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「3日間経ったらいつも通りでOK」は危険 根拠のない濃厚接触者の待機短縮に専門家が警鐘を鳴らすわけ

社会機能が維持できないという理由で、濃厚接触者の自宅などでの待機時間が短縮されました。しかし専門家たちは、「根拠がない」と批判しています。3日で解除で問題はないのか、オミクロンの特徴を検討した専門家に聞きました。

過去最多の新規感染者数を更新しながら、増加に歯止めがかからない新型コロナウイルスの第7波。

感染者の増加に伴い、濃厚接触者が休み、仕事が回らなくなっている職場も増えています。

そんな中、政府は7月22日に、濃厚接触者が自宅などに待機する期間を最少3日間に短縮しましたが、専門家たちから「根拠はあるのか?」と批判が相次いでいます。

実際のところ、3日間で解除して問題はないのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、オミクロンの感染力がある期間や潜伏期間の文献を整理し、厚生労働省のアドバイザリーボードに資料を出した大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授の中島一敏さんに聞きました。

※インタビューは7月29日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

待機期間短縮の政府判断を議論するためのデータ提示

——今のタイミングで、感染性が続く期間や潜伏期間について提示されたのは、どういう意図があるのでしょうか?

まず、濃厚接触者の待機時間を短縮した根拠はあるのか、きちんと議論しなければいけません。

解除するタイミングの話だけが先行していて、結局、感染性はいつまで続くのか、いつまで感染予防をきちんとしなければならないのかについてについても、議論がごっちゃになっていて、きちんと整理されていませんでした。

科学的根拠をもとに、待機期間をどうするのか、解除されてからどの程度は気をつけておくべきなのかを考えるために、いったん、オミクロンのさまざまなデータを整理しようと思ったわけです。

オミクロンの潜伏期間中央値は2.9日 

——適切な待機期間を考えるためには、どんなデータが必要なのですか?

「潜伏期間」「発症間隔」「感染性持続期間」が大事になります。

まず人が感染して発病するまでを「潜伏期間」と言います。ただ、いつ感染したのか、感染させたのかは、目に見えません。

私たちに見えているのは、「発病」と「検査の陽性確認」の二つだけです。この二つから目に見えない「感染」の時期を検討します。

潜伏期間はウイルスに感染し、発症するまでの時間です。こちらは3つの自治体が感染者と接触した人を追跡調査した「積極的疫学調査」のデータですが、潜伏期間は2〜3日と出ました。オミクロンはそれまでよりも短くなったのです。

これも積極的疫学調査の結果から潜伏期間の分布を見た感染研のデータです。感染してから3日ぐらいで発病している人が半分います。残りの人は4日以降に発病し、7日ぐらいでほとんどが発病します。

こちらはいつ感染したのかがはっきりしている海外の事例です。クリスマスパーティーで会った時に感染し、その後どれぐらいで発病したかを見ています。こちらも潜伏期間は3日ぐらいで発病する人が多いです。長くて1週間ぐらいかかっています。

こちらはHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)のデータから、数理モデルを使って当てはめた分布ですが、それでもオミクロンの潜伏期間の中央値は2.9日です。3.4日だったアルファよりも短くなっています。

疫学調査で具体的に見た潜伏期間と、届け出で集めた情報から推測した潜伏期間の中央値が同じぐらいになっていますので、オミクロンの潜伏期間は3日より少し短いぐらいで間違いないだろうと判断できます。最大で7日間ぐらいです。

発症した時は、すでに他の人にうつしている可能性

「発症間隔」というのは、感染源の人の発病から、その人がうつした他の人が発病するまでの期間を言います。

感染源の人との最終接触日を聞けば潜伏期間は推定できますが、「いつ接触したかわからない」人はたくさんいます。これに対して、発病は目に見えるので「発症間隔」は観察しやすいのです。

この発症間隔の中央値も3日弱、2.6日だとわかりました。

この発症期間(2.6日)と潜伏期間(2.9日)がほぼ同じ、むしろ発症間隔のほうが少し短い、というのが大事なところです。

同じぐらいということは、感染源が発病した日に他の人に感染させているということです。

そして、感染させる日は中央値の前後にバラつきますから、ザクっとした言い方をすれば、半分ぐらいは発病前に感染させて、もう半分の人は発病後に感染させている、という感じです。発病した時にはもう他の人にうつしていることが珍しくないよと示しています。

新型コロナの流行当初からこういうデータは出ていて、発病後の対応だけでは発病前に感染する人たちからの感染拡大を防げないことが大きな問題であり続けてきました。オミクロンでもこの問題がありそうだな、ということがこのデータからわかります。

こちらは数理モデルを使った研究で、感染と感染の間隔「世代間隔」を見たものです。対策を打つと、この「世代間隔」は変わります。対策を打てば後から感染する人はどんどん減っていきます。対策をかっちりやると、対策を何もやらなかった時よりも、「世代間隔」は短くなることを示した論文です。

