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新型コロナとインフルエンザの同時流行起きる? その時、どうする?

今年の冬は新型コロナとインフルエンザの同時流行が起きると言われています。 政府は最多で1日75万人の感染者を想定していますが、そうなった場合はどう対策を取るべきなのか、専門家に聞きました。

今年の冬は新型コロナウイルスの第8波とインフルエンザが同時流行すると懸念されています。

政府は最大で両方合わせて75万人の新規感染者が出ると想定し、医療が逼迫してきたら、外来受診は重症化リスクの高い高齢者や持病のある人らを優先するよう協力を呼びかけるとしています。

実際にこうした対策は必要になりそうなのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは10月14日午後に行い、その時点の情報に基づいている。

8波とインフル、同時流行は起きるのか?

——新型コロナの第8波とインフルエンザの同時流行は本当に起きそうなのでしょうか?

「本当に起きるか?」という問いであれば「わからないです」という答えになります。来ない方がいいけれど、もし来たらどうする、ということは考えておく必要があると思います。

ただ今シーズンのインフルエンザは、冬を一足先に迎えた南半球で既に例年を超えて流行したこと、アメリカで少し増え始めていること、2年間も日本で流行していないことを考えれば、日本でもこの冬、流行が起きてもおかしくない状況にはなっています。

「同時流行」といっても、同じぐらいの大きな流行が同時に起きるのか、片方は多く片方はそこそこのレベルで起きるのかわかりませんし、ピークの時期がずれる「同時流行」もあるでしょう。

いずれにしろ、ある程度、新型コロナとインフルエンザが混在する時期はあると思います。既に日本でもちょこちょこインフルは出始めていますね。

感染症のプロとしては当然警戒しなければいけませんが、一般の人が今から「同時流行になるから大変だ!」と心配する必要はないと思います。

注目しているのはインフルエンザだけでなく、他の子どもの感染症、ヘルパンギーナや手足口病、RSウイルスなどの発生報告も今年は多くなっていることです。感染症全体の数が戻ってきているんじゃないかという印象も持っています。

コロナが消え去るわけではないところに、他の感染症も戻ってきているわけです。

——コロナの第8波は必ず来ると感染症の専門家は言っていますね。

8波も来るだろうとは思いますが、重症度や感染力が今までと同じレベルなのか、変異株が出てきて厄介なことになるのかなどでもインパクトは違います。

今までと同じレベルのものが来るのだとしたら、致死率も下がっていますし、もう少し冷静に取り組んでいいでしょう。

しかし、致死率が低くなっているとはいえ、多くの人が感染するとなると死亡者・重症者数も増加してしまうので、全体の感染は抑えていく必要があります。プロは基本的な対策のほか、遺伝子解析をして流行するウイルスの性質を知り、海外の流行状況も見て警戒しています。

一般の人が、いまからラハラドキドキする必要はないですが、南海トラフ地震が来るかもしれないように、そのようなことがあるかもしれないことは認識しておいてほしい。またプロはそれに対する備えをしておく必要はあると思います。

全体の感染者数を抑える対策は必要 一般の人はワクチンが大事

——一般の人も感染対策はしなければなりませんよね。

繰り返しになりますが、感染者の母数が増えれば、致死率・重症化率が低くなったとはいえ、数としての重症者・死亡者は増えます。やはり感染者数はできるだけ低いレベルにしておくに越したことはありません。

これからも「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」という手は取っておかなければいけないと思います。

人が動くことによって感染は広がるので、何らかの行動・生活の制限はとらざるを得ない時があるかもしれない、ということも認識していただきたい。感染者の数を減らすために、自由を謳歌することができない時期はあるかもしれない、ということです。

感染者数が大きく増えて医療機関に余裕がなくなると、医療従事者が疲れるだけでなく、何よりも皆さんが新型コロナ以外の病気や事故などで医療機関にかかれなくなってしまい、困った状況が起きてしまいます。

つまり交通事故による怪我や予定外の出産なども受け入れてもらえなくなるし、心臓発作や脳出血を起こしても速やかな診療ができなくなってしまうということです。

こうした通常の医療を維持するために、やはり全体の感染者数を抑えることが必要です。

そこで一般の人は何ができるかですが、コロナの流行が始まって3年も経っているのに、家の中でじっとしていることなどできないでしょう。

マスク・3密を避ける行動・手洗いなどの基本的な感染対策を身につけておくこと、そしてあらかじめワクチンで免疫を持つことが個人でできる感染症の予防として重要です。

ワクチンを受けておけばかかりにくくなるし、かかっても軽く済む。ワクチンを今のうちに受けておかない手はないと思うのです。

インフルエンザも流行が起きれば、一気に社会は騒々しくなります。「患者がいっぱいで全然診てもらえない」「救急車が来てくれない」「会社を休んでいられない」「集団の行事ができない」など、いろいろな社会問題も起きます。

