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【独自】陽性判明後に行方不明→厚労省が警察に捜索を依頼できる仕組みを検討→保健所反発

検査で陽性となった後に連絡がつかなくなったら、警察に捜索を依頼ーー。厚労省がそんな仕組みを導入しようとして警察庁と協議を始めたことがわかりました。保健所は「人権侵害だ」「検査や調査に応じてもらえなくなる」と反発しています。

新型コロナウイルス陽性と判明した人に、その後、保健所が連絡が取れなくなっている事例が東京都内で出ている

これを受けて、厚生労働省が、警察に陽性者の個人情報を提供した上で捜索を依頼できる仕組みを作ろうとしていることがBuzzFeed Japan Medicalの調べで明らかになった。

具体的には、保健所が電話や面会で複数回連絡を取ろうとしても取れない場合、警察に陽性者の個人情報を提供して、捜索を依頼するという形が考えられている。

厚労省は現在、警察庁と協議を始めた。

一方で、厚労省の意見を求められた保健所長からは「人権侵害であり、検査や調査への協力を得られなくなる」という激しい反発も出ている。

保健所が個人情報を提供、警察が立ち回り先などを捜索

東京都では新宿や池袋などの接待を伴う飲食店で集団感染が相次いでいることを受けて、こうした職種の人に検査に協力してもらい、自覚症状がない若い人が感染を広げるのを防ごうとしている。

症状がないかまたは軽症の場合は、ホテルか病院で療養してもらうことを要請しているが(本人の要望で自宅の場合もあり)、その後、保健所が行動歴や濃厚接触者の調査などのために連絡を取ろうとしても、行方がわからなくなっている例が出てきている。

そこで、厚労省は、(1)複数回電話をしても連絡がつかない、(2)家族や職場に電話連絡をしても行方がわからない、(3)自宅などの生活本拠地を訪問をしても面会できないーーが重なった場合、保健所長が警察に「行方不明者届出」を出した上で、捜索を依頼できる仕組みを作ろうと検討している。

その際には、陽性者の名前や住所、年齢、性別、身体的特徴などがわかる情報(写真も含む)も保健所から警察に提供することとしている。

この情報に基づき、警察は、立ち回り先の調査やライフラインの照会等を行う、全国に手配をかける、発見時には、都道府県警察から保健所に居場所などの情報を提供するという捜査協力がなされることを想定している。

同省は細かい条件などを警察庁と協議中で、実際の窓口となる保健所長にも意見を求めている。

保健所長ら反発 「人権侵害だ」「感染症の調査協力は任意のはず」

確かに、軽症者や無症状者が多い若い陽性者の中には、調査拒否や入院拒否をする人も増えており、入院を自己判断で切り上げて、公共交通機関で移動する人まで出ているという。

「警察との協力を考えるべきだ」と厚労省に賛同する保健所もある一方、「調査協力は任意のはずで、調査で知り得た個人情報を提供するのは人権侵害だ」と反発している保健所は多い。

ある保健所長は、「感染症法はハンセン病やHIVでの感染者差別の歴史を受け、個人の人権尊重が柱にあります。空気感染する結核に感染している人でさえも、行方不明でも警察には通報したことはありません」

「積極的疫学調査を定めた同法15条は、質問や調査をさせることができるという規定であり、陽性者が応じなかった場合であっても罰則は課せられないのです」

「保健所は感染者の支援を行う機関であって、捜査をする機関ではありません。調査も支援の位置づけの中で、周囲の濃厚接触者が感染した場合に早期発見をして、療養、治療に結びつくようにすることが目的です」

「感染者は犯罪者ではありません。調査と捜査は違いますし、保健所が陽性者をサポートする姿勢と逆行します。これは人権侵害です」と批判する。

また、警察の捜査が来ることを恐れて、検査や調査に応じなくなる人が増えることを懸念する保健所は多い。

「保健所ではなく警察による捜査に切り替わると認識されてしまえば、濃厚接触者の調査や行動歴の調査に応じてもらえなくなります。また、何か警察と接触したくない事情がある場合はもちろん、そんな事情がないとしても、バックに警察がいることで調査に協力してもらえなくなると思います」と訴える。

さらに感染症法73条では、以下のように業務上知り得た感染情報を漏洩してはならないとする規定がある。これについても、保健所に責任が及ばないか、不安は残る。

医師が、感染症の患者(疑似症患者及び無症状病原体保有者並びに新感染症の所見がある者を含む。次条第一項において同じ。)であるかどうかに関する健康診断又は当該感染症の治療に際して知り得た人の秘密を正当な理由がなく漏らしたときは、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。(感染症法73条より)

法律学者 「警察を介入させる必要性と弊害を天秤にかけて考えるべきだ」

この議論について、情報法や憲法を専門とする京都大学法学部教授の曽我部真裕さんは、「詳細を踏まえる必要があると思いますが」と示した上で、こう話す。

「一般論としては、『警察に依頼してまで所在不明者を見つけ出して本来の対応をさせる必要性』と『本件スキームを実施することによって受検者が減ることによる弊害』を比較衡量(天秤にかけて損得を考えること)するということになろうかと思います」

そして、BuzzFeedがこれまで報じている「照会書や本人の同意なしに保健所から警察へ感染者情報できるようにする」という厚労省の通知は「目的もはっきりしないような提供依頼」だったが、「今回は目的としては一応理解できるもののように思います。違法ではないと思います」と判断する。

さらに感染症法73条の業務上知り得た感染情報の漏洩に当たるかという問題についても「感染が広がるのを防止するために止むを得ないという解釈であれば、『正当な理由』にあたるだろう」と話す。

ただし、この仕組みを導入することが妥当かどうか判断する上で、いくつかの条件を考える必要があると注意する。「別件捜査に悪用されないか」ということもその一つだ。

「所在不明防止のために保健所等がとりうる他の対策を尽くしたのか、どの程度の所在不明者がいるのか、警察が捜索するとすぐ見つかるのかとか、所在不明者を放置することがどの程度問題なのか、警察が捜索するとついでに他の犯罪捜査がされてしまうのではないか、とかいったことも考慮して上記の比較衡量をすべきかと思います」

「つまり、受検者が減ってしまっては意味がないので、その辺について注意する必要があります。特に、別件捜査に利用されるおそれが皆無とは客観的には言えないでしょうし、受検者にそのように思われる可能性は高いので、受検者が減るおそれは高そうです。その点を考えて、トータルで最も効果的な手段を取るべきだろうと思います」

厚労省 「強権的なことは考えていない」

この件について、保健所の意見を取りまとめている厚労省の神ノ田昌博・健康課長は「私は担当していないので、わかりません」「お答えできません」とBuzzFeedの取材に答えなかった。

一方、結核感染症課の加藤拓馬課長補佐は、「本当に行方不明なのかどうか、どれだけそのような人がいるかも現時点ではよくわからないので、それを確認した上で対応を検討することになる。保健所が忙しいので警察に協力をお願いしたいという声は確かにあるし、行方不明者がいるなら何か対応はしなければいけませんが、強権的なことは考えていない」としている。

ただし、「検査や調査に協力してもらえなくなるなど逆効果になることは我々の本意ではないので、そうならない方法を模索していきたい」とも答えている。

追記

結核感染症課のコメントを追記しました。