この論文の中で重要なのは、発症前に感染させた人が51%と半分ぐらいいることです。対策を考える時に、このデータはとても大事になってきます。

つまり、

  1. 発病前や症状がない時の対策はとても大事
  2. 発病する可能性の高い濃厚接触者は、その可能性がある期間は注意すべき

この二つの課題を示しています。

感染源とうつされた人の関係はわからないことが多い

この図は、家の中で感染者が一人出ると、こういうことが考えられるということを模式図で示したものです。

私たちが感染する時、「感染する」「人にうつす」「発病する」「検査が陽性になる」という4つの出来事があります。それぞれのタイミングはずれ、発病と検査陽性のタイミングしか私たちは確認することができません。

一人目の感染者が見つからないということはよくあります。最初に持ち込んだ人に症状がなければ、次に発病した人だけが見つかります。

模式図では5人の家族ですが、最初に持ち込んだ4の人は無症状で、気づかないうちに5の人に感染させて5の人だけ発病しています。そして5の人は検査を受けて陽性になっています。

5の検査結果が陽性だったので、濃厚接触者の家族全員が検査を受けると、最初に持ち込んだ4の人が陽性になって出てきます。本当は4から5の人にうつったのに、4は無症状だったので、5から4にうつしたようにも見えてしまいます。どちらがうつしたかはまずわかりません。こういうことはよくあります。

その段階で隔離すれば他の家族の発症は抑えられるかもしれませんが、その後続けて3の人が発症して、2の人も発症する。現場に行くとこういうことばかりが起きています。

検査が陽性の人は今から発症するかもしれませんが、陰性の人であっても発症するかどうかはその段階ではわかりません。

1人目の発病が確認された後、隔離ができないとしても、対策をうてばその後の広がりを防ぐことができます。この場合、陽性であっても陰性であってもやることが変わらないなら、検査することに意味はあるのかという話にもなります。必ずしも検査は必要ない。

またこの家庭から外に感染を広げるのを防ぐにはどうしたらいいかも問題になります。実際には感染源とうつされた人の関係はわからないことが多い。その中で大事なのは、感染している可能性が高い人がどう行動するかです。

——このシナリオだと、5の感染がわかった時点で、家族全員、互いにうつさないように気をつけるようにして、濃厚接触者として外にも感染を広げないような行動を取るべきだということですね。

家族内でどの程度感染を防ぐかは、家の広さや部屋の数などにも影響を受けますし、どれだけ対策を徹底できるかに依存します。この家族の場合は、濃厚接触者なので、外の人にうつさないように外出も自粛しています。つまり自宅待機を一定期間することが必要となります。

家庭内の二次感染もオミクロンで増えている

濃厚接触者のとるべき行動を考える上で大事になるのは、家庭内での感染状況です。今は保健所が濃厚接触者を調べることは難しくなっているので、自分で考えなくてはいけません。

家庭内の二次感染率は、どのぐらい人にうつす力があるのかを見る時にとても重要になってきます。自治体の積極的疫学調査によると、オミクロンになってから、30〜45%ぐらいの家庭内感染率となっています。

これは国内から出た論文のデータですが、オミクロンはデルタに比べて家庭内二次感染率が1.61倍上がっていることを示しています。この論文では家庭内二次感染率は31.8%で、家庭内で平均3割が感染しています。

こちらはノルウェーのデータです。やはりデルタとオミクロンを比較すると、1.52倍に家庭内二次感染率が上がっています。この報告では25%ぐらいになっています。

オミクロンになって、家庭内で感染する可能性は前より高いですよ、ということが様々なデータから示されています。つまり、家庭外であったとしても、人に接触すると感染させる確率はデルタよりも上がっています。

前日にも陽性と出ないことが多い

濃厚接触者の自宅などの待機を解除するかどうかは、2日目、3日目に抗原検査などで陰性が出るかどうかで決めていますが、陰性が出たら安心なのでしょうか?

こちらは発病前に検査して、その後の発病もきちんと追いかけている極めて貴重な報告です。発病前から検査している状況はあまり多くないでしょう。

病院内でクラスターが起きた時に濃厚接触者を検査しながら見ているデータで、病院なので体調も注意深く観察しています。

結果的に感染した人を、発病前の検査結果から見て、PCR検査と、通常の抗原検査よりも精度の高い抗原定量検査を行なっています。

その結果を見ると、発病の前日は多くの人が陰性です。PCRより若干、感度が落ちる抗原定量検査では発病前日に陽性になった人は31%でした。逆に7割の人が発症前日も陰性だったのです。発病前日に検査をしても、必ずしも陽性と出るわけではないのが大事なポイントです。

発病前日に検査しても必ずしも陽性と出ずに、見逃す可能性があるということです。発病前の検査で陰性になって「感染していない」と言い切るのは難しいわけです。

そうすると、濃厚接触者も潜伏期間を一定程度過ぎるまでは、発病する可能性、人に感染させる可能性があることを考えなくてはいけない。5日目、6日目に発病する人について、2日目、3日目に検査して陰性だったから大丈夫と言い切るのは難しいということです。

だから、しばらくは発病する可能性や発病前から人にうつすことも考えて、一定期間は慎重に行動する必要があります。

感染者は発病から10日間、濃厚接触者は7日間は慎重な行動を

——濃厚接触者が発病する可能性や人にうつす可能性を考えて慎重に行動すべき期間としては、どのぐらいの期間を考えていますか?