コロナでもインフルエンザでも、患者の数が急増すれば社会問題になり、新聞・テレビ・ネットニュースなどでは、大きく長時間取り上げることになります。

インフルエンザも新型コロナも悪化の兆しや症状の変化などの理解が進んできました。またリスクの高い人もわかってきていますので、健康な人で、重い症状や悪化の兆しがなければ、自宅で少し様子をみることも可能だと思います。

しかし、不安を解消するのも医療のうちなので、医療がまったく関わらないことを原則とするのは良くない。医療が逼迫すれば一時的にオンライン診療や電話診療も必要となりますが、常にそれに全て頼る体制になるのはあまりよろしくなく、あくまでも緊急的な対策と捉えるべきでしょう。

政府想定「1日最大75万人」はあり得る?

——新型コロナとインフルエンザ、どちらが先に来そうかは予測されていますか?

新型コロナは昨年は、年末あたりから増えてきました。

インフルエンザは毎シーズン11月あたりから流行り始め、年が明けると急上昇するというのが一般的なパターンですが、例外がよくあります。その流行の大小のパターンやピークの予測はなかなか難しいとつくづく思います。

——政府は最大で新型コロナが1日45万、インフルが30万で合わせて75万人の新規陽性者が出るという想定を出しました。これはあり得る数字ですか?

僕も政府の分科会で「この数字の根拠は何ですか?」と聞きました。政府は「正確に予測することは困難だが、新型コロナは今夏に最も感染状況が悪化した沖縄県の感染状況と同規模、インフルは直近5年間の最大値だった2018-2019季と同規模を想定している」と説明しています。

これは最悪のシナリオの想定です。そうなった時、あるいはそうなるような兆しが見えてきた時にどうするかという意味で、1日75万人の感染者が必ず出るとはしていません。

しかしニュースを見ていると「政府、1日75万人発生と発表」などと報じられています。その後の加藤厚労相の話では「あれは最大で75万人となった時に備えるという意味ですよ」と説明していましたね。

数字が一人歩きして、あまりセンセーショナルに捉えることがあってはならないです。

しかし、国や自治体、医療機関などこれに対応する側は、最悪のシナリオも考えておかなければなりません。75万人も1日に出て何もしなかったら、今の医療体制での医療はパンク必至でしょうね。

外来受診の協力とは? 自宅療養の人も体調が悪ければ受診できることが前提

——そこで政府は一般の人に外来診療での協力を呼びかけると言っています。高齢者や持病のある人、妊婦、小学生以下の子どもなど重症化リスクの高い人は最初から発熱外来にかかっていいけれど、元気な人は抗原検査キットで自力で検査して、陽性なら健康フォローアップセンターに登録して自宅療養してもらうという内容です。

元気な人は具合が悪くない限りうちで様子をみるということは、あってよい方法です。多数の感染者が発生した場合には、診療の優先順位をつける意味で、そうなるほうが良いと思います。つまり「総受診者数の抑制」という考えです。


ただし、そういう人でも症状が悪くなったら相談できる、受診できるようにしておくことが大前提です。

また、症状が悪化した患者さんがスムーズに受診できるためには、うんと軽い人たちには遠慮してもらうことが必要になる。そのこともあらかじめ説明し、皆さんに了解してもらうことが必要です。


以前、インフルエンザの流行中に救急当直をしていた時のことですが、何十人もの患者さんが時間外の診療を求めて救急外来に来られました。そうなると「いつまで待たせるんだ!」とクレームをつける人も出てきます。

でも一番最後になって何も言わずにじっと我慢している人が、実は一番具合が悪かったということもありました。


そんな現場の中にいれば、具合が悪そうな人を優先して診ることには待っている人も納得していただけます。


でもそれが見えないところに多くの人はいて、軽症でも自分を早く診てほしくて夜中でも慌てて救急外来に来てしまいます。

そうではなく、軽症だったら、本当に具合が悪い人や重症化する可能性のある人を優先して診させてください、というのがあの政府の呼びかけなのだろうと思います。


でも、こういう呼びかけをして待ってくれるのは、本当はすぐに診なければいけない具合が悪い人なのですよね...。「どうして俺を先に診ないのか!」と待ってくれない人の方がたいてい軽症で、世の中難しいなと思います。

若くて病気もなければ、受診できない?

