがあるかの比較になります」と言います。

「ワクチンの安全性については、世界的にもまだ実地のデータが先行していないので慎重になる必要はありますし、mRNAワクチンは子どもというより若年(成人の)男子で心筋炎になる人が比較的多いのは事実です。そこを恐れる人がいるのは当然ですし、まだ大規模に接種していない段階ですからなんらかの未知のリスクがあるかと問われれば否定できません。『超安全です』と言い切るのは不可能です」

では、子どもがコロナ感染した場合のリスクはどうでしょうか。

日本では、今まで子どもはあまり重症化していません。そもそも感染者数も少なかったですね。アメリカでは600人以上の子どもが亡くなっていますが、日本での10代の死亡は男性3人、女性1人で4人です。10歳未満では0です(いずれも2022年1月18日までのデータ)。死亡のリスクはゼロではないですが、その重大さをどう捉えるかです」

「体調以外の他のリスクもあります。例えばワクチンをうって熱が出る、だるくなるなどで、2〜3日学校を休まなくてはならないことがありますが、そういうリスクは人によって主観が入るので一律に比較できません。コロナに感染してもそういうリスクはあります」

そこで峰さんが提案するのは、「一つの考え方として極端なリスクで比較すること」です。

「コロナで死ぬリスクと、ワクチンで死ぬリスクを比較すると、ワクチンで死んでいる子どもはいないけれど、コロナで死んでいる子どもはいる。やはり推奨寄りに傾くかな、という印象です。子どもを診療しながら集団のデータをバランスよく見ている人でも、接種のほうに傾く、ぐらいが結論なのだと思います」

副反応を過大に評価していませんか?

小児科医でこびナビの代表を務める岡田玲緒奈さんは、ワクチンをうっていない子どもでの感染者数が増えている現状を心配します。

「少なくとも第6波の流行で子どもの感染者数はかつてない数になってきています。子どもの間で感染者の母数が大きくなれば、重症になる子どもは割合として小さいとしても絶対数として増えてくることが想定されます」

そして、オミクロンでは重症化のリスクが低下しているという報道が多い中、小児ではそれが当てはまらないかもしれない、というデータが海外から出てきたことにも注意を払います。

南アフリカから出たばかりのデータですが、若年者でむしろ入院率が高くなっているのではないかという報告もあります。デルタと比べ、0〜4歳は1.5倍程度、5〜17歳もデルタより入院率が高いというものです」

「まだデータは不足していますから、この報告だけをもって危険だというつもりはありません。しかしこれ一つ取っても、むしろ感染のリスク(感染しても大丈夫かどうか)は未知数であると感じます」

その上で、現状でのワクチン接種の利益と不利益についてはこう評価します。

「特に5〜11歳は他の年代よりも副反応の発生率が低いこともわかってきていますし、一番心配な心筋炎についてもかなり少なそうです。発熱も2回接種後に13%ぐらいで、他の年代よりも低い。親御さんが接種した時の感触で考えると、副反応への懸念が大きくなりすぎるかもしれません」

「確かに小児では高齢者や成人と比べたら重症化率がごく低いのは確実なので、ワクチン接種の利益がリスクを上回る差分は、成人に比べたら小さい。でも、利益の方がリスクより上回っているだろうという評価をしていますし、小児科学会の意図もそうだと読んでいます」

「接種するにせよしないにせよ、リスクの評価はある程度、個人の価値観によって揺らぎがあります。成人に比べると『絶対にうった方がいいよ』と勧めるのは難しいですが、前向きにうつことを考えてもいいワクチンです。中立的な情報提供をして、皆さんにそれぞれ判断していただくことが妥当なのかな、と思います」

その上で、岡田さんはあえて、「ワクチン接種のリスクを過大に見積もっていませんか?」と疑問を投げかけます。健康な子どもにうつワクチンでは、起きるかどうかわからない感染リスクよりも、自分で選択できる目の前のワクチン接種の副反応の方が大きく見えがちです。

「もちろんみながそうだと決めつけているわけではなく、『接種しようと思って当然だ』と言いたいわけでもなく、一人一人が自身に一度そのように問い直してみてもよいのではないか、ということです」