少なくとも潜伏期間の最大ぐらいまでは、人にうつす可能性を考えて感染予防をしっかりとやるべきだというのが最大のメッセージです。潜伏期間の中央値は2.9日でしたが、7日ごろまでは発症していました。7日間は慎重に行動する必要があります。

こちらは発病した後に、いつまで感染性があるのかを見た研究です。

発病した後、10日間ぐらいはウイルス量が多いことがわかります。発症日を0日目として、9日目ぐらいまでは生きたウイルスが検出されます。10日を過ぎると生きたウイルスは取れなくなります。

だから発病から10日間経つまでは用心して行動したほうがいいです。

——生きたウイルスが検出される期間までが、感染性がある期間と考えてよろしいですね?

そうです。普通はそう考えます。生きたウイルスが他の人に飛び込んだら感染してもおかしくありません。

ただ、この表の左の項目に当たりますが、PCRはウイルスの遺伝子の残骸も拾って陽性になります。感染性のあるウイルスがなくなる10日目以降も、陽性になり続けます。発症から2週間以上経ってもまだ陽性になります。

上の段の右から2番目がPCR検査の結果ですが、20日手前までは陽性になっています。

「3日目に陰性だったからいつも通りでOK」は間違い

——ここまで示していただいたデータから、改めて濃厚接触者は3日の待機では足りないわけですね。

家庭内の濃厚接触者の場合、二次感染している人は3〜5割です。症状がない場合も、明日発症するかもしれないし、それが検査では陽性と出ない場合もあります。もちろん発症しない場合もあります。

結局は可能性を全て織り込んで、どうすべきか考えたほうがいい。

オミクロンで潜伏期間は短くなりましたが、ウイルスが陰性になるまでの期間は短くなったわけではありません。いつまで感染性があるかといえば、発症前は短くなったけれど、発症後は短くなったわけではない。

発症したら10日ぐらい人と接触しないほうがいいし、濃厚接触者となったら感染者との最終接触日から1週間ぐらいは発病することを想定したほうがいいです。

その間は、感染予防をしっかりやり、体調が悪くなったら検査すべきです。今は検査がパンクしているので、検査できない場合も、発病したら「感染した」と考えるのが合理的です。症状が出たら病院に行けと言っているわけではなく、セルフチェックが大事になります。

——改めて、3日間の自宅待機というのは危険ですね。

合理的な根拠が示されていないし、専門家とも議論せずに出てきた数字です。根拠をまず示してほしい。

待機は社会的な対策なので、安全性をとって長く待機させるとその間、生活は不自由になることは確かです。感染がここまで拡大すると、待機時間を十分とると、社会機能が維持できなくなることもあるでしょう。

ただ、私が大事だと考えているのは、濃厚接触者が自分が発症する可能性、人にうつす可能性を考慮して、気をつけるべき期間を伝えなければいけないということです。3日でもとの生活に戻っていい、と考えるのは、明らかに間違っています。

もし社会政策上、3日間で待機を解除するにしても、「感染している可能性はまだ高いので、対策しないと人にうつすかもしれません。ちゃんとマスクなどの対策をした上で、買い物に行くぐらいならうつすことはないでしょう」などの情報提供はしたほうがいい。

少なくとも最後の接触から7日間経つまでは、マスクなしで会話をする、会食をする、お茶をしながら喋る、大声を出す、歌を歌うなど、感染させるリスクの高い行動は避けるべきです。

3日の待機期間でこうしたリスクの高い行動を決して解除すべきではありません。

解除のタイミングを話す前に、「いつまでは発病リスクや人にうつすリスクがありますから、感染予防をきちんとしましょう」というメッセージが一番大事なはずです。その上で、目詰まり感のある社会機能を回していくために、一定期間ののち待機を解除するというのならわかります。

——その注意がないままに、待機が解除されたからあとは普通に過ごしていいよと伝わっているとすると、感染拡大する可能性がありますね。

はい。明らかに見逃しが増え、感染拡大する可能性は大きいと思います。「解除になったからこれでOK」「3 日目に検査で陰性だったから、4日目、5日目に体調が悪くなってもコロナじゃない」と考えるのは誤解です。ちゃんとしたメッセージが足りないと思います。

【中島一敏(なかしま・かずとし)】大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授

1984年、琉球大学医学部卒業。沖縄県立中部病院、琉球大学、大分医科大学(現大分大学医学部)を経て、2004年〜14年国立感染症研究所感染症情報センター主任研究官、2007年〜09年世界保健機関(WHO)本部感染症流行警報対策部、警報対策オペレーションメディカルオフィサー。その後、東北大学病院検査部講師兼副部長を経て、2016年4月から現職。

専門は実地疫学、予防医学、感染症学。特に感染症危機管理やアウトブレイク対策を得意とし、新型コロナウイルス対策でも専門家として行政に助言をしている。

一部表現を改めました。