第7波に突入し、全国的に感染者が急増している新型コロナウイルス。
発熱外来や入院ベッドにも余裕がなくなってきていることが現場の医療者から日々、発信されていますが、実際のところ、どんな状況なのでしょうか?
BuzzFeed Japan Medicalは、聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんに聞きました。
※インタビューは7月20日に行い、その時点の情報に基づいている。
受診者増えてパンクしかけている病院も
——現在の病院の状況を教えてもらえますか?
うちはまだパンクするところまでにはなっていませんが、他の病院ではすぐに診られずに、受診が3日後になるというところや、検査キットが不足しているところも増えています。パンクしかけている、ということです。
入院患者についていえば、人工呼吸器が必要な人が増えている状況ではありません。酸素吸入が必要ないわゆる中等症の人もそんなにたくさんいるわけではないのですが、パラパラと出てきています。
ハイリスクの高齢者に加え、妊婦さんも比較的多く、入院が途切れず、どんどん病床が埋まってきている状況です。
——今の病床使用率はどれぐらいなのですか?
常に病床を空けて待っているわけではないので、ほぼ満床の状態です。東京都から「もう一段階コロナ用のベッドを増やして」と要請がかかった時点で、他の病気で新たに入院する人を止めて、そこにコロナの患者さんを入れていく運用を始めます。
「確保病床数の何%」という数字を見ると東京都はまだ4割程度で、さほど高いようには思えないでしょうが、残りの6割が常に空いているわけではありません。
他の入院患者をなるべく入れないようにして、コロナ患者を指定された人数分入れる切り替えを今やっているところです。
——ということは、コロナの患者さんを入院させるために、他の病気の患者の診療抑制を始めているということですか?
抑制、というのではないですが、東京都に対して「私たちは○床分、コロナ用の病室を準備します」という回答をして、少なくともその分は収容しないといけません。
そのために、他の病気で入院している患者さんが退院したら、そこをひとまず空けておく。コロナ以外の病気で入院したい人が出ても「空床がありません」とお断りしなければいけません。既に断り始めています。
今までと同じ防護でも、医療者も「サクッとうつる」
——BA.5への置き換わりが進んでいますが、今までの感染状況と比べて違いは感じられますか?
「よくうつるねえ」の一言です。「サクッとうつるね」という感じです。
病院職員が感染して欠勤するので、病床があっても運用するための人員が不足している。おそらく、今はどの医療機関も似たような状況だと思います。
医療者も社会で生活している人間なので、「子供からうつりました」「同居している配偶者からうつりました」「どこでなのかわかりませんがうつりました」というケースが毎日、当院でも多いときは2桁のレベルで出ています。
また、患者さんからうつることはこれまであまりなかったのですが、増えています。
例えば、心臓の病気や骨折などのコロナ以外の病気が原因で入院してきた人が、コロナも持っているケースがオミクロン以降は増えています。
第6波まではマスクをつけ、ゴーグルをつける最低限の防御をしていれば、コロナと判明する前の感染者に接触してもだいたい大丈夫でした。近くで処置をしたり、話をしたりしても、医療者はほとんど感染しなかったのです。
でも、今はその状況で感染することがあります。あるいは休憩室などでお互いマスクをしていても話し込んでいた場合、これまではあまり感染していなかったのですが、第7波ではおそらくそこで感染したのだろうというケースがあります。
マスクやゴーグルをつけていても、距離が近かったり、接触時間が長かったりすることが重なると、感染する可能性が前よりも高くなっている実感があります。
——マスクを変更するとか、医療従事者の防護は強めているのですか?
ゴーグルは第6波の頃から常に着用する運用を病棟では行っていますが、よりフィルター性能の高い「N95」マスクを常時着用するとなると、呼吸が苦しくなってしまいます。それはやや過剰ですし、現実的ではありません。
なるべく人との距離を取ること、接触の時間を短くすること、マスクは常につけていること、目の防護を忘れないこと、体調不良時は速やかに就業を停止することなど、これまでの大事な対策をもう一度見直してもらっています。
換気はこの2年でずいぶん改善しましたが、換気は近距離での曝露による感染を防ぐのはあまり得意ではありません。
検査を繰り返してもすり抜けはあるし、近くで行わなければいけない処置もありますし、何より家庭での感染は防ぎようがない部分もあり、100%の予防は難しくなっています。
強いだるさ、喉の痛み、咳、発熱
——BA.2などと比べて、BA.5での症状の違いは感じますか?
今はBA.2とBA.5が混在している時期だと思いますが、通常病院で行う検査ではこれらの区別はできません。
ただ、この1〜2週間を見ていると、強いだるさを訴える人は多いなと思います。第6波と比べて顕著に増えているかはわかりませんが。
感染したスタッフからは、「起きていられないし、座ってもいられない。布団に横になっているしかなかった」という声をよく聞きます。
東京都ではウェブサイトに感染状況を入力すると支援物資を送ってくれるのですが、その入力すらつらくてできなかったとか、買い物している最中に倦怠感が強くなって買い物袋を捨てて帰りたくなったとか、だるさの程度が強い。
相変わらず喉の痛みで発症する人も多いです。咳や発熱もよく見ます。
——強いだるさ、喉の痛み、咳、発熱があったら、感染を疑った方がいいわけですね。
今の東京のように感染者が多い時には感染している可能性は高まります。他には鼻水ですね。初期症状は風邪に近い。いつもの体調と違うと感じたら、人と会わないだけでもかなり感染の広がりは違うと思います。
感染増加に伴い「目立たない死」が積み重なる可能性
——オミクロンは重症化しにくいですね。BA.5がどうかはまだわからないところがありますが、現場の実感として重症度はどうですか?