——そもそもインフルエンザぐらいでは海外の人は医療機関を受診しないと聞きます。日本では検査して診断してもらうために医療機関にかかっているところがありますね。

そうなんです。わが国ではそういう文化ができているから、そういう受診を制限することが難しくなっています。

僕はインフルエンザの抗ウイルス薬「タミフル」が登場した時も、迅速診断キットが登場した時も、僕は「みんながタミフルを飲む必要はない」「全ての人に検査をする必要はない」と主張していました。今でもそう思っています。

でも世の中はそうではありません。インフルエンザシーズンに風邪症状があればみんな検査を受け、インフルエンザ陽性ならみんな抗ウイルス薬を処方してもらう。

そういう習慣が根付いている以上、コロナでも「検査しないで、うちにいて様子をみてください」と理解してもらうのは難しいでしょう。一つの安心材料として、検査キットを有効に使うことはアリ、とせざるを得ないと思います。

——フォローアップセンターに登録して、自宅療養していてもフォローしてもらえている、という安心感も大事なのですかね。

そうだと思います。夜に熱が出た時に「大丈夫ですよ」と医者だから言えるのであって、患者さんは大丈夫かどうかわかりません。たとえ自分で「大丈夫かなぁ」と思っても、一言「大丈夫ですよ」と言ってもらえたらホッとするわけです。

だから自宅療養者をフォローするセンターは必要です。ただ、それが常態化してはいけません。本来は、医師が患者さんの顔色を見て、話を聞いて、診察をし、そしてその結果を説明すべきだと思います。

——このあたり、現場は混乱しそうです。具合が悪いのに受診控えしたり、具合が悪くて受診したのに「あなたは重症化リスクが低いから診られません」と診療拒否したりすることが起きないでしょうか?

コロナの流行初期に、厚労省が「37.5度以上の発熱が4日以上続いた時」と受診の目安を出したら、「具合が悪くても4日間待たないとかかれない」と誤解を招いたことがありました。

僕らは「具合が悪かったら1日目でもなんでも受診してください」と言っていました。でもそこは頭に残らず、「4日間は待てと言われた」と捉えられました。

真面目な人は苦しい症状を我慢して受診を待ち、相談窓口では「まだ4日経っていないから大丈夫ですよ」と答えるという問題もありました。

病気は症状が大優先です。具合が悪ければ、年齢にかかわらず、持病があってもなくても、かかっていいのです。

「受診した方がいいほど具合が悪い」は「普段とどう違うか」で判断

——しかし、医療者の「軽症」と我々一般人の「軽症」は全然イメージが違います。コロナ&インフル同時流行時に、重症化リスクがない人「受診の目安」はどんな感じになるのでしょう?

救急もそうです。患者は自分が救急の状態だと思っても、医者は「この程度は救急ではない」と言ったりする。そもそも救急の捉え方、重症・軽症の捉え方が、医者と患者では大きな開きがあると思います。

でも、それは仕方ないことです。医療者ではない人は病気を知らないのですから。だから診察が必要であり、対話が必要であると思います。

ただ、繰り返しになりますが、通常の場合と、患者数が膨れ上がった時では診療の対応を変えざるを得ない。そうでないと真の重症者がなかなか診られないことになってしまうのです。

僕ら小児科医は子どもを診る時、「熱が何度あるから大変だ」ではなく、「普段とどう違いますか?」というところを注意します。

受診の目安は一つの数字で基準を出そうとしても無理なんです。もちろん一つの症状や検査結果で診断が出ることもありますが、一般的には病気は一つの要素だけで判断するのではなく、あれこれ診て総合的に判断するものです。

だから、「普段とどれぐらい違うか」がキーポイントになってくると思います。熱が高い・低い、咳が出る・出ないではなく、たとえば気持ちが悪くて何度も吐いてしまうとか、水分が飲めなくなっているとか、だるさがひどいとかなんとなく歩き方がおぼつかないなどです。

熱の高低ではなく、普段と違う症状が出ているということは、具合が悪いという目安で、「黄色信号」と考えます。

——血中の酸素濃度を測る「パルスオキシメーター」なども準備しておいた方がいいのでしょうか?