「『今はとりあえず情報を集めて検討したい』と言っている方の一部は、実は接種への漠然とした不安を元に、うたなくていい理由を探してさらに不安を募らせているのではないかと思うことがあります。ゼロベースで情報を集めているようで、実はマイナス側に寄って検討しているようなことがあるかもしれません」

「例えば発熱の副反応を心配しますが、コロナにかかっても熱ぐらいは出る。不意に感染して急に熱が出るのと、ワクチン接種後に日にちがわかって出るのとどちらがいいかという比較をすれば、また違った見え方になります」

「懸念点や問題点を具体的に切り分けることで、自分の不安解消にはどんな情報が必要かを考えることも大事なことです」

そのためには専門家も、大規模な調査で明らかになったデータを示すだけではなく、相手が生活の中で抱く心配な点などを聞き取りながら、一人の人間として向き合うアプローチが有効なことがあると言います。

岡田さんは、診察室での保護者との1対1での対話では、「僕は自分の子どもには早くうちたいですよ」と話すことがあります。5歳の長男とはワクチンについてよく話し合い、本人も「うちたい」と言っているそうです。

「ワクチンは保険だと思うのです。車の事故を起こせばたくさんお金を払わなければいけません。事故に伴う不確定なリスクに備えて、多くの人は保険料を支払う『リスク』を前もって背負っているわけです。『自分は絶対事故を起こさないから』と車の保険に入らない人もいるかもしれませんが…...」

「同じように、子どもがいつまでも感染を避けられるとは限らないし、感染したときにわずかな確率とはいえ重症化はゼロではない。ワクチンは、重症化に限らず感染に伴う様々なリスクを軽い方にシフトしてくれる可能性があります」

「後遺症も防ぐかもしれないし、同じ『軽症』でもワクチン接種している方が軽く済むかもしれない。これからの研究課題ですが、理論上はあり得ることです。感染はワクチン接種よりも雑多なことが起こり、未知の部分がより大きいと僕には感じられるので、大事な子どものためにあらゆるリスクを下げてあげたい。そんな気持ちを伝えることもあります」

小児科学会の理事たちは?

日本小児科学会の理事はどのように考えているのでしょうか? 学会内の議論も、積極的に勧めようという意見と、慎重に進めるべきだという意見が分かれたと言います。

小児感染症が専門で、学会の予防接種・感染症対策委員会担当理事を務める長崎大学小児科教授の森内浩幸さんは、慎重な言い方です。

「今のこのワクチンはメリットがデメリットを圧倒的に上回るようなものではなく、オミクロンになって感染予防効果は落ちてきている。集団免疫を作るために、より多くの人がうつべきだという同調圧力をかけるようなものでは現時点ではなくなっています」と強調しています。

そして、このように説明すると言います。

「この年代の子どもに対しては、あくまでもワクチンは重症化を抑えるために接種するという説明になります。『5歳から11歳は重症化しないんでしょ?』と言われたら、『稀でも重症化することはあるし、その可能性をさらに下げる意味では有用なんですよ』という説明しかできないでしょう」

「また『重症化しないまでも発症しなくて済むのなら、その方が良いですよね』ということでもあるかもしれません。メリット、デメリットを理解してもらった上で、接種を希望する人には速やかにうつし、接種する時のトラブルが起きないようにするだけです」

一方、やはり同委員会の担当理事で、小児感染症が専門の新潟大学小児科教授、齋藤昭彦さんは「私は積極的に勧めます」と言います。

この年代が感染した時のリスクについては、ほとんどは風邪のような軽い症状で済むのは間違いないとするものの、稀にある重症化や未知のリスクを懸念します。

「この年代のオミクロンによる感染がどの様な影響を子どもに与えるかは、まだほとんどデータがありません。国内では既に10例以上の報告のある川崎病に似た重い合併症である小児多系統炎症症候群の中央値は8歳ですから、この年齢層に感染が広がった場合に、起こる可能性もあります。」

「また、6歳までは熱性けいれんが起こり得る年齢層でもあります。他にもこの年代で患者数が増えると今後、何が起こるか不明です。これだけ感染者が広がる中、『子どもは軽いから大丈夫』と今の時点で言い切る自信はありません。これから国内での子どもの感染者について、データを集めていく必要があります」

ワクチン接種のリスクについては米国での870万人のデータを元に、「全般に副反応の発生率は他の年齢層と比べ、同等か低いですし、心配された心筋炎の頻度もゼロではないですが低い。許容される範囲の副反応の頻度」と評価します。