BA.2に比べてBA.5がどれぐらい重症化するかはまだはっきりしていませんが、BA.5が主流になった国では重症度はそれまでとそんなに変わらないという報告が出ています。一方で、実験室での研究では肺で増殖しやすいとの結果も出ています。
ただ、実際にBA.5の流行を経験している国からは肺炎がすごく増えたという話はあまり聞きませんし、実際に病院で見ていても「肺炎の患者がどんどん増えている」ということはありません。
ただ、第6波の時はあの3ヶ月間で1万人以上が亡くなりました。「オミクロンは軽症だ」という情報が流れていましたが、感染者がものすごく増えて、ふたを開けてみたら死亡者数は1万人を超えていた。
決して集中治療室で人工呼吸器を着けて亡くなったケースが多いわけではありません。
高齢者施設であったり、病院の中等症や軽症を受け入れる病棟で、高齢者が「これ以上の延命治療は望まない」と言って亡くなった結果、出てきた数字です。
つまり全国各地の「目立たない死」が、たくさん蓄積したという感じです。
昨年夏の第5波では「目立つ死」が増えました。働き盛りが人工呼吸器を着けて、重症化して亡くなる。普段起こり得ないようなことが起きて、注目を浴びる死者が多く出ていました。
それに比べると、高齢者の死という現象自体は特段珍しいものではありません。ただ、第6波ではその数が徐々に積みあがって1万人以上になった。第7波では、第6波を上回る規模で感染者が増えると予想されています。
重症度が第6波と同等だとすれば、同じぐらいの割合で死亡者数が出る可能性はあります。全国各地で、よくある高齢者の死という形で、その中に多少基礎疾患のある人も入る形で報告が増えていくのだろうなと思います。
我々はその数が積みあがっていく様子を日々実感はしにくいでしょうが、後で振り返ると「こんなに亡くなったのだな」という数になるのでしょう。
高齢者の死が増えること、十分に医療を受けられずに亡くなることをどこまで許容するか?
——「目立たない死」「よくある死に方」とは、コロナをきっかけに他の病気が悪化して亡くなる「関連死」も含めてですか?
一般的に若い人に比べれば、高齢者は、より死というものに近い人たちです。元々持病のある人が多いですし、それが悪化して亡くなる方もいれば、年を取って老衰で亡くなる方もいます。
その死因の一つにコロナが加わる。原因が何であれ、高齢者が「もう十分生きたし、いいでしょう」ということで、延命治療を希望せずに亡くなるのはこれまでもよく見られた光景です。
しかし、そのなかで、コロナが関与した数は今までよりも多い。それを「高齢者だから仕方ない」「高齢者が亡くなることはあるよね」と言って、増えるに任せていいのか。どこまで増えることを我々は許容するのか。それについてはあまり議論になっていません。
なんとなく「定め」のような雰囲気で、誰も大きな声で文句を言わずに人が亡くなっていったのが第6波です。第7波ももしかしたらそんな形になるのかもしれません。でも、それでいいのかな?と思います。
病院で治療を受けて本人もご家族も納得して亡くなるならまだよいのかもしれません。医療が逼迫した結果、十分な苦痛の緩和ができずに亡くなるとか、まだやりたいことがあったのにやむを得ず亡くなるというのは、本人にとっても、残された方々にとってもつらいことです。
医療者側としては、「我々のキャパシティーが少なかったから、そういうことになってしまった」と思うのはつらい。もちろん自分たちのせいだとは思いませんが、そういう負の部分を医療者側も引き受けていかなければいけないことを考えると、気持ちが暗くなります。
ワクチン未接種者より、3回接種の方が軽く済み、入院も短い
——患者さんの年代はどうですか?
入院患者で一番多いのは高齢者で、70〜90代ですね。若い人はたいてい妊婦さんです。子供はうちの場合はそれほど多くないです。外来は子供が急激に増えていて、飲み食いができないとか、高熱でうわごとを言うといった症状で受診される患者もいます。
——ワクチン接種との関連はどうなっていますか?
やっぱり「ワクチンを3回うっています」という人と、「未接種です」という人だと、医療者も重症化の可能性に対する心構えが違います。
例えば高齢者で一度も接種していない方がいたら、重症化する恐れがあるという頭で対応します。それぐらいワクチン接種歴で今後の経過に関する予想が変わってきます。
もちろん3回接種したからといって、重症化しないと100%保証されるわけではないので、それなりに様子は見つつ治療します。
——実際に重症化する率は未接種者で高くなっていますか?
今は治療の手段も増えてきているので、まったく打つ手がないということはないです。ただ、必ず治る保証もない。本人の体力や元々の状態に負うところも多いです。
——ワクチン3回接種の方が明らかに重くならずに済むわけでもない感じですか?
ざっくり言うと、3回の接種歴があって入院した人の場合、その人の状態に合わせた治療をすれば、たいてい、1週間前後で元気に退院していきます。
人によっては、最初の数日、酸素投与が必要かもしれないし、飲み食いができないかもしれない。でも数日経つと回復してきて、5日から1週間ぐらいで退院していく。これが3回接種した人の大多数です。
妊婦さんも3回接種済みの人が増えていて、入院しても特に問題なく退院していく人が圧倒的多数です。
一方で、全然うっていませんでした、という人は症状が重くなりやすいし、亡くならないとしても、入院期間が長くなったりします。そういう違いはあります。
(続く)
【坂本史衣(さかもと・ふみえ)】聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー
聖路加看護大(現・聖路加国際大)卒、米コロンビア大公衆衛生大学院修了。Certification
Board of Infection Control and Epidemiologyによる認定資格(CIC)取得。日本環境感染学会理事、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員などを歴任。著書に『感染対策40の鉄則』(医学書院)、『基礎から学ぶ医療関連感染対策』(南江堂)など。