あれば、呼吸がうまく機能していないという目安の一つになると思います。

——オミクロンになって肺炎は減りましたね。

コロナの流行当初は新型コロナウイルスによる肺炎、それにかかわる一種の免疫異常、過剰免疫とかサイトカインストーム(免疫の嵐)と言われるような状況に陥ってしまう重症の肺炎が最も大きい問題でした。

治療の経験を重ね、ワクチンが登場したことに加えて、オミクロンになってからは、重症肺炎の割合はぐっと減りました。

一方で、コロナ感染がきっかけで持病が悪くなったり、高齢者の日常生活レベルがグッと下がったりという別の現象が多くみられるようになってきました。詳細がまだ明らかになっていませんが、長引く症状(後遺症と言われる状態)という現象があることも問題になっています。

結局は直接話を聴いて診ることが最も大切だと思うのです。それは通常の医療の時はできますが、多くの感染者が出ると丁寧な医療はできなくなるので、重症になりやすい人や、黄色信号の人を優先的に診ていく必要があります。

75万人も新規陽性者が出る状態では通常医療はできません。重症度によって優先順位をつける「トリアージ(選別)」が必要になってきます。

——日本人は体調が悪ければすぐ病院へ、という感覚が染み付いていますが、第7波の時は自分で抗原検査キットで検査して自宅療養する人が自分の周りでも多かったなと思います。

そうですよね。7波の時にすべての陽性者が医療機関に行ったら、医療逼迫の程度は倍加・倍増したと思います。また、自宅療養していただいて無事回復した方がおられた分、重くなりそうな方を早く診ることができたと思います。

——そういう意味では私たちは7波で「医療との新しい付き合い方」を練習した感じでしょうか?

そうでしょうね。でもそれに慣れすぎてしまうと、気づいたら自宅で具合が悪くなった、意識を失っていたという人がどこかで出て、ものすごくセンセーショナルに報道されることが出てくる。すると今度は不安に駆られて、軽症の人が医療機関に押し掛ける、という悪循環になってしまいます。

病気は熱や症状だけでは測れないところがあります。一人暮らしで誰も様子を見てくれる人がいない、などでも、条件は変わってきます。だから少なくとも自宅療養の人をフォローするシステム、たとえばコールセンターなどの充実は必須だと思います。

流行期前に用意しておくものは?

——我々が流行前に用意しておくべきものとしては、まず抗原検査キットを一人2つぐらいですかね?

2つはあった方がいいでしょうね。うまく検体が取れなかったとか、検査結果がちょっとあいまいだというような時に、繰り返してやることができます。

——対症療法の薬は、解熱剤の他に何が必要でしょう。

解熱剤やおなかの薬などの家庭用常備薬がありますよね。根本的に治すわけではなくても、症状を和らげることは必要です。また本来の薬の効果だけでなく、何も飲まないで様子をみるより、1錠飲めば気持ちが安定しますよね。そんな精神的な効果もありそうです。

用意しておくべきものは、アセトアミノフェンなどの解熱剤(鎮痛剤)と、咳を和らげたり痰を出しやすくしたりする薬、そしておなかの薬などがまず挙げられるでしょう。総合感冒剤でも良いことになります。

ただし、効かないからといって使い過ぎは禁物で、買う時には薬剤師さんの話をよく聞き、また使う時は薬の注意書きを必ず確かめてください。

最悪のシナリオで、医療体制をどうするかが示されていない

——先生も医療が逼迫してきた場合の、政府の呼びかけは納得できるものなのですね。

書かれている範囲は仕方ないと思いますが、現在公表されている政府の方針では、医療体制まで踏み込んでいません。

次のステップとしては、医療体制は一般医療を控えてコロナに集中するのか、コロナのほとんどが重症化しないなら重症者だけに集中して一般医療も継続するのか。そこは覚悟が必要だと思います。

どういう体制にしたとしても、なかなかかかれなくなった人から確実にクレームが来ます。医療者も心が強い人だけではないですし、腹も立つでしょう。医療体制も最悪のシナリオを想定して、そうなった場合どうするかを決めておかなければいけません。

新型コロナウイルス感染症対策分科会で政府から説明を受けて、「こんなの無責任だ。数字だけ出して、今の医療体制の続きでの話しかしていない。その先を示していない」と批判する委員も複数いました。

75万人という数字を出すのであれば、そうなった時にどうするか。外来のかかり方だけでなく医療体制や保健所の体制、検査体制などをどうするか示し、「通常の体制でなくていい」と政府が方針を示すべきです。それが次の行うべきステップであると思います。