「オミクロンへの予防効果は不確かなところがありますが、流行は明らかにワクチンを接種していない年齢層にシフトしています。予防する手段があるならば、積極的に接種する方がいい」

「また、今後、どの様な変異ウイルスに置き換わっていくのか誰も答えを持ち合わせていません。もし、重症化する変異ウイルスが出てきて、ワクチンの効果があることが証明された場合、『あの時、やれることがあったのに』と後悔したくないです」

齋藤さんの長男はこの年代にあてはまりますが、親子で話し合って接種することを決めています。また10代の長女は既に接種を終えています。

「起こり得る合併症や後遺症を防ぐ効果はもちろんですが、子ども同士のオミクロンに対する一定の感染予防効果にも期待しています」

「学校で子どもたちは毎日感染対策を頑張りながら、冷や冷やしながら生活していて、それでも、学級閉鎖の報告が相次いでいます。学校の活動を継続していくためにもワクチン接種がプラスになることを願っています」

子どもの場合は接種する行為に伴うリスクも考慮を

小児科医で感染症や予防接種を専門とし、政府の専門家分科会構成員も務める岡部信彦さんは「子どもに対するワクチンはあった方がいい」と強調します。

それでも、「努力義務を課して、全員がほぼマストに近い形でやる麻疹や風疹ワクチン、四種混合ワクチンなどと同じように、接種率90数%を目指して急いでやるのは、ちょっと疑問がある」と急いで接種を進めることには慎重な姿勢を見せます。

「感染による重症化のリスクだけでなく、学校を休んで教育を受けられないリスクもあるので、その解消も考えて接種できるようにしておいた方がいいとは思います。ただアメリカのような感染状況と今の日本の状況は違う。今の日本は、よりリスクの高い高齢者、基礎疾患のある人の接種を早く進める時期でもあります」

さらに、子どもの場合は、接種する行為でのリスクも考慮に入れる必要があると言います。

WHOはワクチンの成分そのものでなくても、予防接種のストレスが引き起こす反応「Immunization stress related responses(予防接種ストレス関連反応)」があると提唱しており、周りの影響を受けやすい子どもや思春期年齢の反応にも注意が必要です。

「集団接種であれば、子どもだけでなく親やきょうだいも来て混み合いますし、大人と違って泣きわめく子も出てきます。子どもの納得ももちろんですが、大人への説明もしなくてはいけない。できるだけ落ち着いて接種できるような状況を作ることが必要です」

「急性の副反応はむしろ大人よりも低いかもしれないという海外のデータも出ていますが、接種をするという行為に伴っていろいろな反応が出てくる可能性もあります。一気にではなく、落ち着いて接種する土壌を作る必要がある、というのが学会、医会が出した声明です。私も全くそれと同じ意見です」

日本小児科医会の提言では、この接種環境を整える必要性をかなり強調しています。

重症患者診ている医師 「個人には丁寧なコミュニケーションをしたうえで接種を勧める」

実際に重症の子どもを診ている医師はワクチンに対してどんな思いを抱いているのでしょうか?

あいち小児医療保健総合センター総合診療科医長の伊藤健太さんは、社会的な入院も含めると第5波で数十人、第6波に入ってからは5〜6人の子どものコロナの入院患者を仲間と共に診てきました。

重い合併症である多系統炎症性症候群になって集中治療室で治療した子どもも2人出ました。

「必ずしも持病のある子どもだけが重症化するわけでなく、健康な子どもも重症化しています。多系統炎症性症候群の子どももコロナでは無症状で、1ヶ月後ぐらいに危険な状態になりました。ただみんな回復はしています」

「現在、子どもの感染者は増えており、おそらく、これから重症患者も増えてくることが考えられます」

アメリカでは12歳以上のワクチン接種で、多系統炎症性症候群も含めた重症化リスクが下がったというデータが出ています。

「日本では5〜11歳は未接種で無防備な状態でオミクロンの流行に突入しています。感染者が増加すれば、頻度はわかりませんが、必ず重症者は増えていくと思います」

今回、承認された子ども用のコロナワクチンの治験データでは、その子どもの感染予防効果が90%でした。ただしオミクロン株への効果や、日本でのデータは不明です。

一方でワクチンで免疫を獲得した人が増えることで、例えば高齢者や成人など他の集団の感染者が減る「集団免疫効果」について示されたデータはまだ評価されていません。

伊藤さんは「現状では『日常を取り戻すために、子どもたちにもワクチンを』と、社会の問題を子どもに押し付けるような説明がされるのはいささか乱暴だと思います。私は個人の重症化を防ぐワクチンとして家族・子どもに説明することになるでしょう」と話します。

「例えば、インフルエンザでも集中治療室に入ってくるのは軒並みワクチンを接種していない子どもばかりです。『ワクチンをうっていればこんな怖い思いをしなくて済んだのに』と思います」

「一方、インフルワクチンの発症予防効果はおおむね6割です。オミクロンについてコロナワクチンの効果が落ちたとしても7割程度といわれており、インフルワクチンと同じくらいです」

「インフルワクチンを『かかるかもしれないけれど、重症化リスクを抑えられます。集中治療室に入る可能性を低くできます』と勧めるように、コロナについても副反応のリスクを説明した上で『あなたを守るためのワクチンなのだ』と説明すると思います」

短期的な副反応を見ると、コロナのワクチンは5〜11歳の子どもに対してすごくリスクが高いものではないと伊藤さんは考えています。

ただ、コロナワクチンを勧めるうえで、子どもの権利擁護(アドボカシー)を忘れてはいけないと釘を刺します。

「小児科医はみんな同じだと思いますが、コロナの流行で大人の社会をうまく動かすために子どもは割りを食い過ぎています。黙食をずっと続け、休校・休園もいきなりどこかから指示されて、子どもは振り回されています」

「そんな子どもたちを見続け、今の日本のコロナの重症度との兼ね合いを考えると、ワクチンをどういう風に勧めるかは本当にデリケートに考えなければいけません。少なくとも『大人がかかると大変だから子どももうとう』という議論が前面にでることは子どもの権利が無視されることになります」

「一人一人の小児科医が、接種前に家族・子どもに個人予防の効果・副反応をしっかり説明し、接種時、接種後にも十分にケアをすることが何よりも重要だと思います」

26日の予防接種・ワクチン分科会で議論

1月26日に厚労省の予防接種・ワクチン分科会で、5〜11歳のコロナワクチンの推奨について議論されます。

論点の一つは、子どもに予防接種を受けさせるよう必要な措置を講じる「努力義務」を保護者に課すかどうかです。日本では妊婦に対しては努力義務を外しています。



分科会会長の国立感染症研究所の脇田隆字所長は、「『努力義務』という言葉の響きが接種の義務のように捉えられがちなので、もう一度、しっかり議論していく」と話します。

「子どもは若いので、その後も長く続く人生がありますが、感染したら後遺症の問題もあります。予防接種による感染を防ぐベネフィット(利益)と副反応のリスクなどの判断材料を十分に情報共有して、本人と保護者のみなさまによく検討して判断していただく体制が大事と考えます。『努力義務』という言葉の問題は予防接種・ワクチン分科会でもしっかり議論したいと思います」

前述したウイルス学の専門家、峰宗太郎さんは、専門家で意見が分かれることについて「それぞれが見ている視点や風景で、考え方が違ってくる」と語ります。

「個人は集団免疫を達成することを第一に考えてワクチンをうつわけではありません。ワクチンの第一儀は自分を守ることです。子どもの医療の現場に立っている医療者としたら当然の考え方ですし、目の前の子ども自身の利益を最大化することを考えられない医者はダメだと思います」

「一方で公衆衛生の専門家は集団論で考えます。多くの方が免疫を持った方が結局は個人を守れるという発想です。多くの人に接種してもらって、流行を抑えるというのは理論的に正しい。現場の感覚を置いておいて、純粋に数学的に理論的に考えるとそうなります」

「集団論は公衆衛生学のパターナリスティック(父権主義的)な面が出て、集団を守るために個人に犠牲を強いることがあります。感染症学や公衆衛生学は、個人の権利の制限、選択を暗に押し付ける形になりがちですが、これに無自覚な医療従事者が多いのは確かに事実です」

「丁寧な議論をせずに『とにかくうて』となったら、それは医療者や行政等による暴力です。バランスの取れた議論が必要だし、子どものワクチンについても色々な人の意見を丁寧に聞くべきだと思います」