もちろんそうした緊急体制を作れば一般医療が相当制限され得ることも、一般の人には伝えなければいけません。

——ただ、政府は7波で、患者情報の報告内容を限定したりなど、保健所や医療機関の負担を減らす方策を進めてきました。準備したつもりになっているのかもしれませんね。

そうですね。それは医療や保健所の負担を減らすということだけではなく、コロナへの負担を減らした結果、通常の医療に戻していることもご理解いただきたいと思います。

もう一つ、いつから対応を変えるべきかというスイッチの切り替え時をある程度示さなくてはいけないと思います。新規感染者数だけではなく、たとえば外来や病棟、救急車の利用率などがどのくらいの数値になったら切り替えるのか、ある程度決めておかなければならないと思います。

——スイッチの切り替えは都道府県の判断となっていましたね。

それは地域によって流行状況や医療体制がずいぶん違うからですね。地域による違いは十分考慮すべきと思います。

具合が悪ければ受診が大前提

——そもそも新型コロナもインフルエンザも似たような症状ですよね。

呼吸器感染症の始まりは、ほとんどインフルエンザ様の症状、風邪のような症状ですからね。

——まず具合が悪くなったら、抗原検査キットでコロナかどうか判断して、陰性だった場合はインフルかどうかは判断しなくてもいいですか?

検査をうんとやる日本ですから、コロナもインフルも両方検査していいと思います。またその求めは多くなるでしょう。

インフルについては、今の制度下では、自分でインフルエンザの検査キットを購入して検査をすることはできません。自己検査は医療機関でやるような正確な検査にはならないかもしれませんが、ある程度の目安をつけるという意味で、できるようにしても良いのではないかと思います。

——重症化リスクの低い人がコロナで陰性が出ても、体調が悪ければ受診してもいいわけですね。

具合が悪ければ受診できるし、したらいいと思います。コロナ、インフル以外に、注意しなくてはいけない熱の出る病気や、咳の出る病気はたくさんあります。コロナとインフルだけが病気ではありません。

具合が悪い人は医療にかかり、医療はそれを引き受けられるようにしておくことが基本だと思います。

ただし繰り返しですが、通常では可能になっていることでも、軽い人も含めた患者数が急増した時に、医療の対応能力は限界を迎えます。重くなりそうな人や重くなりかけている患者さんを速やかに診ることができなくなる。

この場合には、軽い人は自宅で様子を見て頂く「stay home」という考えも理解していただきたいと思います。

——コロナは陰性で、インフルかもしれないけれどそんなに症状が強くない人は、そのまま自宅で療養してもよいということですね。

インフルは元々そうですね。ただインフルは最初から高熱が一気に出て、辛くなることが多いです。それでも働き盛りの年齢はほとんど重症化しません。自宅でみていいのですが、辛い症状をずっと我慢していることもありません。

海外の人がインフルエンザで受診しないのは、医療機関へのアクセスが悪いし、救急外来であっても軽そうであれば後回しは当然、薬も医療費も高額であるなど、日本と医療の背景が違うからです。

日本の医療は平常時はとても丁寧な診療ができますが、緊急時にはそれはできません。だからこそ、軽い病気と思えても全体の感染者数を何とか少なくすることはとても大切なことになります。過剰な注意はいりませんが、無視したり、ことさら強がったり、「平気顔」をしてはいけないと思います。

——いずれにしても、若くて、持病がなくて、重症化リスクがないとしても、いつもの風邪と様子が違うほど具合が悪かったら受診してもいいわけですね。

当然です。痛みや熱に対する人の感受性も違いますし、我慢しすぎることはありません。

——とはいえ、限られた医療資源を大切に使うために、そんなに具合が悪くなければ自宅で様子をみる「上手な医療のかかり方」が、これを機会に日本でもう少し浸透してもいい気はしますね。

そう思います。「その受診は本当に救急ですか?」「救急車はタクシーではありません」といったというポスターがあちこちに貼られているぐらいです。そうでない人が救急にたくさん来ているからですね。

——この冬の対応は、日本人の医療のかかり方を見直すきっかけになるかもしれないですね。

というよりも、日本の医療のあり方の見直しにもなるかもしれません。不安にも対処する日本の医療のあり方は本当は悪くない。しかし医療が逼迫している時に、それで現場が疲弊することがあってはいけません。通常の医療を保つために。

(続く)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会GACVS)委員を歴任し、 西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長、世界ポリオ根絶認定委員会委員などを務める。日本ワクチン学会・日本小児感染症学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。